All Chapters of 獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかけて逃げた後その中の一人と番になる~: Chapter 141 - Chapter 150

224 Chapters

18 覚醒

 ナディアが殺された。 混乱が次第に収まり始めたヴィクトリアの中に、深い悲しみとやるせない怒りが生まれる。(どうして殺したの……!) ナディアを撃ったゼウスはナディアの恋人だった人だ。 流れ込んできたナディアの記憶の奔流から、彼女がゼウスを深く愛していたことがわかるし、ゼウス自身もナディアを深く愛していたはずだった。 けれどそれは一年ほど前の過去の話であって、ゼウスはナディアが獣人であることを知った後は、ナディアの記憶によれば、一転して彼女を探し出して殺そうとしていた。 にも関わらず、ナディアは死の最期の瞬間にはゼウスに殺されることを受け入れて許していた。ナディアの記憶と共に彼女の気持ちまで体の中に流れ込んできたヴィクトリアには、それがわかった。(でも、私は許せない) ――心が、凍る。 それは静かな怒りだった。けれどそれは根を張るように、ヴィクトリアの身も心も侵食していく…… ヴィクトリアの周囲の温度が急速に下がる。 変化は急激だった。 冬でもないのにヴィクトリアの吐き出す息は白く濁り、流す涙も凍てついた氷の粒になり、地面にいくつも落ちていく。「ヴィクトリア!」 レインの声がする。 ****** 獣人王シドを討ち取った奇跡に湧き続ける隊員がいる一方、人間にしか見えない女――ナディア――が撃ち殺されたことに、シリウスが彼女の死を激しく嘆き叫んでいることも相まって、「何が起こった?」と騒然とする隊員も多く、処刑場は再び緊張感を孕みつつあった。 暗闇の巨大空間が消失してシドが死んだ直後から、ヴィクトリアを注視している者は皆無だった。 処刑場にいた一般人はほとんどが避難していなくなっているし、残っているのは命懸けで仕事を全うしようとしている新聞記者や、腰が抜けたり避難の際に怪我などをして動けなくなってしまった人くらいで、その人数は多くない。 今や処刑場にいる多くが銃騎士隊員や警邏隊員たちだが、その中でも一番早くにヴィクトリアの異変に気づいたのは、ブラッドレイ家の魔法使い――アーク、ノエル、セシル――の三人だった。ジュリアスは魔力切れを起こして気絶しているし、シリウスはナディアの死を受けて我を忘れたように慟哭している。 ブラッドレイ家の魔法使い三人は、この場に自分たち以外の魔力が生じたことを感知した。「真眼の魔法使い」ではなくて、マグ
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19 命の危機

 レインは目の前の光景を衝撃の面持ちで見つめていた。 ヴィクトリアの周囲に出現していた氷は、真っ直ぐにゼウスに向かって飛んでいった。 あわやのところでノエルがゼウスをかばうように現れて魔法で防いでいたが、氷柱は次から次へとヴィクトリアの周囲で発生して、ゼウスとノエルに襲いかかっている。(まさか、ヴィクトリアも魔法使いだったとは……) 獣人にも魔法使いは生まれるのだなと思いながら、レインはとにかくヴィクトリアの近くへ行こうと処刑場広場を走った。 ヴィクトリアが一番最初にゼウスに向かって氷柱を打ち込んでいたことから、狙いはノエルではなくてゼウスだとわかる。「ヴィクトリア! 攻撃をやめろ!」 レインが走っている途中で突然、それまで空中のある一点で砕けていた氷柱が、その域を越えて、ゼウスの前にいたノエルに襲いかかった。 ノエルにぶつかる寸前で炎が現れ、氷が破壊されてノエルもゼウスも無事だったが、一歩間違えば二人とも死んでいた事態にレインは青くなった。「ヴィクトリア、やめろ!」 レインが呼びかけると、氷柱を打ち込み続けながらも、ゼウスだけを真っ直ぐに見つめていたヴィクトリアの視線が、レインに向けられた。「ヴィクトリア! ゼウスは俺にとって弟みたいに大事な奴なんだ! 頼むから殺さないでくれ!」「……る……ない」 攻撃は止まらないがヴィクトリアが何かを言っている。レインはヴィクトリアの声がはっきりと聞こえる場所に近づいたところで、彼女の言葉を知った。「――私は、ナディアを殺したあなたたちを、絶対に許さない」 それは怒りと恨みが多分に含まれた声だった。(ヴィクトリアがそんなことを言うなんて……) レインは衝撃に足を止めた。 ヴィクトリアの言葉から察するにナディアは死んでしまったようだが、激しい恨みに全身を支配されているかのように見えるヴィクトリアのその姿は、まるで、いつかの自分のようだった。 レインの知るヴィクトリアは、外見と同じくらい心もとてつもなく清らかで美しくて、優しい女性だった。(人を殺そうとするなんて、そんなことは絶対にしないはずで……) けれど、流す涙も冷気で凍らせて、ゼウスを殺そうとして魔法を放ち続けるヴィクトリアの姿は、レインの知るヴィクトリアではないように感じられた。(人が変わったように思えるのは、魔法が使えるようにな
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20 俺がやります

