Tous les chapitres de : Chapitre 191 - Chapitre 200

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第191話

瀬奈はしばらくの間、湊斗がとめた車の前でじっと二人が歩く姿を後ろから眺めていた。そんな彼女を気遣うように彼が振り返った。「――瀬奈、何してるんだ。早く来い」「え、ええ……」瀬奈は小走りで湊斗たちの元へ駆け寄った。瀬奈と湊斗は、里亜を挟むようにして二人並んだ。「こういうところに来るのは初めてか?」「うん!とっても楽しみ!」瀬奈たちが今いるのは、都内でも有名な動植物園だった。黒川区にある神宮司邸からは、車で二十分ほどで到着する。(あの神宮司湊斗が動物園にいるだなんて……)瀬奈は隣を歩く彼の横顔をじっと凝視した。周囲にいる女性たちが彼を見てキャーキャー騒いでいる。まさか彼があの神宮司財閥のトップだとは思いもしないだろう。「そんなに見つめられると……」しばらく見ていると、視線に気付いたのか湊斗が振り向いた。「何か、変な考えを起こしてしまいそうだ」「……」その顔は、ほんの僅かに火照っていた。瀬奈が顔をしかめると、湊斗は焦ったように冗談だと笑った。「何かあったか?」「いいえ、あなたが女性に人気なのを再認識しただけよ」「……どういう意味だ?」気付いていない湊斗に、瀬奈は丁寧に教えた。「通りすがりの女性たちがあなたから目を離せなくなっているわ。若い女の子をあんな風に誑かすだなんて、あなたって罪な男なのね」「……」からかうように言うと、湊斗は不快そうに眉をひそめた。(どうしてそんな顔をするのよ)若くて綺麗な女の子に好かれて嬉しくないのか。湊斗はそんな彼女の疑問を読んだかのように口を開いた。「前も言ったがお前以外の女に好かれたとして、何の意味があるんだ」その一言に、彼から目が離せなくなっていた女性たちがキャーと歓声に近い悲鳴を上げた。「……人前でそういうことを言うのはやめてくれないかしら?」「なら、二人きりのときならいいのか?」「……まぁ、誰かいるときよりかはマシかな……」その返事に、湊斗は嬉しそうに笑った。そんな顔をされると変な気持ちになるからやめてほしいものだ。二人の間でじっとしていた里亜が、湊斗を見上げた。「おじさんはママのことが大好きなんですね」「り、里亜!」瀬奈が慌てたように声を上げた。何を勘違いしているのか、湊斗が私を好きだなんて。「あなたも、そういうことを言うのはやめなさい」「どうして?」里亜がきょとん
last updateDernière mise à jour : 2026-05-24
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第192話

昼時になり、園内を回っていた三人は途中にあったベンチに横並びで座った。里亜を間に挟んで湊斗と瀬奈が端に座った。その間も里亜と湊斗は楽しそうに話している。瀬奈は複雑な気持ちで二人をじっと見つめていた。(こうして三人で並んでいると、何だか本当に家族になったみたい……)もちろん周囲からもそう見えているだろう。しかし、本当はそのような関係性ではなかった。「昼飯の時間だな」「え?あ、あぁ……そうね……」突然湊斗に話を振られた瀬奈は、我に返って頷いた。ちょうどお腹が空いていた頃だった。「何か食べたいものはあるか?」「里亜の行きたいところにしましょう」園内にはいくつかレストランがある。瀬奈も湊斗も、当然こういうところで食事をするのは初めてだった。「あそこ行きたい!」里亜が指差したのは、近くにあるファストフードが売っているお店だった。唐揚げやハンバーガーなど、子供が好みそうなメニューが並んでいる。「買いに行ってくるわ、里亜は何がいい?」「――俺が行く、お前たちはここで待ってろ」立ち上がろうとした瀬奈を、湊斗が腕で制した。彼の気遣いには、未だに慣れない。「里亜も行く!」「なら、俺と二人で行こう。お前はここで待っていろ。疲れているみたいだし、身体を壊したら大変だ」「……」結局、瀬奈は一人ベンチで待つことになった。彼女は晴れ渡る青い空を見上げ、太陽の光の眩しさに目を細めた。(天気が良くてよかったわ……でもちょっと暑いわね……)まだ夏に入ったばかりだったが、今日は天気が良いのも相まって猛暑だった。今年の夏はどうやら湊斗と一緒に過ごすことになりそうだ。瀬奈は上げていた頭を元に戻し、離れた場所にいる夫と娘の姿を眺めた。遠くから見ると、二人は本当にそっくりだった。あんな風に仲の良い二人を見ていると、何が正解かがわからなくなる。今までは湊斗の元から里亜を引き離すこと、それが里亜にとっての幸せだと信じて疑わなかった。(里亜が湊斗と一緒にいることを望むのなら、私は……)そのとき、突然頭上から声がした。「――お姉さん、今暇?」「……」顔を上げると、若い男二人が目の前で瀬奈を見下ろしていた。明るめの髪色に、いたるところにアクセサリーをジャラジャラとつけている。いかにもチャラそうな見た目である。「……何の用ですか?」「用ってわけじゃないんだけど……
last updateDernière mise à jour : 2026-05-25
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第193話

