All Chapters of 夫の拷問で死んだ私、今世は離婚します!今さら泣いて縋っても戻りません!: Chapter 81 - Chapter 90

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第81話

「な、何するのよ!放しなさい!」「それはできないわ、あなたが何をするかわからないからね」香織はしばらく女と掴み合いになった。香織は何とかして女を押さえ込もうとするが、女も抵抗を続けた。彼女一人の力では、女を完全に押さえ込むのは難しかった。「大体どうしてあなたがここにいるのよ!九条香織は二人いたとでもいうわけ!?」「そんなわけないでしょう?あなたが勝手に勘違いしているだけよ」「何ですって……?」その瞬間、美由紀が背後から女を押さえつけた。「なッ……アンタ……!」「美由紀、ナイスよ!」実は香織だと思われていたのは、変装した美由紀だった。香織と美由紀は二人がかりで女を床に押さえつけると、人通りの少ない路地裏へと連れて行った。香織は座り込んで不貞腐れている女を見下ろした。「あなたね?最近私をやたらと付きまとっているのは」「……」女は黙り込んだまま何も言わなかった。香織は近頃、謎の視線に悩まされていた。外を歩くたびに、似たような執念深い視線を感じることが何度もあった。そのせいで安心して出歩くこともできなかった。(犯人がこんな可愛らしいお嬢さんだとは驚いたけどね……)女は香織よりも年下の十代後半くらいに見えた。黒髪を高いところで二つに結んでおり、香織とは初対面だった。香織をストーカーする理由なんてないはずなのに、一体どうして。彼女の詰問に、女は開き直った。「あなたが悪いのよ!私の彼を誑かすから!」「彼?一体だれのことよ?」「隼人君よ!」「隼人……」その名を聞いた香織は、ライブに行ったあの日のことを思い出した。『実は最近……何だか誰かにつけられてるような気がしてさ……どこにいても視線を感じるというか……』隼人は困り果てたように視線を逸らしながら、そう打ち明けた。そして近頃、香織はまさに隼人と同じような目に遭っていた。そこで彼女はようやく気が付いた。(如月さんに付きまとってたストーカー女って、コイツか!)たしかにアイドルオタクっぽい見た目をしている。その証拠に、彼女が持っていたカバンには隼人のキーホルダーがいくつもぶら下がっていた。「あなたねぇ、いくら好きとはいえ相手の気持ちを考えないでそんなことをするのは間違っていると思わないの?」「ふん、あなたも隼人君に愛される私に嫉妬してるのね?何て醜い女なの!」「な、あなた……」
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第82話

真理愛は満面の笑みで香織に手を振った。「良いことを知れたわ!ありがとう、九条香織!この恩は絶対に忘れないから!」「はいはい、せいぜい暴力振るわれないようにストーカーしなさいよ」香織は真顔で手を振り返した。彼女が去ったあと、美由紀が呆れた顔で口を開いた。「あの女、相当危ないヤツですよ。カバンの中に催涙スプレーありましたし……」「警察のお世話になったこともあるらしいわね。未成年だから逮捕まではされなかったようだけど」真理愛はアイドルファンの中ではかなり有名で、ストーカー紛いの行為を何度も繰り返していたのだという。被害者は隼人だけにとどまらず、他の有名アイドルも標的にされていたようだ。「私があんな女と間違われていたなんて屈辱だわ……私はあそこまで頭おかしくなかったわよ!」「ア、アハハ……」美由紀は愛想笑いをした。彼女は亮太が大学生だった頃、どれだけ香織が彼を執拗に追いかけ回していたかを知っていた。さすがに真理愛ほどではなかったが、常人にはとても理解できなかった。「でもこれで、もうアイドルたちがあの女の被害に遭わなくて済むわね」「そうですね、香織お嬢様は機転が利くんですね」「でしょう?」香織が真理愛に紹介した男とは、まさに亮太のことだった。「亮太は顔は良いし……隼人君みたいに地位もお金もあるからきっと彼女も気に入るはずよ」実際、彼女がスマホで亮太の写真を見せると、真理愛は目を輝かせていた。結局、顔が良い男なら誰だってよかったようだ。「まぁ、亮太はストーカーされるのに慣れてるわけだし?アイツなら最悪どうなってもいいでしょ!」「その通りですね」香織の言葉に、美由紀は表情を変えることなく頷いた。過去に亮太のことを本気で愛していたとは思えない発言だった。「そろそろ行きましょう、まだまだ解決しないといけない問題が山積みよ」「そうでした!」歩き出す香織に、美由紀は慌ててついて行った。「お嬢様!どのような計画を立てているのかそろそろ教えてくださいよ!」「着くまで秘密よ!」「えぇ!お嬢様ったらー振り回さないでくださいよー」美由紀は文句を言いながらも、彼女のあとについて行く。二人は絶対的な信頼で結ばれていた。***夕方になり、とある地区の住宅街にはそれぞれの家の晩御飯の良い香りが立ち込めた。その中にある小さな一軒家に、仕事帰りの一人の女
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第83話

