だが今の啓介が信頼できる相手は、もう海臣しか残っていなかった。自分名義の株式をすべて千暁に譲ると言ったのも、以前から遺言書を作成し、海臣に預けてあったからだ。今日の天志の行動によって、啓介はとうとう息子に完全に愛想を尽かしてしまったのだろう。千暁は真剣な眼差しで啓介を見つめ返した。長い沈黙の末、ようやくゆっくりと口を開く。「おじいちゃん、もういいよ」その言葉を聞いた途端、啓介は怒りに満ちた目で彼を睨みつけた。「何を馬鹿なことを言ってるんだ!何が『もういい』だ。あれはわしがお前にやるものだ。黙って受け取ればいい!」まさか千暁が本当に断るとは思っていなかったのか、啓介は怒りのあまり、今にもベッドから飛び起きそうな勢いだった。千暁の言う「もういい」が何を意味しているのか、啓介には分かっていた。だが、このまま終わらせるわけにはいかない。こんなことで終わらせていいはずがないのだ。啓介の顔色はひどく険しくなり、次第に呼吸まで荒くなっていった。千暁を見つめながら、必死に言葉を絞り出した。「駄目だ……これで終わりになんてできない……千暁、約束しろ。駄目……だ……終わりには……できない……」再び感情を昂らせる啓介を見て、秀子は驚いて慌ててその手を握り、優しく宥めた。「終わりになんてしないわ。千暁は受け取るわ。ちゃんと受け取ってくれるから」そう言うと、秀子は千暁を見た。「千暁からも言ってちょうだい」千暁も、今は祖父母にこの話をするべき時ではないと分かっていた。秀子の言葉を聞くと、ベッドへ歩み寄り、啓介の手を握る。「分かった、全部おじいちゃんの言う通りにするよ」その言葉を聞いて、啓介の張りつめていた気持ちもようやく少しずつ和らいでいった。彼は何度も大きく息をつき、顔は少し赤くなっていた。それ以上何も言わず、ただじっと千暁を見つめていた。やがて、その視線を隣にいる咲夜へ向け、途切れ途切れに言った。「さ……咲夜……こいつを説得してくれ……説得……して……やってくれ……」今の老人の姿を見ていると、咲夜も胸が苦しくなった。彼女は頷き、すぐに啓介を安心させるように言った。「はい、私がちゃんと説得します。千暁ともよく話しますから。おじいちゃん、心配しないでください。今はもう、この話はやめておきましょう。ね?」
Read more