風が吹いていた。 結界の中。 五芒星の光が地面を走る。 優士の肩から流れた血が白装束を染めていた。 それでも。 優士は立っていた。 一歩も退かない。 一歩も離れない。 百年前とは違う。 和泉はそれを知っていた。 「……優士」 涙が滲む。 怖かった。 また失うかもしれない。 また一人になるかもしれない。 そんな恐怖が胸を締め付ける。 だが。 優士は静かに微笑んだ。 「大丈夫です」 その声は不思議なくらい穏やかだった。 「今度は逃げません」 和泉の目から涙が零れる。 百年前。 優士は自分を逃がした。 守るために。 愛していたから。 でも。 その結果、二人は離れ離れになった。 百年もの間。 ずっと。 「……もう嫌だよ」 和泉は震える声で呟く。 「もう離れたくない」 結界が激しく揺れる。 風が唸る。 見えない力が二人を引き裂こうとする。 それでも。 優士は和泉の手を離さなかった。 「離れません」 短い言葉。 だが。 その言葉には百年分の想いが込められていた。 「絶対に」 和泉は目を閉じる。 そして。 ゆっくりと胸へ手を当てた。 そこにある。 白狐の力。 長い時間を生きた証。 未来を見る力。 傷を癒やす力。 人にはない力。 藤宮家が代々受け継いできたもの。 「……ありがとう」 和泉は静かに呟く。 白い光が身体から溢れ始める。 宮司たちが息を呑んだ。 結界全体が光り始める。 優士も目を見開く。 和泉の髪が風に舞う。 藤の花びらが光の中へ吸い込まれていく。 「和泉!」 優士が叫ぶ。 和泉は振り返る。 泣きながら笑っていた。 「大丈夫」 不思議なほど穏やかな声だった。 「これは返さなきゃいけないものだから」 光が強くなる。 身体が軽くなる。 百年という時間がほどけていく。 「この力をお返しします」 和泉は空へ向かって手を伸ばした。 「どうか」 涙が頬を伝う。 「どうか次は、この国の誰かのために使ってください」 風が吹く。 藤の花が舞う。 光はさらに強くなる。 和泉は最後に
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