翌日――。綾乃は、九条ホールディングスの三軒隣にあるカフェへ来ていた。昨日、玲司から聞かされた話が、頭から離れない。神山雪乃。そして、その息子である康太。さらに、神崎壮真。十年もの間、誰にも明かされることなく隠されていた事実。綾乃は歩きながら、何度も自分に言い聞かせていた。――雪乃さんを責めてはいけない。彼女がどんな気持ちで十年間を過ごしてきたのか。自分にはすべてを知ることはできない。ただ一つ分かるのは、彼女もまた、この十年間ずっと苦しんできたということだった。だからこそ、今日ここへ呼んだ。責めるためではない。真実を確かめるために。そして――心春を守るために。綾乃はカフェの中へ入り、予約していた個室へ向かった。扉を開ける。すると、すでに待ち合わせの相手が席についていた。神山雪乃。雪乃は綾乃の姿を見た瞬間、緊張したように顔を上げた。その表情には明らかな戸惑いが浮かんでいる。今日は息子の康太を連れてきてはいなかった。綾乃はそんな雪乃の様子を見て、少しだけ胸が痛んだ。――きっと、怖いのよね。自分が何を聞かれるのか。そして、自分がどう答えればいいのか。雪乃にとっては、この十年間隠し続けてきたことなのだから。綾乃はできるだけ柔らかな表情を作った。「お待たせしてすみません」そう言いながら席につくと、店員からメニューを受け取る。綾乃は向かいに座る雪乃の顔を見た。「お食事は、もうすみましたか?」雪乃は緊張した面持ちのまま、首を横に振った。「いりません」その声は小さかった。食事どころではないのだろう。綾乃は苦笑しながら、雪乃を刺激しないように言った。「コーヒーでいいかしら?」そして店員にコーヒーを注文する。店員が出て行くと、個室には二人だけが残された。向かい合って座る二人。しばらくの間、どちらも言葉を発しなかった。綾乃は雪乃を見つめながら、どう切り出すべきか考えていた。いきなり核心を突けば、雪乃は心を閉ざしてしまうかもしれない。けれど、遠回しに話していても真実には辿り着けない。――どうすればいいのかしら。そんな迷いが綾乃の胸の中にあった。そのとき、ノックの音が響いた。「失礼いたします」店員が入ってくる。二人の前にコーヒーを置くと、丁寧にお辞儀をしてドアを閉め、出て行った。再び二人
Última actualización : 2026-09-03 Leer más