All Chapters of その結婚お断り~イケメンと三角関係になり結婚をお断りしたらやばいヤンデレ爆誕して死にかけた結果幸せになりました~: Chapter 41 - Chapter 50

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16 葛藤

 ワインが美味しすぎたので、ゼウスは一杯でやめるとのことだったが、ナディアはもう一杯おかわりをしてしまった。 ゼウスは話し相手になってほしいと言っていたが、彼自身は口数が少なくなり、またあの物言いたげな視線をしている。ナディアはそわそわとしてしまって、とりあえず場を繋がねばと自分から先程の劇の感想などの話題を振っていた。 ゼウスを見ていると、なぜだか胸が高鳴ってしまい、全身の血が熱く駆け巡っているのを感じる。(いえ、これはきっとお酒のせいよ) 銃騎士を好きになるわけにはいかないのだから、そういうことにしておきたい。「お待たせいたしました」 ウェイターが頼んでいた料理を見たナディアはぎょっとする。 ステーキはいい。音を立てながらまだ熱い鉄板の上で焼かれていて、とても食欲をそそる美味しそうな匂いがあたりに漂っている。 問題なのは、別皿で盛られた新鮮そうなサラダがウェイターの手によりステーキ料理の横に置かれたことだ。(パンは別注文なくせになぜサラダは込みなのか!) ゼウスはパンも頼んでいたから彼の前にはステーキ以外にもパンとスープと、やはりサラダが置かれている。 ステーキを頼むとサラダがおまけでついてきて、パンを頼むとスープがおまけでつくようだ。『ちょっとサービスが多すぎじゃない?』とナディアは思った。(人間には嬉しいのかもしれないけど、獣人には酷だわ!) ステーキ料理には添え物として人参とブロッコリーが乗っているのだから、サラダはいらないんじゃないかとナディアはウェイターに強く抗議したくなった。「メリッサ? 食べないの?」 ゼウスに声をかけられてハッとする。目の前の憎き野菜たちを睨んでいた所で不思議に思われるだけだ。ナディアは野菜が全く受けつけないわけではないのだから、少しだけ食べてあとは残してしまおう。「あ、なんかすごく美味しそうだなと思って! い、いただきます!」 ナディアは誤魔化すような笑みを浮かべてナイフとフォークを手に取った。 シリウスとの食事でナイフとフォークの使い方は習得済みだ。ナディアは常々変態だと軽蔑していた男に、彼女としては珍しく感謝の気持ちを持った。(これで里にいた時のように手掴みで食べ出していたら、一瞬で獣人ってばれてたわよね……) ナイフでステーキに切り込みを入れて、フォークで口元まで運ぶ。(ああ、い
last updateLast Updated : 2026-03-27
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17 獣人と人間

 誰かが扉を叩く音で、ナディアは泥のような深い眠りから緩く覚醒する。 「メリッサ、起きてる? メリッサ?」  ゼウスの声がする。彼が呼んでいる。起きなければと思うのに、体にあまり力が入らない。  目をようやく開けると、いつも寝起きしているシリウス宅の自分の部屋ではなくて、質の良い家具が並ぶ広々とした部屋にいた。  なぜ自分はここに居るのかと考えて、そういえば昨日ゼウスとデートして、そのあと何やかんやあってホテルに泊まることになったのだと思い出した。  ナディアはベッドから何とか上半身を起こしたが、未だふわふわとした感覚の中にいた。普段から朝は得意なはずなのだが、なかなか起きられない原因には心当たりがあった。  それは、昨夜の夕食だ。  サラダは少しだけ食べて残そうと思っていた。しかしサラダだけ残してステーキは完食するのもおかしいから、お腹がいっぱいだと言ってステーキもある程度で残すつもりだった。  ところがあまりにもステーキが美味しすぎて、ナディアは出されたステーキを全部食べてしまった。  野菜嫌い=獣人?と思われてしまうのが嫌だったナディアは、サラダとそれから添え物の人参やブロッコリーまで根性で完食した。  あの量の野菜類を食べたのは人生初かもしれない。つまり、ナディアは野菜を食べすぎてしまった。  獣人が植物性のものを摂取しすぎると様々な影響が起こる。酷いと死に至る者から嘔吐下痢腹痛を訴える者、全身に蕁麻疹が出る者、あとは酷い眠気に襲われたりするなど比較的軽い症状で収まる者もいるが、どんなことが起こるのかは個人の体質により違ってくる。  ナディアの場合は、人間が酒を飲み過ぎた時のように酔っ払った症状が出てくる。  ナディアはベッドから下りてゼウスの元にまで向かおうとしたが、体は揺れていて完全に千鳥足だった。 ******  ホテルに泊まった翌朝、ゼウスは起き出して身支度を整え、メリッサが泊まった部屋の前にいた。  メリッサは本日は仕事が休みだと言っていたが、ゼウスは普通に仕事がある。隊服は本部に置いたままなので、ホテルから直行すれば出勤時間には間に合う。  朝食つきの宿泊だったから、一緒に朝ご飯を食べてから仕事に行こうと思ったのだが、何度扉をノックしたり呼びかけても彼女からの反応がない。  まだ寝ているのなら朝食
last updateLast Updated : 2026-03-27
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18 急転直下

