Alle Kapitel von 獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかけて逃げた後その中の一人と番になる~: Kapitel 171 – Kapitel 180

224 Kapitel

3 不気味な扉 1

 アルベールを抱えて走るヴィクトリアの背中に、炎の刃が迫った。「!」 ヴィクトリアがハッとして振り返った時には、既に炎が目前まで来ていた。 それはレインが戦線離脱したことに気づいたアークによる火魔法攻撃だった。 ヴィクトリアは咄嗟に氷魔法で壁を作ったが、灼熱の炎の一部は壁が出来上がる前にそこを通過してしまった。 ヴィクトリアは一瞬肝が冷えたが、炎がヴィクトリアたちの体を焼くことはなく、解毒剤と治癒魔法の効果で命の危機を脱したアルベールが、ヴィクトリアの体を抱きしめて、間一髪のところで炎を避けさせていた。 ヴィクトリアはすぐに氷の壁を自分たちの周囲に量産して炎を防いだが、氷壁の外側はアークの魔法で火の海になってしまい、ヴィクトリアたちは一歩も動けなくなってしまった。 氷壁が炎で溶けないように補強しつながらも、追い詰められたと感じたヴィクトリアは、再び転移魔法の発動を試みたが、やはり魔法は発動しなかった。 ――魔法使いに覚醒したばかりのヴィクトリアは、「転移魔法封じの魔法」をアークに使われていることに気づけない。 ヴィクトリアは、やり方が間違っているか自分には転移魔法の才能がないと思い込み、転移魔法を使う選択肢を頭の中から消してしまった。 ヴィクトリアは危機感を募らせたが、しかし、炎はいきなり何の前触れもなく、一瞬にして全て消え去った。 ヴィクトリアたちが妙な技で攻撃されていると気づいたオニキスが、それまでの戦いで炎を操っていると見当をつけていたアークの元に高速で移動し、またしても指一本だけでアークを気絶させたため、彼の火魔法は消えた。 同時に、身体能力を高められていた銃騎士たちも、アークが気絶したことで「身体強化の魔法」の効果が切れて、その場に昏倒して動かなくなる。「ヴィー! 行こう!」 ひとまず命の危機は脱したと安堵したヴィクトリアは、氷壁を破壊して走り出したアルベールに手を引かれるがまま、彼と共に処刑場広場の外へ出た。 ****** オニキスは、ヴィクトリアとアルベールの二人が手を繋いで処刑場広場の向こう側へ行ったことを確認した後に、シドの首を奪取した。 シドの胴体も持ち帰ろうと周囲に目を走らせたオニキスは、ふと、シドの娘ナディアの亡骸をただ延々と抱きしめ続けていた白金髪の美しすぎる男が、ここにきて初めて動きを見せたことに気づい
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4 不気味な扉 2

 ヴィクトリアの手を握りしめながら、処刑場広場を囲っていた建物も抜けて外へ出たアルベールは、視線の先に乗り捨てられた無人の馬車を見つけて走り寄った。 華美な装飾のついたその貴族的な馬車の持ち主の姿は近くにない。馬車に繋がれている二頭の馬は、よく訓練されているようで好き勝手に動き回ることもなく、所在なげにその場所に留まっていた。「ヴィー、これを借りていこう。早く乗って」「え、でも……」「オニキスなら死ぬわけないから大丈夫だ。それよりも、ヴィーが美人すぎて逃げてる最中に獣人だと疑われる方がまずい気がする。街中を抜けるまでは馬車から出ないで、窓のカーテンも開けないようにね」 ヴィクトリアが馬車に乗ることをためらっている一番の理由が、オニキス云々よりも、「『番の呪い』の相手であるレインを残していくこと」だと理解しているアルベールは、ヴィクトリアがそれ以上何かを言うのを阻止するように早口でまくし立てると、戸惑うヴィクトリアを急かして、馬車の中に追いやった。「あの…… アル……」「大丈夫だよ、俺も念のためにこうやって顔を隠しておくから」 御者台に乗ったアルベールは、馬車の屋根から垂れ下がっていた飾り布を取って顔に巻きつけながら、ヴィクトリアの言葉を遮るようにしてそう言った。 顔の下半分を隠した状態で後ろを振り返ると、馬車の前面には御者とのやり取りのためなのか格子付きの小さな窓があって、格子の隙間からこちらを不安そうに見つめるヴィクトリアの美しすぎる顔が見えた。(ああ、一刻も早くヴィーと……) 困ったようなヴィクトリアの極上級に美しい顔を見ているだけで、性欲と吸血への欲求がない混ぜになった情動が、アルベールの背中をゾクゾクと駆け上がって感じてしまう。 軽く勃起しそうになったが、妙な状態になったことを嗅覚でヴィクトリアに勘付かれると、警戒されて計画が駄目になると思ったアルベールは、ヴィクトリアとの愛の成就のために、強い意志の力で体の反応を抑えつけた。 格子越しというのもまたよくない。長年喉から手が出るほどに欲しかった最愛の女性を捕獲し、自分だけの愛の鳥籠の中に閉じ込めることに成功したようにも思えてて、気分がとても高揚した。(でもまだ駄目だ。警戒心は抱かせない) アルベールは普段通りに振る舞おうとしたが、思わず「ふふふ」と声を出して上機嫌に微笑
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5 危険な男と二人きり

