All Chapters of 獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかけて逃げた後その中の一人と番になる~: Chapter 151 - Chapter 160

224 Chapters

7 いつか獣人と人間が

 レインは目を開けた。 見慣れない部屋の光景が視界に入り、自分はベッドに横になっていて、一瞬だけなぜここにいるのだろうとわからなくなった。 だがすぐにそれまでの経緯を思い出し、レインは部屋を見回して目当ての人物を探そうとした。「レイン、目が覚めたの?」 すると部屋の奥から心が洗われるような澄み切った美しい声が聞こえてきて、レインの頬が嬉しさで緩む。「ヴィクトリア」 愛しい人の名を呼び、レインはベッドから立ち上がった。寝起きのせいか体がほんの少し重いように感じたが、記憶が途切れる前のしんどすぎる状態ほどではなかった。 気絶する直前、魔法の効果が切れたためにほぼ動けなくなり、何とか合体はしたものの、早漏などという不本意極まりない結果になってしまい、レインにとっての初体験も当初の予定とはかなり違った終わり方になってしまった。 本当は、ヴィクトリアの破瓜の証も準備していた高級ハンカチでぬぐって一生保存しておくつもりだったのに、気を失ってそれすらも出来なかった。(あんな初体験になるはずじゃなかったのに) それまでレインはヴィクトリアを必ず満足させるべく、実践こそ自らに固く禁じていたが、知識の吸収や妄想を繰り返し、来るべき日に備えていた。 自分の本来の力はあんなものではないはずだ。早漏が常だとヴィクトリアに思われるのも困るし――彼女自身は初体験は喜んでいたようにも見えたが――必ず挽回するぞという思いをレインは胸に秘めていた。 ただ、これから始まるヴィクトリアとの新婚生活に夢や希望を抱いていた部分も多く、レインはヴィクトリアに親愛の情で接しようとした。 なのに、現れたヴィクトリアを見たレインの思考は一気にエロ方面へ動いてしまい、下半身に血が集まっていくのを感じた。 なぜならば、部屋の奥――たぶん浴室――から笑顔で現れたヴィクトリアが、バスタオルを一枚巻いただけという無防備すぎる姿だったからだ。 レインは誘われているように感じた。(抱いてくれと、初体験のやり直しをしてくれと、そういうことかな、ヴィクトリア――) ****** レインと真の番になってからかれこれ三日経つ。あれから襲撃が来ることもなかったが、首都の様子を見てくるとノエルがいなくなってしまって、現在この家にはヴィクトリアと
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8 リベンジ

 レインの綺麗な顔と唇からのぞく舌が、自分の股間に近づいてくる。真っ赤になっているヴィクトリアは早鐘のように打ちつける心臓の鼓動を感じながら、脚を閉じたくなる衝動を抑え、レインを受け入れようと全身の力を抜いた。 もちろん、あらぬ所にキスされるのは恥ずかしいし、前回のように何度も絶頂させられるのも、気持ちいいけれど甘い拷問のようで苦しい。 けれど愛するレインの求めには全て応じたいと思ってしまう。舐めたいならいくらでも舐めたらいいと思った。「ああっ…… ひああっ、ああっ……」 レインの舌が秘裂から染み出している愛液を一舐めした後に、唇を強くそこに押し当てる。いきなり膣の内部に舌を挿し込まれて縦横無尽に動かされ、ヴィクトリアは最初耐えようとしたが、我慢できずに喘ぎ始めた。 あふれる愛液をまとわりつかせた指が、秘裂の上にある芽を出し始めた突起を捉え、つまんだり揉んだりして小刻みに振動を与えながらクチクチと卑猥な音を立てている。 ヴィクトリアは気持ち良すぎてすぐに体を震わせ始め、やがて甲高い声を上げながら達した。 絶頂とその余韻でガクガクと全身を震わせている間も、レインの口淫と手淫は止まらない。今度はプクリと勃ち上がっている淫芽を柔らかな舌で刺激し続け、ヴィクトリアの淫穴に指を挿れて中を探っている。「あーっ、駄目っ! そこ駄目っ!」 グリッとレインの指がヴィクトリアの良い所を刺激した。快感が弾けそうになって、ヴィクトリアは下半身と声を一段高く跳ねさせながら叫んだ。「ここがいいんだ?」 レインはグリグリとヴィクトリアが快感を強く感じる場所をしきりに責めている。「レイン、来ちゃう! 駄目っ! あぁぁっ!」「気持ちいい時はイクって言うんだよ」「イク! 駄目ぇ! イクっ! あぅぅぅっっ!」 ヴィクトリアはシーツを握りしめて訳がわからなくなりながら達した。腰がこれ以上ないくらいに痙攣し、迫り上がってくる何かを制御しきれなくなったヴィクトリアは、それを解放した。 ピュッと立て続けに何かが生まれたと思ったら、お腹のあたりが濡れていた。「う、嘘……」 激しく呼吸を繰り返しつつ、漏らしてしまったと思ったヴィクトリアは、全身を真っ赤にさせながら涙目になっていた。 けれどなぜかレインは嬉しそうに笑っている。「これは潮吹きだよ。知らない?」 ヴィクトリアは
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9 獣人の性

