All Chapters of その結婚お断り~イケメンと三角関係になり結婚をお断りしたらやばいヤンデレ爆誕して死にかけた結果幸せになりました~: Chapter 191 - Chapter 200

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9 修羅場

 ノエルの告白に、ゼウスは呆気に取られた様子だった。「どういう意味……?」「そのままの……意味です。私の父は人間ですが、母が獣人なのです。銃騎士隊の仕事中に父が母に一目惚れしてしまい、魔法も使って疑われないようにしながら、人間として夫婦になりました。ですから私の兄弟全員が――」 ノエルは最後まで言葉を言うことができなかった。ゼウスがソファに立てかけていた剣を掴んで抜刀し、いきなり斬りかかってきたからだ。 ゼウスは、ナディアが獣人だと知って以降は、出会った時にはいつでも処置できるようにと、私服姿でも愛用の剣を持ち歩く癖がついていた。「ノエル! お前っ! お前ぇぇぇっ!」 ナディアの一件から、安全だと言われている首都にも獣人が潜んでいることがあるのだと知ったゼウスは、ノエルの言葉を信じたようだった。 ゼウスの激高はあまりにも急すぎて、隣のアテナもかなり驚いている。 ノエルはゼウスが斬りかかろうとした時には「盾の魔法」を展開させていたから、血飛沫が舞うことにはならなかった。「裏切り者っ! このっ! 裏切り者がぁぁぁっ!」 しかしゼウスが何度も剣を振りかぶって見えない壁を壊そうと躍起になるものだから、その影響でノエルの前に置かれていたテーブルは破壊された。「ゼウス! 落ち着いて! ゼウス!」「姉さん! そいつから離れろ! 俺たちはずっと騙されていたんだ!」「違うの! 私は知っていたの! 全部わかった上でノエルと結婚したの!」「何だって! 何でそんなことをっ!」「愛しているからよ!」「愛、して……」 ゼウスの動きが一瞬止まった。「ゼウスだって本当はナディアちゃんを愛しているのでしょう? 素直になって!」「そんなこと…… 認められるものかっ! 姉さん! 獣人は俺たちの仇だぞ! 忘れたのか?!」「忘れてない! 忘れてないわ! 私は一度だってあの時のことを忘れたことはないわ!」 アテナはそう叫んで泣き崩れてしまった。ソファに座り込むアテナをノエルが支える。「ノエル! 離れろ! 姉さんから手を離せぇぇぇっ!」 ゼウスは見えない壁を斬ろうと、再び剣を叩きつけ始める。「離さないわ! 私はノエルから絶対に離れない!」「姉さん! 目を覚ませっ!」「目を覚ますのはゼウスの方だわ! どうしてナディアちゃんを受け入れないの! この
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《第二部 ブラッドレイ家編》1 宣誓

 ナディアはシリウスと共にアンバー公爵家の庭を歩いていた。 先ほどシリウスに手を取られて歩き出した時のまま、ナディアは彼と繋いだ手を何となくそのままにしていた。 繋いだシリウスの手の温かさで、処刑される父シドのことを思い出して泣いた心が、少し癒されるように感じられたから。 隣を見れば、いつもの少年姿ではなくて、天空の青年神のような本来の神々しき美貌を持つ姿に戻ったシリウスがニコニコと微笑んでいて、とても機嫌がよさそうだった。 彼の全身から幸せオーラがにじみ出ていて、まるで春の盛りのような麗らかな空気感を全身で体現している。それが周囲にも広がっていくようだった。「幸せ♡」 シリウスのつぶやきにナディアは無言になってしまった。シリウスと行動を共にすることにしたのは生き延びるためであって、彼と番になることを了承したわけではない。 シリウスもそれはわかっているはずだが、まるでこの世の天国です、みたいな様子のシリウスを見ていると、申し訳なくなる。 自分への『番の呪い』――正式な番ではないにも関わらず相手を番だと思ってしまうこと――にかかっているシリウスに「待て」をするのは酷な話だと、彼と同じく獣人であるナディアも理解しているつもりだ。 とにかく命の危機を脱したら、早いところ「決着」をつけて答えを出さなければと、ナディアは思った。「これからどうするの?」 ナディアは内心で様々なことを考えながら、シリウスへの言葉かけとしては無難な話題を選んだ。「今どこへ行こうかなって色々考えてるんだけど、ナディアちゃんを殺したがっている奴らからは極力離れた方がいいから、できるだけ遠くがいいかなって思ってる。 とりあえず、ほとぼりが覚めるまではこの国からは出た方が安全かな」「そう……」 シリウスの言葉を聞いてナディアが最初に思ったことは、ゼウスとはしばらく会えなくなるな、ということだった。 そんなことを頭の中で考えていると、隣のシリウスがピタリと足を止めた。 どうしたのだろうと見上げれば
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2 出産

