All Chapters of 獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかけて逃げた後その中の一人と番になる~: Chapter 161 - Chapter 170

224 Chapters

5 帰る場所

 目を覚ました時、ヴィクトリアは光る砂粒だらけの空間の中を、未だに漂っていた。 ヴィクトリアは身じろぎしようとして、異変に気づく。(嘘…… 体が動かない……) この不思議空間の中に空気があるのも不思議だが、ヴィクトリアは呼吸はできていて、まぶたや眼球もかろうじてなんとか動かせた。 けれど、四肢が全く動かせなくなっていた。指先ですらピクリとも動いてくれない。おまけに倦怠感もこれ以上にないくらいに酷くて、また意識を失ったら今度こそ本当に死んでしまいそうだと思った。 ヴィクトリアは周囲の光の砂粒と一緒に、ただ空間の中をゆっくりと漂うだけだった。あたりは静寂に包まれていて、何の音も聞こえない。瞬く光の粒はあるものの、まるで時が永久に止まってしまったかのようだった。 ヴィクトリアは自分がこの不思議な空間の中に閉じ込められてしまったように感じて、やっぱりこのまま死ぬのかもしれないと思った。 そう思うと寂しさにポロポロと涙があふれて、ヴィクトリアの涙の粒が光る砂粒と共に空間を漂った。 死にたくなかった。ただもう一度、リュージュに会いたかった。「リュージュ……」 そうつぶやくと、キラキラ光る砂粒の一つが、ヴィクトリアの言葉に呼応するかのように近づいてきて、目の前で広がりだした。 風景の中にはリュージュがいた。リュージュは魔の森だと思うが、樹木の一つにもたれるようにして立っていて、物憂げな表情を前方に向けていた。 リュージュの服の襟口から、肩にかけて巻かれている包帯が見えた。右太腿には圧迫するためなのか、服の上からも包帯が巻かれている。 それらの怪我は、リュージュがアルベールと戦った時や、ヴィクトリアがリュージュと番になることを拒んで逃げた時に出来たものだ。 ヴィクトリアはリュージュがいる風景をじっと見つめながら、しゃくり上げるように号泣した。 風景の中に入って、リュージュの元へ駆けつけて全力で謝りたいのに、もうヴィクトリアには、そちら側まで行く体力は残されていなかった。 森の中にいるリュージュは、同じ場所に留まったまま、じっと動かない。(リュージュが、待ってる……) ヴィクトリアはリュージュを見て、彼が自分の帰りをただひたすらに待ってくれているのだと確信した。(リュージュが、私のリュージュがあそこで待ってる…… 帰らなきゃ。私はリュージュの
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6 命を繋ぐキス

 ヴィクトリアと一度は恋人同士になったが、結ばれずに別れてから二日。 傷付いた心を抱えたリュージュは、本日も森の中で待ち続けていた。 自分でも未練がましいなと嘆息しつつ、それでも帰ろうとしないリュージュの元に、いなくなったはずのヴィクトリアが空から落ちてきた。「ヴィクトリアッ!」 リュージュは驚くと同時に、考えるよりも先に体が動いていた。リュージュはヴィクトリアの落下地点まで走り、衝撃は最大限自分の方にかかるようにして彼女を抱き止めた。「ヴィクトリア! ヴィクトリア!」 けれど腕の中のヴィクトリアは、完全に血の気が失せた死人のような顔色をしていて、落下の衝撃で死にかけてしまったのかと、リュージュは焦って何度も彼女の名前を読んだ。『ごめんね、愛してる……』 その後意識がかろうじてある様子のヴィクトリアに話しかけながら医療棟まで急ぎ走っていると、耳からではなく頭に直接響くような不思議な声で、ヴィクトリアからの愛の告白を聞いた。「ヴィクトリア!?」 不思議な声のことも、その言葉の内容も、どういうことなのかを――自分と番になってくれるのかを――ちゃんと問い質したかったけれど、ヴィクトリアが気絶してしまったためにそれは叶わず、リュージュはたどり着いた医療棟でヴィクトリアの身を医者に任せるしかなかった。「危篤です」 ヴィクトリアを運んだ後、リュージュは治療室の外へ出されてしまい、医師や看護師がバタバタと出入りする中、部屋の外でただ待っていることしかできなかったが、しばらくして出て来た医師が宣告した言葉を、リュージュはすぐには呑み込めなかった。 意味を理解した途端、頭の中が真っ白になった。「そんな…… 嘘だ……」 部屋の中へ通されると、先ほどの寝台に生気のないヴィクトリアが寝かされていて、点滴や空気が出る透明なマスクを口の前につけられて、目を閉じていた。 今にも儚くなりそうな、世界で一番リュージュが大切に思っている大事な女性は、死の淵でもあせない美貌を保ったまま、若すぎる命の灯火を消そうとしていた。「なんで…… なんで……」 リュージュはヴィクトリアに駆け寄り、彼女の白い頬に手を添えた。「ヴィクトリア……」 呼びかけても、ヴィクトリアは目を開けてくれない。 二日前、ヴィクトリアは恥ずかしそうにしながらも、綺麗に微笑んで、リュー
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7 子作りは計画的に

