大斧の女戦士ビアンカの結婚(特別任務で辺境伯を探るつもりだったのに気が付いたら円満な結婚生活を送っていました) のすべてのチャプター: チャプター 101 - チャプター 110

164 チャプター

課題が厳しい!!結婚5日目・一口食べてみませんか 3

「―――本当にまだ続ける気だったのですね」「ええ、途中で投げ出すのは嫌なので」 曇りなき眼で彼を見つめる、ビアンカ。 ユリウスは命令にならないような課題を必死に考える。(ユリウスが悩んでいる。本当に恋人の練習を止めるつもりだったのか……)「―――もう、私と恋人になるのは無理ですか?」「いえ、そういうことではありません」 ユリウスの顔を不安そうに覗き込むビアンカ。 彼はビアンカにひとつ確認したいことがあった。「ビアンカ、この練習のゴールを分かっていますか?」「ゴール?―――本物の恋人になるということですよね?」「ええ、そうです。心も身体も一つになるということです」「あ~」(心はともかく、身体……。う~ん、身体かぁ~~~、言葉にすると生々しい……)「二十一年間、お付き合いをした人がゼロの私には想像も付かないことです」「私も同じです」「は?」(王位継承権持ちの超美青年(ピチピチの十七歳)のくせに何を言い出すのだか……) ビアンカは首を大げさに四十五度くらい傾げてみせる。「ユリウス? 恋人はいないけど、女には困ってないとかはナシですよ~」 さらに首を元に戻して、堂々と宣言した。「私は正真正銘、恋愛経験なしです!」 ドヤ顔でビシッと胸を張る、ビアンカ。 今度はユリウスの方が三十度くらい首を傾げた。(スンとした顔でユリウスが首を傾げているのは新鮮だな……) 十五秒くらいで首を縦に戻したユリウスはビアンカの質問に答える。「何か誤解しているようですが、私はビアンカ一筋です。今まで個人的に女性と二人で会ったこともないです」「―――嘘!? え~っと、嘘ですよね??」 ビアンカは目を見開く。
続きを読む

課題が厳しい!!結婚5日目・英雄は手を抜かない 1

 カン、カンカン!!  いい音を立てて、木剣がぶつかり合う。(この子は運動神経がいい。しっかりと筋力をつけたら、もっと伸びそうだ……) 今、ビアンカはB班の若手兵士ロキと対戦中だ。―――リシュナ領軍にはA~Dの四つの班があり、ビアンカは本日B班、D班のメンバーと対戦していく。 ルールは一本先取制。ちなみに木剣を落としたり膝が地面についたりしても負けとなる。 ロキはビアンカよりも頭一つ背が低く身体の線も細い。 そのため、彼はビアンカが力強く振り下ろす木剣を真正面から受けないよう、俊敏な動きで攻撃をかわしながら、彼女に隙が出来るのを待っている。(ああ、惜しいな~。少しくらい攻撃するフリでもしたらいいのに……。私の隙を狙っているのがバレバレだ。もし、これが本当の戦闘で相手が自分の隙を狙っていると気付いたら……) ビアンカは彼と打ち合っている途中で足元を気にするフリをした。 ロキはビアンカに隙が出来たと勘違いしてしまう。 そして、今が好機とばかりに木剣を真上に振り被り……。(よし! 引っ掛かった!! そんなに振り被ってしまったら、直ぐにガード出来ないぞ~! フフッ、まだまだだな!) 刹那、ビアンカは間髪入れずに右方向へ腰を落として、ロキの太ももを右下から左上へ叩き上げる。「う、うっわぁ~!!」 悲鳴と共にロキの身体は吹っ飛び、少し離れたところに落下した。「ううううううっ!!!」 苦しそうに呻きながら、足を抱え込む、ロキ。(斜め上に叩き上げたから。多少、痛むかもしれないが、骨は大丈夫だろう)「勝負あり!!!」 審判ルイーズの声が修練場に響き渡る。 ビアンカの勝ちだ。 ユリウスは一部始終を真剣に見ていた。 ロキは現在十四歳でこの軍では有望株とされている。しかし、ビアンカを前にすると実力が違い過ぎて&h
続きを読む