 焦るレインの視界に再び炎が現れた。ヴィクトリアのいる付近に向かって、地獄の業火のような猛烈な炎が出現して暴れ始める。 猛烈な炎の嵐でヴィクトリアの姿が見えなくなって、ヴィクトリアがゼウスたちに放っていた氷柱攻撃も止んだ。「……っ! 隊長!」 レインは青ざめて、少し離れた場所に立っているアークの元まで急いだ。 ジュリアスは気絶したままのようだし、シリウスはナディアの亡骸を抱いたまま動かない。ノエルとセシルが主に攻撃で使う魔法はそれぞれ風と水のはずだから、この火魔法を使っているのはアーク隊長でほぼ間違いない。アークの魔法属性は火だ。(ヴィクトリアへの攻撃をやめさせなければ!) 背後で爆発の音が聞こえて振り返る。レインの視界の先では、氷と炎がお互いを呑み込むようにせめぎ合ってぶつかり合い、氷が破裂する盛大な音が響き渡っていた。炎を突破した氷柱が再びゼウスたちに襲いかかっている。 荒れ狂う氷と炎の狭間で、銀髪を揺らめかせながら立つヴィクトリアの姿が見えた。「ヴィクトリア!」 叫ぶと、ヴィクトリアがこちらを見たような気がした。「ヴィクトリア!」 求めるように再度手を伸ばすが、次の瞬間には炎の中に包まれるようにして、レインからヴィクトリアの姿は見えなくなってしまった。(隊長はヴィクトリアを殺すつもりなのか……!) 最悪の事態を想定しながら、レインはアークの元までたどり着いた。「隊長! ヴィクトリアへの攻撃をすぐにやめてください!」 息せき切って走ってきた勢いのまま、レインはアークに攻撃の中止を訴えた。 しかし、レインの一言で止まるような隊長ではない。アークは感情の見えない瞳でレインを見返しながら、言い放つ。「あの娘を止めなければノエルとエヴァンズが死ぬぞ? それにあの娘は膨大すぎる魔力をほとんど使いこなせていない。放置すれば災厄を生むだろう。憂いの芽は早いうちに摘み取るに限る」「ですが! 魔法使いの存在は貴重なはずです! みすみす殺すよりも、生かして手駒にした方がこちらの益になります!」「本人もコントロールできていないほどの強大な魔力を持ち、いつ魔力暴走を引き起こすかもわからない危険な存在を飼えと言うのか」「俺が飼います! 必ず飼い慣らしてみせます!」「お前では無理だな」 アークは即否定で返した。「お前はあの娘の暴走を止めようと
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21 心の天秤 ※ハッピーエンド(3人)への分岐点