 室内に響くのは、リュージュがヴィクトリアに深くキスし、舌で口内を弄っているために漏れ出る粘膜の音と、休憩のためにリュージュが唇を離した時の、少し荒い二人の呼吸音だけだった。 室内には、こちらを向いたま置物のように微動だにしない行儀の良い白い鳥がいるだけで、マグノリアの声は聞こえずにその匂いも近くにないので、彼女がどこにいるのかはわからない。 リュージュは自分がマグノリアの声の幻聴を聞いたのだろうかという気になっていたが、不思議な声に導かれた結果だとしても、死の直前に口付けを交わすなんて発想はリュージュになかったので、愛する女性の存在を確かめて幸せを感じられるこの時に感謝した。 リュージュはあふれる自分の涙を拭い、改めて目の前のヴィクトリアを見た。すると、青白かったその頬にわずかながら赤みが戻っていることに気がついた。『いい感じよ。でももう少しヴィーにたくさん唾液を送り込んで飲ませるつもりで、頑張ってみて』 再び聞こえた声に、やっぱりいたのか? とリュージュは扉の閉まった室内やカーテンのかかった窓のあたりを見回してみたが、白い鳥と目が合っただけだった。「……マグノリア、どこにいるんだ?」『私はここよ』 頭に響く声と共に、白い鳥が片側の翼を広げてバサバサと軽く合図する。「と、鳥がしゃべってたのかぁぁぁっ! っていうか、マグノリアは鳥になってしまったのかっ!?」 リュージュは目の前で怪奇現象が起っていると思い、驚いて声を荒げた。『正確には私が魔法で作り出して操っている鳥よ。私自身は別の場所にいるわ。 だけどこっちもこっちで色々あって、すぐにはそちらに行けそうにないの。この鳥を飛ばして魔法で私の声だけ届けているのよ』 魔法や魔法使いについては二日前にヴィクトリアと会話をしたばかりだったので、リュージュはマグノリアの言葉をすんなり信じた。「じゃあ…… マグノリアは魔法使いだったのか……」『そうよ。今まで伝えられなくてごめんなさいね』 ヴィクトリアの状態が少し落ち着いたと見たのか、マグノリアはリュージュに、彼が知らないこれまでのことをかいつまんで説明してくれた。「つまり、過去に戻る禁断魔法を使ったせいでヴィクトリアはこうなっていて、誰かと肌を合わせることで魔力が満ちれば、助かるってことか」『ええ。理解が早くて助かるわ。キスを百回もしてない
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8 今度は拒まない