課題が厳しい!!結婚5日目・英雄は手を抜かない 2

「よし! 始め!!」 掛け声と共に二人とも棍棒を前に突き出して、相手の出方を窺う。 まだ、どちらとも直立不動の状態で腰は落としていない。 ベラはこの時点でビアンカの隙の無さに驚愕していた。 いつもなら、棍棒を武器として使う者が少ないということもあり、ベラが長い棍棒を構えるだけで相手は怯む。 しかし、ビアンカは木剣から棍棒に武器を変更しても平然としている。(ん? この子、予想していたよりも隙がある……。大丈夫か?) ビアンカは棍棒を使う珍しい兵士が現れたので、その腕前をじっくり見極めるつもりだ。 ビアンカは棍棒の前方をベラに向け、中心あたりを左手で握り、右手は棍棒の後方の端を持つ。(この状態から私が突くか、なぎ倒すか、あるいは回転させてダメージを与えるか……。この子は私の動きをどう予想しているのだろうか) 膠着状態を壊したのはビアンカだ。 彼女は武器を動かさず、大きく一歩踏み出した。(ここで慎重な者は静かに一歩後ろへ下がるだろう。だが、恐怖を感じている者は攻撃を仕掛けて来る。で、この子はどうするかな?) ベラは警戒しつつ、一歩下がった。ビアンカは彼女に興味が湧く。(無闇に打ち込んで来ない点はいい。後は武器を使いこなせているかどうかだ) ビアンカは彼女の攻撃を見たかったので、棍棒で真っ直ぐ突いてみた。 すると、彼女は棍棒を横向きに持ち替えて、防御の構えを取る。(慎重だ。いいぞ) 続けて、棍棒に体重をのせて横一線に薙《な》いでみたり、縦に回転をかけて、棍棒の左右の端で殴りかかったりもしてみたのだが……。(おいおいおい!! 防御一択じゃないか!)「ベラ、攻撃しろ!」 とうとうビアンカはしびれを切らして、ベラに注意を入れた。「無理です。怖くて攻撃できません~~~。どうしたらいいですか?」「それを私に聞くのか!?」(いやいやいや、この緩い感じは怖いって……。これ本当の戦闘だったらどうするつもりだ? というか、ここは戦闘の多い地域だろ! 実戦経験もそれなりにあるはずだろうに……)「ベラ、お前は敵に『どうしたらいいですか?』と毎回聞いているのか?」「聞きません」「私を倒したいなら、自分で考えて攻撃してこい!」 ビアンカに喝を入れられ、ベラは腹を括る。「雷神一閃~!!」 ベラの棍棒が上下左右に激しく且つ不規則に回転し始めた。
続きを読む

課題が厳しい!!結婚5日目・命令します 1

 ビアンカは本棚の上の段から順に左から右へ視線を動かして、背表紙を確認していた。「ビアンカ、気になるものを見つけました~!」(ん? 気になるもの?) 彼女はユリウスのところへ移動する。 彼がテーブルの上に広げていたのは表紙にイリィ帝国の紋章が描かれている古びた書物だった。「古代語で書かれています」「古代語というと……。千年以上前の書物?」「ええ、そうです。先ずはこれを見て下さい」 ユリウスは挿絵を指差す。 そこには見たことのある人物が写実的に描かれていた。(ん? 父上? あ、違う……)「これは主神ダイア?」「だと思います」―――朝訓練で三十名の兵士と対戦した後に一旦、休憩を挟んでから、二人は辺境伯城の禁書庫に足を運んだ。 一昨日、ビアンカは主神ダイアからイリィ帝国の後継者として神の力を与えられた。 ところが、彼女には何の変化も現れておらず『神の力とは一体、何?』という状況になっている。そこで、ユリウスは過去に主神ダイアから神の力を与えられた者が何か記録を残していないだろうかと考えた。 というわけで、この城の禁書庫の蔵書の中に神の力を記した書物がないか、ビアンカと一緒に探しているのだ。 なぜ国内で一番蔵書の多い王立図書館ではなく辺境伯城の禁書庫を調べているのか?―――それはここが旧イリィ帝国の発祥の地で、なお且つ、イリィ帝国の首都が長年置かれていた場所だったから。 ただ、予想に反し、禁書庫にあるのはイリィ帝国の栄華を記した書物ばかりで、主神ダイアや神の力に触れる内容が記載された書物はなかなか見つからない。 これ以上は無理か……と諦めかけた時、ユリウスはとうとう主神ダイアらしき人物が書物の中に描かれているのを発見した。 それがこの古代語で記されている古びた書物だ。「主神ダイアが何かの花を摘んでいる絵ですね。どういうことが書いてあるのです
続きを読む

