「早く行ってください」 「う、うん……」 ノエルが後ろにいる人物をちらりと見やって声をかけると、彼はコクコクとうなずいてから近くの建物へと走って行った。 するとシリウスが動いた。走るゼウスに向かって雷の矢を何本も放つが、彼に届く前にノエルが風魔法で全てを地面に落とした。 「ノエっ! 邪魔をするな!」 「兄さん! やめてください! ゼウスは私の大切な友人なんです!」 「黙れっ!」 いさめてもシリウスの怒りは全く収まらない。雷の矢が駄目ならと、今度は天空から雷を落としていて、激音が周辺に響く。その攻撃は避けられていたが、シリウスは本気でゼウスを殺そうとしていた。 「ハロルドォォォォオオォォッ!」 突然、その場にシリウス以外の男の叫び声が響いた。 見れば額に青筋を浮かべた金髪碧眼の美形銃騎士が、切れ長の目にこれでもかと怒気を宿らせながら、鬼気迫る勢いでゼウスを捕獲して地面に押し倒していた。 男――フランツはゼウスに馬乗りになると、隊服の胸あたりに手を突っ込んで中をまさぐり始めた。 「ちょっ! 駄目っ! やめてっ! 支隊長ぉぉぉっ!」 ゼウスが叫んでいる。 「あったァァァッ!」 フランツは掴んだ拳を空中へと高く掲げた。その手の中には札に似た紙切れ――魔法使いの依り代――があった。 それは、父アークの依り代だった。 フランツがすぐさま依り代を二つに破ると、ゼウスの姿が一瞬で友人のハロルドに変わった。 (ハルが身代わりになっていたんですね……) フランツはまるで人攫いのようにハロルドを肩に担ぐと、近くの建物に向かって一目散に駆け出していった。 その間もゼウスに扮したハロルドへの攻撃は続いていたが、ノエルは彼らの周囲に盾を張って防いでいた。ゼウスではないとわかった時点でシリウスの攻撃は止んでいる。 「どこだァァァァァァ! 出て来い!」 けれどそれは標的ではなかったからで、シリウスの殺意は消えていない。地を這うようなシリウスの怒鳴り声が周囲に響き渡る。 『ノエ兄! ゼウス先輩は集会室の中だよ! 父さんの魔法で今は別人の姿!』 頭の中にセシルの精神感応の声が響き渡るのと同時に、一つの像が脳裏に浮かぶ。 ――床の上にいくつか寝具が敷かれていた。寝そべ
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