「ママーっ!」「あっ! レオ! 邪魔になるから外に出てろって言ったのに!」 レオハルトが素早い動きで少年の脇を通り過ぎ、部屋の中の女性――おそらくブラッドレイ兄弟の母親であるロゼ――の元へ向かう。 ロゼがいるベッドのそばにはもう一人、灰色の髪を長く伸ばした六、七歳くらいのやはり美しすぎる子供がいた。髪が長いのとなぜかスカートを履いているので見た目は完全に女の子だが、雄である。 レオハルトを追いかけている少年がブラッドレイ家五男のカインで、髪の長い子が六男のシオンだろうと、ナディアは以前シリウスから聞いていた家族情報からあたりをつけた。「カイ! お産の状況はどんな感じだ?」 シリウスがカインにたずねながらどこか慌てたように部屋の中に入っていくので、ナディアも後に続いた。「何時間か前からもうずっと陣痛で苦しみっ放しだよ。魔法で痛みは取ってるけど、赤ちゃんの方が弱ってる感じがして全然出てこない」「赤ちゃんにも回復魔法を何度もかけてるけど、よくなってもすぐに元気がなさそうになって……」 カインの後にシオンが言葉を続ける。カインだけではなくてシオンも魔法が使えるようだ。「駄目…… また来そう……」 兄弟たちが話していると、ベッドに仰向けに寝ていたロゼが弱々しい声を上げて、ベッドの横に備えつけてあった金属製の手すりを掴む。普通ベッドにこんなものはついていないから、出産用に用意したのだろう。「もう来るの? さっき陣痛の波が来たばかりなのに……」「感覚がすごく短くなってるってことね」 シオンの言葉にナディアが口をはさむ。 そうこうしているうちに、ロゼがうなり声を上げ始めた。ロゼの掴む金属製の手すりが、折れるのではないかというくらいに軋んだ音を立てている。ロゼは壮絶な叫び声を上げながら痛みに耐えていた。(相当痛そう…… この感じだと陣痛の末期かも) ナディアは里で何度もお産の手伝いをしたことがあったので、だいたいの流れは把握していた。
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3 嫌じゃない