穂乃果はスーツ姿のまま、住宅街を走っていた。タイトスカートは思った以上に走りづらく、途中で何度かよろけた。しかし、彼女にとってはそんなことどうでもよかった。(どういうこと?絶対に大丈夫だって、”日菜乃さん”はそう言っていたのに……!)何より私には、あの羽川亮太が付いている。九条家が何だと言うのだ。羽川財閥のトップである彼がバックにいるのであれば、誰も手なんて出せない。(亮太の手を借りて昔から気に入らなかったあの女を懲らしめてやろうと思ったのに……)穂乃果はしばらく走り続けたあと、目的地の公園に到着した。その頃には既に日が沈みかけていた。「日菜乃さん!どこにいるんですか!?」彼女は誰もいない公園で叫び続けた。しかし、どれだけ声を張り上げても返事はない。「おかしいな、間違いなくここに来るって……」穂乃果が手紙をもう一度確認しようとしたそのとき、彼女の背後から凛とした声が聞こえた。「――日菜乃は来ないわ」「!?」驚いて後ろを振り返ると、見覚えのある人物がそこに立っていた。「ア、アンタ……どうしてここに……!」腕を組み、穂乃果を冷たい目で見据えていたのは大学時代の因縁の相手・九条香織だった。「よくもやってくれたわね――坂下穂乃果(さかしたほのか)……いや、今は大島になったんだったかしら?」「ッ……」穂乃果は悔しそうに香織を睨みつけた。彼女が大学卒業後に亮太と結婚したことは知っていた。自分はあんなにしがない男とデキ婚したというのに、何故彼女は――「大学時代のことを覚えてる?私たち、亮太を巡っていつも争っていたわよね」「……昔話をしに来たわけ?どうせわかっているんでしょう?――私が週刊誌に暴露した張本人だってこと」穂乃果は香織に嵌められたことに気付いていた。「ええ、もちろんよ」「だからって、こんな手紙までわざわざ用意するだなんて!アンタは昔からホンットに小賢しいわね!」彼女は声を荒らげながら、持っていた手紙を地面に投げつけた。香織は青色の封筒をゆっくりと拾い上げた。封筒の送り主部分には、「山川日菜乃」と書かれていた。「ポイ捨てはダメよ……ここは公共の場なんだから、そんなに大声を出すと迷惑になるでしょう?」「……」今にでも暴走してしまいそうな穂乃果を前に、香織は冷静だった。「坂下穂乃果。アンタ、本当に馬鹿なことに手を出したわね
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第84話

