その結婚お断り~イケメンと三角関係になり結婚をお断りしたらやばいヤンデレ爆誕して死にかけた結果幸せになりました~의 모든 챕터: 챕터 171 - 챕터 180

201 챕터

《第二部 公爵家編》1 薄桃色の髪の護衛

 ナディアがユトの名前を呼びかけると、彼がふわりと笑った。そうすると気品に満ちてはいたが、少し近寄り難かった雰囲気が柔らかくなって、人懐っこさが増した。「嬉しいです。覚えていてくださったんですね」「前髪が短くなっているのを見るのは初めてですけど、わかりますよ。かなり印象が変わりましたね!」 ナディアも朗らかな笑顔で返す。 以前のユトは、本当は強いくせにどこかオドオドしていて、自分に自信がないのが丸わかりだったが、今は違う。瞳が隠れるほどに伸ばしていた前髪を切ったことで、外見の印象がかなり変わったこともあるが、彼のこの変化は内面からくるものも多分にあるだろと思った。 首都から離れた後に新聞で知ったが、ユトはアンバー公爵家の次期当主になったシャルロットと結婚していた。ユトが変わったのはシャルロットと伴侶となれた影響がかなりあるのではないかと思う。 ユトには全体的に余裕が生まれていて、彼自身が現在とても幸せであることが全身から伝わってくる。彼の左手の薬指に光る指輪もまぶしい。 美しくなるのは、内面も外見も、きっと両方大事。「そんな、立派だなんて私はまだまだです。将来に渡ってきちんとシャル様のお役に立てるように、今必死で勉強をしている最中なんです」 謙遜はするが、それは卑屈とは違う。彼の自信は揺らいでいないように思えた。ナディアが最後にユトを見てから一年の間に、彼が積み重ねてきた努力に裏打ちされているのだろうと思う。 ユトは以前シャルロットのことを「お嬢様」としか呼んでいなかったと記憶しているが、現在は愛称呼びのようだ。そのことからもこの一年での二人の関係性の変化が見て取れる。「あの、シャルロット様は――」「すみません、シャル様はナディアさんには会わないと言っています」「あ…… そう、ですよね……」 なぜここにいるのかは不明だが、とにかくナディアが現在いるのはアンバー公爵邸のようだ。シャルロットの家にお邪魔しているのなら、一言くらい挨拶した方がいいのではないかと思って彼女の名を口にしたが、ユトは申し訳なさそうにしつつも、はっきりとシャルロットの意向を伝えた。 ユトがナディアに対して友好的なので忘れかけていたが、人間と偽り首都にいた頃とは状況が違う。ユトはナディアの本名を知っていたので、彼女が獣人であることはユトもシャルロットも
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2 第三の求婚者?

 一通り護衛の紹介が終わったところで、その嵐はやって来た。「見が覚めたのだね! 我が愛しの――」 ノックもなくいきなり扉が開く。手に黄色い薔薇の花束を持った、少し長い黒髪の色男が、何かを叫びながら部屋に入って来ようとしたが―― すぐにパァン! という鋭すぎる音が響いて扉が閉じられて、男の言葉は途中で遮られた。 見れば、ヴィネットが背中から取り出したらしき鞭をしならせて扉を打ち、男の侵入を阻んだらしかった。 すぐに扉に駆け寄ったヴィネットは、両手で扉を押さえて開くのを阻止している。「ヴィネちゃん!? 開けてよ! 僕を仲間外れにしないでよ!」 ドンドンドン、と男が扉を叩きながら扉を開けるようにと訴えている。「旦那様はこの部屋には立入禁止です。お戻りください」(旦那様、ということは……) 一瞬だけ姿が見えた今の黒髪の男性は、一年ほど前のアンバー公爵家のお家騒動により当代当主となった、ディオン・ラッシュ改め、ディオン・アンバーのようだ。 元公爵家嫡男ディオンは放逐されておりそれまで平民だったが、当主になる際に貴族籍に戻り、名前も元のアンバー姓に戻った。 しかし彼は公爵となっても役者を引退することはなく、ディオン・ラッシュの芸名のままで舞台俳優の仕事も続けている。「僕の花嫁に会いに来たんだ! 庭園の朝一の美しい花束と、僕の朝一のキスをお届けに!」「お戻りください」 そう返したヴィネットの言葉は淡々としているし、表情にも特段の変化はないが、扉を押さえる腕には力が籠もっていて、全力でディオンがこの部屋に入るのを阻止しているようだった。 実はナディアは、先ほどディオンが扉を開けてこの部屋に一瞬入りかけた際に、彼の匂いを捉えて、あることに気づいてしまった。(ヴィネットさんと公爵様には体の関係がある…… それも結構頻回な感じの……) ナディアは、ディオンが花束とキスを届けたい花嫁とはつまりヴィネットのことで、『でもヴィネットさんがそれを恥ずかしがって拒もうとしているのかな?』と思った。「ははーん、さては…… ヴィネちゃんったら、また嫉妬しちゃったのかな?」「違います」 ヴィネットは弾かれたように扉から手を離すと、今度こそ現れてしまった、朝なのに色気満載な水も滴るいい男系のディオンから距離を取り、壁際まで下がった。「入れてくれてありがと
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3 予知

