All Chapters of その結婚お断り~イケメンと三角関係になり結婚をお断りしたらやばいヤンデレ爆誕して死にかけた結果幸せになりました~: Chapter 51 - Chapter 60

76 Chapters

8 抱いてもいい?

「――メリッサ、聞いてる?」 歩きながら声をかけられて、ハッとする。 レインと会った喫茶店を後にして、帰宅するべくゼウスと二人で街中を歩いていたが、ゼウスの声にも気づかないほど、ナディアは頭の中でぐるぐると色々なことを考えていた。「ずっと上の空みたいだけど、大丈夫?」「う、うん。大丈夫よ」 ゼウスはナディアの手を握ったまま、心配そうにこちらの顔を覗き込んでくる。「もしかして、その、さっき最後にレイン先輩に言われたことが嫌だった?」『もし傷つけるようなことがあれば、俺は絶対に許しませんからね』「先輩はほんの少しだけ過激な所があるというか、ちょっと変な所もあるけど、根は優しい人だから。あんなこと言ってても、実際はメリッサに酷いことなんて何もしないと思うよ」「うん、先輩がどうこうってわけじゃなくて、私が……」(私が、あなたを傷つけるかもしれない――) 黙ってしまったナディアの表情は冴えない。「メリッサ……」 元気のないナディアにゼウスも心配そうな顔を向けている。「そうだ、本当はこのまま帰る予定だったけど、何かご飯でも食べに行こうよ」 ナディアはゼウスの家でノエルに会った時、食事の面が大変だろうと数種類の「魔法の塩」をもらっていた。野菜に振りかければ見た目はそのままなのに、それぞれ牛、豚、鶏肉に成分が変わるという、ナディアにとってはありがたすぎる秘密兵器だ。 時間が経つと「魔法の塩」の効果が薄れてくるので、たまに新しいものを取りに来るようにとは言われたが、「魔法の塩」のおかげでゼウスとも気兼ねなく食事デートを楽しめるようになった。 全てはノエルのおかげ、ノエル様々である。「メリッサは肉が好きでしょ? 好きな物を食べて元気出しなよ」「いいの?」 ゼウスは明日の朝早いらしく、今日は早々に解散することになっていた。「少しくらい帰りが遅くなっても大丈夫だよ。もう少しメリッサと一緒にいたいし」 ナディアはその言葉を聞いて微笑む。「私も、もう少しゼウスと一緒にいたいわ」 二人はお互い繋いだ手にきゅっと力を込め合った。 ******(それがどうしてこうなった?) 気がついたらどこか知らない部屋のベッドにいて、ナディアはゼウスに抱きしめられた状態で横になっていた。お互い服は着たままだし、どうにかなったわけではないよう
last updateLast Updated : 2026-03-29
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9 初体験?

問われたナディアは固まっていた。 もちろんゼウスのことは好きだ。彼と一つになりたいのはナディアも同じ。ゼウスと番になれたら、きっと天にも登るような気持ちになるのだろう。(けれど…… やっぱり……) ナディアの理性が二の足を踏む。 ゼウスがナディアと関係したら、彼は『悪魔の花婿』になってしまって、銃騎士から一転、罪人扱いだ。「……」 良いとも悪いとも言えずにゼウスと見つめ合ったまま黙っていると、ゼウスは了承と取ってしまったのか、ナディアにキスを落とた。「んっ……」 唇の隙間からゼウスの舌が滑り込んでくる。ナディアもそれを受け入れて、自分の舌をゼウスのものに絡ませた。口内を探られる感触に心地よさを感じ、いつもより深いキスにうっとりとしてしまう。 キスに夢中になっていると、ゼウスの手がナディアの胸に触れた。服の上からだが、初めての行為に体が一瞬ビクリと反応する。いたわるように優しく揉まれて、ナディアは自身の中の劣情が刺激されているのを感じた。 首元のリボンがしゅるりと解かれて外される。ゼウスがブラウスのボタンを一つ一つ外していくが、ナディアはそれを止めなかった。 ブラウスは引っかかったまま、下着の合わせも外されて、ナディアの大きめの乳房がゼウスの目の前に晒される。「これは、何? 痣?」 ゼウスがナディアの左胸の心臓に近い部分にあるハート型の黒い痣を見つけて、不思議そうに問いかけてくる。 呪いの痣のことを思い出した瞬間、シリウスのことが脳裏をよぎった。「う、生まれつきなの」 ナディアはシリウスの存在を頭から追い出すようにしながら、咄嗟に嘘をついた。「そうなんだ…… こんなに綺麗なハートの形をした痣なんて珍しいね。それも二つも」「そ、そそそ、そうね」 ナディアはかなり動揺していた。「あっ……」 ハート型の痣に触れていたゼウスの指先が皮膚の上を滑る。手の平全体で胸を撫でられると、敏感な部分が立ち上がってきて手に当たり、とても切なくなってくる。「ここが気持ちいいの?」 ナディアの反応を見ながら、ゼウスが乳房全体から乳頭だけを刺激するような触れ方に変えてくる。指の腹で敏感な場所をこすられて、ナディアの鼓動が高まる。「うん……」(気持ちいい……) ゼウスに触れられる心地よさに、シリウスへの罪悪感のようなものは薄れた。「あっ……
last updateLast Updated : 2026-03-29
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10 口で

