All Chapters of 訳あり侯爵令嬢は成り行きで身代わり占い師をしています(元婚約者の皇子が相談にやって来ました): Chapter 81 - Chapter 86

86 Chapters

銀狐と子猫 9

「それで、他の奴らは?」 アルフレッドはミトラに尋ねる。「あっちに揃っているよ」 ミトラは道路を挟んで向かい側にあるバルを指差した。人気店のようで、店内もテラス席も人が溢れている。―――お客たちはジョッキを片手に盛り上がっていた。「大丈夫! あれ、全員仕込みだから!」 ミトラは親指を立てて、笑顔で言い放つ。―――バルに入るとミトラ以外の四名が二人を待っていた。 アルフレッドはカレンに彼らのことを紹介する。 髪を肩口で束ねた長身のレッケンバード、短髪のニル、長い髭のあるウェルジュ、眼鏡を掛けているボートウェル、唯一の女性ミトラ。彼らは全員、ニルス帝国の歴代皇帝である。 彼らは普段、銀狐の姿で諜報活動をしているため、今回のように人の姿で活動するのは大変珍しいのだという。「結局、力を借りることになってすまない。彼女が俺の婚約者のカレンだ」「初めまして、カレンです」 カレンは黒いフードを目深に被ったままで挨拶をした。レダから、くれぐれも顔は晒さないようにと命じられているからだ。「二人とも待っていたぞ! 飲み物はどうだ?」 レッケンバードは豪快にエールのジョッキを掲げる。アルフレッドは隣にいたカレンに尋ねた。「カレン、何を飲みたい?」「ん~。では、レモネードを」「分かった。レック、レモネードとエールを頼む」「はいよ~」 レッケンバードは迅速に店員を捕まえて注文を伝える。 レッケンバードとアルフレッドのやり取りを聞いていたカレンはアルフレッドがエールを注文したことに驚いていた。(殿下はお酒を飲むつもりなの!? 任務中なのに?)「で、どうする? 倉庫の入口付近に結界とか張っちゃう?」 ニルが小声で聞いて来る。「ニル、倉庫の正確な場所を把握しているのか?」 アルフレッドはボソボソと小声で質問を返す。「うん。だって、この遺跡を建てたのは僕だからね!」
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銀狐と子猫 10

「大丈夫だ。エールで酔うことはない」「もう! あと一杯だけですからね!!」 カレンに念を押され、アルフレッドは渋々頷く。「うわ~っ。アルに注意するなんて、強者過ぎるー!!」「ポートウェル、うるさい!」 ポートウェルがいきなり大声で叫んだので、ヴェルジュが注意する。 オシャレな眼鏡でインテリな雰囲気を醸し出していたヴェルジュの奇行が、カレンは何となく気になってしまう。(ポートウェルさま、お口を押さえて青ざめている……? ヴェルジュさまに注意されたからでしょうけど、この様子から察するに、ポートウェルさまは元々軽口を叩くようなタイプではないのかも。―――そもそも、殿下がエールを飲んだりするから悪いのよ……。私だって、人前で注意なんかしたくないわ……)「カレンさま、そろそろ、倉庫の場所の確認をして下さいませんか?」 ヴェルジュは優しい口調でカレンに進言する。(そうね。のんびり考え事をしている場合ではなかったわね)「分かりました。早速、取り掛かります」 カレンはレモネードのジョッキをテーブルに置いてから、目を閉じて集中した。 バルの賑わいが徐々に遠のき、自分の中にある世界へ入り込む……。 真っ暗闇だった視界に古代遺跡の全体像がパッと浮かび上がってきた。(多くの建物が見えて来たわ。次は地下……) 地面の下に潜ってみる。地上に繋がっている階段を見つけた。その階段の下へ意識を向ける。 階段の先に大きな部屋があった。扉を通り抜けて、室内を確認していく。(金貨の麻袋と宝石、壁際の棚には薬品の瓶、それと……)「えっ!? 嘘……」「カレン、どうした?」 アルフレッドは心配になって声をかける。(殿下の声! ああ、私が驚いて声に出したから~)
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銀狐と子猫 11