『マズい! シー兄が勘付いた! 「未来視」だよ! 何でよりによってこのタイミングで開眼しちゃうんだろう! たぶんそっちに行くから警戒して!』  シドを幽閉中の郊外の獣人収容施設にて、父のアークと待機中だったジュリアスは、脳内に響く弟セシルの精神感応の声を聞いた。 シドの処刑執行まであと数時間と迫った所だった。 顔を動かしたジュリアスはアークと視線を交わし合った。セシルの精神感応はアークにも送られていたらしい。 部屋に気配が増えた。セシルの言葉通り瞬間移動で現れたのは、全身に殺気をまとったすぐ下の弟シリウスだった。 任務中は常に「姿替えの魔法」で「オリオン」や別人の姿に成り代わっているシリウスだが、今は魔法を解いて本来の白金髪の青年の姿に戻っている。 アークを睨みつけるシリウスの様子とセシルの精神感応の言葉から、ジュリアスは、ナディアが捕まったことをシリウスが気づいてしまったようだと理解した。『未来視』というかなり稀有な力がシリウスに発現したという話だが、喜ばしい反面、ナディアについてシリウスがどこまで気づいてしまったかが気がかりだった。(ナディアがエヴァンズと接触したことまでは知らなければいいが) ジュリアスは怒れる弟を見つめながら、シリウスがアークに攻撃を仕掛けることを最大限警戒していた。 もしもの場合は、ジュリアスはアークを守るつもりだった。アークも対応はするだろうが、魔法での防御が間に合わなかった場合、人間のアークでは獣人シリウスに勝てない。 ふと、脳内にいきなりイメージが映り込む。現在視界に映るものとは別の光景が『視える』。この現象は、魔法使いが他の者に魔法で視た光景を伝える際に起こるものだ。 ――断頭台に上がるのは虚ろな目をした茶髪の女性。 場所はシドの処刑が予定されている処刑場で、数多くの見物人が観客席に詰めている。 彼女は何も語らず、抵抗もせず、促されるまま首切り台に首を差し出した。機械の斧が落ちてきて、彼女の首が斬られる。 切断面から血が吹き出し、残された彼女の体がビクビクと痙攣している。台の下では、目を閉じた女性――ナディア――の首がゴロリと転がる…… すぐにイメージが切り替わり、今の凄惨な場面とは別の光景が脳内に映し出された。 ――茶髪の女性が泣きそうな顔で走っている。場所はやはりシドの処刑が予
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4 もう家族やめる