 ベッドに腰かけたゼウスの前で、ナディアは床に座り正座していた。 できれば胸を見ながらがいいと言われたので、ブラウスのボタンは外したままだ。 ゼウスがベルトを外して硬くなった性器を取り出す。 ゼウスの顔は綺麗だけれど、やはりそこは独特の形をしていた。ゼウスの陰茎は立派だったが、シリウスの方が大きかった。きっとシリウスの方がゼウスより年上だからだろうと思った。 そんなことを考えてしまってから、ナディアはブンブンと頭を振った。 全くもってダメダメだ。彼氏と家主のモノの大きさを比べるなんて、やっちゃいけない。 ゼウスとこんなことをしたと知ったらたぶんシリウスは呆れるだろうし、自分に好意なんて示さなくなるだろう。 けれどナディアが愛しているのはゼウスなのだから、これでいいのだと思う。 この儀式を経たらきっと、自分も覚悟が決まるような気がした。「メリッサ、無理じゃないんだから、嫌ならやめていいんだよ?」 首を横に振っているナディアを見たゼウスが気遣わし気な声をかけてくる。 ゼウスは先ほどのナディアの「口でする」発言の直後、顔を真っ赤にさせていた。『な、な…… 何言ってるんだ! 口でって、意味わかって言ってる?』 ナディアは首を縦に振った。『ゼウスのことが好きなの! 私、あなたの彼女としてすごく至らない所も多いけど、あなたを好きな気持ちは誰にも負けないから! あなたを満足させられるように頑張るから、だから、だから…… 私を捨てないで! 嫌いにならないでー!』『メリッサ、落ち着いて。俺は君を嫌いになんてならないよ。大好きだよ』『でも私ゼウスを傷つけたー!』『な、泣かないで! そりゃ拒まれてちょっと気落ちはしたけど、でもそれだけだよ。気にしなくていいから』 ゼウスは戸惑っていたが、結局はナディアに押される形で口淫を了承した。「大丈夫。私が望んだことなんだから、きっと大丈夫……」「メリッサ、途中で嫌になったらいつでもやめていいからね」 実際に男性器を目の当たりにして少し怖気づいてしまった所もあって、自分に言い聞かせるようにそんなことを言っていると、ゼウスが心配そうに声をかけてくれる。 ゼウスはとても優しい。こんな人と恋人になれて幸せだ。 父が女に口で奉仕させている様子を里で見かけてしまった事はあるし、何となくだかやり方はわかる。実際にや
last updateLast Updated : 2026-03-30
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11 突然のプロポーズ

