今さら自分の前でそんなことを口にして、一体何の意味があるというのだろうか。晴南は手にしていたナイフを静かに置き、ゆっくりと顔を上げて咲夜を見据えた。「……この期に及んで、まだ俺に盾突くつもりか?」彼は、咲夜がただ意地を張っているだけだと、終始そう信じて疑わなかった。せっかく自分が折れて歩み寄ってやっているというのに、なぜ素直に従わないのか。図に乗るのもいい加減にしろ、と。以前、甘やかしすぎたせいで、彼女はこうして何度も反抗を繰り返すようになったのではないか。咲夜はただ、おかしくて仕方がなかった。背筋をすっと伸ばし、晴南と正面から向き合うと、冷ややかな笑みを浮かべる。「……まさか、私がわざと勿体ぶって、あなたを焦らせているとでも思っているの?」あの傲慢な性格なら、本気でそう考えていても不思議ではない――咲夜はそう思った。そして、続く晴南の一言が、その推測を裏付けた。晴南は眉をわずかに上げ、問い返す。「違うというのか?最近の俺は確かに悪かった。お前を疎かにして、ずいぶん辛い思いをさせたな。自分の非は分かっている。これからは反省するつもりだ。俺はこうして謝っているんだ。お前も、自分の大切にしているものを引き合いに出して、いちいち俺を脅す必要はないだろう。あれは、お前とスタッフたちが心血を注いできたものだ。そう簡単に諦められるはずがないことくらい、俺には分かっているんだぞ」――なんだ、分かっていたのね。その言葉を聞き終えた咲夜の唇に、自嘲めいた笑みが浮かぶ。自分がどれほどこのゲームに情熱を注いできたか、晴南はその胸の内をよく知っていた。知っていながら、あえて見て見ぬふりをしてきたのだ。それどころか、その想いを逆手に取り、何度も妥協を強いてきた。いざ自分が折れることを拒めば、今度は「勿体ぶっている」「格好をつけている」「俺に恥をかかせている」と決めつける。この世の道理は、すべて彼の言葉ひとつで塗り替えられる。善悪も正誤も、晴南が「正しい」と言えば、それが正解になる。咲夜には、それがただただ滑稽に思えた。彼女は冷ややかに言い放つ。「晴南、あなたは私が脅していると思い込んでいるようだけれど、私の決意は変わらないわ。本気よ。あのゲームのリリースは、もう諦めたわ。慈悲をかけるように
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