 ナディアは爽やかな朝を迎えていた。 昨日の朝ホテルでゼウスに起こされた時は全身に気怠い感じが残っていたが、その後ホテルで休んだのちに、シリウスの家に帰ってきてからも一日中爆睡したところ、翌朝すっきりとした気分で目覚めることができた。 むしろ今朝はいつもより調子が良いくらいだ。 ゼウスとのデートを思い返し、楽しかったなあ、などと思いながら上機嫌で朝食や身の回りの支度をすませた後、ナディアはいつもよりも早めに家を出た。 古書店までの道を馬車を使わず、いつものように徒歩で通勤する。あんなことがあったのもあるし、馬車はもう二度と使わないような気がした。 ナディアは脳裏に一人の令嬢の姿を思い浮かべていた。 高所から落とされかかったわけだから、普通の人間なら死んでいてもおかしくはない。彼女はナディアが死んでも構わなかったのだろう。 昨日ナディアは事件後に現場の匂いを嗅ぎ、シャルロット・アンバー公爵令嬢が滝事件に関わっていることには気づいていた。実行犯ではないが、おそらく首謀者だろうと。 馬車連れ去り未遂事件についても、レモングラスの残り香のこともあり、滝事件を踏まえると、限りなくシャルロットが黒に思える。 シャルロットとは一昨日会ったのが初めてだ。恨まれる覚えはない、と言いたい所だが、一昨日のシャルロットの態度から彼女がゼウスにベタ惚れなのは一目瞭然だった。 シャルロットたちの前で「恋人です」と偽りではあるもののそんな宣言をしてしまったわけで、彼女としては殺してでもナディアを恋人の座から引きずり降ろしたかったのかもしれない。 里にいた頃、獣人たちが番の座を巡って血みどろの戦いを繰り広げた、なんてことはよくあったが、人間社会の恋愛も命懸けのようだ。 シャルロットの悪意に巻き込まれないためには、「ゼウスの恋人じゃないです」と、本当のことを言うのも一つの手かもしれないが、ナディアはその方法を取るつもりは微塵もなかった。 少なくともナディアが馬車で襲われた時点では恋人設定はなかったわけで、女の子とデートしようとしただけでその相手を娼館送りにしようとするなんて、どう考えてもやりすぎている。そんな女につきまとわれているだなんて、ゼウスが可哀相すぎた。 もしまたシャルロットが刺客を放つなりして自分の命を狙いに来ても、ナディアは全てを返り討ちにする自信があった。
last updateLast Updated : 2026-03-28
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《ゼウス編》1 図書館

