館内は、ほとんど暗かった。足元のわずかな光と、頭上に広がる星だけが、空間を保っている。「……すごいね」和泉が、小さく言う。声が、自然と抑えられる。この場所に合わせるみたいに。優士は、隣で静かに頷く。「思っていたより、近いですね」星のことを言っているのか。距離のことを言っているのか。わからない。でも。どちらでもいいと思えた。二人は並んで座る。肩が、軽く触れる位置。離そうと思えば、離せる。でも。離さない。星が、ゆっくりと流れる。時間が、ゆるやかに動く。会話は、ほとんどない。でも。不思議と、満たされている。「……眠くなりそう」和泉が、小さく笑う。力が抜けている声。優士は、横目で見る。「無理してませんか」また、その言葉。和泉は、首を横に振る。「してない」即答する。それから。少しだけ視線を落とす。「……むしろ、落ち着く」ぽつりと落とす。その言葉に、嘘はない。優士は、何も言わない。ただ、少しだけ肩を寄せる。今度は。はっきりと。和泉は、一瞬だけ驚く。でも。そのまま、受け入れる。逃げない。その距離が、当たり前みたいに感じる。「……優士さん」名前を呼ぶ。小さく。優士は、すぐに応じる。「はい」その声が、近い。距離じゃなく。感覚として。和泉は、少しだけ迷う。でも。そのまま、顔を上げる。優士を見る。暗闇の中で、輪郭だけがわかる。目が、合う。逃げられない距離。「……なんかさ」言葉が、少しだけ途切れる。優士は、待つ。急かさない。「……こういうの、ずるいよね」小さく言う。優士は、わずかに息を吐く。「そうですね」否定しない。そのまま。少しだけ、顔を近づける。ほんのわずか。でも。確実に。和泉の呼吸が、止まる。距離が、消える。あと少しで。触れる。——キスできる距離。「……」言葉が、出ない。頭の中が、静かになる。ただ、目の前の存在だけが、はっきりする。優士も、動かない。止まらない。でも。急がない。そのまま。時間だけが、伸びる。「……いいんですか」優士が、低く言う。確認。最後の線。和泉は、答えられない。でも。目を逸らさない。そのまま。ほんの少しだけ。顔を近づける。無意識に。その瞬間。優士の手が、動く。
Last Updated : 2026-04-13 Read more