 ナディアはゼウスと二人でホテルの部屋に備えつけのお風呂に入っていた。 放心状態でベッドに寝転んでぼうっと天井を見上げていると、ゼウスから一緒にお風呂に入らないかと誘われた。 もう全部見られてしまったのだから断る理由もないような気がして、ナディアは特に深く考えることもなく、「いいよ」と答えていた。 しかし、ナディアはその自分の判断を後悔した。 こちらの裸は見られてしまったが、ゼウスの裸は全て見たわけではない。彫刻のような美しい裸身を目の当たりにして、ドギマギと心臓が騒いでいる。 どうしたって視線が下腹部にいってしまいそうになるので、そこはあまり見ないように努めた。 洗ってあげると言われたが、そんなことをしたらまたおかしなことになってしまうと思い、一線を越える危機が再来しそうだったので、丁寧に断った。 体に視線を感じながらもそれには気づかないふりをして、手早く体を洗ってから湯船に身を沈める。 幼い頃、義兄のセドリックや他の義兄弟たちと入浴したことはあったが、男の人と一緒に入るのは初めてかも―― とそこまで考えて、実は男性とお風呂に入るのは初めてではなかったことに気づく。『ナディアちゃん……』 ミランダに化けたシリウスと何度も一緒に入っていたのだった。その時のシリウスは少女の姿をしていたから、頭から抜けていた。 ――ミランダはナディアがいなければ何もできない子で、何をするにもいつもそばにいた。風呂場では特にべったりと引っつかれていたが、寂しがり屋なのかなと思うくらいであまり気にしていなかった。 でも今思えばもっとよく周りを見て、色々なことに注意していればよかった。眠いだけだからと言いながら、風呂場でナディアを見るミランダの目つきが、どこか変だなと思う時はあった。 彼女の正体までは見通せなくても、もしかしたら女の子が好きなのではないかと、ミランダの――シリウスの――気持ちに気づいていてもよかったはずだった。 シリウスとは何回一緒にお風呂に入ったのか正直わからない。 身を抱えるように浴槽の中に座ってじっとしていると、すぐにゼウスも浴槽に入ってきた。 浴室に沈黙が満ちる。「あの――」「結婚して」 話題を探そうとして夕食の異国料理の話でもしようとしたが、その声とゼウスの声がかぶる。 ナディアは突然のプロポーズに驚きすぎて固まった。「責任
last updateLast Updated : 2026-03-30
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12 別れの予感

「ありがとう。メリッサ、ありがとう。君の心はとても綺麗だね。俺とは全然違うよ」 言いながら、泣き笑いとでも言うのか、ゼウスの綺麗な顔にとても優しい微笑みを浮かべている。「俺では、とてもそんな風には思えないかな。俺はメリッサには前につき合ってた人がいたのかなって、すごく気になって仕方がないんだ。その、何というか、とても上手だったし、慣れてるみたいだったから」 ナディアは驚いて首を振った。「そんな人は今まで一人もいないし、慣れてなんかいないわ。ゼウスにしたのが初めてよ」 さっきは美味しかったのと、ゼウスが感じているのをたくさん見たくて、心の赴くままに舐めていた。ゼウスとつき合うまでは誰とも交際していないし、もちろん口淫の経験はなかった。「恋人は今まで誰もいなかったの? 本当に? こんなに可愛いのに?」 ナディアは頬に手を添えながら照れていた。おだてられて空でも飛べそうな気分だ。「そっか、じゃあ全部…… キスをしたのも俺が初めてなんだ」 ナディアの目が一瞬泳いだのをゼウスは見逃さない。「……誰? 彼氏がいたことないのに誰とキスしたの?」 ゼウスの顔が険しくなり、雰囲気が急に冷たくなったので驚く。(何だかいきなり空気がおかしくなった……) 説明しろという圧を感じたので、おそるおそる口を開く。「女の子だと思っていたら男の子で、知らない間にされてたの……」 ふう、とゼウスが息を吐き出した。「なんだそっか。小さい頃にされたものならまあ仕方ないか」 勘違いしてくれたようで助かった。いつもの優しい表情に戻ったゼウスを見て、ナディアも詰めていた息を吐き出す。 現在、お互い裸ではあるのだが、違う意味でドキドキしてしまった。(ゼウスって結構嫉妬深いのかも……) あまり見たことのないちょっと怖いゼウスを目撃してしまった。(オリオンのことは絶対に言わないようにしよう……) 恋人の新たな一面を発見して戸惑っていると、ゼウスが身を寄せてきたのでまたドキッとする。下は見ないようにしているが、普段は隠れている二の腕の筋肉だとか胸板だとかがよく見えてしまい、ナディアは邪な考えと戦った。「いつかメリッサの考えが変わるかもしれないって、期待してもいい?」 結婚の話は未だ継続中のようだった。「私は…… 結婚は……」 一瞬言葉に詰まる。「ごめんなさい、結婚
last updateLast Updated : 2026-03-31
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13 実母の行方