「俺のナディアを捕まえて、処刑場で殺すつもりだったのか! 俺に内緒で! 俺が気づかないとでも思ったのか!」  シリウスはアークに掴みかからんほどの勢いだった。ジュリアスは衝突を防ぐために二人の間に割って入った。 「シー、落ち着いて」  止めに入ると、シリウスは今度はジュリアスを睨んだ。 「兄さんも兄さんだ! どうせナディアが捕まったことを知っていたんだろ! どうして俺に知らせてくれなかったんだ! どうして隠すんだ! 兄さんの俺への信頼なんてその程度だったのか!」 「シー、違う、お前を悲しませたくなかったんだ。一番良い方法を模索していただけだ。  俺が気づいた時にはもうナディアの捕縛は上に報告されてしまっていた。銃騎士隊が捕えた獣人を逃したなんてことにはできないから、彼女には獣人奴隷になるか処刑かの二択しかなかった。だけど処刑になんてさせない。絶対に回避するから」  それからジュリアスは精神感応で、シリウスにだけこう告げた。 『今、俺の獣人奴隷になれるように手続きを進めている。お前の大切な人を殺させはしない。必ず助ける。  シドの処刑が終わったら、俺はフィーと結婚してキャンベル伯領へ移るから、お前も治療が上手く行って外国から戻ってきたことにして、俺たちと共に本来の姿でナディアと暮らしたらいい。  ナディアが奴隷であることは不服だとは思うが、それは折を見て死んだフリでもして、二人だけで新しく暮らしてもいい』  ジュリアスはシドの処刑という山場が終わったら、婚約者のフィオナ・キャンベル伯爵令嬢と結婚するつもりだった。  新居はフィオナの故郷に構えるつもりだったから、首都から遠く離れた場所で、ほとぼりが冷めるまでナディアを匿うことは可能だと思った。  シリウスは正式な銃騎士隊員ではないから、獣人奴隷を有する資格を持っていない。書類上だけではあるが、シリウスの代わりにジュリアスがナディアの奴隷主人になるのが一番良い方法だと思った。  兄の心を知り、シリウスの怒りがややクールダウンするも、そんなジュリアスのナディア救出案をぶち壊す低い美声が、室内に響き渡った。 「言っておくが、ナディアをジュリアスの獣人奴隷にする案なら通らないぞ。ジュリアスの獣人奴隷所持の許可願いは却下するようにと、総隊長に一生のお願いだと言って頼ん
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5 分離

「シー兄さん!」 「シー兄、何言ってんだよ!」 「もう家族やめる」というシリウスの言葉に、ノエルとセシルの弟二人が慌て出す。 「シー、そんなこと言わないでくれ!」  何より、家族から離れるという発言をした弟に、ジュリアス自身が酷く動揺していた。ジュリアスは踵を返して部屋から出ていこうとするシリウスの腕を掴んで呼び止めた。必死だった。  ジュリアスにとってシリウスは自分の魂の片割れにも等しい、対となる存在だ。  他の弟たちも大事だが、シリウスはジュリアスにとっては特別すぎる弟だ。喜びも悲しみも、辛い時はいつだって二人で支え合ってきた。シリウスがいなければ、ジュリアスは心中未遂事件の時に、立っていられなかった。   「ナディアのことは何とかするから! 俺が駄目なら、レンに頼んでみるから!」  銃騎士とは違い、貴族としてであれば獣人奴隷を持つのに総隊長の許可はいらない。  同期のロレンツォ・バルトはバルト公爵家の次男だ。ジュリアスの親友でもあり、お願いすれば多少の無茶は聞いてくれる。  けれど、一度離れてしまったシリウスの心は戻らなかった。シリウスは首を横に振る。 「俺はもう兄さんを信じられない……  俺はオリオンでもシリウス・ブラッドレイでもない、ただのシリウスだ。家名は捨てるよ。  俺は金輪際ブラッドレイ家には関わりたくない。もう無理だ。俺はもう俺の意志でしか動きたくない。悪いけど、今回の作戦からも抜けさせてもらう」  シリウスはジュリアスの腕を振り払った。 「シー……」 「兄さんごめん…… 俺をもう解放してよ」  その言葉にジュリアスの体に衝撃が走った。 『兄さんは表で頑張ってよ! 俺が裏から支えるからさ!』  ジュリアスが銃騎士として表立って活動し、シリウスが諜報活動に特化した任を行い裏から支えていくことは、二人で話し合って決めたことだった。  けれど実態は、ジュリアスがとてつもなく目立って周囲から広く認められていくのに対し、シリウスだって多くの人間たちの命を救っているのにも関わらず、シリウスの本来の存在はずっと希薄なままで、家族以外の者たちからは褒められることも感謝されることもほとんどなかった。  二人はあまりにも対局すぎる位置にいた。  シリウスの可能性を封じて影に徹しさせてし
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6 殺人依頼

