車は、ゆっくりと止まる。見慣れた住宅街。和泉の家の前。エンジンはまだ切られていない。静かな振動だけが、残っている。「……着いたね」和泉が、小さく言う。さっきまでの余韻が、まだ残っている声。優士は、すぐには答えない。前を見たまま。少しだけ、息を整える。「……和泉さん」低く呼ぶ。その一言で、空気が変わる。和泉は、視線を向ける。「なに?」優士は、ほんの一瞬だけ迷う。でも。今回は、止まらない。「曖昧にしたくありません」はっきりと言う。逃げない。言い切る。和泉の呼吸が、わずかに止まる。予想していた言葉。でも。実際に聞くと、少しだけ違う。重さがある。「……うん」小さく返す。そのまま、続きを待つ。優士は、ゆっくりと視線を向ける。真正面から。「この関係に、ちゃんと名前をつけたいです」静かに言う。落ち着いた声。でも。中にあるものは、隠れていない。和泉は、少しだけ目を細める。逃げない。「……それって」わかっているのに、聞く。優士は、頷く。「俺と、付き合ってください」短く。でも、まっすぐに。言い切る。その一言で、すべてが整う。今までの曖昧さが、形になる。和泉は、少しだけ息を吐く。力が抜ける。それから。少しだけ笑う。「……今さら?」意地悪みたいに言う。でも。声はやわらかい。優士も、わずかに口元を緩める。「はい」短く答える。それだけで、十分だった。和泉は、視線を落とす。自分の手を見る。少しだけ、震えている。でも。怖くない。「……うん」顔を上げる。優士を見る。「よろしくお願いします」はっきりと言う。迷いなく。その言葉で、すべてが決まる。優士の呼吸が、わずかに変わる。でも。大きくは動かない。「……こちらこそ」静かに返す。そのまま。少しだけ距離が近づく。自然に。今度は、迷いがない。優士の手が、そっと和泉の手に触れる。軽く。でも。離さない。和泉も、引かない。そのまま、握り返す。はじめての、はっきりした形。「……これで」和泉が、小さく言う。優士は、応じる。「はい」「ちゃんと、決まったね」その言葉に、少しだけ笑う。優士も、ほんのわずかに笑う。「そうですね」短く。でも。どこか安心した声。外は、もう完全に夜。
Last Updated : 2026-04-17 Read more