穂乃果の顔から、一瞬にして表情が抜け落ちた。信じられない、といったような目で香織を見つめている。彼女はそんな穂乃果を、憐れに思った。「う、嘘よ……そんな……成功したら亮太に会わせてくれるって……」「あなた、日菜乃に騙されたのよ」香織は絶望の表情を浮かべる穂乃果に、ゆっくりと近付いた。彼女は一体どこまで知っているのだろうか。この際、全てを教える必要がある。香織は苦しさを感じながらも、キッパリと言い放った。「――日菜乃はね、亮太の愛人なのよ」「……」穂乃果はピクリと肩を上げた。どうやら亮太と日菜乃の関係すら知らなかったようだ。「あなたはまんまとあの女に騙されてたってわけ」「そ……んな……」真実を知った彼女は、膝から崩れ落ちた。もちろん彼女は人としてしてはいけないことをしたが、一番の悪は人の恋心に付け込む日菜乃だろう。(あの女、一体どれだけの人を犠牲にすれば気が済むのかしら……)週刊誌の件の首謀者が日菜乃であるということは最初からわかっていた。最初は亮太と協力して香織の記事をでっちあげたのだと思っていたが、それは間違いだった。亮太はただ日菜乃に知り合いの出版社にいる記者を紹介しただけ。――他は全て、日菜乃が一人で仕組んだことだった。そのことに気付いた香織は今日、犯人を絞り出すために日菜乃からの手紙を偽造し、彼女をここへおびき寄せた。他の二人は日菜乃のことなんて知らないから、当然ここへは来ないだろう。手紙の内容は計画に支障が生じただとか、香織が法的措置を取るつもりである、などだ。香織は顔色の悪い穂乃果を見下ろした。「傷付いているところ悪いけれど、自分のしたことの責任はしっかり取ってもらうわ」「……」その言葉すら、彼女の耳には届いていないようだった。今は何を言っても無駄だと思い、香織は座り込む穂乃果を置いたままその場から立ち去って行った。***香織が去ったあと、穂乃果は爪を噛みながら一人ブツブツと呟いた。「嘘よ……日菜乃さんが私を裏切るなんて……」彼女はまだ香織を信じきっていなかった。日菜乃はとても優しく、彼女の亮太への気持ちを誰よりも理解してくれたからだ。そんな日菜乃が自分に嘘をついているとは、とても思えなかったのだ。穂乃果は震える手でポケットからスマホを取り出すと、日菜乃に電話をかけた。「も、もしもし!日菜乃さん!」「あ
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第85話

家に帰った香織は、ある人物と電話をしていた。 「――というわけで、奥さんにはその責任を取ってもらうことになります」 「妻がそのようなことをしていたなんて……」 彼女が電話をしている相手は穂乃果の夫だった。彼は酷くショックを受けたような声で香織の電話に応じた。 「最近頻繁に家を空けるし……何だか様子が違うと思ったんです……不倫しているのではと疑っていましたが……」 状況は不倫よりも最悪だった。 「……まだ子供も小さいし、離婚も視野に入れようと思います」 「それがいいですわ」 夫はかなり傷付いているようだったが、仕方が無い。全て穂乃果が自分でしたことだった。 今回の一件で、彼女は全てを失うことになるだろう。日菜乃が何の役にも立たない女を助けるはずがない。亮太は穂乃果がこの件に関わっていることすら知らないだろうし。 穂乃果の辿る末路を考えると、香織は何だか胸が痛くなった。 (同情なんてしちゃダメよ、今度こそは絶対に私が勝者になるんだから) 香織が本当に倒したいのは穂乃果ではなく、山川日菜乃ただ一人だ。彼女を倒す過程で、多少の犠牲はやむを得ない。 「香織お嬢様、羽川社長と日菜乃に招待状を送っておきました」 「そう、ご苦労だったわね」 招待状は既に送付済みだ。あとは亮太と日菜乃の返事次第。 「お嬢様……もし、社長たちが来なかったら……」 「いいえ、それは絶対にありえないわ」 香織は余裕の笑みを浮かべた。 「――あの女の性格上、今回のパーティーにはきっと参加するはずよ」 *** 「日菜乃様、招待状が届いております」 「……招待状?」 私宛てに招待?一体誰からだろう、と日菜乃は疑問に感じた。彼女は親しい友人なんてほとんどいない。元々敵を作ってしまうタイプなため、社内ではあまり好かれていなかった。 「……九条香織?」 送り主のところに書かれていた名前に、日菜乃は眉をひそめた。 「私と亮太をパーティーに招待したいですって……?」 内容を確認すると、日菜乃はアハハッと声を上げて笑った。グシャッと手に持っていた招待状が握りつぶされた。 「公衆の面前で私たちを晒し上げたいってところかしら……?九条香織、なかなか面白いじゃない……」 日菜乃は亮太の秘書である芹沢を呼びつけた。 「――芹沢さん」 「は、はい!日菜乃様!」 芹沢は
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第86話