「汚れちゃったね、シーツ替えとくよ」 行為が終わってから気づいたが、二回目にも関わらずシーツには鮮血がついていた。前回は一突きされただけで終わったので、残骸のようなものが体内に残っていて、おそらく今回完全に破られてなくなったのだろうと何となく思った。 月のものの周期からは完全に外れているので、月経の血ではないと思う。 その周期からするとたぶん現在は妊娠しそうな時期だが、今回も前回も妊娠はしていないはずだ。なぜならば、二回とも行為前にヴィクトリアが自身に避妊魔法をかけていたからだ。 昔読んだ魔法書はかなり初歩的なものだったらしく、避妊魔法についてなんて載っていなかったが、この家に来た時にノエルから渡された魔法書をパラパラとめくっていたら、たまたまそれについて書かれたページが目についた。 速読が身についているヴィクトリアは、そのうち必要になるのかなぐらいの何となくの思いで、短い時間で頭の中にその魔法機序を叩き込んでいた。 その後流れでレインと体を重ねることになり、念のためその魔法を使っておいた。 人間のレインが相手でも獣人のヴィクトリアが産んだ子は必ず獣人になる。子供については、どうしたいのか二人でちゃんと話し合ってからの方がいいと思った。 ヴィクトリアとしては、レインが子供が獣人でもいいなら生んでみたい気持ちもあるけれど、現状では「いつか」というただし書きがついていて、今はとにかく初恋が実って番になれたレインとの時間を大切にしていきたいと思った。 ヴィクトリアは恥ずかしい破瓜の痕跡を魔法でどうにかしようとしたが、すごく上機嫌な様子のレインが、剥がしたシーツをまるで宝物のように抱えたまま、「俺が洗濯してシーツ交換する」と言って聞かないので、ヴィクトリアは汚れ物の件についてはレインに任せることにして、先に浴室へ向かった。 ――レインが破瓜の血がついたシーツ部分を切り取って保存するという変態的行動をしたことを、ヴィクトリアは後々知ることになる。 ****** 体を流してからお風呂に入って一息ついていると、レインが入ってきた。「ごめんね、おまたせ」 レインはもちろん全裸で、綺麗な筋肉のつき方だなとヴィクトリアはうっとりしながら見つめてしまう。「もう洗い終わっちゃったか。俺が洗おうと思ったのに」「……じゃあまた今度お願いするわ」 ヴィクトリア
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10 愛の雨