「あれ? 姐さんじゃん」 この国随一の蔵書を誇る都立図書館――旧王立図書館――で調べ物をしていたナディアは、見知った人物の声を聞いて、ビクリと一瞬体を震わせた。読み込んでいたページの内容を知られたくなくて、すぐさま本を閉じてしまう。「アーヴァイン」 その黒髪の人物の名前を呼ぶと、ナディアよりもよほど可愛らしい顔つきをした小柄な青年が、ニコッと微笑む。「何してるんだ?」「え、えと…… ちょっと調べ物を」 ナディアはややしどろもどろになった。 調べ物をしていたのは本当なのだが、読んでいた本に現状の困難を打開できるかもしれない記述を見つけ、夢中で読んでいた。そのため声をかけられるまでアーヴァインの匂いにも気配にも全く気づかなかった。「『銃騎士隊と獣人の歴史』? 随分と渋いの読んでるね」「そ、そうかな?」「あ、わかった。リンドさんの影響だろ?」「う、うん。まあ、そんなとこかな……」 ナディアは現在歴史コーナーの本棚にぽつりと置かれた背もたれなしの低い椅子に座っていた。椅子のそばの床には手の中にある本以外にも二、三冊、似た系統の本を積んでいる。 ナディアは獣人関係の本を呼んでいることを人にあまり見られたくなくて、もう少し座り心地の良い椅子のある読書コーナーには行かず、図書館の隅の方で目立たないようにしていたつもりだった。 しかし、まさかこんな所でアーヴァインに会うとは――「アーヴァインは何してるの?」「俺も調べ物。今度歴史研究発表会があるからダチと一緒に来てるんだ。俺の今度のテーマは『ラファエル・バルト生存説』。都市伝説って言われてるけど、俺絶対あの人生きてると思うんだよね」 アーヴァインも従妹のエリミナに似てわりとよくしゃべる方だ。話題がナディアの読んでいた本から「ラファエル・バルト」の話に移ったので、ナディアは内心でほっとした。 ナディアは人間社会の歴史にはあまり明るくなかったが、リンドに学校の教科書を譲られたこともあり、人間社会のことをもう少し知ろうと勉強したことがある。「ラファエル・バルト」は王政撤廃の主導者であり、近現代史の超有名人だ。勉強といっても学校の教科書をさらっと読んだ程度だが、そんなナディアでも知っているし、お店でも彼についての書籍を何冊も扱っている。 アーヴァインは最上級学校での専攻は経営経済学だそうだが、部活動
last updateLast Updated : 2026-03-28
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2 ファーストキス

「こっち! 姐さーん!」 約束の時間にゼウスと共に劇場前に辿り着くと、すぐに彼らの姿が目に入った。 声の主のアーヴァインは人懐っこい笑顔を浮かべながら手を振っている。 アーヴァインのそばにいるエリミナは顔を強張らせて緊張しているようだったが、華やかな容姿をしているこの二人組は開演前で人手の多い広場の中でも目を引くし、それからエリミナの護衛を務める者も五、六人いるので尚更目立った。 本日は誰から言い出したのだったか、ゼウスを通してアテナとの繋がりを欲したエリミナの提案からだったか、顔を合わせる度にひたすらゼウスと会ってみたいと要望を出すアーヴァインに応えようとしたからだったか、それともナディアと仲の良い友達に会いたいと口にするゼウスの希望を叶えようと動いたためだったか、とにかく同時期にお互いに面識を持ちたいと言い出した者たちの願いを聞き入れる形で、今回のダブルデートが実現した。「どうも初めまして! 俺は姐さんの友人のアーヴァイン・サングスターといいます。そしてこちらが――」 アーヴァインが緊張したままのエリミナの両肩を掴んでゼウスの前に押し出した。 アーヴィンは自己紹介を促しているようだったが、憧れのアテナ様の実弟を前にしてエリミナはテンパっていた。「ほ、ほほほ本日はお日柄もよく、ゼゼゼゼウス様におかれましては貴重なお休みの一日を私どもの面会に費やすような苦行を課してしまいまして、大変申し訳ございませんでしたーーーーっっ!」 挨拶の途中で平謝りし初めて、松葉杖のままで逃亡を図ろうとしたエリミナを、アーヴァインが止める。「逃げちゃ駄目だろエリー、ちゃんと練習したように挨拶しなよ。ほらほら」「あうううう……」 半分涙目のエリミナは再びゼウスの前に突き出された。「エ、エリミナ・サングスターと申します……」 エリミナは蚊の鳴くような声でなんとかそれだけ挨拶することができた。「ごめんね、ゼウスさんに会えるのを楽しみにしてて緊張しすぎてこんな感じになっちゃってるけど、慣れてきたら普通になるはずだから許してね」 ぐだぐだになっているエリミナをアーヴァインがフォローする。「姐さんから聞いてるかもしれないけど俺たちは婚約してて、結婚前なのに名字が同じなのは従兄妹同士だからなんだ。サングスター商会って知ってる? エリーの両親が経営してるんだ
last updateLast Updated : 2026-03-28
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3 姉のお節介