(もう少し、ゼウスのそばにいたかったな……) 下を向いたままでいると、お湯の中にあるナディアの手をゼウスが握りしめてきた。「ねえ、メリッサのそれは本心なの?」 降ってきたのは、存外優しい声だった。「子供を産みたくないっていうのは、子供嫌いっていう面と、あとはただ単に出産が怖いっていう場合もあると思う。それから、親になりたくない――母親になるのが嫌だっていう理由もあると思うし、メリッサの場合は一番最後がそうだと思う。 メリッサが本当のお母さんに複雑な思いがあることはわかったよ。実の親にそんなことをされてしまったら、自分が親になることを怖いと思ってしまうのは当然だと思う。だけど、子供嫌いってわけじゃないよね? お店で子供たちに接しているのをたまに見かけたけど、メリッサはすっごいあったかい笑顔しててさ、言い合いを始めた子供の間に入って喧嘩を仲裁するのとかも得意そうだったし、子供といる時のメリッサは何だかいつもより生き生きとしているように見えたんだ。少なくともメリッサは子供嫌いではないよね、むしろ好きなんじゃないの? 子供」(――正解よ) 里にいた頃は、喧嘩もしたが同年代の子供たちと全力で遊ぶのは楽しかったし、仕事を持つようになってからも、年下の子供たちの小競り合いを収めたりすることも多々あった。 子供――というか、人との触れ合い自体が好きだった。 ナディアは面倒見が良い部分があり、そこを見込まれて連れてこられた人間たちの世話係にも任命されていた。「子供好きな人が子供を産みたくないっていうのもちょっと整合性が取れないような気もするけど、それだけお母さんとのことがメリッサの中では大きいってことなんだろうね。だけど逆に言えば、お母さんの問題さえ解決できれば、この先子供を持ちたいって思えるかもしれない。 ねえ、メリッサ、お母さんのこと探してみない?」「さ、探す……?」 ナディアは驚いた。結婚の話から思ってもみないような方向の話になってきてしまった。 シリウスに里から連れ出されるまでは里の外に出た経験はほとんどなく、実母を探そうなんて思ったことはあまりなかった。小さい頃は恋しく思った事もあったが、元々は無理矢理里に連れてこられた人だし、自分のいたい場所に帰っただけだろうから、里に連れ戻したとしてもあっちにとってはただの迷惑だろうと思っていた。 首都
last updateLast Updated : 2026-03-31
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14 重い男

 お風呂から出た後、ゼウスは朝早いと言っていたからそのまま帰るのだろうと思ったが「泊まろうよ、せっかくだから」という彼の一言により、ナディアは恋人と二人で初めての外泊をすることになった。 ただしゼウスはやはり明日は朝早いので、明け方にはいなくなるとの話だった。「メリッサは寝ていていいよ」と言われたが、こちらも明日仕事だったので、一緒に起きてホテルから出ることになった。 ゼウスと一緒にベッドに横になって、腕枕をしてもらう。(何だこれは、至福すぎる時間か!) ついさっきまで別れるかもしれないと半ば覚悟を決めていたのに、今は大好きな人に近距離で見つめられて腕枕をしてもらって、とても幸せだ。さっきの気持ちと今が雲泥の差すぎて怖い。 この幸せはきっと、自分の正体がバレるなりして綻びが生じれば、いとも簡単に壊れてしまうものなのだと思う。「……さっきの話なんだけど」 結婚の話も母探しの話をも宙ぶらりんのままの方がナディアにとっては都合がよかったが、やはり有耶無耶な状態のままにはならないようだ。「な、なあに?」 母探しの話なのか、それともやはり結婚の話から別れ話に繋がってしまうのか、ナディアはドキドキしながら言葉の続きを待った。「お母さんを探すのは現状ではちょっと厳しいのかなって思ってしまうんだけど…… 結婚はさ…… ほら、世の中には色んな考え方があるわけで、結婚っていう一つの形に囚われなくても、一緒にいる方法はあると思うんだよ。例えば、その、事実婚とか」「事実婚?」 知らない単語が出てきたので、横になったまま首をかしげる。「法律的に夫婦になる届けは出していないけど、実際は夫婦関係を持っている男女のことだよ。届けを出していないだけで、生活は普通の夫婦と変わらない」「へー、そんなのがあるのね。知らなかったわ」 ゼウスはナディアが知らないことがあっても、驚くことなくいつも優しく教えてくれる。「まあ法律上は夫婦じゃないし、まだ多くの人に理解されてるわけでもないから、色んな不利益は出てくるだろうけど、どうしても結婚がしたくないんだったら、そういう手段も取れるんじゃないかな? あまり気負わず、恋人関係をずっと続けながら、一緒に暮らす、みたいな? そんな感覚で行くのとか、どう?」 ゼウスはこちらの顔をうかがうような、少し不安そうな表情で告げてくる。「……ゼ
last updateLast Updated : 2026-03-31
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15 危惧