 浴槽のフチに腰かけたレインの前にヴィクトリアは座り込んでいた。目の前には屹立したレインの雄があり、傘のような形をしている先端の穴からは透明な液体がにじんでいて――なぜだかヴィクトリアは、それを美味しそうだなと思ってしまった。(いけない! これは食事じゃない!) ヴィクトリアはレインの陰茎に手を添えつつも、湧き上がってきた考えを振り払おうと頭をぶんぶん振った。 愛する番を食料とみなすとは、それでは自分はアルベールと同じになってしまう。人にされて嫌だと感じた同じことを他の相手にしてはいけないと思ったが、ヴィクトリアは口内に自然と増えてきてしまう唾を飲み込んでいた。「……ヴィクトリア?」 また頭を振っているのでレインは怪訝に思ったようだった。 流石にレインと番になったことを知れば、あれだけしつこかったアルベールも『番の呪い』が解けて正常になるだろうと考え、ヴィクトリアは苦手で嫌いなアルベールの存在を頭の外に追いやった。「また今度にする?」 レインはヴィクトリアが口淫をためらっているように見えたらしく、そんなことを言ってくる。しかしヴィクトリアは恥ずかしそうに赤面しつつもレインの男根を掴む手は離さず、実は舐める気満々だった。「ううん、大丈夫。舐めたいから」 今度はレインが初な乙女のように赤面しているが、ヴィクトリアは構わず立派なその部分に顔を近づけた。 レインの陰茎からはとてつもなく良い匂いがして、自然と吸い寄せられてしまう。匂いは特に先端から出ている先走りから強く感じた。 ヴィクトリアは花から蜜を吸い上げる蝶になったような気持ちで口を開き、レインの先端部分をパクリと咥えた。「うっ……!」 途端にレインが喘いだ。ヴィクトリアがうっとりとしながら舌で穴の部分を刺激しつつ、液をちゅうちゅうと吸い上げようとすると、レインの喘ぎが強くなった。「あっ! あっ……! うっ! あっ……!」 レインは気持ちいいのか、呼吸を荒くしながら色気が多分に含まれた声で喘いでいる。その声を聞いていると、触れられているわけでもないのに女性器が濡れて潤ってくるのを感じた。 時々口から出して側面を舐めたりしながら、次第にヴィクトリアが咥え込む範囲が広くなっていく。愛を込めながら口を動かし、レインの蜜を全て飲み込むつもりで射精を促していると、やがて彼の限界が訪れた
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11 結婚

 目前の広い牧場には羊の群れと、ヴィクトリアと、桃色の髪の女児がいる。 女児は羊と戯れるよりも、ヴィクトリアにべったりと引っ付いて、まぶしいものを見るようなキラキラとした視線を彼女に向けている。「……『姿替えの魔法』は解くなと言ったのに……」 レインはヴィクトリアと女児を見るなり、不服そうな声でつぶやいた。「別にいいじゃないか。ここの牧場は広いし、道からも離れてるから遠くて顔の造形なんてたぶんわからないぞ」 と、隣の赤髪の男が桃色髪の女児と似たりよったりな表情で、にやけて言いながらヴィクトリアを見ているので、レインは見てわかるほどにイライラしていた。 赤髪の男はレインの親友であり、銃騎士隊三番隊の絶対的エースから異国の牧場主に転職した、アスター・グレイコールその人だった。 レインとヴィクトリアはノエルが用意してくれていた隠れ家からは既に出ている。 ヴィクトリアと体を重ねた後も、二人はしばらく隠れ家で暮らしていて、ヴィクトリアはその間に魔法書を読み込んで勉強をしたり、ノエルや様子を見に来た聖女マグノリアに教えを請うたりしながら、魔力のコントロール方法を身につけていた。 それから、ジュリアスやノエルたちがヴィクトリアを殺さないようにとアークを説得したらしく、今の所二番隊長はヴィクトリアを殺すことはしないと言ったそうだ。 ただ、「今の所」というのがアークの曲者具合を表している。 アークいわく、「再び負の感情を爆発させるようなことがあれば、また同じことが起こる可能性もなくはない」とのことで、もしヴィクトリアがひとたび魔力暴走を引き起こせば、殺処分するという意味を含むようだ。 その件に関してはヴィクトリアも反省しなければいけないと思っている様子で、魔力暴走なんて恐ろしい事態は起こさないようにしたいと言っていた。 レインは、結婚の手続きや故郷への墓参りをするために一度国へ戻り、それから新婚旅行をしたいと考えていてたが、「レインの親友に会ってみたい」というヴィクトリアの希望を受けて、先に帰国の道程にあるアスターの元を訪
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12 ここから始まる