「お邪魔します……」 「いらっしゃい、待っていたわ。あなたに会えるのを楽しみにしていたのよ」     アテナは、玄関先で挨拶をする弟の彼女――メリッサに、にこやかに話しかけた。  今日は将来義妹になるかもしれない女の子がうちに初めて遊びに来る日だ。 「おつき合いしている人ができたのならきちんと紹介しなさい。家に連れて来て」と言ったのはアテナだが、ゼウスは最初家に連れてくることを渋っていた。  幼い頃からずっと一緒にいるアテナは、弟が何を考えてそのような行動に出たのかを理解していた。  初めて会うのは家ではなく外でも良かったのだが、アテナにはとある目的があり、それを成功させるためにはどうしても自分の家の方が都合が良かった。  ゼウスは、いつまでもアテナに会わせないわけにはいかないとでも思ったのか、何度目かの交渉でようやく彼女と「初対面」することを了承した。 (本当は初対面じゃないけどね……)  ゼウスが自ら女の子を誘ってデートすることになったと知った時から、アテナはその相手のことを探り続けてきた。  名前と職場を確認し、何度も彼女が働く店に足を運んだ。ノエルの魔法で姿を変えてもらって、客を装い彼女に話しかけたり、彼女に会計してもらって本の購入をしたりした。  メリッサはアテナに笑顔で接客してくれて、とても好印象だった。明るくて元気でとても良い子だと思う。彼女になら弟を任せてもいいとアテナは感慨深く思っていた。  家政婦としてこの家に通っているマチルダが淹れてくれたお茶を飲みながら、ソファに座りメリッサと他愛もない話をする。  メリッサはお店にいる時とは違い、アテナに対してどこかよそよそしかった。  そうかと思えばふとした瞬間にこちらの顔を凝視しているようにも見え、「私の顔がどうかした?」と問えば、「……いえ、ゼウスに面影が似ていると思って…… すみません……」と恐縮したような答えが返ってくる。  いつもの溌剌とした感じが抜けているようで違和感を感じたが、初めて彼氏の家を訪問してその家族に会っているのだから、きっと緊張しているのだろうと思った。  ゼウスもメリッサの隣に座って、しばらく三人で会話を楽しむ。本当はノエルも紹介しておきたかったが、実家に用事が出来たと今日は不在にしている。 「ノエル・ブラッドレイ……」  同居人の名前を出
last updateLast Updated : 2026-03-28
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4 お節介、不発

「では私はこれで」 玄関先で、本日の勤めを終えたマチルダが見送りのために居並ぶアテナたちに向かって挨拶をしている。 マチルダは壮年の穏やかそうな婦人で、アテナがようやく見つけた家政婦だった。 マチルダに落ち着くまで何人の家政婦がやって来ただろうか。 それまでの者たちはアテナに隠れて皆ノエルとゼウスに色目を使うような者たちばかりだった。魔法使いであるノエルは自身の危機を察してそこまで酷いことにはならなかったが、ゼウスに関しては、実は彼の隠れ信者だったという家政婦たちに既成事実を作られそうになったことが一度や二度ではなかった。 夜中物音に気づいて弟の寝室に向かえば、目を血走らせた半裸の女性とやはり服を脱がされかかった半裸のゼウスが攻防を繰り広げていたなんてことはよくあって、アテナはその度に悲鳴を上げて、不法侵入をした――通いの家政婦で夜は不在のはずなのに渡していた合鍵でゼウスを襲いに来た――その不届き者たちを叩き出していた。鍵はもちろんその度に取り替えた。 家政婦なんて雇わない方がいいのではないかと思ったこともあったが、思いの外大成功したモデルの仕事で得た大金を使い、アテナは立地の良すぎる都内に豪邸を建ててしまい、アテナ一人だけでは家を維持するのが難しかった。「ゼウスが結婚して家を出た後もいつでも気兼ねなく里帰りできるように場所を確保しておかねば」だとか、「一緒に暮らしたいというノエルの生活空間だってきちんと整えなければ」だとか、「お客様が来た時用のゲストルームも他の部屋と遜色ないようにしておかねば」等、とにかく腐るほどあるお金に物を言わせて色んな要望を詰め込んだ結果、台所は三つ、風呂場は四つ、トイレに至っては八つもあるという部屋数も二桁はある大きすぎる家になってしまった。 建てた当初は家政婦を雇うつもりだったが、その家政婦選びが難航するとは思わなかった。 当初はまともそうに見えた家政婦たちも、日々を重ねるごとにノエルとゼウスの色香に酔うのかおかしくなってしまい、犯罪者を量産していく。アテナは女性ではなくて男性の家政夫を雇おうとしたこともあったが、それは二人に止められた。 女なのに軽く女性不審になりながら辿り着いた救世主がマチルダだった。彼女はアテナのモデル仲間の母親なのだが、娘同様マチルダ自身もかなり美しい容姿をしている。 マチルダにはノエルと
last updateLast Updated : 2026-03-29
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5 姉の失態