 何も感じない闇の中にいたはずのヴィクトリアの意識は急浮上しようとしていた。 全身が心地よい感覚に包まれていて、ヴィクトリアの意志とは別に、その心地よい波に乗って自分の体がどんどん高みに上がっていく。 ヴィクトリアは上り詰めた先で多幸感と快感を感じながら全身をわななかせて、やがて弛緩した。 状況がわからないながらも、おそらく性的に達して浮遊感を感じている間に、ヴィクトリアは自分を繋ぎ止めるように抱きしめてくれる腕があることには気づいていた。 ヴィクトリアはその温もりをとても心強く、そして愛しく感じた。 絶頂後も体に上手く力が入らなくてぐったりしていたヴィクトリアだったが、何とかまぶたを動かす。「ヴィクトリア! 気がついたのか!」 目を開いた先には誰よりも愛しい人がいて、その人の匂いを嗅ぎ、声を聞いて、ヴィクトリアは泣きたいくらいに安心した。「……リュ…………」 名前を呼びたいのに、声が上手く出なかった。全身が鉛のように重くて、自分の思った通りに体が動かせなかった。 しかし、ヴィクトリアは再会の喜びに感情をあふれさせて、際限なく涙をこぼした。「リュー…… ご……め…… あい……して……る」「うん、わかってる…… わかってるから、何も言わなくていい」 リュージュもヴィクトリアが意識を取り戻したのを見て泣いていた。 言葉ではなく行動で心を示すように、リュージュがキスしてくる。 その唇を、彼を拒絶してしまった二日前とは違う心境で受け入れながら、ヴィクトリアは幸せだと思った。 キスはとても深くて、舌で口の中を探られながら唾液を流し込まれると、上手く飲み込めずにヴィクトリアの唇から一筋こぼれた。 リュージュの涙がヴィクトリアの肌に落ちて、泣かせるほど心配させてしまったことを申し訳なく思った。「ふ…… あっ……」 ヴィクトリアは長い眠りから目覚めた直後のような、頭にどこか霞がかかったような状態だったが、包帯だけを巻いた裸のリュージュに、寝そべった横抱きの状態で抱きしめられているのはわかった。 状況をよく確認すれば、ヴィクトリア自身も生まれたままの姿になっていた。 マグノリアに消してもらったはずのリュージュの赤いキスマークの痕が全身にたくさんついていて、胸を舐められたり揉まれたり、性器にもたくさんキスされた残り香があるのがわかった。 ヴ
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9 私の王子様

 一つになった後、リュージュは最奥を突いた状態で止まり、ヴィクトリアの体を抱きしめたまま動こうとしなかったが、お互いの涙が落ち着いた頃に、ゆっくりと律動を開始した。「っ…… あっ……」 体が思うように動かないので、嬌声になりきらない声を反射的に立てながら、ヴィクトリアはリュージュに全てをゆだねるのみだった。「痛いか? 大丈夫か?」 リュージュと繋がってから、分泌される愛液の量が増えたのか、グチュグチュと恥ずかしい音は響きつつも、最初の頃よりも痛みは少し収まってきた気がした。 大丈夫なことを伝えるためにまた笑みを浮かべると、なぜかググッとリュージュの雄の質量が増した気がした。「やべぇ、もう出る……」 リュージュは動かせないヴィクトリアの腕を取り、自分に抱きつかせるようにして背中側に回すと、リュージュもヴィクトリアの体を再度強く抱きしめて、それまでよりも動きを少し早めながら労わるように優しい抽送を続けた。 ヴィクトリアは、リュージュはたぶんもっと激しくしたいのだろうと思ったが、自分よりもヴィクトリアのことを考えて動いてくれるリュージュの優しさが、じんわりと身にしみてきて、心も体も温かくなった。「ヴィクトリアっ…… ヴィクトリア……っっ」 リュージュはやがて色っぽい表情でうわ言のようにヴィクトリアの名前を繰り返し呼びながら、彼女の中で達した。 吐精しても、リュージュのペニスは硬度を保ったまで、抜かずにまたヴィクトリアの中を行き来し始めた。 ヴィクトリアはリュージュにとても大切に愛されていると感じられて、嬉しかった。キスを交わしながらリュージュがヴィクトリアの膣奥に二度目の精を放った時には、体の高ぶりを感じて一緒に果てた。 リュージュは中々の絶倫で、ヴィクトリアが初めて中で達した後も、繰り返しヴィクトリアの中に精を注ぎ続けた。 ヴィクトリアはこのままでは妊娠してしまうと思ったが、リュージュの子供なら何人でも欲しいと思い、何も言わずに喜んでリュージュの精を受け続けた。 ――実は避妊薬を飲まされていたと聞き、ヴィクトリアがちょぴり残念に思うのは、翌日になってからの話だった。 ***** 疲れていつの間にか眠りに落ちていたヴィクトリアは、パンパンと背後から響く音で目を覚ました。「ああっ…… あんっ…… あんっ……」 ヴィクトリアはうつ伏せに
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10 失う力、得る力