瀬奈はしばらく、去って行く男たちの後ろ姿を眺めていた。(何とかなったようね……あのまま連れて行かれなくてよかったわ……)そこで彼女は、自分が湊斗に抱きしめられたままであったことに気が付いた。「み、湊斗!」「どうした?」瀬奈は何とか彼から逃れようともがくが、彼はその状況を面白がってか、彼女を抱きしめる腕に力を込めた。「ちょ、ちょっと放してよ!」「せっかくだし、そこのテラスまで連れて行ってやるよ」「な、何をする気!?」突然瀬奈の体が宙に浮いた。湊斗に抱き上げられていることに気が付いたのは、彼が歩き出してからだった。「わぁ……お姫様抱っこされてる……」「あらあら、何て仲の良いご夫婦なのかしら」周囲の人々の視線が瀬奈と湊斗に集中した。瀬奈は恥ずかしくて、顔を真っ赤にして湊斗の胸に顔をうずめた。(は、早く下ろして……!)テラス席に着くと、湊斗はゆっくりと瀬奈を下ろした。抱き上げるときはあれほど強引だったのに、どうして下ろすときはそうも優しいのか。テラス席では、既に里亜が座っていた。湊斗は何事もなかったかのように二人に向かって言い放った。「さぁ、昼食にしよう」「……そうね」どうしてそうも平然としていられるのか。こっちはドキドキしてたまらなかったというのに。湊斗はそんな彼女の気持ちなど気にも留めず、チーズバーガーを頬張る里亜を愛しそうに見つめている。やっぱり、里亜の前では父親の顔をするのか。二人をじっと見つめていると、視線に気付いた湊斗が振り返った。「何をしている?早く座れ」「え、ええ……」湊斗に言われ、瀬奈は席に着いた。***昼食を終えたあと、三人は園内にある水遊び場へと向かった。靴と靴下を脱いだ里亜は、さっそく水の中に入って行った。水深は十センチほどしかなく、子供でも溺れる心配がない。「キャー!冷たい!」「里亜、あまりはしゃいでると転ぶわよ」瀬奈と湊斗は、その様子を少し遠くからじっと見つめていた。里亜は楽しそうに水遊びをしている。瀬奈は娘が聞こえないように、小声で横にいた湊斗に話しかけた。「さっきの話、冗談よね?」「何のことだ?」湊斗がチラリと瀬奈を一瞥した。「里亜を海外に連れて行くって、冗談のつもりで言ったんでしょう?」「俺が冗談なんか言うと思うか?里亜が望んでいるんだから、当然連れて行くつもりだ」「…
last updateDernière mise à jour : 2026-05-26
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第194話

