All Chapters of 訳あり侯爵令嬢は成り行きで身代わり占い師をしています(元婚約者の皇子が相談にやって来ました): Chapter 11 - Chapter 20

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本日のお客様 2

―――――次のお客様は、貿易商のシューマンだった。 シューマンは買い付けの旅の前に必ずこの占いの館へやって来る。今回は南方航路の船に乗るらしい。「レダ(カレン)、南方には色とりどりのフルーツや香辛料、そして薬草があるらしくてね。どれに注目すべきだと思う?」 こげ茶のスリーピースに縦縞の入った白ワイシャツ、黄金色の蝶ネクタイ。いかにも羽振りの良さそうな出で立ちのシューマンは身を乗り出してカレンに尋ねる。「運びやすいのはどれですか?」「そうだね、フルーツは傷みやすいかもしれないね。香辛料は粒のままか、粉末にしてある物が多いかもしれない。薬草は乾燥させて束ねているだけから、かさばる可能性があるだろうね」「では、占います」 カレンは机下から恭しく水晶を取り出し、シューマンの顔を映した。 勿論、占いのフリをしているだけなので何も見えては来ない。先ほどの会話をヒントにして答えを導くのである。「香辛料ですね」「分かった。今回は香辛料を多く買い付けて来るよ」「どうぞ、お気をつけて」「いつも、ありがとう」 シューマンはテーブルの上にコインを置いた。「戻って来たらお土産を持ってくるよ。レダ(カレン)も元気でね」 シューマンはひらひらと手を振りながら、ドアを出て行く。カレンは置かれた百ピールコインをジィ~と見つめる。(貿易商って儲かるのね。こんな簡単な占いで百ピールもくれるのだもの) そして、そのコインを引き出しに入れた。(一体、この引き出しにはいくら入っているのかしら。キュイが居た時は、何となく数えづらかったけど……。今は誰も居ないし……。うん、数えてみよう!) 早速、地下の倉庫から大きめの四角い缶を五つ持って来た。引き出しの中のコインを金額別に百枚単位で分け、缶に移し替えながらメモを取っていく。 時刻は正午を過ぎた。いつもなら昼食の時間である。しかし、それを知らせる者はもういない。カレンはお金を数えることに没頭している……。 数え続けること四時間。とうとう合計金額が出た。(百四十五万七千六百三十三ピール!!―――これだけあったら、当分というか、庶民の生活では一生使い切れない金額なのだけど……) ニルス帝国の庶民の平均月給は千四百ピールくらいだ。この引き出しにはその約千倍の金額が入っていた。―――カレンは急に怖くなって来る……。 彼女は
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本日のお客様 3

「おお、レダ(カレン)! 久しぶりにその顔を見た。本当に大魔法使いは歳を取らないのだな。羨ましい限りだ。私は白髪も増えて、皺も……」(んんん? 私を見ても驚かない??? どういうこと?)「陛下、ちょっと! ちょっと待ってください!!」 カレンはニコラス陛下の言葉を遮る。 占い師レダとカレンは明らかに見た目が違うはずだ。なのに、ニコラス陛下はカレンのことをレダと思い込んでいる。「レダ(カレン)、どうした?」「あのう、私はレダさんではありません。ええっと、声は魔法で変えています。今、元に戻しますので、少しお待ちください」 カレンは小声で呪文を詠唱し、低くてハスキーな声から元の声に戻した。「お待たせしました。陛下」「―――なっ!? その声は!! カ、カレン嬢!」「はい、カレン・マーレ・シュライダーです。ご無沙汰しております」 いつも冷静な陛下が驚きを隠そうともせず、口をあんぐりと開けている。「カレン嬢、そなたがここに居るということは……。そなたはレダのことを知っていたのか?」「はい、私は半年前に実家(シュライダー侯爵邸)を出て、ここへやって来ました。そして、その時レダさんと初めて会いました」「―――そうか」「はい、私が賊に襲われたという一連の事件が発生した頃です」「カレン嬢が賊に襲われた事件!? 何だそれは?」 陛下はブツブツと小声で何かを呟いているが、カレンには聞き取れなかった。「カレン嬢、レダは今どこへ?」「レダさんは半年前、私に占い師の身代わりを頼んで、シュライダー侯爵邸へ向かってから、一度も帰って来ていません。義母レベッカにお見舞いをしないといけないとか、言っていて……。詳しいことは私も分からないです。それとレダさんは今、私の姿をしていると思います」 陛下は、左手を顎にかけ、少し考え込む。「陛下、レダさんは私のことを前から知っていると言っていました。それから、私が無実だということも知っていると……。だから、私が幸せになるために力を貸して下さるって……」(ああ、ダメだわ。焦って上手く話せない……。話したいことが沢山あるのに……) カレンがアタフタしながら説明している様子を咎めることも無く、ニコラス陛下は静かに話を聞いていた。「カレン嬢、少し確認したいことがあるのだが、構わないだろうか?」「はい」「カレン嬢が半年前
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お人形