 アテナの視界はぐるぐる回っていた。周囲の様子も断片的にはわかるが、時々真っ暗になって何も見えなくなってしまう。体の感覚も鈍くてやや麻痺したようではあったが、それでいて誰かに体を揺すられているのはわかった。『――――……』 誰かに呼ばれているような気がして、アテナは重い瞼を何とか開けた。アテナが現在最も愛している人が呼んでいるような気がしたから―― 目を開けるとアテナはソファに横になっていて、すぐそばに少し困った表情をしたノエルの美しい顔があった。 美人は三日で飽きるというらしいが、ノエルを見ていても全然飽きなどやって来ない。飽きるわけがない。ずっと見ていたい。(むしろ今はノエルがそばにいてくれないと落ち着かない……)『飲み過ぎ、ここで寝たら風邪を引く――――寝室に――――――』 出会った頃とは違い、声変わりをして前より低くなったノエルの美声が断片的に聞こえた後、体が浮遊する。ノエルがアテナを抱き上げて、寝室まで運んでくれているようだ。アテナはふわふわと幸せな気持ちになった。 ノエルは居候だがこの家はノエルのためのものでもある。我が家のように寛いで使ってくれて構わないし、実際に彼自身も気兼ねなく過ごしているのだが、たった一部屋だけ、ノエルがあまり入りたがらない部屋がある。 それこそがアテナの寝室だった。 用事がある時、例えば朝なかなか起きられない時にノエルがアテナを起こすような場合は、最初からゼウスに頼むか、もしくは魔法を使うか廊下から声をかけてくるのみで、中にはほとんど入ったことがない。 しかしアテナは現在、どうやらノエルに寝室まで運ばれているらしい。(これは、ベッドに引き込む絶好のチャンスだわ!) 酔ったアテナは気が大きくなっていた。(今こそが、あの大技を使うべき時よ!) 幸いにとでもいうのか、本当に酔っ払っているので酔ったフリをする必要はない。アテナも胸にはそこそこ自信があった。おっぱいが見えるか見えないか、想像を掻き立てさせるギリギリのところを攻めて、あとは甘えてみよう。 まだ廊下を移動している最中で寝室には辿り着いていなかったが、アテナは「何だか暑くなっちゃった」と言いながら上着に手をかけた。 本日はボタン式の服で良かったと思った。近頃は前合わせの下着を多く着用していたのも幸運だった。(神様ありがとう)『な、何やって―
last updateLast Updated : 2026-03-29
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6 義姉か義妹か

