咲夜はガレージの隅から、すっかり埃をかぶった「ミドリ」の電動バイクを引っ張り出した。その横に立つ千暁は、ミニサイズの電動バイクを見つめながら、長い脚をどう収めればいいのか困っている。……本当にこれでいいのか?一向に動こうとしない彼を見て、咲夜は後部座席を軽く叩く。「なに?まさか嫌なの?この『ミドリ』は瞳が抽選で当てて、わざわざ私にプレゼントしてくれたの。あの子も『ピンク』っていうお揃いを持ってるんだ。あなたがミドリとピンクをバカにしてるなんて知ったら、きっと泣いちゃうよ」そう言われた途端、千暁の耳には、病院で聞いた瞳のすすり泣く声が蘇った。頭が痛い。本当に頭が痛い。そう思いながら、千暁は素直に電動バイクの後ろに腰を下ろした。車体があまりにも小さいせいで、行き場を失った長い脚は窮屈そうにステップに収まり、片手で咲夜の服の裾をそっとつまむ。その仕草に気づいた咲夜は、彼の腕を取って自分の腰に回させた。「いっそ腰をしっかり抱いててよ。私、電動バイクに乗るのは初めてなんだから。そんなふうに服だけつまんでたら、もし左腕をどこかにぶつけちゃったらどうするの?」正直なところ、自分の運転にはまったく自信がなかった。その言葉を聞くや否や、千暁はためらうことなく彼女の腰を抱き寄せ、軽く咳払いをする。「これでいい。行こう」これ以上ぐずぐずしていたら、自分の脚のほうが限界だった。咲夜は片手でブレーキを握り、もう片方でアクセルを回す。電動バイクはゆっくりと走り出した。だがその瞬間、咲夜は何とも言えない気まずさを覚えた。……遅すぎない?想像をはるかに超える遅さだった。アクセルはすでに全開。それなのに、車体はのんびりとした速度でしか進まない。咲夜は心の中でため息をつく。……考えすぎだった。この速度で「千暁の左腕を何かにぶつけたらどうしよう」なんて心配する必要なんてない。この遅いスピードなら、本当に何かにぶつかったとしても、千暁の反応なら余裕で避けられる。咲夜は心の中で必死に自分に言い聞かせた。――自分さえ気にしなければ、気まずいのは他人のほうだ。そんなこんなで、ようやく詩乃の家に到着した。咲夜は両足を地面につけて言う。「着いたよ」心の中では「お願いだから早く降りて……!」と何度も繰り返し
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