 出産後も様々な後処理があるはずだが、「後は僕たちがやるから、疲れただろうから兄さんたちは休んでで」と、しっかり者っぽい五男カインに言われて、ナディアがシリウスと共にやって来たのが、ブラッドレイ家のリビングだった。「もうお昼だから、愛の逃避行はお腹を満たしてからにしようか♡」「ナディアちゃんは座ってて♡」とソファを進められ、シリウスはリビングと続きになっているキッチンに向かうと、鼻歌混じりに料理をし始めた。(オリオンの作ったご飯を食べるのも久しぶりね……) 懐かしい風景だと思った。およそ二年前に首都まで連れて来られて半同棲をしていた頃は、シリウスが食事の用意や身の回りのことなど全部やってくれた。姿こそ違うが、キッチンに向かうたたずまいは紛れもなくシリウスのものだとわかる。「お待たせー♡」 魔法も使いながら手早く作って出してきた料理がステーキだった。魚肉とベーコンのスープもついている。ナディアはシリウスが作ってくれるこのスープが好きで、その後自分でも真似て作るようになった。 シリウスは他の家族の分も用意していたが、ロゼが休んでいる部屋に彼女の分の食事を届けたところ、他の弟たちには「母さんが食べ終えてからにする」と言われたそうだ。母親と生まれたばかりの弟から離れたくない様子だったらしい。「先に食べよっか」 そう言われて、二人で食卓につく。「美味しい。ありがとうシリウス」「うん、よかった」 真向かいに座ったシリウスはナディアを見ながらずっとニコニコしている。その表情もあの頃と変わらない。「俺、ナディアちゃんのために毎日ご飯作るよ。洗濯も掃除もぜーんぶやるからね」(そうだった……) 半同棲していた頃は「生活の全ては保障する」と最初に言っていた通りに、シリウスが何でもやってくれた。 しかしとても助かった反面、甘やかされてどんどん駄目になっていく気がする、とも思ったものだった。「私だって身の回りのことくらい自分でできるわよ」「ナディアちゃんがしたいことは止めないよ。お料理でも何でも、やりたいことはやったらいい。ただ基本は俺も頑張るよって話。そもそもナディアちゃんが里に帰れなくなったのって俺のせいだからね。償わせてください。一生そばにいます」「そのことなんだけど……」 ナディアは里に帰れなくなって以降に自分に起きた気持ちの変化を、シリウス
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《第二部 終わりと始まり編》1 行ってはいけない

「ナディアちゃんはここで待ってて! 弟たちと一緒にいて! 俺が戻ってくるまで絶対にこの家から出ちゃ駄目だよ!」 ナディアは青ざめたままのシリウスに肩を掴まれて、強い口調で言葉をかけられた。「待って、どういうこと?」 シリウスはナディアの疑問の声には答えずに、ナディアから手を離すとそのまま瞬間移動で消えてしまった。「オリオン……」 常になく慌てていたシリウスの様子から、何かとんでもないことが起こったのではないかとナディアは不安になった。 窓の外を見れば、そこにいたはずの黒い鳥の姿も消えていた。 ナディアは、あの鳥はたぶん魔法使いが作り出す鳥だと思った。 マグノリアのものは白かったから、別の魔法使い――ブラッドレイ家の誰か――のものだろう。シリウスに何かを伝えに来たのだ。 シリウスはナディアには何も言わずに行ってしまったが、シリウスが青ざめた顔で「兄さん」とつぶやいていたことから、もしかしたら、シリウスの兄ジュリアスの身に何か悪いことが起こったのではないかと思った。 シリウスが兄と呼ぶのはジュリアスだけだ。『未来視』でジュリアスに何かよくないことが起こる未来を見たのかもしれない。 ジュリアスは、清く正しく美しくを地で行くような聖人君子然とした超絶美麗な見た目に反して、中身は一筋縄ではいかない食えなさすぎる男だが、首都にいた頃はナディアが人間として生活できるように色々整えてくれたし、世話にもなった。(「ここにいて」って言われたけど、同じく人間社会で暮らす獣人仲間でもあるわけだし、私にもジュリアスのために何かできることはないかしら……) そういえば、と、不意にナディアはなぜシリウスが今自分に会いに来たのだろうと思った。 時刻はもう昼で、父シドの処刑が始まるかもう終わったかはわからないが、銃騎士隊にとっては敵の総大将とも言うべき獣人王シドを屠る大事な場面だ。 たぶんシリウスもシドのそばに詰めていなければいけないはずなのに、彼は銃騎士隊を辞めてきたと言った。 これはシドが捕まったことを新聞で見て知った時に思ったことだが――人間が、いや、たとえ獣人が何人束になってかかった所で、シドを捕まえることはまず不可能だ。絶対に魔法使いが関わっているはずだと思った。 今回のシドの捕獲劇には必ず魔法使い、即ちブラッドレイ家の面々が関わって
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2 ごめんね