 ヴィクトリアは窓のカーテンをすべて閉め、揺れる馬車の中でじっとしていた。 ヴィクトリアは死んでしまったシドやナディアのことを考えて、それから――レインのことも考えていた。頭の中では処刑場から離れる時に見た、地面に倒れているレインの姿ばかりが思い浮かぶ。 本当は今すぐ処刑場に戻りたいが、レインが自分の胸を刺そうとしてきたことが衝撃的すぎて、彼の元へ戻ったとしてもまた悲しい思いをするのではないかと、暗いことばかり考えてしまい、どうしてもレインの所へ戻る踏ん切りがつかなかった。 それに毒を受けたアルベールのことも心配で、解毒剤や治療魔法が効いた様子ではあるが、あまり無理はしない方が良いと思ったし、アルベールはこのまま里へ向かうのだろうから、里に着いたら医療棟で治療を受けるように促そうと思った。 とはいえ、ヴィクトリア自身は里の中にまで入るつもりはなかった。ヴィクトリアは里ではなくて、ロータスとマグノリアの家へ行くつもりだった。 里にはリュージュがいるはずで、リュージュとは顔を合わせづらかった。 そのうちにオニキスが追いついてくるだろうし、その時点で自分は里には帰らないと言って、オニキスにアルベールを任せて別行動をするのがいいだろうと考えていた。 現在、人間たちから逃げているというやむにやまれぬ状況ではあるが、図らずもアルベールと二人きりになってしまっている。 二日前にアルベールに強姦されかかった酷い出来事はもちろん忘れていない。 とりあえず今は逃亡中なので、安全が確保されるまでは何もしてこないとは思うが、襲いかかってくる可能性もあるので、注意しなければと思っていた。 何かしてきたら魔法で氷漬けにしてやろうと思っているが、不安はかなりある。 先ほど、馬車が発車する前にアルベールは格子窓ごしにヴィクトリアに微笑みかけていたが、細められた金色の瞳に、隠そうとしても隠せていない欲情の炎が見えて、その瞬間、背中に悪寒が走った。 こちらを見つめる視線一つで、アルベールがヴィクトリアを全然諦めてないんだろうなというのがよくわかった。 アルベールのことを考えれば考えるほどに、ヴィクトリアは早めに彼から離れるべきなのだろうと思い始めるが、もしも一人にしてしまった後に毒の影響で倒れたらと思うと心配だし、オニキスが来るまではアルベールと行動を共にしようと思っていた
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6 罠