「あら、レインさん、久しぶりですね。ゼウスさんは今お仕事でいないんですよ。アテナさんもちょっと所用で出かけていて」「いえ、今日はノエルに用事があるので。いますか?」 とある昼下り、仕事着のままのレインはアテナの家に寄って、出てきたマチルダと話をしていた。ゼウスが仕事で自宅にいないのは想定済みだった。「ノエルさんなら今自室におられると思いますよ。いつもはアテナさんと一緒に出かけるんですけど、最近は体調が優れないらしくて、少し心配なんです」 ――ノエルの部屋は日当たりも良く、中も広々としていた。モデルの仕事をしているので雑誌類や書籍が多く、奥には衣装専用の部屋もあるらしい。飾り棚には仕事用で撮ったものだと思うが、綺麗な服を着てアテナと二人で写った写真が飾られていた。 ノエルは部屋で一人お茶をしていた。茶器とポットが乗ったトレイがテーブルの上に置かれているが、この部屋に水場はないのでノエル自身かマチルダが用意したものだろう。「ん? 何だ? 白湯なんか飲んで。味しないだろ」 部屋に入り促されるまま向かいの椅子に座ると、ノエルの飲んでいたティーカップの中身が完全に透明な液体であることに気づく。トレイにはお湯の入ったポットのみが乗っていて、ティーポットも茶葉もない。 レインが訊ねると、ノエルは、はあ、と重めのため息を吐いた。「胃が痛いのです。せめて口にするものくらいは刺激のないものが良いです。今私は優しい飲み物を欲しているのです」「体調不良だって聞いたけど、胃痛の原因はゼウスとあの子か?」「そうです。この状態でシー兄さんが帰ってきたらどうなるのかと、気が気ではありません」 ノエルは再び特大のため息を吐いた。 レインもゼウスのことを思い悩み、一度誰かに相談してみるべきだろうとノエルの所へやって来た。頼みの綱のジュリアスは任務でかなり遠い地へ行ってしまっている。連絡を飛ばしてジュリアスに知らせることもできるが、その前に自分よりもゼウスと近い位置にいるノエルに話を持ちかけてみようと思った。 しかし現状、ノエルは自分よりも思い悩んでしまっているようだった。「何か飲みますか? 持ってきますよ」「いや、いい。この後行かないといけない所があるし、マチルダさんにも構わないようにと言ってあるから」 レインは立ち上がりかけたノエルを制した。「シリウスはこのこと
last updateLast Updated : 2026-03-31
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16 ゼウスが本当のことを知った時