湊斗はしばらくの間、横にいる瀬奈と離れたところで水遊びをする里亜を交互に眺めていた。彼にとっては瀬奈も里亜も大切でとても愛おしい存在だった。彼女たちのためなら、彼は何だってやってのけるだろう。そう思えるほど、湊斗は二人を大事に思っていた。(こうやって二人と共に過ごせているだけでも……俺にとっては勿体ないくらいだな……)瞬きをすることすら惜しい。こんなにも幸せなのはいつぶりだろうか。この幸せが永遠に続けばいいのに。そう思っていたそのとき、彼のポケットに入れられていたスマホの着信が鳴った。「……」スマホを開いて確認すると、電話の相手は一馬だった。昔からの仲である彼が、こうやって休日に湊斗に電話をかけるのは別に珍しいことではない。しかし、湊斗は出ることをためらった。面倒なことを言われたら……と思うと出る気になれなかったのだ。せっかく瀬奈と里亜と楽しい時間を過ごしているというのに、何てタイミングが悪いんだ。スマホを眺めて固まる湊斗に、隣にいた瀬奈が声をかけた。「湊斗、何を迷っているの?中田さんからの電話は出るべきよ」「だが……」「里亜は私が見ているわ。大事な話だったらどうするの?」「……そうだな、ちょっと席を外すよ」瀬奈の言う通りだった。一馬はどうでもいいことで休みの日に電話をかけてくるような人間ではない。何か、湊斗に言わなければならない大切なことがあるのだろう。湊斗は一度里亜と瀬奈から離れ、近くにあったトイレの裏まで移動した。周囲に人がいないことを確認すると、着信ボタンを押した。「俺だ、どうした?」「ああ、湊斗。休みの日に悪いな」「……こっちは家族で出かけてたんだぞ」不機嫌そうな湊斗の声に、一馬がアハハッと笑った。「悪い悪い、どうしても伝えたいことがあってな」「何だ、さっさと言え」「まぁそんなに機嫌悪くなるなよ……里亜ちゃんに関することなんだから」その一言に、湊斗の顔つきが一瞬にして変わった。湊斗は少し前から、里亜に関するあることを一馬に調べさせていた。しかしなかなかめぼしい情報が上がらず、調査は行き詰まっていた。そのことで何か進展があったのか。湊斗はスマホを持つ手に自然と力を込めた。「……里亜の父親がわかったのか?」「いやぁ、そういうわけではないんだけどな」「……何だ」湊斗は期待して損したとでもいうかのようにガック
last updateDernière mise à jour : 2026-05-27
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第195話

湊斗が電話に応じるために席を外してから十分後、彼が瀬奈たちの元へ戻ってきた。何だか浮かない顔をしている湊斗に、瀬奈が尋ねた。「おかえり、どうかしたの?そんな暗い顔して」「……いや、何でもない」湊斗はそれだけ答えると、元いた場所に戻った。さっきとずいぶん変わった湊斗の様子を、瀬奈は不審に感じた。(……中田さんに小言でも言われたのかしら?)彼女はまだ、自分が置かれた状況に気付いていなかった。このとき彼の異変に気付いていれば、あのような事態にはならなかったのかもしれない。(……何だか、さっきよりも複雑な目で里亜を見ている?)そのことを不思議に思った瀬奈は彼に向かって口を開いた。「……ねぇ、湊斗――」「――瀬奈、今日はそろそろ帰ろう」「……………湊斗?」突然のことに、瀬奈は驚いて彼を見上げた。焦点の合わない、虚ろな瞳が彼女を捉えた。やっぱり、今の湊斗は何かが変だった。彼は彼女にそれだけ言うと、未だに水遊びをしていた里亜の元へ向かった。里亜をさっと抱き上げ、水から出した。(急にどうしたのかしら……疲れた?いいえ、湊斗に限ってそんなこと……)瀬奈と違って体力のある湊斗がたった数時間出かけただけで疲れるだなんて、ありえなかった。「……」瀬奈はわけもわからず、ただ遠くから湊斗をじっと見つめていた。***それから三人は車に乗り、帰路についた。帰りは渋滞で行きよりも時間がかかってしまったが、無事に神宮司邸に到着した。運転中も湊斗はずっと心ここにあらずで、行きと違って一言も喋らなかった。疲れたのであろう里亜はぐっすりと眠っており、重苦しい空気が車内に流れた。「おかえりなさいませ、旦那様。奥様、お嬢様」「……ただいま」メイドたちが三人を出迎えた。瀬奈の娘である里亜は、湊斗の子ではないものの、お嬢様という立ち位置になっている。瀬奈は里亜がそのように呼ばれるのがあまり好きではなかった。何だか里亜の未来が定められてしまったような気がして。「早かったですね、てっきり帰られるのは夜になられるかと」「ええ、私もそのつもりだったわ」ずいぶんと早い瀬奈たちの帰宅に、メイドたちは驚いているようだった。そしてそれは瀬奈も同じだった。「……湊斗はどちらに?」「旦那様は書斎におります。会いに行かれますか?」「……いいえ、仕事があるのでしょう。今はやめておく
last updateDernière mise à jour : 2026-05-28
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第196話