課題が難しい!!結婚5日目・命令します 2

「神力を……感じないというのか?」 主神ダイアはビアンカの手を握ったまま、狼狽えた声を出す。「はい、何も感じません」「―――そうか」 主神ダイアは彼女の手を離すと、両腕を組んで考え込む。 今日も神殿は物音一つせず、凪いだ時の流れに身を任せている。(主神のこの様子……。私の状況はイレギュラーなのか?)「ダイア、ビアンカ以外の者に神力を与えた時はどうだったのです?」「―――それは……。いや、ちょっと待ってくれ……。まさか……」(主神ダイアは何をブツクサと言っているんだ? ユリウスの予想通り、簡単には教えてくれないのだろうか?)「ユリウス、主神ダイアはどうしたのでしょう?」 ビアンカはユリウスの耳元へ囁きかける。「さあ、何か思い当たることでもあったのでしょう。細かなことは分かりませんが……」 ヒソヒソと話している二人に気付いた主神ダイアは顔を上げた。「―――私の妻が出て行ったのは五百年ほど前のことだった。イリィ帝国が崩壊し始めた時期と重なると思わないか?」「「は?」」 ユリウスとビアンカの声が重なる。(いや、唐突にそんな昔のことを私達に尋ねられても……。―――で、私の神力の話はどこに行った!?)「―――妻が干渉している可能性も……、いや、それはない。そうだ! 考え過ぎだ!―――しかし、私の力に対抗できるのは……」 主神ダイアの独り言はしっかりと二人の耳にも届いていた。(ん? 妻が干渉!? 何の話だ???)「あなたの妻がビアンカの神力をかき消したということですか?」「魔塔主よ、ビアンカの神力はかき消されていない」「えっ!」 ビアンカはつい声を出
続きを読む

課題が厳しい!!結婚5日目・王妃襲来 1

 執事セザンヌは珍しく焦っていた。 主(ユリウス)が不在にしている間に王妃が護衛を二人と侍女をひとりだけ連れて、ふらりと辺境伯城に現れたからである。「あら、セザンヌ、お久しぶりね。辺境伯夫妻は?」「え~、あ、はい。あ~、いえ、申し訳ございませんが、閣下とビアンカ様は城下にお出かけになられておりまして……」 彼の記憶では王妃が単独で辺境伯城へ来たことなど、過去に一度もない。 だから、王妃が緊急の用事でこの城に現れたのか、それともただの気まぐれなのかということを即座に見極められなかったのだ。 困惑する彼の心中を察することもなく、王妃は朗らかな笑みを浮かべている。「急に来たから仕方ないわよね~。え~っと、それなら、マクシムは?―――こちらに居るのでしょう」「―――はい、王太子殿下は現在、他国の王族の方々と温室でお茶を楽しんでいらっしゃいます。お呼びして参りましょうか?」「いいえ、わざわざ呼びに行かなくても結構よ~、私が行くわ!―――セザンヌ、辺境伯夫妻が戻って来たら教えて頂戴ね!」「はい、承知いたしました」 王妃がお供を連れて中庭へ向い始めると同時にセザンヌも動き出す。 温室にいるマクシムへ王妃が来たという先触れを飛ばし、辺境伯城の正面玄関にいる門番たちにはユリウスが戻って来たら教えて欲しいと言伝をした。 城内の使用人たちには『王妃様に対して粗相がないよう、万全の体制で!』と喝を入れておく。 そして、最後に王宮の宰相(ピサロ侯爵)へ『今、王妃様が辺境伯城にご到着されました』という伝言を送った。これで何か問題があれば、あちらから連絡が来るだろう。♢♢♢♢♢♢♢ 連日、他国の王族の相手をして、マクシムは疲れていた。 この五日間、彼は王宮と辺境伯城を行ったり来たりの生活をしている。正直なところ、時間ばかり取られて執務が片付かない。 実は一昨日あたりから『彼らは自国へ帰るつもりが無いのではないか?』とマクシムは疑っている。 彼らは不自然なくらい帰国
続きを読む