 レインはアークに「身体強化の魔法」をかけてもらった状態で、ヴィクトリアに近づく。 『攻撃力、素早さ、動体視力の全てを魔法を使って限界値ギリギリまで上げた。S級とは言わんがA級の獣人並の身体能力はあるだろう。魔法なしの状態であれば、ヴィクトリアよりも今のお前の方が強い。  ヴィクトリアの魔法攻撃は全て俺が防いで援護するから、気にせずに突っ込め。防御力も上げたから今のお前の肉体は鋼だ。もし氷柱が当たっても即死はしないだろう。すぐに治癒魔法をかけてやる』  レインは頭の中で先ほどまでアークとしていたやりとりを反芻していた。 『レイン、確実に仕留めろ。無駄な温情はかけるな。むしろ、一思いに殺した方が苦痛も少ないだろう。  ヴィクトリアを思うお前に免じて、あの娘には「感覚遮断の魔法」をかけておいてやる。怒りに呑み込まれているあの状態では、実際に斬られる前にその魔法に気づかれる可能性も低いだろう。  痛みはゼロだ。ただ安楽に死なせてやるだけだ。  まあ、失敗したら俺がやるまでだがな。嫌なら確実に殺れ。  わかっていると思うが、妙なことは考えるなよ』  アークはレインの心の内に気づいている様子だった。  アークは、レインにとって今日まで親代わりのような存在だった。  アークとの出会いは、レインの故郷の村が焼かれて、家族を失った時だった。  レインは復讐を強く胸に宿して銃騎士になることを決意し、獣害対応のために村に来てた銃騎士と接触を図ろうとした。  その時にレインが声をかけた相手こそが、アークだった。  銃騎士になるための知識も金も何もなかったレインを、アークは首都まで連れ帰った。銃騎士養成学校に入校するまでの短い間だったが、アークは自宅に住まわせてくれて、人並みの生活ができるようにしてくれた。  試験の手続きはもちろん、合格のために鬼かというくらいに体をしごかれたり、筆記の勉強法も教えたりと、時にはジュリアスを使ったりもしつつだが、アークは様々にレインの面倒を見てくれた。 (あの人がいなければ、銃騎士になるにはもっと時間がかかった)  アークが恩を売り、子飼いの手駒にしているような銃騎士は他にもいる。特段アークが立派な人間だったわけではない。  しかしそれでも恩は恩だ。レインは自らも進んでアークの手駒となり、アー
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《レインハッピーエンド 愛憎を超えて》1 禊―みそぎ―

 レインはヴィクトリアの心臓目がけて、剣を打ち込んだ。 レインの剣先がヴィクトリアの胸に突き立てられて、ヴィクトリアの視界を赤い飛沫が舞う。 ヴィクトリアは貫かれた衝撃でよろめいたが、たたらを踏んだのみで、倒れることはなかった。 ヴィクトリアが刺された瞬間から、ゼウスたちへの氷攻撃はやんでいた。 ヴィクトリアの胸には血濡れの剣が突き刺さっている。「ヴィクトリア……」 レインは剣を抜かずに柄を握ったまま、こちらを悲痛な表情で見つめて号泣していた。 ヴィクトリアはレインを茫然と見つめ返した。 自分にとって唯一の存在である、愛するレインに胸を刺されたのだと理解するのに、数拍の時間が必要だった。 理解した瞬間、様々な苦しみを恨みに転嫁させて殺意にまみれていた頭の中に、空白が生まれる。 次いで訪れたのは、途方もない衝撃と悲しみだった。なぜか体の痛みは全く感じないが、心が痛い。 しかしその衝撃により、ヴィクトリアは期せずして正気に戻った。(レインが、私を、殺そうと……) 悲しみが胸を埋め尽くす。悲しくて悲しくて、胸がぐちゃぐちゃになって潰れて裂けて壊れそうだった。 やりきれない思いに支配されながらも、我に返ったヴィクトリアは、レインが自分を刺した理由は理解した。 ヴィクトリアがレインの大切な人を殺そうとしたからだ。 レインは最初ヴィクトリアを必死で止めようとしていた。「ゼウスは大切な人だから殺さないでほしい」とも言っていた。怒りの感情に支配されたヴィクトリアが止まらないから、強硬手段に出たのだろう。(レインは私たちのせいで大切な家族を失っているのに、私は、どうしてまた彼から奪おうとしたの……) ナディアの死は悲しい。けれど、殺されたから殺し返すなんて、そんなことをずっと続けていたら、恨みの連鎖はいつまでたっても終わらない。(何で、そんな当たり前のこと、わからなくなってたの、私……) レインに再び裏切られたという思いと同時に、彼へのどうしようもない申し訳なさが押し寄せてくる。 レインがヴィクトリアの胸から剣を引き抜くと、ごぼりと音を立ててヴィクトリアは血を吐き、傷口からもおびただしい鮮血が流れて落ちた。 不思議と痛みは感じないが、ゆらりと体が揺れて目の前が霞む。このままでは確実に死ぬと思ったヴィクトリアは、生まれて初めて治癒魔法を自分
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2 反乱