 朝一の公爵が去った後、ナディアは部屋に用意されたアンバー公爵家の料理人作の肉料理に舌鼓を打ちながら朝食をいただき、その後は部屋に備えつけのお風呂もいただくことにした。 昨日は牢屋で眠りに就いたのでもちろん入浴なんてしていない。ゼウスと接触した匂いも一度体を洗った程度では取れないのだが、彼の残り香を嗅いでいると切なくなってしまうので、入浴して体を洗い少しでもさっぱりした気分になりたかった。 ヴィネットにお風呂に入りたいと言うと、「承知しました」と言ってすぐに浴室の準備に取りかかってくれた。ヴィネットは内心ではナディアに思うところがあるのかもしれないが、キビキビとよく働いてくれた。 ただ驚いたのは、服を脱いで浴室に入ると、なぜか服を着たままのヴィネットも一緒に浴室に入ってきたことだった。「ヴィネットも一緒に入る?」「いいえ、私はナディア様の入浴の介添えでございます」 男の護衛たちは部屋の外で待機するとのことで、部屋の中ではヴィネットと二人きりだった。ナディアは彼女のことを最初は「ヴィネットさん」と呼んでいたのだが、「使用人でございますので敬語はいりませんし呼び捨てでお呼びください」と言われてしまい、こっちは獣人だがいいのかなと思いつつ、促されるままに丁寧語はやめて名前も呼び捨てで呼んでいた。 ヴィネットは最初から変わらず、ナディアには様付けと敬語なので、あまり踏み込んでくるなというような無言の距離感は感じる。やっぱり恋敵認定かな、とナディアは心の中でちょっと不安になっていた。 ナディアは、『そういえば……』と、貴族は入浴中にも使用人のお世話を受けると聞いたことがあったのを思い出す。 ナディアは自分でできると断ろうとしたが、こちらです、と浴室の中にあった凝ったデザインの椅子に座らされてしまい、介添えが始まってしまった。 ヴィネットは石鹸を泡立てると、ナディアの体を磨いていく。他人にされるのがとてもこそばゆかったが、何だかお姫様になったような気分にもなれた。 全身をくまなく洗われて温かいお湯に浸かると、ナディアは命の洗濯とばかりに完全に緊張から解き放たれて、ほへー、としていた。 しかしそんな最中、平穏をぶち破るその匂いに気づいてしまう。 そこはかとなく香る、レモングラスの香水の匂いに…… 気づいたのはナディアだけではなくて
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7 僕たちはもっと違ったやり方で

 ディオンは護衛たちに運び出されて、ひとまずナディアがいる部屋の豪華なベッドに寝かされた。常に屋敷に詰めているという専属医が呼び出され、処置をされている最中にディオンは目を覚ました。「ぐぅぅっ……!」 しかし、部屋の中に控えていたナディアを視界に入れるなり、ディオンは再び手で鼻を抑えていた。 鼻に詰め物がされていたので血が滴り落ちてくることはなかったが、ディオンは興奮したようなギラギラとした目つきでナディアを見つめている。ちなみに下半身もギンギンだ。 浴室から出たナディアは用意してもらっていた真新しい服に着替えていた。 着ているのは純白の総レースで出来たフリルワンピースで、肘あたりまである袖は肩のあたりから透けていた。 庶民であればそのまま結婚式でも挙げられそうな清楚な一品だ。 ディオンは鼻を抑えながらもハアハアと呼吸音を荒くしつつ、ナディアに声をかけた。「ナディアたん」(たん?)「服、とてもよく似合ってるよ。本当は君にウェディングドレスを着せたかったのだが、シャルに睨まれてしまって簡単なものしか用意できなかった。 濡れ髪の君もとても素敵だが、髪を乾かしたら、そのワンピースに合わせたヘッドドレスもヴィネちゃんにつけてもらって。メイクも本当は僕がしてあげたかったんだが」 手先が器用であり舞台俳優でもあるディオンは、メイクも得意のようだった。 言いながらも、鼻血が詰め物を侵食してしまったらしく、ディオンの手が赤く染まっていく。「旦那様、鎮静剤を打ちますがよろしいですか?」「駄目だ、今日は公演がある」 起き上がろうとするディオンを、周りの者たちが支えた。「部屋で少し休んだら出かける。今日はシドの処刑があるから客の入りは悪いだろうが、穴は開けたくない。 今日ばかりは公演を中止した方がいいという声もあったが、僕はそうは思わない。血を流すことよりも、人々が笑顔で居続けることの方が平和への近道だと思うんだ。娯楽は生活に必ずしも必要ではないと言う人もいるけど、そんなことはない。 僕たちはもっと違ったやり方で、新しい未来を作れるはずだ」 シドの処刑はアンバー公爵家も招待されていたが、当主であるディオンは出席を希望せずに、舞台に立つことを選び、名代としてシャルロットとユトの二人が出席することになっていた――「シドの処刑」という言葉に、わずかに
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8 『冥界の門』

