All Chapters of その結婚お断り~イケメンと三角関係になり結婚をお断りしたらやばいヤンデレ爆誕して死にかけた結果幸せになりました~: Chapter 131 - Chapter 140

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3 特別な獣人

「ごめんなさい!」 お互いに全裸でベッドにいる状態で、ナディアは正気に戻ったゼウスに対して、正座して手をつき頭を下げる土下座スタイルで涙ながらに謝った。「私は獣人です。あなたの仇である獣人王シドの娘ナディアです。メリッサは偽名でした…… ゼウスに告白されたのが嬉しくて、あなたとつき合えて天にも登るような心地で、なのに真心を向けてくれるゼウスをずっと騙してしまって、正体を打ち明けなくて、本当にごめんなさい…… だけど、ゼウスと一生一緒にいたいと思ったことは本当です! そこだけは嘘じゃないです! 私はあなたを愛しています! もしこんな私でも許してくれるなら、私をゼウスの獣人奴隷にしてください! ずっとそばにいさせてください! お願いします!」 ナディアが一気に告白した後、部屋の中はしんと静まり返っていた。ゼウスは何も言ってくれない。ナディアは怖くて下げた頭を上げられなかった。「私のことが許せないなら、私を討ち取ってください。愛するあなたに殺されるなら本望です」 ナディアは涙を流しながら頭を伏せた状態でじっとしていた。「……獣人っていうのは、本当なの?」 どのくらいそうしていたのか、重苦しく絞り出すようなゼウスの声が聞こえてきて、ナディアは顔を上げた。 見上げた先の、一気に血の気が失せて青白い顔をしたゼウスの表情が、カーテンの隙間からの月明かりに照らされていて、彼がとてつもなくショックを受けていることがわかった。(ああ…… 傷つけてしまった――) ナディアの胸もえぐられるように痛い。 いっそゼウスと出会わなければよかったのではないかと、そんな風にも考えてしまう。「本当です…… ごめんなさい…… ごめんなさい……」 号泣しながら謝るナディアに対し、ナディアの告白が真実だと理解した様子のゼウスも、両手で顔を覆って泣き始めた。 けれどゼウスはひとしきり泣いた後に、自分が脱いだ隊服の上着をナディアの体にそっとかけてくれた。「風邪を引いてしまうよ」 重要な話し合いをするつもりだったが、現在、流れてお互い全裸になってしまっている。 暖かい南西列島でも春の夜は冷える。ナディアが寒そうだと思ったようだが、ゼウスはナディアが正体を明かした後も、優しさの片鱗を見せてくる。「あ、ありが…… ううぅっ……」 ナディアは、ゼウスの心地よい匂いの香る隊服
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4 彼氏が魔王化した

「あの…… 怪我…… 大丈夫だった?」「……怪我?」 ナディアの体を拭きながらゼウスがためらいがちに声をかけてきたが、考え事をしていたナディアは最初何のことかわからなかった。「俺が斬ってしまったから…… 痛かったよね、本当にごめんね……」 ナディアは首を横に振った。「操られてたからだって聞いたから…… それに、ゼウスじゃなかったら、今頃私は生きいてなかったと思う。 すぐにオリオンに治してもらっ――」「『オリオン』? 誰だ?」 ナディアの言葉にかぶせるようにゼウスが声をかけてきたが、いきなり緊迫感のある口調になっていたので、ナディアはそこで驚いて口をつぐんだ。 おそらく一番隊所属のゼウスは、二番隊にいる『オリオン』のことは知らされていないのだろう。ゼウスは「シリウス=オリオン」とは思っていないらしい。 ナディアはそのことを指摘しようとしたが、喉まで出かかった言葉を寸前で止めた。(言えないわ…… 死んじゃうかもしれない) ナディアは、『ブラッドレイ家の秘密』を誰かに話したら即死、という恐ろしい『呪い』にかかっている。「シリウス=オリオン」というのがその『秘密』の範疇に入るのか、それとも違うのか、確証が持てず、下手なことは言えない状態だ。「……メリッサ、そういう男友達がいるなら、ちゃんと俺に報告しておかないと駄目じゃないか」 ナディアが黙っていると、ゼウスがそんなことを言ってきたが、何だか醸し出す空気感が暗黒風だし圧も強い。「それに、ノエルの兄さんのシリウスさん? とも、オトモダチだったなんて、俺はあの時まで全く全然そんなことは知らなかったよ…… あの時は、メリッサを斬ってしまった俺が全面的に悪いけど、それでシリウスさんも怒らせてしまったみたいだけど、でも、シリウスさんがためらわずにメリッサに人工呼吸を施すくらい、二人がとても仲がよかったなんて、ちょっと妬けちゃうよね……  言ってくれれば俺がしたのにね、ふふふ」 最後の「ふふふ」が、清廉な空気をまとっていて凛々しかったはずのゼウスに似つかわしくもなく、退廃的でおどろおどろしい気配が大部分だったように思えたのは、気のせいか……「でも、シリウスさんがメリッサを『俺の女』って言ってたのには、ちょっと物申したいよね。 メリッサは俺のものなんだからさ。
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5 本気見せてよ