 レインが何度も何度もヴィクトリアに呼びかけていると、アークが瞬間移動で二人の近くにやってきた。 「どうした、まだ死んでいないぞ。止めを刺せ」  レインはあの時、確かにヴィクトリアの心臓目がけて剣を打ち込んだ。しかし、攻撃は心臓を外れていて、ヴィクトリアは未だ死んでいない。  それはレインが目測を誤ったというよりも、レイン自身が無意識にヴィクトリアを殺すことを避けたからだった。  レインの心の天秤は、最後の最後で確かにヴィクトリアに傾いていた―― 「隊長、見逃してください」 「駄目だ」 「どうしてもですか?」 「危険すぎるからな」 「俺が代わりに死にますから、どうかヴィクトリアを助けてやってはもらえませんか?」  ヴィクトリアは意識がない様子だが、まだ息はしている。アークに治癒魔法をかけてもらえれば、まだ間に合う。 「お前が死ぬ理由はないだろう」 「ヴィクトリアが死んだら俺も死にます。ヴィクトリアは俺の命そのものなんです。せっかく育てた部下を無駄死にさせるつもりですか?」  直後、レインのすぐそばの地面が火魔法の攻撃を受けてえぐれ、草の一部が燃えた。  やったのはアークだが、レインの返答は、アークを苛つかせてしまったようだ。 「もういい、どけ。俺が殺す」  宣言していた通り、アークは指の関節を数度鳴らしながら、ヴィクトリアに「人体発火の魔法」を使おうと近づいてくる。  ――次の瞬間、地面に落ちていた自分の剣を拾ったレインが、アークに斬りかかった。  咄嗟にアーク自身の「盾の魔法」が間に合って不発に終わったが、「身体強化の魔法」がかかっていたレインの動きは、目にも止まらぬ速さだった。  上官を斬りつけるなんて罷免ものであるが、レインはヴィクトリアを助けるためなら、何でもする覚悟だった。  けれど二発目を打ち込もうとしたレインの体が地面に沈む。アークが「身体強化の魔法」を解いたからだ。  魔法により限界に近い力を使って酷使されたレインの体は、魔法を使った反動で悲鳴を上げ、常時よりも重さを増したように感じられて全く動かなくなる。  地面に倒れたレインは、アークに腹を思いっきり蹴り飛ばされて、苦悶の声を上げた。 「お前がそこまで馬鹿だとは思わなかった」  アークは「馬鹿」の部分だけをやけに強調し
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3 獣人姫と逃げる

 ブラッドレイ家の五男カインは、次兄シリウスとその思い人ナディアが、いつの間にか家の中からいなくなっていたことに気がついた。  それから、処刑場での騒ぎも聞きつけて嫌な予感を覚えたカインは、出産後安静中の母と生まれたばかりの赤子を弟たちに任せて、瞬間移動で単身処刑場に降り立った。  そこでカインは、ナディアの身の上に起こった悲劇を知った。  そして――  カインは驚愕の面持ちで、既に空に出現していたそれを見つめた。  ******  何かを達観したような部下と、睨んでくる愛息。  二人をどう躾け直すか頭の中で考えを巡らそうとしたアークは、しかし、彼らから目を離した。  気づいたらしきノエルも、アークと同じ方向を向き、驚いたように空を見上げている。  ヴィクトリアが覚醒したことにより、その魔法の被害に巻き込まれないよう、残っていた銃騎士隊員や民間人の多くが既に避難していたが、まだ避難していない者たちもいて、彼らのどよめきも広がり始める。    空に巨大な扉が出現していた。  両開きのその扉の枠には何体ものおびただしい数の骸骨が張りつけにされていて禍々しい。  扉上の中央には明らかに人間のものとは違う、縦長の虹彩を持つ巨大な目玉が取りつけられていて、意志を持つようにキョロキョロと動いている。  無表情が常であるはずのアークも、現れた不気味な扉の存在に目を見開き、驚きを禁じ得なかった。  これは、『冥界の門』だ。 『冥界の門』はあの世の入口であり、決してこの世に呼び出してはならないものだ。  アークは禁断魔法でこの門を出現させてしまった不肖の息子に視線を走らせた。 「シリウスっ!」  名前を叫んだ時には、アークは既にシリウスの元に瞬間移動していた。アークは闇魔法を使い、シリウスに向かって人一人分を覆い尽くすような巨大な黒い渦を展開させた。  アークはシリウスの全魔力を吸い上げて、強制的な魔力切れを起こそうとした。 『冥界の門』の扉はまだ開いていない。この段階で術者からの魔力が途切れれば、「死者蘇生の魔法」は発動せずに失敗に終わる。 「お前は! 女一人のために! 多くの人間を殺す気かっ!」 「待って! やめて父さん! 許して! 嫌だぁぁぁぁっ!」  シリウスが叫んでいるが、アークは問答無
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4 雪解け ※少し時間が戻っています