『アルにいに』 記憶の中にいる初恋の天使は、あどけない笑顔を向けながら、抱っこをせがむようにこちらに両手を伸ばしていた。『うるさい、ばかヴィー』『いたいー』 けれど思い出の中の子供すぎた自分は、ヴィクトリアを見ると落ち着かなくなる気持ちが何なのか理解できず、ただひたすらにイライラして、彼女を抱きしめるのではなくて、無駄にキラキラしていた絹糸のような銀髪を数本引っこ抜いた。 アルベールはヴィクトリアの泣き顔が大好きで、泣かせた後に慰めるのも大好きだった。 そうして意地悪ばかりしていたために、ヴィクトリアにどんどん嫌われた。(ああ、今なら自分がどんなに愚かだったかわかる。ヴィーが自分から俺に懐いてくれていた奇跡の時間を無駄にして、そして俺はヴィーを失うのか――) 医療棟の地下にある囚人用の病室――それは囚人以外にも問題のある患者を便宜的に放り込む地下牢のような場所――で、アルベールは現在、雄叫びを上げながら錯乱したように髪の毛を掻きむしり、自分の金髪をブチブチと引っこ抜いた。『番の呪い』にかかっているアルベールは、ヴィクトリアへの鋭すぎる嗅覚によって、地上階にある治療室の一室で始まった「ヴィクトリアとリュージュの営み」を、今まさに目の前で繰り広げられているかのように知覚していた。 最初、ヴィクトリアが死にかけていることを知った時、閉じ込められているアルベールは何もできずに、「後追い死」が頭を掠め、悲嘆に暮れて号泣し、ヴィクトリアを大切にしてこなかったことを心の底から後悔した。 シドから守ってやれなかったし、それどころか傷つけて苦しめてばかりいた。 そして、大事な大事な愛しい番にリュージュがキスをした時は猛烈に腹が立ち、二日前にやはり殺しておけばよかったと地団駄を踏んだ。 リュージュがヴィクトリアに淫らなことをするたびに、アルベールはリュージュへの殺意まみれの罵詈雑言を叫んでいたが、目覚めたヴィクトリアがリュージュに抱かれることを望んでいると気づいた時には、「耐えられない!」と死にたくなって号泣した。「やめろ! やめろ! やめろ! ヴィーは俺のものなのに!」 地下室で精神に異常をきたしたように叫び続けるアルベールの元へは誰も来ず、ガシャガシャと鉄格子が揺れる音が激しく響いた。 そして遂に、リュージュの雄が、アルベールだけの聖域だったはず
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11 決して忘れない

「お帰りなさい、お兄ちゃん」 シドが処刑されたその日、処刑場から消えたヴィクトリアが行方不明のまま、探す手立ても何もなく自宅へ帰ったレインを、出迎える黒髪の女性がいた。「ティナ……!」 死んでしまったはずの最愛の妹、クリスティナが成長した姿を視界に入れたレインは、崩れるようにその場に膝をついて、号泣し始めた。「お、お兄ちゃん!? 具合でも悪いの? 大丈夫?」 亡霊ではない生きたクリスティナが慌てた様子で寄ってきて、声をかけてくる。 レインは顔を上げると、クリスティナが確かにそこに存在している感触を確かめるように、すぐさま妹を抱きしめた。 クリスティナが生きている――「でも何で…… 何で…… どうして、ティナがここに……」「どうしてって…… 処刑場に行くのは危ないから、家で留守番してなさい、って言ったのはお兄ちゃんでしょう?」 言われて、頭が揺れるような感覚があり、今朝の出勤前に「危ないから家から出るな」とレイン自身がクリスティナに厳命していた光景か浮かび上がった。「そう…… だったな……」 記憶を蘇らせながら、確かにそうだったなと思うのに、レインは何か大切なことを見落としているような、どこか腑に落ちない不思議な感覚を味わっていた。「処刑の見張りできっと疲れたのね。とにかく休んで」 家の中に入ると、また違和感を覚えた。 廊下を歩いている最中にリビングの前を通ったが、ちらりと見た部屋の中は、クリスティナの趣味だとは思うが、細々とした雑貨や観葉植物が置かれていた。 レインはそんなものあっただろうかと首をひねりたくなったし、壁紙も元々の色とは若干違うような気がした。 レインの頭の中では、生活するために必要最低限の物しか置いていなかったリビングの光景が一瞬だけ浮かんだが、それはすぐに消え去り、自室にたどり着く頃には、リビングの様子に違和感を覚えたことすら忘れてしまった。「ない……」「何が?」「カーペット……」 自室の扉を開けたところで立ち止まったレインは、今度は強い違和感に襲われた。 レインの自室の床には、地下室へ通じる扉があって、その扉を隠すようにカーペットが敷かれていたはずだった。 けれどそのカーペットは消えて、地下室への扉そのものも消えてしまっている。「お兄ちゃんの部屋にカーペットなんかなかったと思うけど?」「地下室は
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12 幸せな日々