 いつも優しかったはずのゼウスの冷酷な物言いに衝撃を受けているナディアは、仰向けに寝転んだまま身動き一つ取れなかった。「『浮気』してたなんて絶対に許さない…… 他の男の痕跡なんて全て潰してやる」  ナディアは地を這うようなゼウスの声に恐れおののいてやはり動けない。ナディアが怯んでいる隙に、ゼウスは怒りを全身にまとわせたまま、ナディアの白い太ももを掴んで開脚させてきた。「こんなあり得ない量のキスマークなんかつけられて……っ! シリウスと『オリオン』の二人がかりで責められてたのかっ!?」 柔い太ももの内側や股間付近にまでキスマークが散らされている。ナディアは思ってもみない方向の卑猥な内容の浮気嫌疑をかけられてしまい、仰天した。「ち、違う! 一人よ!」 ナディアとしては、「シリウス=オリオン」は言えないにしても、複数とエッチなことしてたなんて思われたくなくてそう叫んだが、「浮気確定」とも取れる発言によって、図らずも火に油を注ぐことになってしまった。「浮気を認めるんだなっ!」 怒髪天を衝く勢いでくわっと目を剥き、声を張り上げながら怒りをほとばしらせるゼウスに、ナディアは彼の逆鱗に触れてしまったようだと縮み上がった。「あううっ!」 さっきの素股で濡れてはいたが、無遠慮に膣内に指を挿入されてしまって、ナディアは喘いだ。「処女膜はある…… でも……」 ゼウスはナディアの純潔を確認した後も、指を荒々しく動かし続けてナディアの膣内をまさぐった。「あっ……! あっ……!」 いつもよりも乱暴な手つきだが、指で良い所をグリグリされると、ナディアの性的興奮が高まっていく。 おまけに愛液をまとわせた親指がナディアの恥ずかしい芽も淫らに刺激してくるので、イきそうになるが、ナディアが限界を越えそうになったところで、ゼウスが指の動きを止めてしまう。「な、何で……」 膣内を痙攣させて潮をぷしゅっと吐き出しながらも、届きそうで届かなかった絶頂の気配に悶々としてしまうナディアは、ゼウスに物欲しそうな目を向けてしまう。 ゼウスの怒りは少しだけ和らいだようにも見えたが、きつくこちらを睨みつける視線から、彼がまだ怒っているのがわかる。「メリッサ、全部正直に答えて。シリウスと『オリオン』以外に男は全部で何人いたの? そいつらとどこまでしたの? 処女だったけど、俺と同じよう
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6 あなたの大切なものを俺にください

