「お疲れ様です、お先に失礼します」「永山さん、お疲れ様」翌日の夜、残業を終えた美里は帰路についた。外はすでに暗くなっていて、今日は迎えの車も呼んでいない。真っ暗な道を歩きながら、美里はつぶやいた。「何だか久々に仕事をした気分だわ……」前世で彼女は宗助との結婚で勤めていた会社を寿退社している。宗助の両親が、嫁は家庭に専念するべきだと美里に退社を勧めたのだ。彼の両親に気に入られたかった美里はそれを受け入れた。「今世は結婚せずにバリキャリになるってのもいいわね……」そのとき、ゆっくり歩いていた美里のすぐ横に一台の車がとまった。運転席の窓が開き、中から若い男が顔を出した。「――お嬢さん、一人?こんな夜中に歩いてたら危ないよ。よかったら俺が家まで送っていってあげるよ」「……いえ、結構です」美里は当然、すぐに断りを入れた。しかし相手もなかなか退かなかった。「女の子が一人で歩いてたら危ないって!」「いやいやあなたのが百倍危ないから!」「俺いい人だよ?」激しい言い争いをしていると、ふいに男が美里の腕を掴んだ。「ちょ、ちょっと何するのよ!」「――こんなにも綺麗な子は初めて見たんだ」その瞬間、男の目が豹変した。いやらしい目つきで美里の身体を眺め始めたのだ。「さっき仕事で上司にキツく叱られてさ……ムカついてたんだよな……」「な、何を……」「女遊びでもしないとやってらんないんだよ!」「いや、やめて!誰か助けてください!」「この道は昼でも人通りが少ないからな、誰も助けになんて来ないさ」男が美里を車に引きずり込もうとしたそのとき――「――その人を放せ」「……!」突如背後から聞こえてきた低い声に、美里は背筋が凍った。聞き覚えのある声だったが、まったく安心できなかった。それどころか、体が石のように固くなっていく。美里はゆっくりと後ろを振り返った。「そ、宗真……くん……」前世で美里を拉致し、激しい拷問をした張本人――宗真だった。「何だ?知り合いか?」「お前、彼女が誰か分かっていてこんなことをしているのか?」「し、知らねえよ!」「彼女は永山家のお嬢様の美里さんだ。お前、バレたらただじゃ済まないだろうな」「な、永山家だと!?」永山家の名前を聞いた男の顔がみるみるうちに青くなっていく。そして顔が青くなったのは美里も同じだった。
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