鏡の中の自分が、少しだけ遠く見えた。 見慣れているはずの輪郭なのに、どこか、焦点が合っていない。 和泉は、しばらくそのまま立ち尽くしていた。 何を考えているのか、自分でもわかっている。 わかっているのに、言葉にした瞬間、壊れてしまいそうで。 息を、ゆっくり吐く。 整えようとすればするほど、内側は静かに揺れる。 ——遠くの光。 ——近くの光。 どちらも、否定できなかった。 窓の外は、夜のままだ。 街の灯りは変わらず、一定の距離を保って瞬いている。 手を伸ばしても届かない場所にある、あの光。 それでも、目を離せない。 ずっと、そうだった。 一方で。 足元は、暗くない。 見えている。 ちゃんと、自分の輪郭がわかる程度には。 「……変だな」 小さく呟く。 どちらかを選べば、もっと楽になるはずなのに。 迷いは消える。 形も、はっきりする。 それなのに—— 選びたくない、と思っている自分がいる。 どちらも、嘘じゃないから。 洗面台に手をつく。 冷たい感触が、少しだけ現実を引き戻す。 「ママ」 背後から、声がする。 振り返ると、小さな影が扉のところに立っていた。 「どうしたの」 自然と、声がやわらぐ。 「……なんか、静かすぎて」 その言い方に、わずかに笑いそうになる。 静かなのは、悪いことじゃないはずなのに。 「大丈夫だよ」 そう答えると、子どもは少しだけ首をかしげた。 「ほんとに?」 問い返されて、言葉が一瞬止まる。 嘘ではない。 でも、完全な本当でもない。 「……うん」 それでも、頷く。 それしか、できなかった。 子どもは、しばらくこちらを見ていた。 何かを見透かすような目で。 それから、小さく息をついて。 「そっか」 それ以上は聞かなかった。 聞かない優しさ。 踏み込まない距離。 その在り方に、ふと重なるものを感じる。 ——選ばない。 胸の奥が、わずかに揺れる。 「もう寝なさい」 やわらかく言うと、子どもは素直に頷いた。 足音が、廊下の向こうに遠ざかっていく。 再び、一人になる。 鏡の中の自分は、まだそこにいる。 変わっていないはずなのに、同じには見えない。 「……選べない、か」 声に出してみる。 その響きは、思ったよりも静かだった。 逃げてい
Terakhir Diperbarui : 2026-04-03 Baca selengkapnya