「番に……」  つぶいたナディアの唇を再びゼウスが奪い、彼は彼女を抱きしめて、先ほどからはち切れそうになっている熱い楔をナディアの体にグイグイと押しつけてきた。 「他の男なんか見ないで。俺だけ見てて。  メリッサが獣人だと知って色々と思うところはあるけど、それでもでもいいんだ。全てを裏切っても構わないくらい、俺は君を愛している。  正直、メリッサが獣人だと知って、喜んでいる部分もあるんだ…… メリッサの番になれれば、君の唯一無二になれるから。  俺をメリッサの一番大切な場所に置いてください。君が獣人であることも、他の男とキスや色々していたことも、全部許すから。だから、あなたの大切なものを俺にください」  最後の方は懇願めいた口調になっていた。 「ゼウス…… 嬉しい……」  愛する人からの求愛に、胸が熱くなったナディアはほろりと涙を流した。  本当の自分を知っても愛しているというゼウスの言葉は、ナディアが心の底から欲しかったものだ。  泣いてしまったナディアに、ゼウスは先ほどの責め苦とは全く違う優しさの染み込んだとろけるようなキスをして、口内を味わいながら、自身の手を彼女の下腹部に移動させた。 「あ…… ん……」  舌と舌が絡み合う粘液の音と、ゼウスが指をナディアの膣内に侵入させて立つ水音の間で、二人がこぼす吐息や喘ぎ声が部屋の中に響いた。  甘すぎるキスや、背中を撫でられたり膣内を指で愛撫される感覚に、ナディアの心と体が昂り、『ゼウスが欲しい』と示すように、軽く開いた股間を彼の体に当てて腰を揺らめかせた。  ナディアの準備が整ったことを知ったゼウスは、彼女の体を改めてベッド上に横にして、脚を開かせ、自身をその間に位置取らせた。  先ほどから甘く痺れている秘唇にゼウスが熱杭を当てがい、慣らすようにその入口を擦ってナディアの愛液をまとわせている。 「あ……」  心臓をこれ以上なくドキドキさせながら、ゼウスの訪れを今か今かと待っていたナディアだったが、こんな時にも関わらず、はたと、今更ながらに重要なことを思い出してしまった。 「どうしたの?」  ナディアが急に『しまった』とでも言いたげな表情になったことに気づいたゼウスが、声をかけた。 「あの…… 奴隷になる前に関係しちゃうと、まずいんじゃ……」  ナディアだって、これ
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7 名前を変える日

 アークは、雷少女こと『魔女』はもう来ないと言っていたが、アークに濡れ衣を着せられていた本人であるマグノリアは、新しく部屋を借りてゼウスと暮らし出したナディアの元に度々現れては、「調子はどう?」と、人間に擬態して暮らすナディアを気にかけてくれた。 困ったことを相談すると助けてくれるので、魔法使いマグノリアはとても頼もしい存在だ。 それから、首都にいた頃に『魔法の塩』をくれたりして助けてくれた魔法使いのノエルも、お忍びでナディアたちの所に来てくれた。 ノエルからはシリウスの詳細を伝えられている。 シリウスは魔法でナディアの記憶を失ってしまったそうで、「ゼウスに報復しに来ることはない」という話だった。 けれど、何かの拍子にナディアのことや、ゼウスと恋敵だったことを思い出してしまうかもしれないので、シリウスとはもう会わないでほしいと言われて、ナディアはそれを了承した。 ノエルは、再び『魔法の塩』を定期的に持ってくることや、「何かあれば私も力になります」と言ってくれたので、魔法使いが二人も協力してくれるなら、この先何とか生きていけるのではないかと、ナディアはシリウスのことで罪悪感を感じつつも、ゼウスとのこれからについては楽観的に考えている。 ただし、時々ゼウスは、ナディアにシリウスとの接触があったことを思い出すらしく、「死ぬ時は一緒だよ……」と仄暗くなるので、シリウスに顔付きが似ているノエルが訪れた後などは、ゼウスがまた暗黒面に落ちないように要注意だった。 ****** 本日は、ゼウスとの結婚式だ。「早くけじめをつけたい」というゼウスの意向で、結婚式の準備は急ピッチで進められた。 ゼウスが南西支隊勤務に変わらなければ首都で結婚式の準備をしていただろうし、ナディアは毎日楽しく準備を行った。 そうして夏が終わらないうちに、二人は青い空と海を背にした白い教会で式を挙げた。 ウェディングドレスは、引越し先の大家さんから「娘が使ったものでよければあるよ」と言われ、ご厚意に甘えた。 サイズを直し、結い上げた髪に南国に咲く生花を挿せば、文字通り『花嫁』になれた。 花婿のゼウスは純白のタキシード姿だ。銃騎士は隊服で挙式をすることもあるようだが、必ずそうしろという決まりがあるわけでもない。ナディアに配慮したのか、ゼウスは挙
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《逃亡編》1 第三の選択

