「――メリッサ、聞いてる?」 歩きながら声をかけられて、ハッとする。 レインと会った喫茶店を後にして、帰宅するべくゼウスと二人で街中を歩いていたが、ゼウスの声にも気づかないほど、ナディアは頭の中でぐるぐると色々なことを考えていた。「ずっと上の空みたいだけど、大丈夫?」「う、うん。大丈夫よ」 ゼウスはナディアの手を握ったまま、心配そうにこちらの顔を覗き込んでくる。「もしかして、その、さっき最後にレイン先輩に言われたことが嫌だった?」『もし傷つけるようなことがあれば、俺は絶対に許しませんからね』「先輩はほんの少しだけ過激な所があるというか、ちょっと変な所もあるけど、根は優しい人だから。あんなこと言ってても、実際はメリッサに酷いことなんて何もしないと思うよ」「うん、先輩がどうこうってわけじゃなくて、私が……」(私が、あなたを傷つけるかもしれない――) 黙ってしまったナディアの表情は冴えない。「メリッサ……」 元気のないナディアにゼウスも心配そうな顔を向けている。「そうだ、本当はこのまま帰る予定だったけど、何かご飯でも食べに行こうよ」 ナディアはゼウスの家でノエルに会った時、食事の面が大変だろうと数種類の「魔法の塩」をもらっていた。野菜に振りかければ見た目はそのままなのに、それぞれ牛、豚、鶏肉に成分が変わるという、ナディアにとってはありがたすぎる秘密兵器だ。 時間が経つと「魔法の塩」の効果が薄れてくるので、たまに新しいものを取りに来るようにとは言われたが、「魔法の塩」のおかげでゼウスとも気兼ねなく食事デートを楽しめるようになった。 全てはノエルのおかげ、ノエル様々である。「メリッサは肉が好きでしょ? 好きな物を食べて元気出しなよ」「いいの?」 ゼウスは明日の朝早いらしく、今日は早々に解散することになっていた。「少しくらい帰りが遅くなっても大丈夫だよ。もう少しメリッサと一緒にいたいし」 ナディアはその言葉を聞いて微笑む。「私も、もう少しゼウスと一緒にいたいわ」 二人はお互い繋いだ手にきゅっと力を込め合った。 ******(それがどうしてこうなった?) 気がついたらどこか知らない部屋のベッドにいて、ナディアはゼウスに抱きしめられた状態で横になっていた。お互い服は着たままだし、どうにかなったわけではないよう
Last Updated : 2026-03-29 Read more