うなだれているニコラス陛下に帰れとも言えず、お茶を出して世間話をするというカオスな状況に陥っている。 アルフレッドの婚約者だった頃は直接陛下とお話しをする機会などなく、もっと距離があった。なのに今はカレンの叔父のような雰囲気で目の前に座っている。(まさか陛下がこんなに素の状態を見せてくれるなんて、信じられないのだけど! いつも厳しい顔をして玉座に座っている印象しかなかったもの。これ、殿下がここに来てくれないと帰ってくれないのでは?) カレンは遠い目をしてしまう。アルフレッドが何時にここへ来るのか分からないからだ。(今夜中には来てくれると思うけど……) また、ニコラス陛下は、カレンから『婚約破棄を決めたのは陛下です』と聞いたことが、かなりショックだったようで、お喋りの合間に何度もカレンにお詫びの言葉を告げてくる。(これって、陛下が昏睡している間に誰かが勝手に婚約破棄をしたということよね。殿下は事の顛末を知っているのかしら)「カレン嬢、占いの仕事をしているというが、そなたはレダから占星術を習ったのか?」(わ~っ、陛下にとっては素朴な質問なのだろうけど、下手な回答をしたら詐欺師認定されてしまうわ。逮捕されるのは嫌よ! 慎重に答えよう)「いえ、レダさんとは最初に会っただけで、占星術を含めて、このお店のことはレダさんの弟子のキュイが教えてくれました」 真実を半分織り交ぜることで、嘘ではない答えを伝える。ニコラス陛下は頷きながら、カレンの話を真剣に聞く。「そうだったか。私が呑気に昏睡している間、カレン嬢は頑張っていたのだな」 陛下はテーブルの上からマグカップを持ち上げると優雅な仕草で一口飲む。シナモンをたっぷりと入れたミルクティーをお気に召したのか、すでに三杯目である。「私はレダに恩があってね。何か返したいと思っても、いつも上手くいかない。シュライダー侯爵にも悪いことを……」 コンコン。―――ドアをノックする音がした。 カレンはニコラス陛下へ目配せをする。
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八つ当たり