 ヴィクトリアは馬車の中でアルベールを待ちながら、頭の中でレインのことばかり悶々と考えていたが、ふと、一人にしたアルベールが毒の後遺症で倒れていたらどうしようと思い至った。 促されるまま馬車で待っていたが、そもそもアルベールと行動を共にしようとしたのは、毒の後遺症が心配だったからだ。 ヴィクトリアは外に出るのをちょっと怖く感じたが、馬車から降りて、川の匂いを探って歩き出した。 しばらく歩くと、川の匂いが漂ってきて、すぐに川の流れる音も聞こえてきた。そのまま木々を縫って歩くと、やがて川辺と、川の浅い所でたたずむ二頭の馬が見えた。 それからアルベールもいて、近くにはたき火も焚かれていた。「ヴィー」 アルベールの無事を確認したヴィクトリアは、回れ右をして馬車に戻ろうとしたが、それよりも前に声をかけられてしまい、仕方なく彼に近づいた。「もうすぐ下拵えが終わるから、ちょっと待ってて」 アルベールは剣を器用に使いながら、採った魚を岩の上でさばくと、開いた魚の腹に薬草のようなものを詰めてから、拾った小枝を魚の口から刺して串料理を作っていた。 幼馴染のアルベールは、ヴィクトリアがちょっとした植物性のものを食べられることは知っている。塩気がないのを気にしたのか、野生の香草を入れて風味付けをしようとしたらしい。 ヴィクトリアは、この短時間でアルベールが馬に水を飲ませ、魚を取って火も起こし、香草まで取りに行ったことに驚いていた。 アルベールは昔から人一倍要領がよく、何でも卒なくこなしていた。 もしも自分が同じことをしていたら、もっと時間がかかったはずだと、ヴィクトリアはアルベールの動きに感心していた。 やがて魚が焼き上がり、受け取った串焼きを香草ごと齧ると、爽やかな風味と共に口の中に肉の旨味が広がった。「すごく美味しい!」「よかった。まだまだあるから、たくさん食べて」 舌鼓を打ちながら目を輝かせて焼き立ての魚を食すヴィクトリアを、アルベールはとても愛おしそうに見つめながら、「ふふふ……」と笑っていた―― ****** アルベールは、ヴィクトリアが自分を選ぼうとしないだろうことは百も承知だった。 だが、邪魔さえ入らなければ、二日前だって自分たちは正式な番になれたはずだ。 邪魔とは、ヴィクトリア自身の邪魔も入る。 アルベールは医療棟
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7 アルなんて大っ嫌い

『……っふ…… ん…… あっ……』  吐息混じりの甘ったるい声と、ぐちゅぐちゅと水と水が絡まり合うような音がどこからかともなく聞こえてくる。  ヴィクトリアはぼんやりとした思考と霞がかった視界の中で、揺れる金色を見ていた。  ヴィクトリアは一体何が起こっているのかよくわからなかったが、何か熱くて硬いものによって、体の内側がしきりにえぐられているのはわかった。  ヴィクトリアの体は行き来する硬いものをその場に留まらせようとするかのように、ぎゅうっ、ぎゅうっ、と締めつけていて、ソレが抜けそうになると切なくなるが、ググッとまた中に入ってくると、体と心がまるで踊るように歓喜して幸せに包まれた。  先端が最奥にたどり着いてズンズンと突かれるたびに、うねるような快楽が増幅されていった。  これまで経験したことのなかった最奥での深すぎる快感はどこか怖いのに、でも気持ちよくて、ヴィクトリアは自分が自分ではなくなってしまうような焦燥感を感じながらも、自分を抱く男に身をゆだねた。  ヴィクトリアは、馬車の中の長椅子に仰向けに寝かされて脚を開いていたが、座席は寝そべる仕様ではないので狭く、彼女は片脚だけを背もたれに添わせるように立てて開脚しながら、秘所に男を受け入れていた。  ヴィクトリアの上に乗っている男は場所の狭さものともせず、縦横無尽に彼女の中を責め立てている。ヴィクトリアも彼の動きに合わせて喘ぎながら、より快感をむさぼるかのように、出入りする肉棒の動きに合わせて腰を揺らしていた。 『ひっ……! ぁっ……! あぁぁっ……!』  これまで感じたことのない強い悦楽の波に襲われたヴィクトリアの体が跳ねた。  ヴィクトリアは何も考えられなくなって、真っ白な世界の中でただ全身を痙攣させていた。  男と繋がるヴィクトリアの繊細な場所が、破瓜の血が混じる愛液をだらだらとこぼし続けている。  快感の波に翻弄されているヴィクトリアの耳元で、男が嬉しそうに囁いた。 『ヴィー、またイった? 寝てる時にイクと気持ちいいよね。何回でもイっていいんだよ』  男は、『ほら、ほら』と言いながら、声に合わせるようにヴィクトリアの体を蹂躙して突き上げてくる。 『あっ! あっ! やっ……! ひんっっ……!』  男が動きを激しくすると、呼応するようにヴィクトリアの声と体も跳ねた。きゅうっ
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8 嫌われ幼馴染

