昼休み。小さな休憩室。静かな空間に、わずかな生活音だけがある。「……」和泉は、スマホを見ている。昨日から、触れていない画面。通知は、増えていない。それが逆に、引っかかる。「……」何も来ない。なのに。気配だけが、残っている。「……なにそれ」小さく呟く。自分でもわからない感覚。「……」そのとき。画面が、ふっと光る。着信。「……」名前は、出ない。番号だけ。でも。わかる。迷う。一瞬だけ。それから。——出る。「……もしもし」声は、思ったより普通だった。『久しぶりだな』低い声。変わらない。それだけで、距離が一気に縮まる。「……」返事が、遅れる。『無視されるかと思った』少しだけ、笑っている声。責めてはいない。でも、逃がさない。「……出るつもりなかった」正直に言う。『だろうな』あっさりと返る。否定も、驚きもない。それが、逆に怖い。「……」沈黙。短いはずなのに、長く感じる。『元気か』それだけ。シンプルな問い。「……うん」短く答える。それ以上は言わない。『そうか』それだけで終わる。会話が続かない。でも、切れない。「……」和泉は、息を整える。「……なに」思わず聞く。「何の用?」レオンは、少しだけ間を置く。『顔、見て話せ』まっすぐに言う。「……は?」一瞬で、温度が上がる。『今じゃなくていい』落ち着いた声。『時間作れ』命令でも、お願いでもない。ただの事実みたいに。「……」言葉が出ない。断るべき。そう思うのに。すぐに言えない。『場所は送る』それだけ言う。「ちょっと待っ——」言いかけた瞬間。通話が切れる。「……」静かになる。急に。さっきまでの空気が、嘘みたいに。「……なにそれ」少しだけ強く呟く。でも。完全には怒れない。「……」スマホが、もう一度震える。メッセージ。位置情報だけ。余計な言葉はない。「……」画面を見つめる。消すこともできる。無視もできる。「……」でも、指が止まる。ほんの一瞬。それだけ。「……」和泉は、ゆっくりと息を吐く。それから、画面を伏せる。「……考えよ」小さく言う。今すぐ答えは出さない。それでも。“何もないまま”では終わらない。それだけは、わかっている。
Dernière mise à jour : 2026-04-29 Read More