 処刑場にたどり着いたナディアは馬を乗り捨てると、処刑場広場の周囲に円環状に建てられている建物に近づいた。人の姿はまばらで、中にいる人々のほとんどが逃げ出してしまったのだろうと思った。 中にあった階段を上り通路を抜けて観覧席まで出ると、処刑場の広場の片側を全て覆うような、巨大な暗闇がそこに鎮座していて驚く。(何あれ魔法?) ナディアは観覧席のガラス窓に近づいた。 眼下を見下ろすと、緊張の面持ちで立ち尽くすシリウスと、彼と同じような状態のノエルとセシルの姿が見えたが、シドとジュリアスの姿は見えなかった。 ふと、視線を感じた。その方向を見れば、離れた観客席のガラス窓付近にシリウスの父アークがいたが、彼とは一瞬だけしか視線が合わなかった。アークはすぐに広場に顔を向けた。 アークのそばには、アークの隊服の上着を羽織りながら、暗闇を一心に見つめて泣いている、長い灰色の髪の女性が見えた。「――ジュリアス!!」 灰色の髪の女性が、闇の空間に向かってジュリアスの名を呼んでいる。ナディアがいる場所からでは匂いでわからないが、たぶんこの女性はジュリアスの恋人ではないかと思った。 女性が呼びかける先、あの闇の中にジュリアスがいるということは、シドも一緒にいるはずだ。 ナディアは広場に行く方法を探した。ガラス窓の一部が壊れていて、そこから下に行けそうだと思ったが、距離がある。それよりも近い場所に下へ向かう階段を見つけたので、そこまで走った。 階段を下りて、開いていた扉から外に出ようとしたところで、ナディアは広場にある暗黒の空間に異変が起こっていることに気づく。 暗闇の空間を作り出している壁が、まるで自身のその闇を払うかのように、いくつもの隙間が生まれていて、それが見る間に広がっていく。 闇が消えていくとその間から――ジュリアスがシドの胸に剣を深々と突き刺しているのが見えた。 その光景にナディアは目を見開く。 直後に大柄な体躯の銃騎士がシドに飛びかかり、大剣を振るって――シ
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3 あのクソ親父

 ナディアが死んだ。 シリウスが治癒魔法を何度もかけていたが、ナディアは息を吹き返さなかった。 ノエルは、次兄シリウスの嘆きの声が響く中、長兄ジュリアスとシドの戦闘に巻き込まれて生き残ったヴィクトリアに、突然おびただしいほどの魔力が現れたことに気づいた。 ヴィクトリアの周囲に氷の塊が出現する。それは明らかに魔法によるもので、それを作り出したのはヴィクトリアに他ならなかった。 魔法使いとして覚醒したヴィクトリアは、氷魔法で作り出したいくつもの氷柱を――ナディアを撃ったゼウスに向かって放っていた。 氷柱がゼウスに当たるその直前、ノエルは転移魔法を使ってゼウスのすぐそばまで移動すると、「盾の魔法」を展開させて攻撃を弾いた。「ゼウス! なぜナディアを撃ったのですか!」 ノエルはヴィクトリアからゼウスを守るように、「盾の魔法」が作り出す結界の内側に立っていた。際限なく放たれるヴィクトリアの容赦のない氷魔法攻撃を防ぎながら、ノエルはゼウスにたずねた。「ノエル…… ナディアは…… 死んだのか?」 ゼウスは撃った理由を説明するのではなくて、先にナディアの安否をたずねてきた。「……シー兄さんが治癒魔法をかけましたが…… 戻らなかったようです。心臓は完全に止まっていて、息もしていません……」「魔法で何とかならないのか?」「治癒魔法では傷を治療するのみで、既に死んでしまった者を蘇らせることはできません……」 ノエルはそこから先の言葉を言おうとして、口をつぐむ。 禁断魔法の中には死者を蘇らせる魔法もあるが、その代償として千人が死ぬと言われている。 ノエルがマグノリアたちにかけている「行動制限の魔法」――禁を犯せば対象者と術者のみが死亡する禁断魔法――に比べたら、その被害は桁違いだ。 そんなおそろしい魔法、使えるわけがない。 ゼウスとのやり取りの最中にも、荒削りながらも目覚めたばかりの魔法の使い方に少し慣れたのか、ヴィクトリアの攻撃魔法の威力が増していく。 気を抜いたら「盾の魔法」を破壊されそうなほどに凄まじい。 魔法を使うために必要な魔力は、個人の資質やその時の状態にもよるが、体内を巡る気の力が元になっている。 それから、魔法の威力は、その魔法に込める魔力量によっても大きく変わってくる。 怒りにまかせて攻撃を放っているらしき
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4 アーク・ブラッドレイという男