「上手くいきました!!」 取りあえず報告だけは口にしたが、まだ、意識はミイラだけ残る部屋の中にあった。―――と、ここで、ニルがカレンの意識の中へ直接、語り掛けて来る。『カレンさま、そのまま意識を繋いでいてくれる? 次は僕がミイラを処理するから』『はい、承知しました』 ミイラの残る部屋へ、ニルらしき銀狐が現れた。(えっ、どうやって、ここへ入って来たの??) 疑問を感じつつ、カレンは見守る。ニルはミイラに触れることなく、その身体から白銀色の粒子を放った。(ニルさまが殿下みたいなことをしているわ) 粒子はミイラたちを包み込んで輝きを増していく。そして、パンッと弾けるような音が鳴った瞬間、ミイラたちは消滅した。「カレンさま、もう戻ってきていいよ」 ハッキリとしたニルの声が聞こえて、カレンは意識をバルの店内に戻す。 ゆっくりと瞼を開けると皆がカレンの肩や腕を掴んでいた。何とも言い難い光景につい笑いが込み上げてくる。(魔力って、こうやって渡すのね……。予想外だったわ、フッ)「ウフフフッ……。皆さま、ご協力いただきありがとうございました! 無事に完了しました!!」「ミイラも黄泉送りしておいたから、ご心配なく!」 ニルが付け加える。「これで、あたしたちの任務も完了!!」 ミトラはジョッキを掲げて、宣言した。「アルたちは夜会の助っ人に行くのか?」 レックはポートウェルの手を取って、彼をダンスの時のようにクルリと回す。無茶振りだったのにポートウェルの動きは優雅だった。「ああ、今、レダどのに確認したら、すぐに来いと言われた」 アルフレッドの言葉を聞いて、ヴェルジュは眉を寄せる。「『すぐに』って、何かトラブル?」 ニルが心配そうに聞いて来た。「ああ、それは……。この国のアウローラというご令嬢が……
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夜会 1

「カレン、そろそろ準備はいいか?」 衝立の向こう側から、アルフレッドが急かしてくる。 今、この部屋に居るのは、カレンとアルフレッドの二人だけだ。 何故なら、エドリックが使用人たちに、夜会の間は自室(エドリックの部屋)への立ち入りを禁じたから。 この指示は諸々の機密(今回の任務)を守るために出した。しかし、その弊害でアルフレッドとカレンは夜会の準備を自分たちでしなければならなくなってしまったのである。(―――後ろのボタンが止められなくて困っているって、素直に言った方がいい? まさか、レダさんから急いで身なりを整えて、夜会会場へ来るようにと言われるなんて思わなかったわ。この半年間で色々と身の回りのことも出来るようになったけど、流石にドレスを一人で着るのは難しいわね) 本来、カレンとアルフレッドは荷物の転移任務が終わった後、この部屋で夜会が終わるまで待機する予定だった。 このタイミングでレダに呼び出されたということは『レベッカたちを捕縛し、エドリックが隣国リビエル公国の大公メローに釘を刺す』という段取りが上手く行かなかったのだろう。 アルフレッドは下手したら、黒魔女レベッカとレダの全力魔法合戦が勃発するのではないかと心配している。 出来るなら、最悪の事態は回避したい。 だから、カレンに何度も声を掛けてしまったのである。「殿下、大変申し訳ないのですが、手の届かないところを手伝って欲しくて……」「分かった。入るぞ」 アルフレッドが衝立の横から現れた。カレンはアルフレッドの目の前で、クルリと回転して背を向ける。「後ろのボタンを留めて欲しいのですが……。すみません」 カレンは申し訳ない気持ちで一杯だった。 アルフレッドは露わになった彼女の真っ白で一点の曇りもない美しい背中をあまり見てしまわないよう、ドレスのボタンに意識を集中する。(緊急事態とは言え、皇子様に着替えを手伝わせていいの? これ、不敬じゃない?) カレンは手伝いをお願いしたも
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夜会 2