 ゼウスが酔っ払いに詰め寄っている一方、アテナの中で酔っ払ったことになっているはずのメリッサことナディアは、キッチンでノエルと共に夕食の後片づけをしていた。「あなたが私の義姉となるのか、それともアテナの義妹となるのか、悩ましいところですね」 ゼウスが酔い潰れたアテナを運んでリビングから出て行ってしまい、ノエルと二人きりになってちょっと気まずいかもと思っていた矢先、いきなりそんなことを言われてナディアはうろたえた。「え、いや…… あの……」 シリウスとは別につき合っているわけではなかった。散々交際の申込みや求婚はされていたが、全て断っていたわけで、実際は彼氏でも婚約者でも何でもない。 シリウスとの関係はいわば家主と同居人、良く言ったとしても友達止まりだ。 しかし、シリウスの本来の顔つきに似た彼の弟を前にすると、なぜだか自分が不貞を働いたような、若干いたたまれないような気持ちになってきてしまうのはなぜなのか―― ナディアの様子を見て、ノエルが少しすまなそうな顔をした。「すみません、責めているわけではないのです。あなたに受け入れてもらえない兄が不憫だとは思いますが、そもそも無理矢理あなたと関係を持とうとした兄が悪いのですから」(筒抜けだ。襲われて合体直前まで行ったことが筒抜けだ……  どうしよう。オリオンに裸を見られているとか、キスを千回以上されているとか、そんなことゼウスには絶対に知られたくない) ゼウスともキスだけなら何度かしたけれど、その度にシリウスのことが頭をよぎってしまい、何か遠隔で呪いでも飛んできているのかと勘ぐったこともあった。「ゼウスには言わないでいてくれる……?」 ゼウスに知られた時のことを想像したらなんだか泣きたくなってしまって、ナディアは気づけばノエルに口止めをしていた。「言いませんよ。あの件に関してはあなたは完全なる被害者で、謝らなければいけないのはこちらの方なのですから」 ナディアはホッと息を吐き出した。ノエルはあの変態の弟だが、奴とは違いだいぶまともそうだと思った。「兄は可哀想な人なんです」 皿を洗いながら内心でシリウスのことを変態と思っていると、ノエルが急にそんなことを言ってきた。「長兄ではなくて次兄の方ですよ」 とノエルがつけ足す。長兄とは銃騎士隊二番隊長代行のジュリアスのことで、次兄がシリウ
last updateLast Updated : 2026-03-29
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7 先輩チェック

 約束の時間ちょうどにメリッサと指定の店に到着すると、その人は既に来ていた。 レインは喫茶店の奥の席に座って待っていた。彼も勤務時間外のため隊服は着ていない。 レインは首都にいないことも多く最近はあまり会っていなかったが、その数少ない会う時であっても、お互いに隊服姿であることがほとんどだったので、私服姿を見るのは珍しい。 レインはただそこにいるだけで絵になる男だった。『レイン先輩は何を着ても似合うな』とゼウスは思った。 メリッサの手を引いてレインに近づくと、先輩はこちらを向いて微笑んでくれた。 本当は二人だけのデートのはずで、レインも含めてお茶をする予定ではなかった。本日は午後から観劇をして、そのまま帰宅するはずだったのだが、彼女と少しだけ話がしたいというレインの要望をゼウスが受け入れる形で、今回の顔合わせが実現した。 ゼウスは数日前、レインに彼女を紹介しろと持ちかけられた時のことを思い出す―― ****** ダン! と、気づけば銃騎士隊本部にある一番隊員用のロッカーで、ゼウスはなせだか背中ごしにレインから壁ドンされていた。 本日は議会に出席する貴族の護衛だったが、法案を巡り紛糾し、勤務時間がかなり伸びてしまった。担当貴族を自宅まで送り届けた後、ゼウスは本部への任務完了報告は自分がすると申し出て、同じ警護任務を行っていた隊の先輩には直帰してもらった。 帰り支度のためにロッカーに寄ったところ、五人ほどでまとまって使っているロッカー室には他に誰もいなかったが、いつの間にか背後にレインがいた。 ゼウスはレインの接近に全く気づかなかった。仕事終わりで気が抜けていたこともあるが……(気配殺しすぎだろ! 戦闘中か!) 不覚にも背後を取られてしまった。ゼウスは顔が引き攣りそうになるのを何とか平常心で保たせて、後ろを振り返った。(うわ) 思ったよりも近くにレインの整いすぎた顔があって心臓が跳ねる。レインの漆黒の瞳は真っ直ぐゼウスを見ていたが、特段これと言って何の感情も浮かんでいないようにも見えるし、それでいてどこか憂いを含んでいるようにも見える。(この人何考えてるかわかんないな本当……)「先輩、近いです。ちょっとむさ苦しいので離れてください」「恋人ができたって本当か?」 レインはゼウスの言葉には反応せず、自分の言いたいことだけを言った。「で
last updateLast Updated : 2026-03-29
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