「ええ、俺にとっても婚約者を挿げ替えられるという大事件が発生していますからね。徹底的に敵を炙り出して懲らしめますよ」 アルフレッドの言葉には、怒りが込められていた。(レダさんは全てを知っていたから、私がここへ来るなり飛び出していったのね。私だけを心配していたのでは無くて、国を心配していたのだわ) カレンは、自分のことしか見えてなかったと反省する。「カレン、どこかでシュライダー侯爵が目覚めているかもしれない」「それなら心配は要らない。彼は目覚めたら、必ずここへ来る」 ニコラス陛下は自身満々に答える。カレンとアルフレッドは彼の根拠が分からない自信に首を傾げた。「お前達に、彼と私の話をしてやろう」♢♢♢♢♢♢♢ ニコラス陛下は、話を始めるのかと思いきや、窓の外を眺めて動かなくなってしまった。(昔のことを思い出しているのかしら?) 気付けば、もうすぐ陽が落ちそうな時間になっていた。カレンはアルフレッドの様子を窺う。彼は不機嫌そうな顔で腕を組み、書棚に寄り掛かっていた。(待ち疲れていそうだわ。うん、私も殿下と同じ気持ちです。陛下はどうしちゃったのかしら)「父上、そのシュライダー侯爵との話というのは、ただの昔話ですか? 俺たちは今考えないといけない問題が山積みです。時間を無駄にしては……」 アルフレッドは苦言を呈す。時間が経ち過ぎたからである。「ちょっと待て、待ってくれ、アル!! そんなに焦らなくとも、話の一つくらい聞いてくれても良いではないか」「いいえ、ただの昔話なら、またの機会にして欲しいです。それよりも父上は皇宮に戻り、ご自身の状況を確認された方が宜しいのではないですか」「アル、半年も眠らされていた父親に冷たくないか?」「まんまと騙されるなんて、王狐のメンツもあったもんじゃない……」 アルフレッドは小声で呟く。呟いた内容はカレンには聞き取れなかったが、ニコラス陛下の耳にはしっかりと届いていた。(陛下、完全に凹んじゃってるじゃない。さっきまで、半年も昏睡していたのだから、少しくらい優しくしてあげたらいいのに……)「殿下、もう少し優しく……」 カレンが宥めようと試みるも、アルフレッドは彼女の言葉を遮るように首を横に振る。「カレン、父上が呑気に昏睡している間に君と俺の婚約は解消され、あの女が新しい婚……。あー、もう! 考えたくもない
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父現る

「あの女が子供のことを考えて動くはずがない」  アルフレッドは拳を握り締めて、怒りを露わにする。  そして、エマに一番呆れたのは皇族の粛清を提案して来たことだと二人に告白した。 「アル、彼女はお前に何と言って来たのだ」  ニコラス陛下は怒気を放つ息子に、もっと詳しい話をと促す。 「『直系以外の血筋は粛正しましょうよ』と言われました」  一応、幼少期から妃教育を受けていたカレンは、エマの恐ろしい発言を聞いて、ゾッとする。 「随分と強烈なことをいうご令嬢なのだな」  ニコラス陛下はつい苦笑いをしてしまう。 「理由を問うと使える金が増えるからと返って来ました。馬鹿なんですよ。頭の中は空っぽです」 (殿下の拳が怒りで震えてる……。その気持ち、とても分かるわ。彼女の自分勝手さは非常識の極みだもの。それにしても、エマと継母レベッカって、どうしてそんなにお金と権力に固執するのかしら? そもそも、こんな状況になるまで、お父様は何をしてたの!!―――って、違う!! お人形!! このお人形がお父様になっていたんじゃない! ということは……、え〜っと、本物のお父様って、ご無事なのかしら?) カレンはつい先ほどまでシュライダー侯爵の姿をしていた人形を手に取って、まじまじと眺める。 「アル、カレン嬢とのことは必ず何とかする。一旦、怒りの矛を収め、私の話を聞いてくれ」 「はい、取り乱してすみませんでした」 「あのう、お二人とも椅子に座ってお話しませんか?」  カレンの提案で、三人はダイニングルームに移動した。  彼女はやかんを火にかけて、お茶の準備を始める。先に着席した二人はカレンの様子を見守っていた。 ―――と、そこで、コンコンコンと店のドアをノックする音が微かに聞こえてくる。 「誰か来たみたいですね。お二人はここで待っていてください。お客様でしたら、断って来ます」 カレンの言葉に二人は頷いて返事をした。アルフレッドは無言で自身の喉を指差す。 (ああっ、声、声ね! 念のために声色を変えておかないと!!) カレンはドアに向かいながら、ボソボソと呪文を唱え、声色を変えた。 「すみませんが、今日はもう終わりました」 ドア越しに閉店した旨を伝える。 「開けてくれ」 外から聞こえて来る小さな声に、カレンは聞き覚えがあった。 (え、えええ!? うそ!
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半年と思っていたのに 1