 目を覚ますと、隣の温もりがなくなっていることに気づき、ヴィクトリアはベッドから起き出した。 ヴィクトリアが現在いるのは、レインの故郷である旧フォギー村――ヴィクトリアがレインと初めて会った場所――だ。 フォギー村は既に廃村になっていて、襲撃のその時のままに、壊れた家々が草に覆われた状態で放置されていた。 この場所にヴィクトリアたち以外の人の気配はまるでなく、朽ちた家以外には、襲撃の際に亡くなった人々も眠る墓地があるくらいだった。 ヴィクトリアは比較的損傷の少なかった家を魔法で直して、一時の宿としていた。 家の外に出たヴィクトリアはレインの匂いを追って歩き出した。番の匂いは一番敏感に感じ取れる匂いだから、この村の範囲内くらいであれば、深く探ればレインがどこにいるのかわかる。 逆にレインの匂いが感じ取れない場所にいると、不安になってしまうくらいだ。ヴィクトリアにとってレインは必要不可欠な存在になった。 人間は獣人とは違い「番」という感覚を持たないことと、それから、魔力暴走を止めるためとはいえレインがヴィクトリアを刺していることもあって、マグノリアは隠れ家で会った時に少し心配していた。「もしもレインが他の女と浮気したら、ヴィーが魔力暴走を引き起こして世界が滅ぶ」と、マグノリアはレインに対して物凄い釘を刺していた。 レインはそれに対し、「ヴィクトリアという最高の女性がいるのに浮気なんてするわけないじゃないか。俺は一生ヴィクトリアを大事にして愛し尽くして、毎日抱いて精を注――」と、最後の方は余計なことを言っていたので、「沈黙の魔法」を使って黙らせておいた。 ヴィクトリアもレインのことは信じている。だから大丈夫。 墓地まで来ると、目的の人物の姿が目に入った。 墓地には十字に切り出した石の墓標が並んでいて、レインはそのいくつかに摘んだ花を捧げていた。花を供えられた中には、他よりも比較的小さい墓標もある。 レインには妹が二人いた。その小さな墓は、まだ赤子同然の頃に、レインの母と一緒に獣人の襲撃で
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《リュージュハッピーエンド 私の王子様》1 本能の叫び

 レインはヴィクトリアの心臓目がけて、剣を打ち込んだ。 レインの剣先はヴィクトリアの胸を裂き、真っ直ぐ心臓の中心部を貫いていた。 ヴィクトリアに痛みはなかったが、衝撃は感じた。次いで心臓が悲鳴を上げるように痙攣し、鼓動を停止しようとしていることが、ヴィクトリアにははっきりとわかった。(私は、もう死ぬのね……) 愛する番に殺されて―― 涙があふれ出してヴィクトリアの視界を覆う。 レインが今一体どんな表情で自分を見ているのかはわからないが、彼が嗚咽を漏らして号泣しているのはわかる。 レインがヴィクトリアの胸から剣を引き抜くと、ゴボリと音を立ててヴィクトリアは血を吐き、傷口からもおびただしい鮮血が流れて落ちた。 不思議と痛みは感じないが、ゆらりと体が揺れて目の前が霞む。 このままでは確実に死ぬ。 ヴィクトリアは、自分はレインに殺されても仕方がないことをしたと思っていた。 だから、彼が自分に死んで欲しいと望むのなら、そうしてもいいと思った。 けれど、「悲しみ」としか表現しようのない言葉にならない感情が込み上げてきて、同時に、死にゆく自分の体が悲鳴を上げているのがわかった。 ヴィクトリアの中の何かが、「死にたくない!」と叫んでいる。「レインへの罪を償うために殉じるべき」という、理性が出した答えに、ヴィクトリアの体が全力で異を唱え始めていた。 自身の心臓の機能が弱まっていく中、ヴィクトリアは頭の中でガラスが割れるような音を聞いた。 ――解けた! ヴィクトリアの『番の呪い』についての知識は多くない。けれど、それが「呪い」が解けた合図だということに、ヴィクトリアはほぼ直感のように気づいた。(死にたくない! 私は! 私は……っ!) ヴィクトリアが頭に思い描くのは、陽だまりのように温かく微笑む赤茶の髪の青年だった。ヴィクトリアが無性に会いたいと切望するのは、目の前にいるレインではなかった。(リュージュに会いたい…… 「ごめんね」って言ってから、死にたい) もしもレインへの『番の呪い』が、通常の番の絆と同等のもの――本物――であれば、ヴィクトリアは静かに目を閉じて、番が自分へと望む「死」受け入れただろう。「生」を望むヴィクトリアは、過去に読んだ魔法書の知識を潜在意識下から蘇らせてた。人生初の治癒魔法を自分へ施せないかという考えが頭
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2 あの夜に戻ってきた