 ――どうなるかわからないけどゼウスに会いに行くか、それともここに残ってシリウスと番になるか……  選択を突きつけられたナディアは、どちらも選べずに無言のまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。  波の音に混じって、海面に雨粒が落ちる音が段々と多くなってくる。 「私…… あなたと一緒に行きたい」  雨足が強くなり、せっかく乾かしたナディアの服が濡れ、マグノリアの全身もかなり濡れ始めても、彼女はナディアが答えを出すまで待ってくれた。  しかしマグノリアは、意外そうな顔を見せた。 「いいの? 今選んでおかないと、後からゼウスかシリウスのどちらかと一緒になりたいと望んでも、こじれて上手くいかなくなるかもしれないわよ?   彼らと一緒になりたいなら、今選ぶのが最善だわ。時間が経つごとに状況は悪化する。私と来るなら、二人のどちらとも番にならないぐらいの覚悟がないと」  ナディアは一度目を強く閉じてから、迷いを振り切った。 「ええ、それで構わないわ」  銃騎士であるゼウスと別れた方がいいであろうことは常に頭の片隅にあって、今はその絶好の機会だ。  それに、会いに行ったところでゼウスがナディアを受け入れてくれるとは限らない。斬ったのはゼウスが体を操られたからだとしても、抜刀したところまでは彼の意志だ。  獣人と告げた時にゼウスが一瞬垣間見せた怒りを、ナディアは目の当たりにしている。  もし、獣人であることをゼウスが許してくれなかったら―― 恋人には戻れないと拒絶されたら、どうしたらいいのか。  色々あって疲れ果てていたナディアは、逃げた。楽な道を選んでしまった。もうこれ以上傷つきたくないと思ってしまった。  だからといって、自ら進んでシリウスに抱かれることもできそうになかった。  一度我慢しさえすれば心は変わる。わかっているけれど、無理だと思った。ナディアはまだゼウスを愛していた。 「わかったわ。私はあなたの意志を尊重する。あなたは少し休んだ方がいいのかもしれない……  運命ならば、また引き合うこともあるでしょう」  瞬間移動のためにマグノリアが差し出してきた手を、ナディアは取った。  ******  雨音を聞いて、シリウスは眠りから目覚めようとしていた。  窓を閉めなければと思いながら、隣にいるはずの温もりに手を伸ばそうとして――彼女
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2 検証

「大変大変大変だよーっ!」  まだ夜も開けきらない早朝、キャンベル伯領の中でも一番大きな都市にある銃騎士隊屯所の一室に、少し慌てたようではあるが、鈴を転がすような少年の美しい声が突如として響き渡った。  その部屋は獣人による大規模な襲撃の応援に駆けつけた二番隊長代行と、その副官のために用意されていた特別室だったが、本来使用するべき二人以外にも何故かしれっとレインもいて、ソファの上で熟睡していた。  昨夜は日付をまたぐほどに勤務時間が押してしまったレインは、報告のためにジュリアスの元に訪れた後、座り心地のよすぎるソファの誘惑に負けた。「少しだけ横にならせてくれ」と言った後に、レインは深い眠りに誘われてスヤスヤと寝入ってしまった。  横になる前、こちらを見つめていたフィーの顔には、「ネルナ、ハヤクデテイケ」と恨みがましそうに書いてあった気がしたが、出来た上官であるジュリアスがレインに上掛けをかけてくれたので、その優しさに甘えてこの時間まで休んでいた。  ところが、叫びながらセシルが瞬間移動で現れた場所は、眠るレインの体の上だった。 「ぐえっ!」  無防備に寝入っていたところにいきなりドカリと重りが乗ったのだから、カエルが潰れたような声を出してしまったのは自然の成り行きだろう。 「あー、ごめんごめん。間違えた。こっちじゃなかった」  間違えたと言うわりには上に乗った少年はすぐにはどかず、一度レインに目が覚めるようなきつめの力で抱きついてから、「ジュリ兄~!」と標的を彼の長兄に変えてレインの上から降りた。  無理矢理起こされたレインは、間違いじゃなくて絶対にわざとだなと確信し、額に青筋が浮かびそうになっていた。レインは寝起きの不機嫌すぎる状態で、突然現れた憎きセシルを見つめた。  セシルは、騒がしい声で目覚めていた様子のジュリアスに既に抱きついて、ベッド上の兄の腕の中にひしっと収まっていた。セシルの抱きつき方はレインにしたものよりも柔らかいようで、ジュリアスはレインのように苦悶の表情になることもなく、胸に飛び込んできた弟を抱きしめ返して、頭まで撫でていた。  隣のベッドで眠っていたフィーも、うるさいセシルのせいで目覚めたようで上半身を起こしていたが、襟足あたりまでの長さの髪は少し乱れているし、まぶたは完全には開いてい
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3 兄弟だけの会話