その日の夜、瀬奈は湊斗に隠れてある場所を訪れていた。(本当にここにいるのかしら……)彼女がやってきたのは人通りの少ない場所に位置する個室居酒屋だった。瀬奈は普段あまり酒を飲まないし、このような場所に来るのも初めてだった。(手紙の内容が正しいのなら、彼女は間違いなくここにいるはず……)居酒屋へ入る瀬奈の右手には、今日受け取ったばかりの手紙が握られていた。何が彼女をそこまで突き動かしているのか。その答えはまさに手にしている手紙にあった。「失礼します……」「――ようこそ、いらっしゃいました」遠慮がちに中に入った瀬奈を、一人の女が明るい声で出迎えた。数ヵ月前に見たときと変わっているところがなさそうだった。「……お久しぶりですね――沙織さん」「……ええ、お久しぶりです。暁さん」中で瀬奈を待っていたのは、沙織だった。二人が会ったのは、瀬奈が湊斗との離婚を決意したあの日以来だった。元より絶対に相容れない立場にある二人だ。瀬奈は優雅に微笑む沙織を視界に入れ、思わず身を固めた。沙織は立ち尽くす瀬奈に、正面の椅子を薦めた。「さぁ、どうぞお座りください」「ありがとうございます」瀬奈は緊張感を胸に、沙織の正面の椅子に座った。こうやって彼女と向かい合っていると、何だかあの日に戻ったような気分になった。神宮司邸を出て行く前。あのときは彼から愛される沙織と向き合うと惨めな気持ちになったが、今はもうそんな感情はない。――瀬奈には湊斗より大切なものがある。彼女のことなど眼中にも無いのだ。「……手紙に書かれていたことなのですが」「……」先に話を切り出したのは瀬奈だった。沙織は表情を変えることなく、ただ彼女を見つめている。何を考えているか全く読めない、無機質な瞳に瀬奈は一瞬ビクッとした。「――私に子供がいると、知っていたのですね」瀬奈はハッキリと、強めの口調でそう口にした。何故知っているのか、と問い詰めているようだった。沙織は動じることなく、答えた。「……知ったのはつい最近です。たまたま、そのような話を聞いたものですから」「そうだったんですか」一番知られたらマズい人物に、里亜の存在が知られてしまった。瀬奈は平静を装っていたが、内心焦っていた。沙織は彼女にとっても危険な女だったからだ。湊斗を心から愛し、権力欲にまみれた女。何をしでかすかわからない。そん
last updateDernière mise à jour : 2026-05-29
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第197話

瀬奈は沙織の言葉に、体が急速に冷えていくのを感じた。もちろん、瀬奈も何の根拠も無く沙織がそのようなことを言っているわけではないのだろうと思ってはいた。わざわざ手紙を書いてまで瀬奈を呼びだしたということは、何か根拠があるはずだ。その答えが瀬奈が湊斗に向ける一途な愛だとは、何だか笑えてくる。(……一筋縄ではいかないと思っていたけれど、その様子だとどうやら、確信しているようね)瀬奈は沙織の探るような視線を真正面から受け止めた。ここで少しでも動揺してしまえば、彼女の疑念は確信に変わるだろう。それだけは絶対に避けなければならない。沙織は里亜を湊斗の子供だと決めつけているわけではない。ただ鎌をかけているだけなのだと必死で自分に言い聞かせた。瀬奈は平常心を保ち、沙織に言葉を返した。「……いきなり、とんでもないことを言い出すんですね」「とんでもないこと、ですか?」沙織は未だに瀬奈を信じていないのか、呆れたような目で彼女を見た。「里亜が湊斗の子供だなんて、そんなことあり得ると思いますか?」「そうですね、暁さんが他の男との間に作った子だというよりかはしっくりきます」「ですから、私と湊斗は一度も関係を持ったことがないんです。里亜が湊斗の子だなんて言ったら……区内で嘲笑されてしまいますよ?」「……」沙織はじっと何かを考え込むような素振りを見せた。しばらく黙った後、彼女は顔を上げて口を開いた。「私は……自分の評判なんてのはどうでもいいんです。世間体を気にするような人間なら、そもそも彼と長年そのような関係にはなっていないでしょう?」「……ええ、その通りですね」まともな思考回路を持つ人間ならば、妻のいる相手と二十年付き合うなんてそんなことはしないはずだ。沙織は周囲の目を気にしない、図太く強かな女だった。(……全く罪悪感を抱いていなさそうなのが腹が立つわ)こっちはあなたのせいで二十年もの間苦しんできたというのに。「ただ、私は心配で……」「一体何をそこまで心配なさっているのですか?沙織さんが不安に思っている未来は訪れません。何度も言っているように里亜は湊斗の子供ではないのだから、あなたの息子さんの後継者としての地位を脅かすこともありません」沙織が最も気にしているのはそこだろう。彼女は他にもいる湊斗の子供たちが、神宮司家の次の社長の座に就くのではないかという
last updateDernière mise à jour : 2026-05-30
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第198話