「――日菜乃さん、お呼びでしょうか」 しばらくして、彼女の部屋に一人の人物が姿を現した。その人物は、香織が勤務している部署の制服を着ている若い女だった。 日菜乃は彼女をチラリと一瞥すると、尋ねた。 「……久しぶりね、潜入はうまくいっているのかしら?」 「ええ、誰にも気付かれておりません」 その返事に、日菜乃は満足そうに頷いた。彼女は日菜乃がこの世で最も信頼のおいている人物だった。 「一つご報告が……」 「どうしたの?」 深刻そうな面持ちの彼女に、日菜乃は眉をピクリと動かした。どうやら何か良くないことが起こったようだ。 「部署内での九条香織の立場が変わりつつあります……事前にデマを流しておいたというのに、失敗しました」 「……」 そういえば、前に電話でそんなことを言っていたような気がする。 (……あの女、上手くやったみたいね) 日菜乃は香織の変わりぶりに驚いた。以前までの香織は、日菜乃のいる本社へ乗り込んでは公衆の面前で声を荒らげて罵倒するような女だった。そんな彼女に亮太はもちろん、周囲の人間も呆れていた。 しかし、今の香織はまるで別人のようだった。日菜乃が本邸へ転がり込んだあの日から、まるで人が変わったかのように冷静になった。 『あなたたちが何と言おうと私は必ず離婚しますから』 日菜乃はフフッと口元を歪ませた。 (……ただ亮太の後ろ姿だけを見て生きていればいいものを) 彼女の変化が、日菜乃は気に入らなかった。 「これからも引き続き潜入を続けてちょうだい」 「はい、日菜乃さん」 彼女はまるで日菜乃のしもべのようだった。彼女の存在は、亮太や芹沢ですら知らない。もはや日菜乃の手足も同然だった。 「それと、調べてほしいことがあって……」 「何なりと」 日菜乃は用件を手短に伝えた。いつ、誰が部屋へ来るかわからない。できるだけ長居させるわけにはいかなかった。 「いけそう?」 「もちろんです、日菜乃さん」 用件を全て伝え終えると、女は静かに部屋を出て行った。一人になった部屋で、日菜乃は再び手元の招待状に視線を落とした。 「……パーティーなんて久しぶりね」 前に亮太が開いた妊娠祝いのパーティー以来だろうか。彼女は前よりも膨らんだ腹に手を置いた。 「……」 愛する男との子がその中にいるというのに、彼女は何の感情も感じられ
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第87話

ちょうどその頃、香織もまた、九条邸の中から土砂降りの外を眺めていた。「今日はどこへも行けなさそうだわ」せっかくの休日だというのに、何だか残念だ。香織はつまらなさそうに窓から外を眺め続けた。家でも特にすることがない。(暇だわ……今日はあいにく一緒に出掛ける相手もいないし……)そんなことを考えながら、彼女は家から少し離れたところに視線を向けた。彼女はその先で思わず目を留めた。「……………あら?」一人の男が、傘も差さずに立ち尽くしているのが見えた。そして、それは香織のよく知る人だった。「どうして彼が……!」その姿を見た途端、香織は無意識に部屋から飛び出していた。外へ出た彼女は豪雨の中、走り続けた。跳ねた水で足元がビショ濡れになった。近くで雷が鳴る音が聞こえる。一体何が自分をここまで突き動かしているのかわからないまま、彼女は走り続けた。傘を差していなかった香織は豪快に雨に打たれていた。しばらく走ると、彼女はようやく目的の人物がいる場所へと着いた。「――礼音さん!」「……お前は」香織の声に、彼が振り返った。香織は彼を引っ張り、近くにあった店の屋根の下に連れ込んだ。どれだけの時間その場所にいたのか。彼は頭からつま先までびしょ濡れだった。「どうしてこんなところにいるんですか……!?傘も差さないで、風邪引いちゃいますよ?」「……」彼は自分でもわからないというように言葉を詰まらせた。よく見ると、僅かに頬が火照っている。もしかして熱でもあるのかもしれない。そんな彼を見た香織は仕方ないと思い、ある選択をした。「……私の家に来てください」***礼音は香織に腕を引っ張られ、近くにある彼女の家へと歩いていた。傘を差していなかった二人は、冷たい雨に打たれたまま歩き続けた。礼音は前を歩く香織を一瞥した。(彼女にこんな迷惑をかける気はなかったんだが……)彼は数時間前まではいつも通り仕事をしていた。しかし、土砂降りの雨を見た瞬間、何故か居ても経ってもいられなくなったのだ。気付けば外へ飛び出し、ここまで来ていた。理由は自分でもわからない。礼音は香織に手を引かれながら空を見上げた。今日は久々の豪雨だった。こんなにも強い雨が降ることはめったにない。おかげで電車は遅延し、近くにある学校は急きょ授業を中止せざるを得なかったという。こんな日は、何故かとても気分が
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第88話

