歌原レイラ、二十八歳。 死まで、あと十八日。 歌原彩、十五歳。高校一年生になった春。 夜の歌舞伎町。 雨上がりのアスファルトに、赤と青のネオンが滲んでいた。 排水溝へ流れる濁った水が、光の切れ端を細く引きずっていく。 笑い声。 遠くのクラクション。 酔った男の怒鳴り声。 どこかでグラスの割れる音。 いくつもの音が重なっているのに、この街の底には妙な静けさがあった。 欲望が満ちきった場所にだけ沈む、鈍い静寂。 遠くでサイレンが鳴っている。 近づいてくるでも、遠ざかっていくでもない。 ただ、夜の奥で低く響いていた。 この夜。 まだ、誰も人を殺してはいない。 けれど。 戻れなくなる人間は、 戻れなくなる前から、少しずつ道を外れている。 * 《Club RAZE》の営業が終わったあと。 バックヤードには、白い蛍光灯だけが残っていた。 ロッカーの金属臭に、香水と酒、煙草の匂いが混ざっている。 赤西はソファへ深く腰を下ろしていた。 黒いシャツの第一ボタンを外し、首筋を押さえる。 二年間、ほとんど休まず働いてきた疲労が、目の下にはっきり残っていた。 スマートフォンを開く。 画面に並ぶ数字。 《手術費用総額 100,000,000円》 《送金済額 85,200,000円》 《不足金額 14,800,000円》 赤西は、その数字を長く見つめた。 あと少し。 ここまで来た。 娘の心音を助けるために必要な金。 一億円という、最初は現実味すらなかった数字へ、ようやく手が届きかけている。 背後で缶が鳴った。 「ほら、ブラック」 振り向くと、No.2の西尾が缶コーヒーを投げてきた。 赤西は片手で受け取る。 「……悪い」 プルタブを開ける。 短い金属音が、静かな部屋に残った。 西尾はロッカーへ背中を預け、赤西のスマートフォンへ目をやる。 「……すげえよな、お前」 「何が」 「ここ二年、ほぼ休んでないだろ。売上もずっとトップ」 西尾は自分の缶を開けた。 「娘のためってなったら、男ってここまでやれんだな」 「やるしかねえからな」 それ以上の理由などなかった。 西尾が聞く。 「で、どこまで来た?」 「八千五百二十万」 「おお」 西尾が小さく口笛を吹く。 「じゃあ、もう見えてんじゃん。一億ま
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