 ヴィクトリアが放った氷柱がゼウスに当たるその直前、「盾の魔法」を使ってゼウスを守ったのは、アークの意に背き、ゼウスの姉アテナと婿入り結婚をして名字が変わってしまった三男ノエルだった。 アークは最初、ノエルとアテナの結婚は賛成だった。 他の息子たちが、よりにもよってシドの娘や、「血」にうるさい貴族――次期宗主や貴族令嬢――と結婚したがっていたことに比べれば、肉親が弟しかいない平民のアテナは、人間社会に潜む獣人の結婚相手としては悪くない。 長男や四男の場合とは違って、アテナが既に自分たち家族の秘密を承知して受け入れているのも好印象だった。『悪魔の花嫁』になったアテナが外部に秘密を漏らす可能性も低い。一家の正体が発覚すれば、アテナも自分たちと同様に処刑の憂き目にあう。 ノエルがアテナを抱いた時点で、彼女と自分たちはもはや運命共同体のようなものだった。 有名人であることは多少気にはなったが、そもそもブラッドレイ家自体が有名人の集まりだったので、目立つのはもう仕方がない。 それにアテナはかなりの資産を持っているから、これから先ブラッドレイ家の正体が世間に露呈して、全員で逃げなければならないような場合には役に立つ。 アークは、ノエルの婿入り結婚自体には不満を持ちながらも、アテナをノエルの「番」として認めたのに対し、ナディアがシリウスの「番」になることだけは、絶対に認めたくなかった。 アークがゼウスを使ってナディアを殺した理由の一つは、この先、子孫にシドの血を引き、その強さや性格まで引き継いだ魔法使いが現れてしまうことを恐れたことだった。 魔法使いは稀有な存在であるはずなのに、自分と妻との間の子供たちは全員魔法が使えた。つまりは、自分の孫やその子供たちの多くが、「獣人の魔法使い」になってしまう懸念があった。 ジュリアスがシドに勝てたのはいくつかの好運が重なっただけにすぎず、いわば「運」だった。 もしもシドが魔法を使えていたら、絶対に勝てなかった。 シリウスとナディアから繋がる系譜が、シド並みに強くて残虐で魔法が使えたら、間違いなく世界が滅ぶ。 その可能性を阻止すること、それが、「獣人の魔法使い」を生み出してしまった始祖とも呼べる自分への課題だと思っていた。 アークは息子たちの手綱を常に握っていたかった。そこから離れようとす
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5 生きていく支えになるもの