「カレン、レダどのがここに来るらしい」「えっ!?」「お疲れさま、荷物の件は無事に終わって良かったね~」 衝立の向こう側から聞こえてくる、レダの声。タイムラグゼロである。 レダは指先をひょいと振って衝立を消し、カレンたちと半日振りの対面をした。 偽アルフレッド(人形)もレダの隣に立っている。 今のレダは一応、カレンに変装している(ことになっている)ため、いつもの真っ黒なローブ姿ではない。美しく輝く金色の髪はリボンを一緒に編み込んでオシャレに結い上げられ、ドレスもすみれ色の柔らかな生地を使用した若々しいデザインのものを着用していた。 ちなみにカレンも同じドレスを着ている。(これは私と交代するということ?)「レダさん、夜会を抜けるつもりなのですか?」「う~ん、抜けるというか、修羅場が予想以上に長くてね~。居心地の悪さが半端ないんだよ」「修羅場……」「というわけで、あたしはいつもの姿に戻らせてもらうよ。あとはよろしく!」(あ、やっぱり入れ替わるんだ……) レダは指をパチンと鳴らして、いつもの黒いフード姿になった。後ろにいたアルフレッド人形も白い人形に戻されて、レダの懐へ。「レダどの、状況を教えてくれ」「いや~、状況もなにも……。アウローラが他国から来たご令嬢の一人一人に、エドリックを横に連れて挨拶して回っているんだよ~。『私がエドリック王子の婚約者アウローラです。以後、お見知りおきを~!』って、そりゃ~、いい笑顔を浮かべてね。でも、目は全く笑ってないんだ。あれは見ているだけで怖いよ……、クックック」(ローラさん、あいさつ回り……。良かった~! 流血事件とかじゃなくて……)「カレン、良からぬことを考えただろ」 アルフレッドはカレンの頬を人差し指でプニッと押した。タイミングが良過ぎて、アルフレッドに心を読まれ
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夜会 3

 カレンはアルフレッドの袖を引っ張る。 少し屈んでくれたので耳元へ囁いた。「エドリック王子って、おバカなのでしょうか?」「ああ、この謎の演出が今回の計画を狂わせたのは間違いないだろう」 アルフレッドは視線を上げると、会場内をゆっくりと見回す。精悍な横顔にカレンは見惚れてしまう。(まるで彫刻の巨匠が手掛けたような造形美ね。鼻もスッとしていて、くちびるの厚みもちょうど良くて、額の広さも……。殿下、今日は前髪を上げているから余計に美しい顔が際立っているわ~~~) そこへ、イランイランの魅惑的な香りが漂ってくる。 アルフレッドへ無意識に手を伸ばしてしまいそうになり、カレンはハッとした。(ん? この殿下に対して、やけにムラムラとしてしまうのは何なの? もしかして、この香りのせい?? 何か変なものを仕込んでないわよね? エドリック王子!!) カレンは心の中でエドリックを疑う。―――と、ここで、アルフレッドから肩をトントンと優しく叩かれた。「カレン、あそこにエドリックたちがいる」 カレンはアルフレッドの視線の先を辿る。「あれは……」「ああ、エマと対峙している。到着したタイミングが良かったのか、悪かったのか……。俺たちの出番だな」「そうですね。行きましょう」 カレンはアルフレッドにエスコートされながら、彼らに近づいて行く。 歩いていると、先日、エマに傘で殴られたことを思い出した。ついつい怪我をしたこめかみを手で触ってしまう。今はもう傷も消えているが……。(エマは私を殴ったとは気付いていないのだから、気持ちで負けないようにしないと!!) カレンは首を左右に振って、あの嫌な出来事を振り払う。 近づくにつれ、会話の内容が耳に入ってくる。「―――そう、あなたはアウローラというのね……。わたくしはニルス帝国の第一皇子の正式な婚約者として、エドリック王子の婚約者選びを見届けに来たの。婚約者気取りの女の挨拶なんていらないわ。下賤な女、今すぐここから去りなさい。目障りよ!」
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