 医療棟を退院したヴィクトリアは、幼い頃に母と暮らしていた思い出の家で、リュージュとの新しい生活を始めた。 ヴィクトリアの体調は波があり、以前と遜色なく動ける時もあれば、リュージュと初めて結ばれた日ほどではないにしても、体が怠く動けなくて伏せってしまう時もあった。 そんなヴィクトリアをリュージュはとても心配していて、ヴィクトリアが移動する時は必ず抱えて移動するし、仕事をしている間も常にヴィクトリアを自分のすぐそばに置いた。 ヴィクトリアは最愛のリュージュとずっと一緒にいられることを嬉しく思いながらも、自分ばかりがリュージュに負担をかけているように感じて、最初の頃は申し訳なく思っていた。 お荷物のような自分ではなくて、リュージュはひょっとしたら、自分ではない別の女性と番になっていた方が幸せだったのではないか、と思ったこともあった。「俺はヴィクトリアが生きていてくれるだけでいいんだ。俺は幸せだよ」 落ち込むヴィクトリアを見かねて、リュージュがそんなことを言ってくれたことがあった。 人の心を読むのが苦手だったリュージュが、ヴィクトリアの気持ちを正確に気づいていたことに驚くと共に、生きていてほしいと、どんな状態でもヴィクトリアを認めて愛してくれるリュージュは、やはり自分を救ってくれる唯一無二の得難い存在なのだと、ヴィクトリアは改めて思った。 その時からヴィクトリアは、もしこの先自分がもっと深刻な状態になったとしても、リュージュと共にいられることこそが一番の幸せであり、生きている限りはずっと幸福なのだと思うようになった。 それからは、自然とあまり後ろ向きなことは考えないようになった。******「姉様、先生やってみない?」 ある時、ヴィクトリアは里に帰ってきていたナディアにそんな話を持ちかけられた。 あの「死」を覆し、処刑場から生還したナディアは、ゼウスと共に里に帰還していた。 ナディアが選んだのは、魔法使いシリウスではなくて、元銃騎士のゼウスだった。 ゼウスはナディアと生きるために、銃騎士であることを捨てて、この獣人の里で生涯を過ごすことにしたそうだ。 里に帰ってきたナディアは、新族長オニキスにかけ合って、この里に新しく学校を作ることを提案していた。 折よく里と近隣のキャンベル伯爵家との和平協定の交渉が成されていた最中だったらしく、なぜか
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《アルベールハッピーエンド 嫌われ幼馴染の逆転劇》1 ここは私たちのいるべき場所じゃない ※話の最後にエンド分岐条件追記