「ヴィクトリア! 死ぬな! ヴィクトリア!」  目を閉じて動かないヴィクトリアに向かってレインが叫んでいる。レインの腕の中で死ねるのなら本望だと思いつつも、泣いている彼に返事をしなければと思ったヴィクトリアは、目を閉じたままレインに精神感応を飛ばそうとして――それを直前でやめた。 『ヴィクトリア、大丈夫ですか? 父にバレないようにこっそりと治療をしました。あなたは気絶したふりでもして、父が油断するように仕向けてください』  頭の中に美しい声が響いた。  ヴィクトリアは目を開けそうになったが、ノエルは信頼できると思っていたので、言われた通り気絶したふりを続けた。 『ええと、その声は確かノエル? さっきは殺そうとしたのに助けてくれるの?』 『あなたが正気に戻ってくれましたし、私たちには怪我もありませんでしたから、そのことはいいです。むしろ、うちの父がレインを使ってあなたを殺そうとしてしまってすみませんでした』 『ノエルのお父さまが私を殺す?』 『はい。父はあなたの膨大な魔力を恐れたようです。それから、ナディアを殺した黒幕も父です。ゼウスを魔法で操り、ゼウスの意志に反して銃の引き金を引かせました。非道な父親で本当に申し訳ありません』 『そうだったの……』  確かナディアの記憶によれば、一年ほど前に南西列島で起こった事件も、黒幕はノエルとジュリアスの父親である銃騎士隊二番隊長アーク・ブラッドレイだった。 『父には私も腸が煮えくり返っていますが、とにかく今は隙を突いて父から逃げることだけを考えてください。あなたまで殺させるわけにはいきません。全面的に協力します――』  ******  ジュッ、と嫌な音がして、愛する人の背中が焼け焦げる匂いと共にレインの絶叫が響く。それまで大人しく気絶したふりを続けていたヴィクトリアは、余りのことに目を開けてしまった。  ヴィクトリアの視界の先では、甘さのない精悍な顔立ちをした灰色の髪の銃騎士アークが、レインを見下ろしながらその口元に薄く笑みを浮かべていた。  アークはヴィクトリアを見ていないのでこちらが目を開けていることには気づいていないが、ヴィクトリアは怒りが湧いた。  しかしヴィクトリアが何か行動を起こすよりも早く、近くに現れたノエルがレインを治療してくれたので安堵しつつも、とりあえずヴィク
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5 今度こそ、結婚します

