部屋の中は、異様なほど静かだった。テレビはついている。昼のワイドショーが流れているはずなのに、美里の耳には、何一つ入ってこない。スマホだけを、じっと見つめていた。通知は、ない。既読も、未読も、増えない。――おかしい。これまでなら、何か書けば、必ず反応があった。同情の言葉、共感、怒りの拡散。「かわいそう」「ひどい男」「許せない」そういう言葉に、美里は救われてきた。それなのに。どれだけ画面を更新しても、何も起きない。「……なんで?」美里は、思わず声に出した。自分でも驚くほど、かすれた声だった。あれだけ“正しいこと”を書いたのに。自分は、被害者なのに。裏切られた妻で、子どもを抱えた母なのに。なのに、世間は、黙ったままだ。テーブルの上には、雨宮グループから届いた通知書のコピーが置かれている。文字を追うたび、胸の奥がひりつく。「デマ拡散による信用毀損」「被害総額の算定」「今後の法的措置」専門用語が並ぶ文章は、冷たく、容赦がなかった。「……脅しでしょ、こんなの」そう呟きながらも、指先は震えている。荒木に連絡しようとして、ふと手が止まった。――最近、荒木も、苛立っている。「まだか」「どうなってる」「向こうは何も言ってこないのか」責めるような言葉ばかりが、浮かぶ。以前のように、一緒に憤ってはくれない。美里は、ソファに沈み込み、天井を見上げた。自分は、間違っていない、そう信じたい。でも、誰も味方にならない現実が、その考えを、少しずつ削っていく。ふと、思い出す。黒瀬司が、黙って頭を下げていた姿。雨宮真澄が、感情を見せずに立っていた姿。――あの女は、泣かない。――怒らない。――私みたいに、感情をぶつけたりしない。「……ずるい」美里は、歯を食いしばった。泣けば負けだと思っていた。声を上げなければ、誰も助けてくれないと思っていた。でも、現実は違った。声を荒げた自分だけが、取り残されている。「……私、何か悪いことした?」誰に向けたわけでもない問いが、部屋に落ちる。答えは、返ってこない。美里は、スマホを胸に抱きしめた。かつては、ここに“世界”があった。自分を肯定してくれる場所があった。今は、ただの、光る板だ。追い詰められているのに、逃げ場がない。怒りだけが残り、使い道を失っている。美
Last Updated : 2026-03-17 Read more