二人の間に重い沈黙が流れた。沙織はこの二十年間、瀬奈よりも湊斗と過ごした時間が長い。彼女よりもずっとずっと彼の考えを把握しているだろう。しかし、だからといってその発言は到底信じられるものではなかった。(一番愛する子を後継者に?なら、沙織との子供が最もその座に近いのでは?)沙織は愛人たちの中でも一番湊斗の寵愛を受けていた。「……湊斗が最も愛する子を後継者にしようとしている?言っていることの意味がわかりません。大体里亜は湊斗の子供ではないんです。神宮司家の社長になれるわけがありません」「いえ、彼と血が繋がっているかなんてのはどうでもいいことなんです。彼はいちいちそんなもの気にしていない」「……どういうことですか?」瀬奈の問いに、沙織は答えなかった。そこに何か重大な秘密が隠されているような気がしてならなかった。――私の知らない何かがある。瀬奈はそのことを確信した。「暁さんのとこのお子さん……里亜ちゃんって言いましたっけ?」「どこでそれを……」沙織は一体どこまで里亜のことを知っているのだろうか。父親の件に関しても、何だか全てを見透かされているような気がしてならなかった。「とっても可愛らしいと、近所で評判でなっていましたよ。ご存じありませんでしたか?」「……そう言って頂けるなんて嬉しい限りです」「――聞くところによると、湊斗からもかなり可愛がられているのだとか」「……」沙織の表情が氷のように冷たくなった。湊斗は愛人たちが産んだ子に全く興味が無かった。自分の子には関心が無いのに、他人の子を可愛がるとは。母親である沙織がそのような反応になってしまうのも当然かもしれない。「休みの日に娘さんを遊びに連れて行ったりしているそうですね」「……ただの気まぐれではありませんか?」「気まぐれ?彼が気まぐれでそのようなことをするとでも?」沙織がそのことを不満に思う気持ちがわからないわけではない。しかし、それを瀬奈にぶつけるのは間違いである。(不満なら湊斗に言いなさいよ……私や里亜は何の関係も無いわ)浮気した恋人ではなく、相手の女の方に怒りが向くというのはよくある話だ。例えるならそういう状況なのだろう。「前に、湊斗の元を永遠に去るつもりだと言っていませんでしたか?あれは一時の感情だったのですか?」「……いえ、そういうわけではありません」「なら
last updateDernière mise à jour : 2026-05-31
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第199話