 あの時に戻ってやり直したいと、そう強く願った瞬間、ヴィクトリアの見ている景色が変わった。 気づけばヴィクトリアは地面のない空間にプカリと浮いていた。周囲にはキラキラと輝く砂粒のような細かい点が無数にあって、空中に浮かびながら渦を描くようにゆっくりと動いている。 ヴィクトリアは自分が何かに吸い寄せられていると感じていた。自分の体が動くたびに周囲の点が段々と大きくなっていき、点ではなくていくつもの風景になっていく。 知っている風景、知らない風景、知っている人や知らない人、様々な人や物がその風景の中で動いていていて、まるで目の前で本当に生きているかのように見えて、驚く。 やがて、ヴィクトリアの目前に、ある一つの風景が一際大きく広がった。 空は真っ黒なので夜のようだが、赤く燃え盛る炎や、壊された家や逃げ行く人々の影が見えた。 ヴィクトリアはその風景に吸い寄せられて―― 気づけば、その風景の中に立っていた。 先ほどまでヴィクトリアは空中に浮かんでいたはずだが、今はちゃんと地面があって、そこに足をついている。 風景を向こう側にあるものとして眺めていた時は、何の匂いも感じなかったが、今は物が燃えた後の焦げ臭い匂いや、人の血の匂いまで、実際にそこに漂っているものとして嗅ぎ取ることができた。(さっきまでは確かに処刑場にいたはずなのに…… 一体何が起こっているの……?) ――この時点でヴィクトリアは、自身が「過去干渉の魔法」を発動させたことには気づいていなかった。 所在なくキョロキョロと当たりを見回すヴィクトリアは、この風景をどこかで見たことがあるように感じた。 そして、とある人物が泣きながら近くを走り抜けて行くのを見かけて、度肝を抜かれた。「……あれは、私…………」 嗚咽を漏らし泣きじゃくりながら闇夜を駆ける銀髪の少女は、紛れもなく、十代前半の頃のヴィクトリアで間違いなかった。「もしかして…… ここは……」 ヴィクトリアは、自分が魔法によって過去に――あの時に――戻ったのではないかと半ば確信するのと同時に、走り出していた。「いやぁぁぁーーっ! やめてぇぇーーっ!」 その声を聞いてヴィクトリアは立ち止まった。(間違いない…… ここはレインの故郷の村で、私は自分の魔法であの惨劇の夜に戻ってきたんだわ) 確信したヴィクトリアの動きは素早かった。
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3 父と娘