 ノエルはアークの所業に気づいた時のように、結界が脆くなる失態を犯さないようにと、「盾の魔法」の維持に意識を集中させていた。 ヴィクトリアの魔法攻撃がすごすぎて、それを防ぐために既にノエルは大量の魔力を消費していた。 魔力の不足を懸念したノエルは、マグノリアとロータスの二人にかけていた禁呪――「行動制限の魔法」――を解いた。 禁断魔法は通常の魔法とは違い、術者が気絶しても無効化することはない。 魔力切れを起こした場合は、術者の寿命を削ってでも禁断魔法のために常に一定の魔力を消費し続けるわけだが、それがなくなるだけでも魔力の足しになる。 この攻防はいつまで続くのか、終わった時には自分たちは死んでいるのではないかと、ノエルは頭の中で死を覚悟し始めていた。 レインが来てくれて、ノエルたちへの攻撃をやめるようにヴィクトリアを説得していたが、彼女はレインを受け入れなかった。  マグノリアたちがいなくなり、シドとナディアが死んで―― 今や処刑場において、ヴィクトリアの味方とも呼べる存在は、レインだけではないかとノエルは思っていた。 その唯一の存在の呼びかけを聞き入れないのならば、強い思念で攻撃を続けているヴィクトリアを、穏便に止める方法はもうない。 先ほどから父アークがヴィクトリアに攻撃魔法を仕掛け始めていた。 あくまでもヴィクトリアの攻撃をやめさせるためならいいのだが、もしかするとアークは、ヴィクトリアを殺すつもりなのかもしれないと思った。「ノエル、もういいよ」 ノエルの背後で泣きながらもずっと言葉は発しなかったゼウスが、口を開いた。「このままだとノエルまで俺の巻き添えで死んでしまう。彼女が殺したいのは俺のはずだから、俺が死ねば彼女の怒りも鎮まるだろう。ノエルは逃げてくれ」 ヴィクトリアは、「ナディアを殺したことを許さない」と何度も口にしている。 ゼウスの言葉を受けたノエルは、ナディアを失ったゼウスが死にたがっていることを察知した。「駄目です! 生きてください! ここであなたを見殺しにしてしまったら! 私はアテナに合わせる顔がありません! ご両親やお義兄さんを失った時の悲しみを、またアテナに味合わせるつもりですか!」「姉さんにはそれが俺の望みだったと伝えてくれないか…… 俺はもう……」「死んで全てが解
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6 セシルの考察

 セシルは残っていた自分の全魔力を、主に三兄ノエルと、それから、一部を長兄ジュリアスに譲渡した。 この処刑場で起こっている全ての出来事を把握したセシルは、兄たちを信じて、全てを委ねることにした。 レインと父のアークは、ヴィクトリアを殺そうとしていた。 ただし、レインの中にはそれでも迷いがある。 ヴィクトリアは人が変わったような状態になっているが、それは、魔法使いとして覚醒したことによるものだ。 しかし、魔法使いとして覚醒した者の全員が、あのように攻撃的になるわけではない。 ヴィクトリアは覚醒のきっかけになったナディアの死に際して、ナディアの全ての人生の記憶を「視て」いた。 どうやらヴィクトリアは、セシルと同じく「過去系の魔法」に適正があるようだ。 ヴィクトリアの中では、ナディアの過去の苦しみや悲しみと、それからヴィクトリア自身の苦しみと悲しみがごちゃまぜになって、共鳴し合っていた。 覚醒したばかりの制御しきれていない膨大な魔力がその過去の感情を増幅させていることもあり、強い恨みの感情に引っ張られすぎていて、ヴィクトリアは我を忘れたような行動を起こしていた。 もう少し魔力をコントロールする術を覚えれば、負の感情に飲み込まれて自分を見失うこともなくなると思うが―― セシルが『過去視』で感じる限りでは、シドに支配され抑圧されながら生きてきたヴィクトリアは、これまで「喜」よりも「苦」を感じることが多かった。 この事態を引き起こしてしまったのは、ヴィクトリアの置かれた状況を知りながら、そこから救う方法もたぶんあったはずなのに、放置し続けてきた自分たちブラッドレイ家の者たちにも責任があると思った。 ヴィクトリアがそばいればシドは比較的――あの男にしてみればだが――残虐な行為も抑えて穏やかそうに過ごしていた。 もしもヴィクトリアの存在がなかったら、シドによる人間たちへの被害はもっと甚大だっただろう。 自分たちはずっと、ヴィクトリアを人身御供のようにしてシドのそばに置き続け、彼女の苦しみを見て見ぬ振りをし続けてきたのだ。 家族の中ではヴィクトリアの一番近くにいたシリウスや、全女性を尊ぶ男であるノエルなどは、何とかしてやりたいと訴えることもあったが、アークが「否」と言えばシリウスはそれに従うしかなかったし、一見すると兄たちの中では一
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