翌週。司は、自分から荒木を呼び出した。場所は、人目につきにくい、事務所近くの小さな喫茶店だった。昼下がりの時間帯で、客はまばら。それでも司は、無意識に周囲を確認してから席に着いた。先に現れたのは荒木だった。相変わらず、軽い足取りで、緊張の色はない。まるで、友人に呼ばれただけだと言わんばかりの態度だった。司は、挨拶も前置きも省いた。「俺の金で、何をしてる」低い声だった。だが、内側には、抑えきれない怒りが渦巻いている。荒木は、一瞬だけ目を細めたが、すぐに肩をすくめた。驚いた様子も、言い訳をする気配もない。「ちゃんと振り込まれてるだろ?問題ない」その軽さに、司のこめかみが脈打った。問題がない?そう言い切れる神経が、信じられなかった。司は、歯を食いしばりながら、続ける。「子どもたちは?」その問いだけは、どうしても外せなかった。莉子と湊の顔が、脳裏に浮かぶ。荒木は、少しだけ考える素振りを見せてから、あっさりと言った。「いるよ。生活の一部だ」その言葉が落ちた瞬間、司の中で、最後のピースがはまった。——ああ、そういうことか。子どもたちの養育費は、生活費になり、生活費は、男を養う金になっていた。頭が、すっと冷えていくのがわかった。同時に、腹の底から、激しい衝動が湧き上がる。——殴り飛ばしてやりたい。司は、拳を握りしめた。今すぐ立ち上がって、自分の拳を、この男の顔に叩き込んでやりたい。だが、理性が、それを必死に押しとどめる。この荒木という男は、そういったことに、妙に詳しかった。なにかあると、すぐに、「弁護士だ」「警察だ」「慰謝料だ」と言い出す。トラブルを、すべて金に換える術を持っている。司には守るものがある。会社も、社員も、そして——真澄も。荒木と対峙して、得はない。そう、自分に言い聞かせる。司は、荒木の言葉を飲み込み、低く告げた。「あんたのための金じゃないぞ」それだけは、譲れなかった。荒木は、鼻で笑った。「俺だって、お前に養ってもらってるつもりはねえよ」まるで、対等だと言わんばかりの口ぶり。その態度が、司の神経を逆なでした。荒木は、時計をちらりと見ると、立ち上がった。「もういいか?美里が待ってる」そう言い残し、振り返ることもなく、店を出て行った。ドアが閉まる音が、やけに大きく響い
Terakhir Diperbarui : 2026-03-04 Baca selengkapnya