ナディアが殺された。 混乱が次第に収まり始めたヴィクトリアの中に、深い悲しみとやるせない怒りが生まれる。(どうして殺したの……!) ナディアを撃ったゼウスはナディアの恋人だった人だ。 流れ込んできたナディアの記憶の奔流から、彼女がゼウスを深く愛していたことがわかるし、ゼウス自身もナディアを深く愛していたはずだった。 けれどそれは一年ほど前の過去の話であって、ゼウスはナディアが獣人であることを知った後は、ナディアの記憶によれば、一転して彼女を探し出して殺そうとしていた。 にも関わらず、ナディアは死の最期の瞬間にはゼウスに殺されることを受け入れて許していた。ナディアの記憶と共に彼女の気持ちまで体の中に流れ込んできたヴィクトリアには、それがわかった。(でも、私は許せない) ――心が、凍る。 それは静かな怒りだった。けれどそれは根を張るように、ヴィクトリアの身も心も侵食していく…… ヴィクトリアの周囲の温度が急速に下がる。 変化は急激だった。 冬でもないのにヴィクトリアの吐き出す息は白く濁り、流す涙も凍てついた氷の粒になり、地面にいくつも落ちていく。「ヴィクトリア!」 レインの声がする。 ****** 獣人王シドを討ち取った奇跡に湧き続ける隊員がいる一方、人間にしか見えない女――ナディア――が撃ち殺されたことに、シリウスが彼女の死を激しく嘆き叫んでいることも相まって、「何が起こった?」と騒然とする隊員も多く、処刑場は再び緊張感を孕みつつあった。 暗闇の巨大空間が消失してシドが死んだ直後から、ヴィクトリアを注視している者は皆無だった。 処刑場にいた一般人はほとんどが避難していなくなっているし、残っているのは命懸けで仕事を全うしようとしている新聞記者や、腰が抜けたり避難の際に怪我などをして動けなくなってしまった人くらいで、その人数は多くない。 今や処刑場にいる多くが銃騎士隊員や警邏隊員たちだが、その中でも一番早くにヴィクトリアの異変に気づいたのは、ブラッドレイ家の魔法使い――アーク、ノエル、セシル――の三人だった。ジュリアスは魔力切れを起こして気絶しているし、シリウスはナディアの死を受けて我を忘れたように慟哭している。 ブラッドレイ家の魔法使い三人は、この場に自分たち以外の魔力が生じたことを感知した。「真眼の魔法使い」ではなくて、マグ
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