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第281話

Author: marimo
last update publish date: 2026-09-12 19:54:15

「今夜、九条玲司の家に行ってくるわ」

美玲は、窓の外をぼんやり眺めながら、結城琉空に向かって言っていた。

朝の光が、ホテルの部屋へ静かに差し込んでいる。

昨夜、美玲は家へ帰らなかった。

どのみち帰っても来ない夫を待ち続けるよりも、自分に優しい愛人の若い男と過ごすことを選んだのだ。

長い結婚生活の中で、何度こんな夜を過ごしただろう。

夫の帰りを待って、時計の針ばかりを見つめる夜。

電話が鳴るたびに期待して、けれど夫からではないと知って落胆する夜。

そんな日々を重ねるうちに、美玲の心の中にはいつしか、諦めにも似た感情が根を張っていた。

だから昨夜も、自分を必要としてくれる琉空のもとへ行った。

それでよかった。

少なくとも、そう思うことにしていた。

琉空はシャワーを浴びたばかりで、タオルで髪を拭きながら美玲に近寄ってきた。

そして、いつものように美玲の腰を抱きしめる。

「美玲さん、一人で大丈夫?」

その声には、本気で美玲を心配している色があった。

美玲はフッと笑って、琉空の顔を見る。

若い。

自分とはまるで違う世界にいるような男。

そんな琉空が、自分を心配してくれている。

そのことが嬉しく
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