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33話

Author: 東雲桃矢
last update publish date: 2026-04-07 12:54:58

 うたが手を伸ばそうとすると、文彦は意地の悪い笑みを浮かべる。

「悪いことばかりではないんですよ。あの料理人を雇い続けることで、毒を盛られることはないんですから?」

「え?」

「だって、そうでしょう。小生が料理を食べて死んだら、うやむやになってたあの時の集団食中毒の犯人も、あの料理人だったということになるのだから」

 文彦の底意地の悪い笑みが、ただただ悲しい。彼と料理人の間にあるのは信頼や絆ではなく、脅迫めいたものなのだから。

「あなたが気に病むことなど、何もないのですよ。ここにいる期間は、2年も満たないでしょうから」

「そんなこと……!」

「では、子を産んでも、ここに残ると?」

「最初から、そのつもりです。1度嫁いだんですから、添い遂げようと思います」

「おやおや、義理堅いこと」

 冷めた瞳が、うたの真意を汲み取っていないことを告げる。うたがなにかを言う前に、文彦は背を向けてしまった。

「待って!」

「助けてもらった恩とか、世間体とか気にしているのでしょうが、そんなこと、考えなくていいんですよ」

 立ち止まり、告げられた言葉は鋭利な硝子片のよう。ショックのあまりなにも言えないでいる
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