「終わったよ」 廊下にたたずみ昔の事に思いを巡らせていると、しばらくしてアルベールがリビングからひょいと顔を覗かせた。 リュージュは下の衣服は身に着けていたが、上半身は胸のあたりから包帯でぐるぐる巻きにされていて何も身につけていない。ほぼ半裸状態で締まった腹部が見えていた。肩口にも包帯が巻かれていて血がにじみ、痛々しい。 リュージュに触れようとするとやっぱり止められた。「じゃあ、行こうか」 アルベールがヴィクトリアの手を握り歩き出そうとしたが――「ちょっと待って」「何?」「少し待ってて」 ヴィクトリアはアルベールの手を振りほどくと、廊下に出て再度階段下の物置部屋に向かった。 中から新品のタオルケットを持ち出してリビングに戻ると、ソファに横になったまま目を覚まさないリュージュの体にかけた。「……行こ」 アルベールはリュージュをいたわるように見つめるヴィクトリアを促して、ウォグバードの家から出た。 ****** 外は暗い。月の光でぼんやりと周囲の様子がわかる程度だ。暗闇の中をアルベールに手を引かれて歩く。 アルベールはウォグバードの家を出てから黙ったままだ。 ヴィクトリアだって、アルベールと何を話せばいいのかわからない。幼馴染とはいえ、八年間も交流がなかったのだ。 ふと、ヴィクトリアの鼻腔が血の匂いを捉えた。リュージュのものではない。「ちょっと待って」「今度は何?」 アルベールは苛立っているようだった。向けられた表情が昔ヴィクトリアに何かを命令して凄む時と同じだったので、やや怯んだ。 けれど気づいてしまったことをなかったものとして見過ごすわけにはいかない。「……誰か倒れてる」 ウォグバードの家から少し離れた所で、点在するように周囲に何人か里の獣人たちが倒れていた。「ああ…… 俺がやった」「へっ? 何で?」 ヴィクトリアはやや素っ頓狂な声を上げた。アルベールは殺人狂だが、それは狩場で人間に対してのことで、理由なく里の獣人をむやみやたらに襲ったりはしない。そんなことをしたら里の戦力が減ってしまう。 ヴィクトリアが口を開きかけたが、何か言う前にアルベールが切り出す。「まさかあれ全員治療しろとかやめてくれる? リュージュほど酷くはないし朝まで放っておいても死なないよ。そのうち誰か気づくか、自分で起きて処置できるでしょ」
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