 シュライダー侯爵はふざけた口調で話し掛けて来たニコラス陛下に、フッと何かを諦めたような表情を見せる。 旧友の良い反応に気を良くしたニコラス陛下は更に絡みつく。「カール、お前は何処に転がされていた? 私は皇都の外れにある西の離宮の一室だ。しかも、床の上だぞ。目が覚めて、起き上がろうとしたら節々が痛いし、身体は埃まみれ……。酷いだろう?」「はぁ~? 床に転がされていた!? 最悪じゃないか、ニック。―――オレが目覚めたのは、皇宮の禁書庫内にある三人掛けのソファーだ。まあ、床に比べたら随分マシだな、ブッ、ククッ、アハハハ」(え~!? 陛下とお父様って、ファーストネームで呼び合うような関係だったの??? ふ~ん、今まで隠していたのね。だって、私の知っている陛下とお父様は主従関係以外の何物でもなかったもの) シュライダー侯爵は一応、口元に手を当ててはいるが、遠慮なく笑っている。それに対して、ニコラス陛下は怒ることもなく、楽しげな様子。「お二人は一体どういう関係なんですか?」 アルフレッドはニコラス陛下に尋ねる。 すると、ニコラス陛下は何も答えずにシュライダー侯爵へ目配せをした。―――お前が答えてくれと言わんばかりに……。「殿下、その質問にはわたしが答えましょう。陛下とわたしはレダを通して知り合った友人です。しかしながら、政治的な立場や身分の問題もあり、普段は友人ということを隠しています」「そうだったのですね」「ええ、お互いにしがらみが多いので……。但し『レダの家』にいる時だけは、陛下はただのニック、わたしもただカールです」「ああ、その通りだ」 シュライダー侯爵の言葉にニコラス陛下が同意する。「そのルールは店主のレダ殿が決めたのですか?」「そうです。レダは人間を階級別に分ける身分制度が大嫌いですからね。わたしたちもここでは只の人です」 レダのことを話しながら、シュライダー侯爵は無意識に笑顔を浮かべていた。(お父様の笑顔を見るのはいつ以来かしら……) 一年前、いきなり再婚すると宣言したシュレイダー侯爵。それ以降、継母と義妹による様々な事件が発生した。 父(シュレイダー侯爵)に継母と義妹の引き起こした問題をカレンは度々報告していたが、毎回、冷たい能面のような表情で全く相手にしてもらえなかったのだ。 あの時のことを思い出すと、今も胸をナイフでグ
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半年と思っていたのに 2

「「違います!」」 アルフレッドとカレンは同時に否定する言葉を叫んだ。「今は二千二十四年です。―――まぁ、一年半も床に寝ていたのなら、埃まみれになるのは当然ですね」 アルフレッドが冷ややかな声で指摘する。「なっ! 一年半だと!? 犯人は誰だ! むむむ、絶対に許さぬ!!」 ニコラス陛下は地団太を踏む。「ニック、嵌められたのは、わたし達二人だけなのだろうか?」 シュライダー侯爵はすっかり落ち着きを取り戻していた。「カール、背筋が凍るようなことを言わないでくれ。早急に現状を把握して対処を考えよう」「ああ、そうだな」 カレンは、横でぴったりと寄り添っているアルフレッドを見上げる。当然のように腰を抱き寄せて優しくしてくれているが、今の二人は婚約者でも何でもないのだ。(本物の陛下が婚約破棄に同意していないのだから、多分、白紙に戻されるのだろうけど……。この状況は許されるのかしら) カレンは悶々としてしまう。顔を曇らせていくカレンにシュライダー侯爵は声を掛けた。「カレン、お前と殿下の婚約はわたしとニックで必ず元に戻す。だから、そんな心配そうな顔をしないでくれ。殿下、カレンをしっかり守ってください。―――じゃないとレダが……」 言葉尻は聞き取れなかったが、カレンは父が味方してくれるというだけで、心地よい安心感に包まれる。(良かった。やっと、分かってくれたのね!! 此処に来る前のお父様は、義母と義妹の肩ばかり持って、私の話なんて全く聞いてくれなくて……。あっ、違う! あのお父様は本当のお父様では無くて、魔法人形!! 本当のお父様は眠っていただけで何も変わっていないのだわ。何だか、変な感じ。頭の中を整頓しないと、また混乱してしまいそう……) 実はカレン以上に混乱しているのはアルフレッドだった。 父こと皇帝陛下が、一年半前から偽物にすり替わっていたと発覚したからだ。 アルフレッドはこの一年半の間に帝国内で起こった出来事を脳内で思い返してみる。 偽物の皇帝が、この一年半に行った裁決は全て洗い直さなければならない。 正常に処理された案件と、意図的に処理した案件、それをどういう基準で判別していくのか。――――すでに、途方に暮れたい気分だった。 一方、ニコラス陛下はこの一年半の出来事をアルフレッドから事細かに聞き出して、空白を埋めなければと腹を括る。
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歪んだ愛

