「私がレオンの元に戻れば、颯太が捕まることはないんでしょ?」静まり返ったリビングに、櫻羅の声が静かに落ちた。その声は決して大きくはなかったが、五人の胸に重く響いた。櫻羅は申し訳なさそうな顔で、皆の様子を窺っている。その視線の奥には、覚悟と諦めが混じっていた。五人はソファに座り、テーブルの上に置かれたコーヒーを前にしていた。眠気覚ましに淹れたはずのそれは、誰一人手をつけることなく、すでに冷め切っている。誰も口を開けない。ただ重苦しい沈黙だけが流れていた。櫻羅の言葉に、最初に反応したのは颯太だった。顔を上げ、何かを言おうとする。だが、その言葉が形になる前に――「俺は、お前を行かせたくない」叶翔の声が、その場を断ち切った。迷いのない言葉だった。櫻羅はその声に驚いたように、ゆっくりと叶翔の顔を見る。二人の視線が交差する。その空気を読まないように、あえて崩すように――悠臣がヒューっと軽く口笛を吹いた。「叶翔、カッコイイ」場違いとも思える軽さだったが、どこか張り詰めた空気を和らげるものでもあった。叶翔はすぐに悠臣を睨みつける。「ごめん。やっぱ叶翔はカッコイイなと思っただけだよ」悠臣は悪びれる様子もなくそう言い、テーブルの上の冷めたコーヒーに手を伸ばした。そして一口、何事もなかったかのように飲み込む。その様子に、一ノ瀬英士は呆れたような顔を向けたが、すぐに真顔に戻ると、改めて叶翔を見た。「明日、DNA検査の結果が出る。もし、櫻羅が正真正銘、一条竜星の娘だという結果なら、一条竜星に婚約破棄させるしかない。しかし……」そこまで言って、英士は言葉を切った。だが、その続きを聞かなくても、叶翔には何を言いたいのかは分かっていた。万に一つ――本当に万に一つでも、櫻羅の父親が九条玲司だという結果が出た場合。その時は状況が一変する。レオン・クロフォードであっても、九条ホールディングスの九条玲司の娘に手を出すことはできない。勝手に婚約者として扱うことなど、絶対に許されるはずがない。どれほどレオンが裏社会に顔が利こうとも、どれほど恐れられる存在であろうとも――この政財界で、九条玲司を敵に回して生き残れる者がいるとは思えなかった。それほどの影響力を持つ男だ。だが――叶翔は知っていた。九条玲司という男が、どんな人間なのかを。彼は、鷹宮綾乃を裏
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