「……そうですね。私もそれを危惧している所ではあります」 ノエルは『ゼウスはナディアの正体を受け入れない』というレインの言葉を受けてそれを肯定しつつも、内心では相反する考えを持っていた。 兄シリウスに真実を悟らせないため、ゼウスとナディアの逢瀬に誰よりも接近していたノエルは知っている。 ゼウスは本当のことを知っても、もしかしたら愛を持ち続けるかもしれない。 ナディアはゼウスの心の深い所にまで入り込んでいる。ゼウスにとってナディアはいなくてはならない、唯一無二のかけがえのない存在になっている。 以前ノエル自身がナディアにそう言ったように、獣人だったと知られても、ナディアはゼウスが認める存在になれたかもしれない。 けれど、それを口には出さない。 ノエルはそう思っているが、それは所詮自分が考えているだけの、希望的観測にすぎないのではないかとも思う。 本当の所は、実際にその場面に直面した時のゼウス本人にしかわからない――「お前一人だけが貧乏クジを引かされることもないだろう。そんなに悩むくらいだったら、いっそのことシリウスに全部ゲロったらどうだ? あいつだっていつまでも夢見てないで、現実と戦わなきゃいけないんじゃないのか?」 再び気分を沈ませながらため息を吐き出していると、レインがそんなことを言ってきた。 ノエルは首を振る。「シー兄さんはあの二人のことに気づいたら、おそらくゼウスを殺しに来ると思います」 テーブルに頬杖を突いていたレインは、思わずといった様子でその手を外し、目を見開いて驚いている。「そこまでか?」「ええ。兄さんにとって彼女は至高の女神様なのです。そんな大切な女性を奪ったゼウスを、シー兄さんは絶対に許さないと思います。兄さんにとってナディアは、自分を救い上げてくれた、二つ目の光なのだそうですよ」   「何で二つ目?」「一つ目はジュリ兄さんです。シー兄さんはジュリアス教の信者第一号、大幹部ですからね」「それはお前も同じだろう」「そうですね。だいぶ、ひねくれた信者ですが」 ノエルはこれまで長兄ジュリアスとは距離を取ろうとしてきた。けれど慕っていなければ、口真似などしない。「これはもうあれだな、ジュリアス大魔神様に何とかしてもらうしかないな」「何で魔神なんですか」「だってあいつ、何でもできるし、器用で頭も切れるし、上官・
last updateLast Updated : 2026-03-31
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17 魔性の男 1

 いつものように古書店で仕事をしていたナディアは、店の外、道路から漂う特徴的な匂いを嗅ぎ取って一瞬動きを止めた。 気になりすぎて匂いを探れば、淡い色眼鏡で目元を隠した白金髪の超絶美丈夫が往来を歩いて来るのが見えた。完全に私的な時間なのか、彼は銃騎士隊の隊服を着てはいなかった。私服姿を見るのは初めてなのでやや違和感もあるが、丈の長い外套を着こなして背の高い彼は弟よりもモデルらしく見えた。 ジュリアスは普段から自身の匂いを操っているのだが、今日はいつもとは違い彼本来の匂いをまとっているようだった。 彼の人が近づくにつれて悲鳴の数々や黄色い声が大きくなってくる。ナディアは突然現れたその存在に警戒心を強め、店の入口を注視した。 ナディアがいる会計台からは一目で誰が店内に入ってきたのかがわかる造りになっている。その人物は案の定店の前で立ち止まった。たまたま通りかかったわけではなくて、どうやらナディアに用事があるようだった。 色眼鏡を外したジュリアスと目が合ってしまって、柔らかく微笑みを向けられたナディアは、心臓が全力疾走した後のように鼓動を刻み始めた。自分の意志に反して顔を赤くさせてしまう。(な、何か違う! 前に会った時と違う!) ジュリアスとは以前に何度か会ったことがあるし直接話をしたこともある。元来愛想の良い男らしく笑顔も何度か見ているが、今回のようにゼウスに対するようなトキメキを覚えたことなど皆無だった。 美形にそこそこ耐性のあるナディアを微笑み一つでうろたえさせるとは、なかなかのものである。 至近距離でジュリアスの極上の笑みを目撃してしまった哀れな通行人数名が、腰を抜かしてへたり込んでいたり、うずくまって泣き出していたり、中には倒れ伏して誰かに抱き起こされているような者もいた。 幸か不幸か店内でジュリアスの真正面に位置していた女性客は、そのまま気を失って連れの男性に支えられている。 パレードの時よりも明らかにジュリアスの破壊力が増していた。 原因はジュリアスの全身から立ち上り周囲に拡散しすぎている強烈な色香のせいだ。彼が普段は本来の匂いを変えているのは、この色気の影響をできるだけ抑えたいという理由もあるようだった。 本領を発揮したジュリアスが店の中に入ると、店内にいた他の女性客から悲鳴が上がるだけではなく、男性客までもが彼の存在に驚き、呻き
last updateLast Updated : 2026-04-01
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