 ニルス帝国の海岸線の左端にあるヴェルマ公国は観光業に力を入れている小国である。風光明媚な岩山が連なる大自然と海岸沿いに続くリゾート施設の他、各種の公営ギャンブル場を積極的に経営し、大公が莫大な利益を得ているというのは有名な話だ。 しかし、お金のある所には悪い輩も集まって来る。彼らが世界一と名高いニルス帝国の海軍を手にしたいという野心があってもおかしくはない。―――と、カレンは考えていたのだが……。 ニコラス陛下とシュライダー侯爵のやり取りを聞いていると、ヴェルマ公国との問題はそういう話ではないようだ。「父上(ニコラス陛下)が狙われていたのですか!?」「そうだ。アル、あの女は蛇のような執念深さで、えげつない策略を図ってくるんだ……。もう恐ろしくて、恐ろしくて……」 ニコラス陛下は両腕で自身の身体を抱きしめて、身震いをしている。(陛下、とても顔色が悪いわ。大公妃って、そんなに怖い人なの?)「あのう、大公妃をどういう手段で退治……、あっ、すみません、失言でした。え~~~っと、追い払ったのですか?」(ん~、追い払ったという言葉も失言のような……)「カレン、最終的に大公妃は手下を使って、ニックの婚約者を誘拐して殺害しようとしたんだよ。それをレダが阻止し、鉄槌を下した」「誘拐の上、殺害!? そんなことをしたら国際問題になってしまうわ。大公妃は何を目論んでそんなことをしたの?」「単純なことだ。ニックに自分の娘を娶らせたかったんだよ。縁談をバッサリと断られて、プライドを傷つけられたのだろうね。それに……」 怯えるニコラス陛下の代わりにシュライダー侯爵が詳しい話を聞かせてくれた。 当時、北方にあるボレアス王国の第一王女セレーネ(現皇后)は、ニコラス皇子(現皇帝)の婚約者として、将来嫁ぐ予定のニルス帝国に留学することになったのだが……。 同じタイミングで、ヴェルマ公国のリステル公女もニルス帝国に短期留学でやって来ることになったのだ。 三人は帝国の学園で机を並べることになった。 リステル公女は入学すると直ぐに取り
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母と娘