「そんな感じで二人は逃避行したわけだけど、実はこの後シー兄は、えーと、メリッサさんに逃げられちゃったらしくて……」 セシルがナディアの真名を言うのを避けたのは、この場にいるフィーがナディアの真名や彼女が獣人であることを知らないからだろう。 ジュリアスの意向により、弟シリウスが獣人王シドの娘ナディアに恋をして嫁にしようとしていることは、自分の副官には隠しておきたいそうだ。 レインも知っていることを大事な副官に伝えないことについては違和感を感じるが、獣人に思うところのあるフィーには極力隠しておきたいのだろう。 いずれ伝えるつもりではあるが、まだその時期ではないと――『過去視』を見ていないフィーは、たぶんあまり意味がわからずに困惑したままのようだが、レインたちの会話の邪魔をしないようにと口をつぐんでいる。 二番隊の特殊性から、他の隊員の任務については承知しないままのことも多い。 専属副官としても私生活でもジュリアスを心から信頼しているフィーは、詳細を伝えようとしないジュリアスに異を唱えることもなく、彼の判断を尊重してこの場のやり取りを見守り続けていた――「それで今朝方、夜も明けきらないうちから『彼女がいなくなったから探してくれ!』って血相を変えたシー兄が俺の所にやって来て…… 一応居場所は特定できたんだけど、でも連れ戻すのかと思ったらそうじゃないんだよ。シー兄ったら彼女のことはそのまま放置で、一転して南西列島に向かったと思ったら、今はゼウス先輩のこと殺すつもりで暴れてる」「それを早く言え!」 叫んだのはレインだ。「大変だ!」と言いつつセシルが落ち着いているからレインものんびりと構えていたが、結局ゼウスに命の危機が迫っていることに変わりはなかった。「今はノエ兄が来てくれて止めてるから大丈夫だよ。でもノエ兄に、自分じゃシー兄を止めきれないかもしれないから、ジュリ兄を呼んできてくれって頼まれたんだ」「わかった。すぐに行く」 言いながらジュリアスが寝衣にしていたシャツを脱ぎ捨てて着替え始めた。ジュリアスは鍛え上げられて均整の取れた、彫刻の上の上を行く神懸かり的な美しき裸身をさらしている。「ひゃっ!」 フィーが驚いたような声を上げてから顔を手で覆った。手の平に隠れていない顔の部分が赤い。『こいつらお互いに裸なんか見慣れてる
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4 疑問解消せず