 レインはヴィクトリアの心臓目がけて、剣を打ち込んだ。  鋭く光る剣先がまさにヴィクトリアの胸へ突き刺さろうとしたその刹那、邪魔が入った。  レインの剣は、飛んできたナタによって、激しい音を立てて遠くへ弾き飛ばされた。  ヴィクトリアは一切の怪我を負わずにすんだ。  ナタが飛んできた方向――人間たちが一人もいなくなってしまったその観客席には、シド亡き今おそらく「最強」の名を冠するだろう、濃紫の髪と黒眼を持った美しくも優しい化け物オニキスがいた。  それから金髪と金色の目を持ち、ヴィクトリアに不要な執着を向けていた、ヴィクトリアの大嫌いな幼馴染アルベールも立っていた。  アルベールが現れたことに気づいても、ヴィクトリアの心の中はレインのことばかりだった。  ヴィクトリアは、レインが自分の胸に剣を突き立てようとしてきたことはすぐに理解した。  オニキスが投げたらしきナタによってレインに刺されることは回避されたが、ヴィクトリアは最愛の人が自分を殺そうとしてきたことに衝撃を受け、ゼウスへの魔法攻撃や呼吸を含む全ての動きを止めた。 「ヴィー!」  愛する人の行動が信じられずに愕然としていると、それまでレインの声しか届かなかったヴィクトリアの耳に、自分の愛称を呼ぶアルベールの声が聞こえた。 「そこのゴミ銃騎士! よくも俺のヴィーを殺そうとしたな!」  怒気をふんだんに含んだその声を聞いたヴィクトリアは、そこでハッと完全に正気を取り戻した。 「よせ! アル坊!」  オニキスの声も聞こえてくる。  普通であれば、首都近郊にあるこの処刑場に、獣人が自ら現れることは考えられない。  しかしアルベールはヴィクトリアを思うがあまり、里から再び出奔したヴィクトリアを探すために、夜中に見回りに来た獣人を倒して、医療棟の地下にある囚人用の病室から脱走していた。  本日未明の脱走に気づいたオニキスがアルベールを追いかけたが、追いついたオニキスはアルベールを里に連れ戻すのではなくて、協力するようになり、二人は獣人にとっては危険な人間の生活圏でヴィクトリアを探していた。  途中でアルベールはヴィクトリアの匂いを追えなくなってしまったが、もしかしたら、とシドが処刑されるこの場所に来た二人は、シドの処刑には間に合わなかったが、ヴィクトリアが害される決定的な瞬間に
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2 オニキス無双

 処刑場広場での戦闘は、アルベールとレインの二人の間に巻き起こったものだけではなかった。 「あの男は西の里のS級獣人のオニキスだ! 捕獲しろ! 生死は問わない!」  叫んだのは、上級クラスの獣人の名前と、顔写真がある場合はそれらも全て把握している四番隊長だ。  四番隊長の号令によって、観客席から広場へと降り立ったオニキスに向かい、シドとの戦いで負傷していなかった銃騎士たちが一斉に発砲した。  ナタを投げてしまったオニキスは、鉛の銃弾を弾く得物は持っていなかったし、おまけに片手片脚を負傷中で松葉杖まで突いていたが、神業的な高速移動を披露して全ての弾道を避けた。  弾丸だけではなくて、急な「熱」も感じたオニキスが身を翻すと、オニキスがいた場所を炎の塊が襲った。  アークによる火魔法攻撃だ。  ゼウスたちに対するヴィクトリアの猛烈な氷攻撃がやんだため、アークは、ヴィクトリアとアルベールについてはレインに任せることにして、自身はオニキスへの攻撃に参加していた。  アークはレインと同様に何人かの手練れの銃騎士に「身体強化の魔法」をかけ、複数でオニキスと対峙させた。  オニキスは自分から積極的な戦闘を仕掛けるつもりはなかったが、ヴィクトリアたちの元へ向かおうとするのを邪魔されるので、仕方なく向かってくる者たちに攻撃を加えていた。  オニキスが、斬りかかってきた銃騎士たちの斬撃を余裕の動きでかわして連続で彼らの体に手刀を入れると、「身体強化の魔法」で屈強になっていたはずの銃騎士たちの体が、ことごとく広場の壁まで吹っ飛んだ。 「あ、ヤベ」  飛ぶ銃騎士を見たオニキスは、思わず『やっちまった』というような表情でそうつぶやいていた。  オニキスの反撃にあった銃騎士たちは全員、壁にぶつかった衝撃ではなくて、オニキスの軽すぎる手刀の衝撃によって血反吐を吐き、空中を飛んでいる最中にはもう気絶していた。  いつも料理ばかりしているオニキスは、ごく稀にしか戦わないので戦闘勘もあまりなく、手加減具合は適当なのだが、そこからは指先でツンと突く程度に留めることにした。  それでも、アークの魔法で強化されて強さを得たと確信した銃騎士たちがオニキスに突っ込むが、その全員が嵐に遭遇したかのように漏れなく吹っ飛び、地面に沈んでいった。  毒を受けて瀕死のアルベールと、ヴィクトリ
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