 ここからはシュライダー侯爵に代わって、ニコラス陛下が続きの話をすることになった。―――公国から帰国したレダはその足で皇宮に向かう。ヴァルマ公国での出来事をニコラス皇子に報告するために.……。 レダは皇子の執務室に招き入れられた。ニコラス皇子は念のため人払いをする。この後、レダからどんな話が飛び出してくるのか、予想も付かないからだ。『レダ、お帰り。まさか一人で乗り込んでいくとは思わなかったよ』『ブッ、アハハハ。心配させてごめんね~、でも、私は大丈夫だよ』『ああ、君は強いからね。でも友人として心配だった。無事に戻って来てくれて良かった』 心配してくれる友人がいるのは嬉しい。――――無意識のうちにレダは微笑んでいた。 再会を喜び合った後は本題に入る。レダは公国に入り、大公邸に直行したとニコラス皇子に話した。『大胆なことを……』 策も何もないレダの行動に彼は絶句してしまう。『回りくどいことは嫌いだからね。大公妃は中庭で優雅に茶を飲んでいた。危機感の欠片もなかったよ』『まあ、前触れもなく、いきなり大魔女が乗り込んで来るとは相手も思わないだろう』 この件に関しては大公妃が油断していたのではなく、レダが奇襲をかけたという方が正しい。 通常なら国の間で問題が起きたら、先に皇帝の名で抗議文を送付し、相手の出方によって今後の対処を決める。なのに、レダは全てをすっ飛ばして、大公邸に乗り込んだ。 外交ルール的には完全にアウトである。『大公妃を少しばかり脅したら、セレーネ王女の誘拐と殺害に関する手筈を整えたと自白したよ。あちらさんはあんたをどうしても手に入れたかったらしい。理由は娘の初恋相手だからってさ。どんな手段を使ってでも、セレーネ王女との婚約を破棄させるつもりだったと』『そんな滅茶苦茶な……』『そうだね。娘可愛いにしても、誘拐からの殺人未遂はやり過ぎだ。全然反省してなさそうだったから、鉄槌も下しておいたよ』『殺し
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解散

 窓の外は暗くなり、月明かりの美しい時間が近づいている。カレンは窓辺に近づいて、カーテンを引く。 今夜の『レダの家』は、いつもと違って、とても賑やかだ。 それ自体は別に嫌ではなかったが、問題はこのメンバーが一向に解散しそうな気配がないということである。カレンはアルフレッドの袖を引く。「ん、どうした?」「ええっと、皆さんはいつ解散されるのでしょう? そろそろ、夕食も食べたいですし、明日の用意もしておきたいので……」(この流れで全員ここに泊まるなんて言い出さないわよね?)「ああ、夕飯のことなら心配しなくていい。俺が皇宮からすぐに取って来てやるから。少し待っていてくれ……」(えっ、違う!? そうじゃない~!!)「いえ、あ、そういうことでは……」 アルフレッドはカレンの引き留める言葉には耳を貸さず、スッと踵を返して玄関の方に向かう。 カレンは慌てて後を追いかけ、手を伸ばして、アルフレッドを掴もうとしたが届かなかった。 そのまま、彼は扉のカギも難無く開いて外へ出て行ってしまう。(嘘~っ!! 殿下~!!! ご飯を要求したわけじゃないのに~。うううっ、恥ずかしい……)「カレン、殿下は何処に行ったんだい」 狼狽えるカレンにシュライダー侯爵が尋ねた。「私の夕飯を皇宮に取りに行くと言って、―――出て行きました」「アルの奴、気が利くじゃないか」 ニコラス陛下は両腕を組んで堂々としている。先ほどまで弱っていたのが嘘のようだ。「あのう、陛下とお父様は、この後どうされるのですか?」(よし! よく言った、私!! この二人は何も言わなかったら、ここに居座ってしまいそうだもの。―――お二人が、この後のことをしっかり考えていたら良いのだけど……)「ああ、私の身代わり人形はもう消えているだろうから、一度、様子を確認するために皇宮へ戻るよ。カール、お前はどうする?」「そこに置かれた人形が、わたしの身代わりをしていたのだろう。ということは偽物の私も消えたということか。―――さて、何食わぬ顔で屋敷へ戻るか、それとも何処かに身を隠して状況を見極めるか……」「屋敷に戻ったら、レベッカという女にバレてしまうのではないか?」「あ~、確かに! レベッカという女の顔も知らないからね。直ぐにバレてしまいそうだ。それなら、皇帝から皇宮に呼び付けられて、面倒な仕事を片付けていると
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