課題が厳しい!!結婚5日目・王妃襲来 2

―――なぜ、母上がここに来るのだろうか?? 王宮からも滅多に出ない方なのに……。マクシムは胸騒ぎがする。 しかし、何の対処も出来ないうちに、王妃は現れた。「皆さま~、ごきげんよう!!」 朗らかな性格の王妃は他国の王族たちに挨拶を告げ、本来フォンデが座るはずだった椅子に堂々と腰を下ろした。「あらあら、コルネリアちゃん、お久しぶりね~、イヴァン(国王)はお元気にしているのかしら?」「ごきげんよう、王妃様。父は毎日、小麦畑で汗を流していますわ。それよりも、ここ最近、ヴィロラーナ公爵家の御令息マリウス様にとてもご迷惑をお掛けしているようで……、大変申し訳なくて……」「あら~、ご心配なさらないで~! お仕事ですもの。それにマリウスはイヴァンの研究に興味があるのよ~。農薬は作物を元気に育てるために必要なものですからね」オホホホ~と王妃は上品に笑う。しかし、マクシムは笑わない。ネーゼ王国の高官たちが穀物共同研究プロジェクトの一環と称し、イヴァン国王のお世話をマリウスに押し付けていることを知っているからだ。―――他国の王位継承者を雑用係にするなんて、ネーゼ王国はどうかしている。 適当に流す王妃も王妃だが……。「母上、本日はどのようなご用件でこちらへ?」「あら、ご用件なんてないわよ。わたくしもたまにはお茶会に参加したいと思ったの。だって皆さんがお揃いになっている機会なんて、なかなかないでしょう?」 マクシムは眉をひそめる。 現在、王宮にもユリウスの結婚式に参列するためにこの国へやって来た他国の王族や貴族が滞在している。―――お茶会なら、あちらでいくらでも出来るだろう。わざわざここへ来たのは、きっと別の理由があるはず……。 黙り込むマクシム。場の温度が急激に下がり始める。「王妃様、是非、私達と一緒にお茶を楽しみましょう!!」 機転を利かせて、王
続きを読む

課題が厳しい!!結婚5日目・王妃襲来 3

城に戻ったユリウスとビアンカは応接室でのんびりとお茶を飲んでくつろいでいた。 「ここで王妃様が戻られるまで、しばらくお待ちください」と執事が言ったからだ。 「まさか王妃様が飛び入りで温室のお茶会に参加されるなんて思いませんでした」 「そういう人です」 「そうですか……」 ピサロ侯爵が宰相をしていることもあり、幼少期のディヴィスとビアンカは王妃と会う機会がそれなりにあった。とても明るい人という印象がある。 ただ、ビアンカが軍人になってからは全く話した記憶がない。 (王妃様と疎遠になったのは私がリリアージュに遠慮したというのが一番の理由だ。今思えば、余計な気遣いだった。マクシムとリリアージュは冷え切った関係だったというのだから) コン、コン、コンと、ドアをノックする音がした。 「セザンヌでございます。王妃様がお戻りになられました」 「分かった。通してくれ」 ガチャッとドアが開かれる。 薄紫色のドレスを身に纏った王妃が立っていた。彼女はビアンカの姿を見つけて、ふんわりと笑みを浮かべる。 ところが、次の瞬間、王妃はビアンカに向かって走り出した。 (お、おおおお、王妃様!?) 王妃はソファーから慌てて立ち上がったビアンカに飛びつく。 「ビ~ちゃん!! とっても、と~っても、会いたかったわ!!」 ギュウギュウに抱き締められて、ビアンカはあ然とする。 ―――その場の空気を読んだセザンヌと使用人たちは、静かに部屋から退出して行った。 「王妃様、ビアンカが驚いています。止めて下さい」 「王妃様!? ユール! 使用人たちはもう出て行ったじゃない。母上と呼んで頂戴!!」 「はぁ~~~~」 ユリウスは大きなため息を吐いて、王妃に文句をいう。 「もう、何なんですか! 母上!! ビアンカは私のものです。離れて下さい!!」 ユリウスは王妃をビアンカから力任せに引き剝がそうとした。 二人の様子を目の当たりにして、ビアンカは言葉を無くす。 (は? この二人……。いつもこんな感じなのか!? 見たことのないユリウスが出て来たぞ……) 「ん~、もう!! ユールのケチ!!」 王妃はビアンカから渋々離れると頬を膨らませてユリウスを睨みつけた。 「あ、あの、ケンカはしないで下さい……。私は大丈夫なので……」 (何なんだ!? この
続きを読む