 髪を乾かしてメイクもしてもらって、それからディオンが言っていたヘッドドレスも着けてもらった後、ナディアはテーブルでヴィネットに淹れてもらったお茶をいただいていた。 ヘッドドレスは、ワンピースと同じ純白のレース地が花を模した形で幾つも連なり、花の中心部には黄水晶がはめられていて、とても綺麗だった。 なぜかヴィネットがそれをナディアの髪に飾る時に神妙な面持ちをしていたので気になったが、確か貴族はドレスアップの際に相手の髪や瞳の色や、好きな色を装いに取り入れる習慣があることを、直後に思い出した。 ディオンの瞳は娘のシャルロットや末弟のランスロットと同じ琥珀色だ。黄色い色を身に着けるのはマズい気がして、やっぱりヘッドドレスはつけないでおこうかなとヴィネットに伝えたが、彼女は「旦那様の命ですので」と言って聞いてはくれなかった。 ナディアはヴィネットの心理がわからなくなった。女の勘だが、ヴィネットはナディアがディオンの色を身にまとうのを嫌だと思っている。 当の本人が取りたいと言っているのだから、もし気づいたディオンに何か言われたとしても、ナディアの希望に沿っただけだと言えばいいのに、それをしない。 恋人の浮気にはもっと目くじらを立ててていいと思うが、あくまでも主人と使用人という関係性を貫こうとしているようにも見える。 お茶を淹れてもらったので一緒にどうかと誘ったが、固辞されてしまった。けれどヴィネットはナディアの隣から離れようとせず、立ったままで「先ほどは申し訳ありませんでした」と、たぶん脱衣室で「触らないで!」と声を荒げたことだと思うが、謝ってきた。「気にしないで。ヴィネットは公爵様の恋人なんでしょう?」「いいえ。私は旦那様の情婦の一人にすぎません」 そう答えてから、ヴィネットは少し迷ったような表情を見せた後、「私の話を聞いてくださいますか?」と切り出してきた。ナディアに否やはなかった。「元々私は旦那様の――ディオの掃除女だったんです」 ヴィネットがアンバー家の使用人になったのはちょうど一年前、ディオンが貴族籍に復帰してアンバー公爵家の当主になったあたりだそうた。 ナディアはヴィネットが使用人歴一年と聞いて驚いた。ヴィネットのメイドとしての振る舞いは完璧で、とても一年しか経験がないとは思えなかったからだ。 ナディアが素直にそう言葉
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9 ハンターの条件

