咲夜はあえて、この問題の裁定を晴南に委ねた。彼女は今、この男の態度を見極めようとしていた。このプロジェクトを完遂させるために、これ以上の忍耐を強いるに値する相手なのかどうかを。洸は忌々しげに咲夜を睨み据えた。自らが放った放言を、一言一句違わず晴南本人にぶちまけられるとは計算外だったのだ。実際のところ、洸とて確信があったわけではない。いかなる事態になろうとも、晴南が無条件に自分の味方でいてくれるという保証など、どこにもなかった。晴南の前での彼女は、いつだって物分かりが良く、思慮深き「良き理解者」を演じてきた。彼の権威を笠に着て傲慢に振る舞う女だと思われては、これまでの努力が水の泡になる。――すべて、この女のせいだ。なんて想定外な真似を……!洸は、咲夜がこのプロジェクトを何よりも大切にしていること、そしてグループチャットや朝の職場での振る舞いから、彼女が成功のために屈辱を飲んで耐える道を選んでいることを見抜いていた。だからこそ強気の攻勢に出たのだが、その算段が狂い始めていた。受話器の向こうで、晴南は重苦しい沈黙を貫いていた。咲夜の耳には、彼の微かな呼吸音だけが届く。彼女は急かす素振りも見せず、静謐な面持ちでその時を待った。長い沈黙の果てに、ようやく受話口から低い声が響いた。「……今から行く」その言葉を聞くや否や、咲夜は即座に通話を切った。視界の端で凍りついている洸を一瞥すると、彼女は凛と背筋を伸ばし、その到着を待った。森崎グループの本社からスタジオまでは、通常なら車で四十分は要する道のりだ。しかし、晴南は二十分足らずでその場に現れた。なりふり構わず駆けつけた彼の姿に、咲夜は皮肉げに片眉を上げ、滑稽なものを見るような眼差しを向けた。会議室に足を踏み入れた晴南の目に真っ先に飛び込んできたのは、大勢のスタッフを従えた咲夜と、対照的にたった一人、寂然と座り込む洸の姿だった。その光景は、誰の目から見ても、洸が孤立無援の中で寄ってたかって虐げられているようにしか映らなかった。おまけに、洸は瞼をうっすらと赤く腫らし、縋るような瞳で彼を見つめていた。その姿はこの上なく健気で、今にも折れてしまいそうなほど弱々しい。晴南が最も抗い難いもの、それこそが、この「弱さ」という洸の最大の武器だった。彼は大股で彼女の元へ
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