「ううっ…… ヴィー……」 泣きじゃくっていたヴィクトリアは、寝ていたアルベールがわずかにうめき声を上げて、自分の愛称を呼んだのを聞くと、「ひえっ」と顔を引きつらせて涙も動きも止めた。「あっ…… ああっ……」 ヴィクトリアはアルベールが起きてしまったのだろうかと怯えたが、彼は尚も目を閉じたまま、ハァハァと呼吸を荒げながら艶めかしい声を出していた。「あっ……! ヴィー……! ヴィィィッ……!」 ヴィクトリアを呼びながら、アルベールの特長の陰茎がビュクンビュクンと予測不能な動きを見せ、ビュッビュッと精液をそこら中に飛ばしていた。 ヴィクトリアは戦々恐々としながら、男性が全裸で夢精しているというあまり見る機会もないような姿を目撃していた。 多量の精液を吐き出してもまだビクビクと跳ねるように動く、アルベールの濡れた長いペニスを呆然と眺めていたヴィクトリアは、頭にピチャッと雨みたいな何かが落ちてきたのを感じて、上を向いた。 上には馬車の天井があるわけだが、一部にアルベールが今しがた発射した白い液体が付着していた。そして上を向いた瞬間に、そこから落ちた精液がヴィクトリアの口の中に入った。「※☓△◆□☓~~!!」 ヴィクトリアは言葉にならない悲鳴を上げた。 ただでさえ蹂躙されて膣内が精子まみれなのに、口の中にまで入ってしまった。獣人の敏感な嗅覚が、独特な性の匂いとアルベールの匂いが混ざったものを捉えてしまい、背中の悪寒が止まらない。(無理! 無理っ! 無理無理無理無理無理っ!) まだなんか夢を見ながら喘いでいる様子のアルベールの、ビュクビュクとそこだけ別の生き物のように跳ねている、長すぎてきっと全部入らないだろう蛇みたいな彼の陰茎を受け入れ続けるなんて、自分には無理だとヴィクトリアは思った。(これから先も一生、アルの番として、アルと男女の営みをし続けるなんて、私にはとても無理よ……) 大嫌いな幼馴染に知らない間に体を奪われ、獣人にとってはとても大切な「番」を勝手に決められてしまい、衝撃的な光景を見て、かつ味わってしまったヴィクトリアの心は、限界だった。(逃げよう) ヴィクトリアはアルベールの目が覚めたら、また無理矢理犯されるのではないかと恐ろしくて、一刻も早くここから離れたいという思いに取り憑かれていた。 アルベールとは確かに体を繋げてしまっ
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9 絶対に許さない

 ヴィクトリアは、とりあえず馬車を降りると、川辺にいるはずの馬を見に行った。 ヴィクトリアは転移魔法が使えないと思い込んでいたので、「寝ているアルベールをどうしよう問題」はあるが、とにかく逃げるためには馬が必要だと思った。 川辺にたどり着くと馬はまだそこにいた。それから、たき火の跡と、そばの地面に刺さったままの魚串焼きが視界に入った。(私はどうしてあの時、急に眠ってしまったのかしら……) ヴィクトリアは、もしかしたらアルベールが何かしたんじゃないかと疑い、現場の残り香を嗅ごうとしたが、魚と香草の焼けた匂いに邪魔されて上手く探れなかった。 嗅覚で探るのは諦めたが、それでも不思議に思って考え込んでいると、いきなり、頭の中に現在目の前にある光景とは全く別の像が浮かんできた。 それは今の憎たらしい感じとは違って、もっとずっと可愛らしい子供のアルベールが、自宅で本を読んでいる様子だった。 ヴィクトリアはこれは何かの魔法のようだと驚きつつ、本好きの彼女は子供のアルベールが何を読んでいるか気になり、絵の中で広げられている本の中身を注視した。 そこには「麻酔草」の文字があり、麻酔草の写真と共に詳しい解説が載っていた。 次いで、絵が切り替わり、大人になった現在のアルベールが山の中を歩き回っている光景が浮かんできた。 光景の中のアルベールはふと歩みを止め、足元にあった草――本に載っていた写真にそっくりな草――を採取すると、口元にニヤッと悪そうな笑みを浮かべていた――「……何よ、これ……」 ヴィクトリアは図らずも『過去視』を発動させていたわけだが、それによって、自分が急に寝てしまったのではなくて、アルベールにはめられたのだと知った。「信じられない!」 アルベールは処刑場でレインを「卑怯」だと言っていたが、ヴィクトリアにしてみればアルベールこそがとんでもない卑劣漢だった。 ヴィクトリアはアルベールに対して怒りしか湧かなかったし、大切にされていないと猛烈に感じてしまって、悲しかった。****** ヴィクトリアは、かなり離れた場所から「遠視の魔法」を使って、アルベールの乗る馬車を見守っていた。 アルベールの行為にはムカムカしていたが、ヴィクトリアはいきなり使えるようになった『過去視』によって、かつて自分が子供の頃に魔法書を読んでいた時の光景を
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10 ヴィー、あなた……