 ハロルドは支隊本部の集会室で雑魚寝中だった。 集会室は学校でいうところの体育館のような場所であり、隊の活動以外でも、島民の避難所として使われることもあるかなり広い部屋だ。 現在はゼウスを中央に置き、その周りを囲むようにハロルド、支隊長フランツ、副支隊長専属副官のリオル、そして頼れるオネエこと副主幹ショーンの寝床が、四方に位置していた。 最初はこの輪の中にカイザー副支隊長もいたが、あまり長く持ち場は離れられないと、自分の担当する島へ帰ってしまっている。リオル副官は貸し出し中だ。 しかし現在フランツ支隊長の寝床は無人である。なぜかというとハロルドの寝床にフランツが侵入して寝入っているからだ。就寝時は別々のはずなのに毎夜気づけばいつもこれである。 現在も美形支隊長に背後から抱きしめられているという非常にマズイ状況で眠りが浅く、ハロルドは明け方頃にはもう目が覚めてしまっていた。「ちょっと止めてください」とか「狭いので」とか理由を言っても狸寝入りを決め込むのでどうしようもない。ハロルドは最近のフランツの行動には本当に本当に困っていた。 そもそもなぜ集会室に寝具類を持ち寄り雑魚寝していたかといえば、アーク二番隊長の助言があったからだ。 雷少女――正体はブラッドレイ家の次男シリウスだと思うが――の再度の襲撃により、ゼウスが殺される可能性があるので、守るようにと言われたのだ。 アークは雷少女が自分の息子だとは認めなかった。アークは、「アレは不思議な力を持つ『魔女』であるマグノリア・ラペンツ男爵令嬢だ」と言い張った。 その令嬢の名前はハロルドも知っていたが、確か彼女の二つ名は「聖女」だったはずなのに、アークは真逆のことを言う。 マグノリアには女色の気があり、今回はゼウスの恋人に目をつけて攫ってしまったのだろう、とアークは言った。 それに反発したのはゼウスだった。マグノリアはゼウスの姉アテナの親友であり、ゼウスとも昔交流があった。確かにアテナとマグノリアは一緒に風呂に入ったり一つのベッドで眠ったりなどして、仲はよかったが、二人はそのような関係では決してなかったとゼウスは語った。 何よりも故人であるし、そもそも黒髪黒眼の容姿をしていたとしても、あの少女はゼウスの知っているマグノリアの顔ではなかったという。全くの別人だったとゼウスは主張した。 ゼウス
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5 襲来

 集会室は一緒に雑魚寝している者たちの寝息以外は静かだった。色々と考え始めてしまい眠れなくなっていたハロルドは――その気配を感じて真っ先に外に飛び出した。 ハロルドに次いでフランツ支隊長も外に出てくる。抱き枕がいなくなったことに気づいたから起きたのか、それともハロルドと同じくその気配を感じ取れたから起きたのかはわからないが。 背後の集会室ではゼウス他二名はまだ就寝中のようだった。「来たか」「来ましたね」「エヴァンズの姿は変えておいた」「ありがとうございます」 もしもの時のためにと、アーク隊長はゼウスの姿が全くの別人に見えるような魔法を託してくれた。フランツはその魔法を発動させてから外に出てきたようだ。(流石は支隊長。判断が的確だ) 集会室は支隊本部本棟と繋がる渡り廊下があるくらいで、周囲にはほとんど何もない。夜明け直前の薄明るくなり始めた支隊本部の敷地内に、瞬間的に何度も走っては消える眩い光が現れた。 照らし出される光の中にいるのは、あの時の白金髪の美しい青年と、それからその青年に似た、同じく白金髪の絶世の美少年だ。(……やっぱりそうだった。メリッサさんを攫ったのはノエル君のすぐ上のお兄さんのシリウスさんだった。一緒にいるのはノエル君のすぐ下の弟さんで、次期宗主配のセシル様だ) セシルは現在銃騎士養成学校の一年生でありハロルドの後輩にあたるのだが、次期宗主の婚約者であるため、畏れ多いので様付けしている。 光が走るたびに、雷撃と、雷撃を覆うように空中に広がる大量の水が見えた。セシルが得意なのは水魔法のようだ。 セシルはシリウスの腰あたりにしがみついて彼の歩みを止めようとしているようだが、シリウスは全く止まらず、セシルを引きずるようにして真っ直ぐにこちら――集会室に向かってくる。美形すぎる顔が怒りに満ちていて、あの時と同じく滅茶苦茶怖い。 なぜか、雷の爆ぜる爆音や、セシルが口を大きく動かしてシリウスを止めようと叫んでいる声は聞こえない。きっと音を消すような魔法を二人のどちらかが使っているのだろう。 シリウスの目的が何かなんてわかる。ゼウスを殺しにきたのだ。 何かあってもすぐに動けるように、ハロルドだけではなくて支隊長たちも隊服で就寝していた。ハロルドは隊服に忍ばせていた秘密兵器を取り出すと、その魔法を発動させた。 *****
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