沙織が出て行ったあと、瀬奈も居酒屋を出た。今はとにかく早く家に帰りたかった。外に出ると、深い夜が彼女を出迎えた。暗闇の中で光り輝く月を見ている暇なんて無かった。瀬奈は神宮司邸までの道のりを走り続けた。(沙織が……里亜を湊斗の子だと疑っている……)瀬奈は今までずっと彼女を見くびっていた。湊斗が瀬奈を毛嫌いし、愛人たちを寵愛しているのは黒川区内では有名な話。湊斗ですら里亜は自分の子供ではないと思っているのだ。そのため、彼女がお飾りの妻であることを誰よりも知っているであろう沙織が疑うわけないと高をくくっていたのだ。しばらく走り続けると、神宮司邸へ到着した。何故かわからないが、この場所に来るととても安心できた。瀬奈はすぐに中へ入り、里亜の無事を確認した。「ママ……?」「里亜……!」眠たいのか、目をこすりながら部屋から出てきた里亜を、瀬奈は力強く抱きしめた。小さな身体から伝わる温もりが、瀬奈を安心させた。「里亜……よかった……!」「……ママ?」里亜は身体を小刻みに震わせる瀬奈を不思議そうに見つめた。娘の前であるにもかかわらず、瀬奈は涙が溢れそうになった。「――ママ、泣かないで」「里亜……」里亜は母親の頭を小さな手で優しく撫でた。まだ幼い娘に慰められるとは、何て情けない母親なのだろうと自分でも思う。「里亜、今日はママと一緒に寝ようか」「うん、ママ」里亜は愛らしく笑いながら頷いた。そのとき、瀬奈は固く心に誓った。――必ず、里亜を守り抜いてみせると。***昨夜は里亜と同じベッドで寝たため、朝目が覚めると愛する娘の顔が真っ先に視界に入った。寝顔ですら愛おしくてたまらない。瀬奈は里亜を産んでから、そのような感情が自分に存在していたのだということを知った。「――おはようございます、奥様、里亜お嬢様」「……ええ、おはよう」翌朝、部屋に訪れたメイドに瀬奈は挨拶を返した。このような暮らしにももう慣れた。それでも、未だに早く稲田町に帰りたいという思いは彼女の胸に残ったままだったが。「里亜、起きなさい」「ママ……?」瀬奈は横で眠っていた里亜の身体を揺らしてそっと起こした。瀬奈は寝ぼけたままの里亜を洗面台へと連れて行った。顔を洗い、服を着替える。「そろそろ幼稚園に行かないと」「出かける前に、おじさんに挨拶しに行きたいの」「…………湊斗に?」
last updateDernière mise à jour : 2026-06-01
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第200話

一方その頃、沙織は夜も寝ずに真っ暗な部屋の中で誰かと通話をしていた。百合子や愛斗はそんな母親を気味悪く感じながらも、何か言うことは無かった。彼らにとって、母親のヒステリーほど面倒なものはなかったからだ。機嫌が悪いのなら、宥めるよりもそっとしておいた方がいい。長い年月をかけて、彼ら子供たちが学んだ対処法だった。今、彼女の住む家には誰もいない。百合子も愛斗も既に学校へ行った後だった。沙織はその隙を狙って、ある人物に電話をかけていた。用意周到な彼女は、自身の子供たちにすら細心の注意を払っていた。「標的はその里亜ってヤツでいいんだな?」「ええ、報酬はいくらでも出すわ。里亜を無事に始末できたらね」「そうか、わかった。神宮司家の未来の奥様からの依頼だもんな。いい加減な仕事をするわけにはいかねえ。きちんと受けさせてもらう」通話の相手のその答えに、沙織はニヤリと口角を上げた。「未来の奥様だなんて……そう言ってもらえて嬉しいわ。もし私が神宮司家の夫人になれたら……もっと良い物をあげるわよ?」「ほ、本当か!?」その言葉で、余計に士気が高まったようだ。男は歓声にも近い声を上げた。(どこまでも愚かな男ね……こんなことを平然と信じるだなんて、笑えてくるわ)もちろん沙織はそのような恩恵を与えるつもりは無かった。彼は犯罪紛いのことを平然とやってのける何でも屋。この先社長夫人となる沙織が、関わって良いような相手ではなかった。やらせることだけやらせてとっとと縁を切るつもりである。「お前にどこまでもついて行くぜ!沙織!」「……」一体誰を呼び捨てにしているのか。そのことを不快に感じた沙織の声が低くなった。「でもあなた……前の依頼のときは失敗したでしょう?そのときのことを忘れたとは言わせないわ」「そ、それは……」反論することもできないようで、男は言葉を詰まらせた。実は、沙織が彼に依頼をするのは初めてではなかった。前にも一度、とんでもないことを頼んだことがあった。しかし、彼は彼女からの依頼を遂行することはできず、失敗してしまったのだ。「結局その後すぐにあの女の息子が死んでくれたからよかったけど……今回ばかりはそうはいかないわ」「わ、わかってるよ……今回は失敗したりしないさ。必ずやり遂げてみせる」「……私はあなたを信頼しているの。こんなこと、あなたにしか頼めないのよ
last updateDernière mise à jour : 2026-06-02
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