 死者の蘇生以外にも、ヴィネットの故郷の邪教にはもう一つの大きな教義があった。 冥王神は死と再生を司っている。冥王神の力の強まる光のない新月の夜に夜宴を行うと、特別な力を授かった子供が生まれるというものだ。 神子と呼ばれるその特別な子供は、普通の人間とは違う髪や眼の色をしていることが多く、高い身体能力でもって獣人の襲撃から街を守るそうだ。 神子のおかげで故郷の街は獣人による深刻な状態になったことはほとんどなかったらしい。獣人側もその街での「狩り」は成功の見込みが薄いことがわかっているので、襲撃に来ることもあまりなかったそうだ。 しかしその神子を冥王神から授かる夜宴とは、つまり街を挙げた乱交のことで、成人以上で生殖可能な年齢の者は皆参加するのが慣わしだったという。 新月の夜になると大人たちは街の中央広場に集まって、夜闇の中で恋人や配偶者も関係なく交わって享楽に浸るとのことだった。 そこまで聞いたナディアは手からティーカップを取り落としそうになった。(すごい宗教だな……) 女が初めての子を身籠ると適当な相手と娶せられて夫婦になるらしい。書類上はそれで何とかなるのかもしれないが、生まれてくる赤子は二人の子供とは限らず、実父が誰かわからない場合がほとんどだ。ヴィネットも自分の本当の父親が誰なのかは知らないらしい。 神子は四、五年に一度生まれるか生まれないかくらいで、たいてい十年に一度は生まれてくる。ヴィネットも神子の一人らしかった。 産めや孕めやという街の雰囲気により、出生率は高いが、淫らな教義に不信感を持ち逃げ出してしまう者も多いために、人口過密になってしまうこともないらしい。 ヴィネットの友人の少女たちもその口だった。夜宴の参加は成人からだが、成人前になると夜宴に備えて見学が可能になる。 その前から早熟な者はこっそり見に行ったり、無理矢理連れ出されて見させられることもあったようだ。 そこで色んな光景を見てしまった彼女たちは、まるで娼婦か性奴隷かと、自分もあんな風になるのは嫌だと感じ、何人かで共謀
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10 好きだから殺したい

「じゃあ、公爵様とずっと同棲していたの?」「同棲…… まあ、そうかもしれませんが、位置づけとしては恋人ではなくて、住み込みの掃除婦でした。 ディオは元が貴族のお坊ちゃまでしたから、芸術的な才能はあっても生活能力は皆無でした。私が夜這いしに家に侵入した時も、中はとてもごちゃごちゃしていましたね。 私はそれが気になって、抱いていただいたお礼も兼ねて翌日部屋のお掃除をしたのですが、とても感謝されて、お給金を払うからそのまま専属の掃除係になってくれないかと頼まれました。 ハンターはしばらく続けていましたが、少しでも長くディオのお側でお世話や観劇をする時間を取りたかったので、結局辞めてしまいました。 私の他にも料理係の女の子と洗濯係の女の子が出入りしていて、ディオは彼女たちにも身の回りのお世話を依頼していましたが、彼はその全員と体の関係がありました」「……ヴィネットは、それでよかったの?」 ヴィネットはそこで少し沈黙した。「私と旦那様は、今も昔も、恋人ではありません。それに、今は少し違うのですが…… 最初の頃は、ディオが夜に連れ帰った女の子を隣の部屋で抱いている音や声を聞いても、嫉妬のような気持ちはほとんど感じませんでした。 ディオは来るものは拒まず去る者は追わずという主義で、それによくモテましたから、世話係の女の子以外と関係を持つなんてこともしょっちゅうでしたね。裕福な後援者の女性と外で密会することもあったようです。 ディオは公爵家を追放された直後などは男娼をしていたこともあったらしくて、経験は豊富なようでした。 私は生まれ育った環境が特殊でしたので、教義では多くの者と交わることはよいことだと教えられていましたから、ディオが他の女性との性交によって癒やされたり気持ちよくなったり幸福を感じているのなら、それでいいと思っていました。 ディオはシーツ一枚洗濯できない人でしたから、家で情交が行われた翌日は私がいつも汚れ物を取り替えて、洗濯して掃除をしていました。洗濯係の女の子には、そんなものを洗うのは嫌だと言われて、いつも拒まれてしまうので、私がやるしかありませんでした。 洗濯係の子は汚れ物を見て泣いてしまうような場合もありましたが、あの頃の私は情交の余韻が残る汚れを見ても何とも思えず…… ただ、神のお役に立てることが嬉しかったのです。 
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