鷹宮財閥、私邸。 東京の夜景を見下ろす高台に建つその屋敷は、要塞のように静まり返っていた。 財界の重鎮が住まうにふさわしい威圧感が、門をくぐった瞬間から訪問者を押し潰す。九条玲司は、広い玄関ホールの中央に立ち、背筋を張ったまま動かなかった。 磨き上げられた大理石の床、天井高く吊るされたシャンデリア、壁に並ぶ名家の系譜を誇示するかのような美術品。 ここは「個人の家」ではない。 鷹宮財閥という一大権力の、象徴そのものだ。――気を抜けば、喰われる。 玲司は自分に言い聞かせていた。執事に案内され、以前にも通された豪奢なリビングへ入る。 重厚なソファに深く腰掛けているのは、鷹宮正隆。 その視線は、挨拶の前からすでに玲司を値踏みしていた。「夜分に申し訳ありません」玲司は礼を尽くす。しかし、正隆は一切の社交辞令を切り捨てる。「座りなさい」低く、逃げ場のない声だった。 玲司が腰を下ろした瞬間、正隆は唐突に切り出す。「世間の噂とは怖いものだな」それは雑談ではない。 ――“理解しているぞ”という宣告だ。「私の落ち度です。申し訳ありません」玲司は迷わず頭を下げた。 誇りよりも、守るべきものを優先する覚悟は、すでに固まっている。顔を上げ、はっきりと言う。「経緯の報告と、このあと、綾乃を迎えに行きます」南條財閥、神崎財閥。 沙耶と和真の思惑。 東亜リンクス商事の不正という名の罠。 それらがどのように絡み合い、綾乃に嫌疑が向けられたのか。 玲司は感情を排し、事実だけを積み上げていった。正隆は一言も挟まない。 沈黙そのものが、圧力だった。「南條と神崎の目的は? なぜそんなことが起こったんだ?」試すような問い。 玲司は一瞬、視線を伏せる。 この答え次第で、九条は“切られる”可能性すらある。「私と綾乃が結婚をしたことです」正隆は微動だにしない。 続きを促す視線だけが鋭く光る。「南條の娘とは、以前から噂があったことは知っておられると思いますが、私は全く興味がありませんでした。 そして、綾乃と婚姻をしました。南條沙耶は、少し前に一条財閥と婚姻をしていたのですが、私たちの婚姻の話が出ると、急に離縁をして、綾乃を陥れるように企みました」財閥の婚姻は感情ではない。 だが、感情が絡めば、より醜く、より危険になる。「そこには、
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