 ヴィクトリアが「シド」と彼の名を思わずつぶやくと、シドは片眉をピクリと動かして、いぶかしむように眼光鋭くヴィクトリアを睨みつけてきた。「……お前は誰だ?」 昔のヴィクトリアは、シドを名前ではなくて「お父さま」と呼んでいたし、話し方も丁寧語で話しかけていた。 そのことを忘れて「シド」と呼んでしまったのは痛恨のミスだと思ったが、今更訂正するわけにもいかない。 目の前のシドが邪魔をして視覚では中の様子を確認できないが、部屋の中では、服をビリビリに破られながらも、まだ貞操は破られていないあの少女と、縛られて体の自由を奪われ泣いていた様子の、少年のレインがいるのが嗅覚でわかった。 ヴィクトリアは魔法を使って、レインが自力で脱出できそうなくらいに縄を緩めた。 完全に拘束を解かなかったのは、いきなり縄が取れると、シドがまたそのことをいぶかしむのではないかと思ったからだ。 縄が少し緩んだことに気づいたレインが拘束を解こうと動き始めるが、シドの注意は相変わらずヴィクトリアに向いている。「もう一度聞くぞ。お前は誰だ?」 シドは目の前にいるヴィクトリアが偽物であると大いに怪しんでいるようだった。シドはたずねながら威圧感を増大させていて、肌がしびれるほどの圧をかけてくる。 普通はシドに圧をかけられると、並の者なら震え上がり恐怖で腰を抜かしたり気絶する者もいるが、シドが自分に危害を加えるつもりがないと知っているヴィクトリアは、再びシドに会えたことが嬉しくて、少し涙ぐみながら微笑んだ。「私は私よ、お父さま。あなたの娘、ヴィクトリアです」 シドは怯えを見せないヴィクトリアの反応に少々面食らっているのか、微動だにせず戸口に立ったまま、じっと少女姿のヴィクトリアを観察していた。「お前がここに来る前に、匂いが変わった。ヴィクトリアだったが、ヴィクトリアとは少し違う匂いの者だった。 お前は一体何者だ?」 ヴィクトリアはシドの嗅覚の鋭さに舌を巻いてしまう。 過去に戻る魔法でこの場所に来てから、匂いと姿を
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4 あと一人

「もう時間のようです。さようなら…… お父さま……」 言い終わるのと同時に、周囲の景色が変わった。 ヴィクトリアは再び、あのキラキラ光る砂粒が広がる空間に戻っていた。 目の前には、消えてしまったヴィクトリアを探し回るシドのいる夜の風景が広がっていたが、それも次第に遠ざかり――小さくなったのかもしれないが――見えなくなって、他の砂粒と変わらないほどの大きさになってしまった。 光る砂粒だらけの空間を漂うヴィクトリアには、体の怠さと眠気が顕著に現れ始めていた。 自分の魔力が急速に消費されているようだと感じたヴィクトリアは、魔力をセーブするために、かけたままだった「姿替えの魔法」を解いて、子供ではない自分の姿に戻った。「まだよ…… まだ…… あと一人……」 ヴィクトリアは魔法で過去に戻り、「見殺しにした」とずっと後悔していた過去を変えることができた。 ならばもう一人、救いたい人がいる。「ナディア…… ナディア……」 ヴィクトリアはナディアも助けたいと強く願った。 ヴィクトリアは、ナディアの死の間際の思いを知っている。あんな死に方で人生が終わるなんて、悲劇でしかないし、ナディアには生きてやるべきことがあると思った。彼女は死んではいけない人だ。 本当は、ヴィクトリアはできることなら、八年前に亡くなった自分の母オリヴィアも助けたかった。 けれど母が亡くなったのは病気が原因で、どの時点に戻れば母を助けられるのかわからなかった。 それに、昔読んだ魔法書には、「治療魔法にも限界がある」と書かれていたから、治療魔法だけで完全に母の病を治すことができるのか、現段階では確証がなかった。 魔力の枯渇が近いと感じたヴィクトリアは、助けられる可能性が高い方を優先することにした。 ――あの瞬間に、飛んできた銃弾を避けさせることさえできれば、ナディアを助けられる。(ナディア――!) 目の前に処刑場の風景が広がる。走るナディアがいて、それから、遠くから銃を構えた状態で、驚愕の表情になっているゼウスの姿が見えた。 弾が発射された、あの瞬間だ。 ヴィクトリアは、風景の中に片腕を突っ込んだ。 ヴィクトリアの肘から先が、薄い膜のようなものを破って「過去世界」に侵入した。 ヴィクトリアはナディアの体を突き飛ばして、銃弾を避けさせた。 血飛沫が上がる
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