莉子からの電話で、司は自分の家へ向かった。真澄のことは、頭の隅にもなかった。体調が悪いと言っていた――それだけの認識だった。玄関の扉を開けた瞬間、嫌な空気が肌にまとわりついた。リビングに入ると、美里は腕を組み、ソファには荒木が足を組み、まるで主のように座っていた。「……なんだ、その態度は」司がそう言うより早く、美里が口を開いた。「ちょうどいいところに帰ってきたわ」その声は、妙に落ち着いていて、余計に神経を逆なでした。「養育費、今の額じゃ足りないの。湊も大きくなってきたし、これからお金がかかるのよ」「……またその話か」司が低く言った、その瞬間。「会社、順調なんだろ?」荒木が鼻で笑った。グラスをテーブルに置く音が、やけに大きく響く。「ケチるなよ。子どものためなんだろ?」その一言で、司の中で何かが音を立てて切れた。「――お前が口出すな!!」司は一歩踏み出した。「ここは俺の家だ。赤の他人が偉そうに言う場所じゃない」「は?」荒木が立ち上がり、司に顔を近づける。酒の匂いがした。「家?」荒木はせせら笑った。「あんた、もうここに住んでねえだろ。書類上も、生活実態もな」「何を――」「それにさ」荒木は、わざとらしく部屋を見回した。「この家、俺の方がいる時間長いんじゃねえの?」その言葉に、司のこめかみが跳ねた。「ふざけるな!!」美里が、鋭く割って入る。「やめて!!」その声は司ではなく、荒木を庇うようだった。「どうせ今さら戻る気もないくせに。あなた、自分から出て行ったじゃない」「……それは」「それとも何?」美里は一歩前に出て、司を睨みつけた。「私と離婚する前から、その“今の女”と一緒にいたんじゃないの?」その言葉が、司の胸に突き刺さる。「違う!!」「違わないわよ!」美里は声を荒げた。「急に家に帰らなくなって、スマホを肌身離さず持って、あれで何もなかったなんて、誰が信じるの?」「俺は――」「どうせ、再婚して幸せなんでしょ?」美里は笑った。だが、その目は笑っていない。「だったら、その人と子どもでも作って、そっちにもお金を使えばいいじゃない」「……何を言ってる」「現に、私たちの生活は苦しいのよ」美里は、荒木の腕に手をかけた。「この人だって、仕事探してるけど、なかなか決まらないし」「探し
Last Updated : 2026-03-07 Read more