課題が厳しい!!結婚5日目・王妃襲来 4

 謙虚な姿勢のビアンカに感激した王妃はユリウスの左腕を両手で掴んで、好き勝手な方向へブンブン振り回す。(ユ、ユリウス……。顔が虚無になっている……)「ビ~ちゃんが結婚式で私に手を振ってくれた時は嬉しかったわ~。もっと早くお祝いに来るつもりだったのになかなかお客様が帰って下さらなくて~。すぐに会いに来られなくて、ごめんなさいね!」(あ! 結婚式……、最前列にいたのは王妃様だったのか!! 私はてっきりヴィロラーナ公爵夫人のレティア様だと……)「いえ、ご多忙の中、お越しいただきありがとうございます」 ビアンカは王妃の目的がまだ分からないため、無難な返事をする。「母上、いい加減、ここに来た目的を教えて下さい!!」「もう、ユールはせっかちね! 折角だから、お茶を用意してもらいましょう。ゆっくり話したいの」「お茶!? 今の今まで兄さん(マクシム)たちと茶会を楽しんでいたのではないのですか?」「それとこれは別!!」(このまま、この二人は揉め続けるつもりか!? でも、まあ、ユリウスの違う一面が見られるのは面白いからいいけど) コンコン。「セザンヌでございます。お飲み物をお持ちしました」 絶妙なタイミングで、執事がティーワゴンを持って登場した。彼の後には侍女頭アンナもいる。二人は応接室に入ると流れるような所作で配膳をしていく。 瞬く間に三人分のお茶とお菓子がテーブルに並べられ、仕事を終えた二人は風のように去っていった。(執事とアンナは相変わらず仕事が早い。ん!?―――あれれ? 廊下に控えていた者たちの気配が消えたぞ。ユリウスが人払いを命じたのか?) いつの間に使用人へ指示を出したのだろう……と、ビアンカは首を捻る。(こういうことが前にもあった。どういう方法で伝達しているのか、あとでユリウスに聞いてみよう)―――紅茶を一口飲み、慣れた手つきでティーカップをソー
続きを読む

課題が厳しい!!結婚5日目・王妃襲来 5

 王妃の出産はすべてが無事に終わるまで非公表にすることになった。  万全を期すため、王妃担当の宮廷医師と看護師たちは出産が終わるまでは王宮で寝泊まりをする。  また職員の配置替えも行い、東棟(王妃が出産するまで過ごす場所)は信頼のおける口の堅い人員で固め、それ以外の者は他の職場へ移動を命じた。 東棟の警備体制を見直し、些細な情報も外へ漏らさぬよう細心の注意を払う。 世間には王妃が流行り病にかかり、王宮の奥で療養していると発表した。 ―――理由もなく皇宮に引きこもっていると良からぬ推測をされてしまうからである。 この大義名分により、王妃が表舞台に出て来なくても怪しまれることはないだろう。 (ユリウス……、先ほどとは打って変わって王妃様の話を真剣に聞いている。もしかして、彼もこの話を聞くのは初めてなのか……) しかし、強い魔力を持つ胎児がお腹の中にいるというのは想像以上に大変だった。 妊娠初期から、早速、危機に見舞われたのである。 王妃は激しい嘔吐で食事が取れず、体重が著しく減少し、最終的には吐血を繰り返して、生死をさまようことも……。 四か月目の後半に入ると吐き気の症状がかなり改善して、血を吐くことも無くなった。 しかし、次はいばらで絞め付けられるような激痛を身体のあちらこちらで感じるようになり、酷く苦しんだ。 終わりの見えない状況は辛くて……、苦しくて……、心が折れそうになる時もあった。 そんな時は瞼を閉じ、生まれて来る愛しい我が子を想像して耐え忍んだ。 ある晴れた日、宮廷医師は王妃の身体の痛みが少し和らいでいるのを見計らって、中庭での日向ぼっこを勧めた。 王妃の心を癒すための提案である。 宮廷医師の提案を受け入れた王妃は久しぶりに寝室から外へ出た。 中庭の芝生の上には毛足の長いマットが敷かれている。その上にはフカフカのクッションが山のように積み重ねられていた。 王妃は足元に気を付けながら敷物の上へ慎重に腰を下ろし、クッションの山へ体重を預けてみると、想像以上に沈み込んだ。 ここで王妃はようやく自分のお腹が随分大きくなっていることを自覚した。 ―――この中に赤ちゃんがいる。 そう考えるだけで幸せな気分になってくるのだから、不思議だ。 ―――苦しくても、痛くても、この子のためなら、いくらで
続きを読む
前へ
1
...
910111213
...
17
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status