「遠視の魔法」で見守っていると、解毒魔法の効果で「麻酔草」の成分が無効化したらしく、やがてアルベールがゆっくりとまぶたを開け、その金色の瞳をあらわにした。『ヴィー……』 頭の中に展開されている「遠視」の絵の中では、アルベールが起き抜けにヴィクトリアを呼んでいて、彼の声が脳内に響いた。 上体を起こしたアルベールは、警戒するように馬車の中を見回した後、近くにあった自分の服を引っ掴んだ。『ヴィー!』 アルベールは服をざっと着込むと、ヴィクトリアを呼びながら慌てた様子で馬車の外へ飛び出した。 アルベールは身なりに気を使う人なので、服を整えずに胸元なども間けたままで外へ出るのは、かなり珍しいことだった。『ヴィー! どこだ! ヴィー! ヴィー!』 いつも余裕ぶった振る舞いをすること多いアルベールだが、彼は今や顔面蒼白で、必死な様子でヴィクトリアを探し続けていた。 たぶんヴィクトリアが転移魔法で馬車付近から離れたために、アルベールは嗅覚でも行方が追えず、激しい不安にさいなまれているようだった。『ヴィー……っ! ヴィィー……っ!』 そのうちにアルベールが泣き出してしまった。号泣しながらヴィクトリアを探し回るアルベールの姿は、愛を求めてさまよう小さな子供のようだった。 ヴィクトリアはそんなアルベールを見ていられなくて、「遠視の魔法」を解いた。 ヴィクトリアはアルベールには何も告げずに去るつもりだった。 番を失うことでアルベールに苦しい思いはさせてしまうのだろうが、それでも構わないと思うくらいに、ヴィクトリアはアルベールのことが許せなかった。(マグに相談して番関係を無効化できれば、きっとアルも苦しみから解放されるはずよ…… そんな魔法がなかったとしたら、私もアルも、鼻を焼くしかないけど――)「ヴィィィィーーーーッ!!」 転移魔法を発動させる直前、山の向こうからヴィクトリアの愛称を絶叫するアルベールの声が聞こえてきたが、ヴィクトリアは彼を振り切るように、魔法でその場から去った。 ****** ヴィクトリアが転移魔法で移動した先は、ロータスとマグノリアの家のリビングだった。ヴィクトリアは膨大な魔力量を保持していたために、一度の転移で戻ることができた。 家にはまだ誰も帰ってきていない様子で、とても静かだった。 本当はすぐにでもマグノリアを探して相
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11 過去を知って、前に進む