 ヴィクトリアたちはノエルが何度か繰り返す転移魔法でどこかの森の中に連れてこられた。「ここは首都からはかなり離れていますが、追手が来るかもしれないので警戒してください。今魔法陣を準備しますので、出来上がったら一気に異国まで飛びます」 ノエルはヴィクトリアたちに簡単に説明した後、魔法で地面の上に魔法陣を描き始めた。ヴィクトリアがナディアの部屋やクロムウェル家の屋根裏部屋で見たものと似たような紋様だ。 瞬間移動は魔法使いの力量により一度に移動できる最大距離が決まっている。移動先が遠い場合は転移魔法を何度か繰り返す必要があるが、あらかじめ目的地に魔法陣を仕込むなどしておけば、どれだけ遠くても一度で移動できるし、消費する魔力量も節約できる。 ヴィクトリアは昔読んだ本の知識から瞬間移動魔法の特性は知っていたので、ノエルの行動に特に口を挟むことはしなかった。レインもノエルに何か質問することもなく成り行きを見守っているので、魔法についての知識はあるのだろうと思った。 ****** 三人がやってきたのは別の大陸の、かなり人里離れた山奥にあるわりと大きな一階建ての家だった。屋根の部分には木の葉がかかっていて、ちょっとした隠れ家風の家だ。 窓から見える家の周囲は深い自然に囲まれていて、ヴィクトリアは野生動物を狩れば何とか生きていけそうだなと思った。 ノエルによれば湧き水も豊富で、少し離れた場所にある川には魚もいるらしい。季節にもよるが山を巡れば果物や木の実や山菜なども採れるそうで、獣人だけではなくて人間のレインも食料には困らなそうだと思った。「魔法使いの場合は、食事でも何でも魔法で出してしまえばいいので、ここでの生活は人里に降りなくてもそこまで困ることはないと思います」「食事って魔法で出せるの?」「ええ。確かこの魔法書に説明が書いてあったはずです」 ノエルは手に一冊の古ぼけた本を召喚した。ヴィクトリアはノエルに魔法書を手渡されると中を開き、ペラペラとページをめくって眺めた。「この家の書斎にも、基礎から上級編くらいまでの魔法書の類ならいくつか置いていますので、よかったらあとで読んでみてください」 この家はノエルが結婚を決めた時に、ノエル一家やブラッドレイ家の素性がバレた時のための潜伏用として、彼が妻のアテナと共に購入して準備していたものだそうだ。 アテナは
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6 どんなあなたでも愛してる

 キスしながらレインが服を脱がしにかかる。あっという間に下着が丸見えになったところで、ヴィクトリアが制止の声をかけた。 「そうだわ、お風呂に入らないと……」 「時間がないからいいよ。今は一秒でも早く君と一つになりたい」 「時間がないって……? あっ……」  下着が取り去られて二つの胸の膨らみがあらわになったが、覚悟は決めてあるのでレインを拒む動きはしなかった。ショーツも脱がされて生まれたままの姿になり、ヴィクトリアは恥ずかしさで真っ赤になった。 「身体強化の魔法が解けたら、反動で下手したら数日動けなくなる。その前に君を抱きたい」  話しながらレインも自身の隊服を脱ぎ捨てていく。宿屋で「嗅いで」しまった時から触れたいと願っていたレインの裸身が目の前に現れて、ヴィクトリアの鼓動が高まる。 「レ、レイン……!」  裸のレインが覆いかぶさってくると、太もものあたりにレインの勃起した雄を感じてしまって、顔から火が出そうだった。 「あっ…… あぁっ……」  レインの手が胸に伸びてきてヴィクトリアは喘いだ。柔らかな部分をレインの手に包まれて直に触られているのが、恥ずかしいのに気持ちよくて、とても幸せだと感じた。 「ヴィクトリア…… 愛してるよ……」  またキスが降ってくる。舌を絡めながら胸の突起を優しく撫でられてつままれると、体の奥から熱が湧き上がってきて、喜びが生まれる。  レインは何度か深いキスを繰り返した後に、肌をなぞるように唇を移動させて、ふっくらと色づいて勃ち始めていたヴィクトリアの胸の先端を咥えた。 「ああっ、あんっ」  唾液で湿った舌で敏感な所を吸われて転がされ、もう片方の乳首も少し強めに潰されると、ビリビリと強めの快感が全身を走り抜けた。 「気持ちいい?」  レインは胸を舐りながら、息を荒らげているヴィクトリアに問いかけた。 「うん、気持ちいい……」 「じゃあこっちも気持ちよくなろうか」  胸を揉んでいた手が不埒な指遣いで下に下りていく。これから成されることを考えたヴィクトリアは、幸せで溶けそうな思考の中にいたが、これだけはと思い至り、浄化の魔法を二人の体にほどこした。こうしておけば入浴しなくても体の汚れは取り払われる。  体の中心部にレインの手が触れる。薄い繁みの中を探る指が秘裂を捉え、蜜をたたえたぬかるみの中に沈み込む
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