香織と礼音が家に入ると、有真が驚いた顔でずぶ濡れの二人を見た。「香織さん、その格好はどうしたんですか!?それに、そちらの方は一体……」「……この人は私の知り合いです。危ない人ではないのでご心配なさらず」香織の真剣な表情で何かを察したのか、有真は礼音を家に入れた。有真から手渡されたタオルで、香織は彼の体を拭いた。香織よりも長い時間外にいた彼は、着ていたスーツから水が滴るほど濡れていた。「服を脱ぎましょう。風邪引いちゃいます」そう言いながら、香織は礼音の上着を脱がせた。手に持った上着は、水で重みが増してずっしりしていた。「さぁ、早く……」香織は再び礼音のほうに顔を向け、思わず固まった。白シャツ姿の礼音の胸元が大胆に開き、鍛えられた胸筋が見えていたのだ。男の裸体を前に、彼女は顔を真っ赤にした。(ど、どうしてそんな格好をしているのよ!)彼女は持っていた上着を礼音に投げつけたくなった。香織は亮太と結婚していたが、前世を含めて一度も男に抱かれたことはない。それどころか異性との交際経験もなく、亮太に強引にされたあの一回を除けばキスさえしたことがなかった。「あ、あとは自分で着替えてください!お風呂の準備をしておきますから!」彼女はそれだけ言うと、礼音を空いていた部屋に突っ込んで彼の前から立ち去った。部屋を出た彼女に、有真が声をかけた。「香織さん、さっきの方は一体どちら様ですか?」有真は礼音を家に入れることを受け入れはしたものの、彼が誰なのか気になって仕方がないようだ。有真相手に嘘をつくことなどできず、香織は正直に話した。「あの方は私の友人の福本礼音さんです。外でたまたま見かけたのでここへ連れてきました」「福本礼音?それって最近ネットやテレビに出てる実業家の名前ではありませんか?」「え?実業家?」香織は思わず聞き返した。礼音が実業家だなんて、何かの間違いではないのか。彼は九条グループの社員で……「有真さん、人違いじゃないですか?」「いえ、そんなはずはありません。私、ちょっと前にたしかにネットニュースでその名前を見ましたから」嘘だ、そんなはずはない。と思いながらも、香織はスマホを取り出して検索をかけた。そこに出てきた顔画像は、まさに彼女が知る礼音だった。「う、嘘……あの人だわ……」「ね?言ったでしょう!?」香織は衝撃を受けながらも、ネ
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第89話