 ヴィクトリアは、ロータスたちの家の屋根裏部屋を使わせてもらうことにして、そこにベッドを置いて横になっていた。 寝転びながらマグノリアに借りた魔法書を読もうとするが、あまり頭には入ってこない。 アルベールに抱かれたのもマグノリアに妊娠を告げられたのも、つい昨日の出来事だ。 マグノリアの話によると、正確にはまだ妊娠は成立していないが、受精卵は出来ているそうだ。 ヴィクトリアのお腹に根付くことができなければ流れてしまうだろうとは言われたが、それを知ってからのヴィクトリアは、わりと慎重に動いている。 マグノリアいわく、今の段階では激しい運動をしたとしてもあまり関係ないとのことだが、勝手のわからない初めての子供だし、慈しんで大事にしたいと思った。 ヴィクトリアはこの命を、アルベールの子供を、失いたくないと感じていた。 腹の中に子供がいることは、アルベールと共に生きてもよいのではと、思考が変わっていく一つのきっかけだった。 またそれとは別に、ヴィクトリアは時間が経過するごとに、アルベール自身を愛しく思い始めていることに気づいていた。 アルベールに罠にはめられて純潔を奪われたと知った直後は、驚きと混乱と彼への憎々しさしかなかったが、それから一日経つと、アルベールと肉体関係を持った体の状況に、獣人としての自分の心がだんだんと追いついてきたらしい。 だからヴィクトリアは、マグノリアに番関係を無効化できる魔法について相談はしていない。 マグノリアに『真眼』で番になったかどうか確認してほしいと頼んでみても、「ちゃんと番になっている」という答えが返ってきて、そのことに安心してしまう。 レインへの『番の呪い』にかかった時は、すぐに愛情が湯水のように湧き上がってきたが、今回アルベールへの愛情を自覚するのに時間がかかったのは、元々の好意が地の底だったからだろう。 マグノリアにアルベールのことを探ってもらったところ、彼はまだ別れた山の中に留まっているらしい。 同じ場所にずっといたら人間に見つかる危険性が高くなる。(本当はアルに会いに行かないといけないんだけど、でも……) アルベールを愛しく思うと同時に、彼を許せないという気持ちも継続中だった。(無理矢理番になったことだけじゃない。アルは昔からすごく意地悪で、私のことを子分というか下僕のように扱っていた。里で心を
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12 あなたと番になるための、たった一つの条件

「本当に? 本当に俺のこと捨てないでいてくれる? 俺のこと許してくれる?」  ヴィクトリアを強く抱きしめ続けるアルベールは、自信家な彼にしては珍しく、弱々しい声を出して語りかけてきた。「番になりさえすれば万事解決すると思っていたのに、まさかヴィーが番になっても俺を嫌いなままでいるなんて思わなかった…… ヴィーの匂いが追えなくて、ヴィーがどこにもいなくて…… 死んでしまったんじゃないかって、気が狂いそうだった……」 アルベールはヴィクトリアが転移魔法で逃げる前までの残り香を嗅いで、ヴィクトリアがアルベールに抱かれた直後に嫌悪感を感じていたことや、罠にはめられたことに気づいて怒り、「別れる」と決意したことを理解したようだった。 アルベールの金の瞳から涙があふれてボロボロと落ちていく。 月が雲に覆われてしまっている完全な闇夜の中では、アルベールの表情は視覚ではわからないが、彼と番になった今では、泣き腫らした彼の目や、頬の乾かない涙の跡もわかったし、それにアルベールは昨日から一睡もしていない様子で、憔悴しきっていて目の下のクマも酷かった。「傷つけて悪かった。どうか俺を嫌わないで。これからはヴィーの嫌がることはしないから。うんと大事にするから。どうか俺を選んでください。遠くへ行かないで」 アルベールはすがるような涙声でそう懇願していた。 子供の頃、ヴィクトリアはアルベールが泣いている場面を一度も見たことがない。『過去視』で視た以外の、記憶の中で覚えている限りの子供のアルベールは、とてもプライドが高くて、泣いているような弱々しい姿を周囲には絶対に見せないようにしていた。 誇り高い部分は今でも変わっていないはずだが、三日前に里で会った時も泣いていて情緒がおかしかったし、たぶん心が不安定になっている。(でも、そうさせたのは、私……) きっと、昨日アルベールを一人にするべきではなかったのだろう。 昨日のヴィクトリアは、アルベールが苦しんでも構わないと思っていたが、今はアルベールが苦しんでいるとこちらも苦しいし、ちゃんと大切にしたいと思っている。「置いていってごめんね……」 ヴィクトリアがアルベールの背中に腕を回して抱きつくと、彼がぎゅうっと抱きしめ返してくれた。「ヴィー、俺はもう間違わないから、もう二度とヴィーを傷つけるようなことはしないと誓うから
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