美里の待望の家が、ついに完成した。 真新しい外壁と、整えられた庭を前に、美里は満足そうな表情を浮かべていた。 美里の実家は、頭金を出してくれるわけでもないのに、両親が頻繁に現れては、 「ここをこうしろ」 「他の家より見劣りしないようにしろ」 と、やたらと口を出してきた。 司が何度、「建売りだから」と説明しても聞く耳を持たず、細かい部分にまで難癖をつける。 予算のことなどお構いなしで、大工に文句を言い続けた結果、契約した時とはまるで違う家になってしまっていた。 ローンの支払いと、家具の選択、そして家族写真を飾る位置だけは、司が決めた。 これから二十年以上、自分がローンを払い続けるのだ。それくらいはいいだろうと、そこだけは譲らなかった。 だが、完成した新築の家の中に、司の居場所はどこにもなかった。 すでにこの家庭は壊れているのだ。 そう思うようになったのは、いつからだろうか。 会社にいる時が、一番心の充足を感じられる。 そんな思いを抱えたまま、司は今日も玄関のドアを開けた。 「ただいま」 「……。」 やはり、何の返事も返ってこない。 新しい家になっても、何も変わっていなかった。 それどころか、前のアパートに住んでいた頃のほうが、まだ家族の距離は近かった気がする。 今は、家が広くなった分だけ、心の距離も広がってしまった。 子どもたちは、それぞれに与えられた自分の部屋に引きこもり、顔を合わせるのは食事の時くらいだ。 その食事の場でも、会話はほとんどない。 司の耳に届くのは、 「パパ、おこづかいちょうだい」 それだけだった。 そして美里は、美里で、次の要求を口にする。 「家が新築なんだから、車も新車にしなきゃかっこ悪い」 免許も持っていないくせに、なぜ新車でなければならないのか。 司には理解できなかった。 さらに、娘の莉子の高校受験も迫っている。 美里は、私立のお嬢様学校へ行かせるつもりでいた。 司が「家のローンもあるし、学費は払えない」と言っても、 「家が買えるんだから、学費だって払えるでしょ」 と、まともに取り合おうとしない。 そして、最後に美里が言い出したのは、 「あなた、おこづかい、いらないわよね。生活費が足りないから、あなたのお小遣いを無しにするわ」
Dernière mise à jour : 2026-02-15 Read More