その後、風呂に入った礼音は見事に体調を崩した。豪雨の中傘も差さずに外にいたのだから、熱を出してしまったようだ。香織は空き部屋のベッドで眠る礼音の傍に立ち尽くしていた。ぐっすりと眠る彼の顔をただじっと見つめた。(本当に有名人だったのね……まったく知らなかったわ……)未だに信じられなかった。香織と同じように彼を見つめていた有真がポツリと呟いた。「大変なことになりましたね……」香織と有真は彼の看病を始めた。「有真さん、迷惑かけてすみません。あとは私が一人でやります」「いえ、気にしないでください。何かあったらいつでも呼んでくださいね」有真は夕飯の準備をするため、一度部屋から出て行った。残されたのは、香織と礼音だけだった。香織は目を閉じている彼の額にそっと手を触れた。(結構熱くなってるわね……)額から彼の体の熱が伝わってくる。今日は泊まっていってもらうことになりそうだ。事情を説明すれば忠嗣も許可するだろう。礼音は彼と知り合いみたいだし。(それより、どうしてあんなところにいたのかしら……)回復したらそのことを聞いてみよう。いつになるかわからないが。香織はすやすや眠る礼音に囁いた。「今日は九条家で安静にしていてくださいね……」香織はベッドの傍に置かれていた椅子から立ち上がった。窓から外を見ると、未だに強い雨が降り続けていた。「こんな天気だと……何だか気分が下がるわね」香織は土砂降りの外と、眠っている礼音の顔を交互に見た。何だか不思議な気分だった。気のせいか彼を見ていると、懐かしい気持ちになる。――何かを思い出せそうな気がしてならなかった。(私も疲れているようね……)香織は額を手で押さえた。礼音とはあの日ホテルで初めて会ったというのに。今夜は早めに寝よう。そう思いながら、彼女は夕食ができるまで礼音の看病をし続けた。***礼音はこの間の夢の続きを見ていた。「何故だ……何故このようなことに……!」彼は全身傷だらけで血まみれの香織を抱きかかえていた。彼女の血で真っ白なシャツが汚れることなど気にもならなかった。礼音は目から大粒の涙を流した。「”アイツら”がやったのか……?アイツらがお前をこんな目に遭わせたんだな……?」降りしきる雨に打たれながら、彼は呟いた。彼は雨に濡れた彼女の体を抱き上げた。そのままおぼつかない足取りで歩き始める
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第90話

「……!」そこで礼音は目が覚めた。ずいぶんと不思議な夢だった。(ここはどこだ……?)彼はベッドから上半身だけを起こして辺りを見回した。礼音は見覚えのない部屋にいた。外は真っ暗で、雨は既に止んでいた。どれだけの時間寝ていたのだろうか。ベッドから起き上がろうとしたそのとき、すぐ傍にもう一人いることに気が付いた。「…………香織?」彼が眠っていたベッドに伏せるようにして寝ていたのは香織だった。礼音は彼女を見ると、何故かとても安心した。既に熱は下がっているようで、前ほどのダルさもなかった。どうやら彼女が寝る間も惜しんで看病してくれたようだ。(それにしても、こんなところで寝るなんて……)彼はベッドから起き上がり、すやすや吐息を立てて眠っている香織を抱き上げた。”あのとき”と違って、その体は温かかった。礼音はそのまま、彼女をさっきまで自分が使っていたベッドに寝かせた。香織の部屋へ運ぶべきなのだろうが、いくら何でも交際していない女性の部屋に入るのは礼儀に反する。「ここは九条邸か……」遅れながらも今、そのことに気が付いた。香織を寝かせた彼は、ベッドの傍に置かれていた椅子に座った。脚を組み、香織の美しい寝顔を見つめながらじっと物思いに耽った。***「……」香織が目を開けると、見慣れない天井が視界に入った。部屋にある窓からは太陽の光が差し込んでおり、小鳥のさえずりが聞こえる。(あれ?私ベッドで寝たんだっけ?)昨日は夜遅くまで礼音を看病し続け、そのまま疲れて眠りについた。そこまでは覚えていた。そこから起きた記憶が無いから……もしかして寝ぼけたまま部屋へ戻ったのだろうか。香織が横になったまま考え込んでいると、横から声がした。「……おはよう」「……!」彼女が慌てて起き上がると、椅子に座ってこちらを見つめる礼音がいた。一体いつからそこにいたのか。「ふ、福本さん……!」もしかしてずっと寝顔を見ていたのか。そのことを考えると、香織は何だか恥ずかしくなって布団で顔を覆った。彼女のその行動に何を勘違いしたのか、礼音が困ったように口を開いた。「……何もしていないから、安心してくれ」「あ、いえ……そういうわけでは……」香織は布団から顔を出し、礼音と視線を合わせた。「……昨日は迷惑をかけたようだな」「いえ、お気になさらないでください」返事をすると、香
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