訳あり侯爵令嬢は成り行きで身代わり占い師をしています(元婚約者の皇子が相談にやって来ました) のすべてのチャプター: チャプター 61 - チャプター 70

86 チャプター

ニコラス皇帝の秘密

「どの程度かと言われても……、説明するのは難しいな……」 アルフレッドは顎をさすりながら、どう答えるべきか考えていた。「ん~、程度という聞き方が良くなかったですね。では、どんな魔法が得意ですか?」 カレンは曇りなき眼でアルフレッドに尋ねる。 正直なところ、アルフレッドの使う魔法は戦闘や諜報に関するものばかりだ。それを、この天使に告白してもいいのだろうか……。―――恐らく、カレンはアルフレッドの綺麗な面しか知らない。「カレン、俺は普段どんな仕事をしていると思う?」 カレンがショックを受けてしまわないよう、アルフレッドは慎重に話を進めていくことにした。「皇子の仕事……ですよね。貴族たちから領地の収支報告を受けたり、陳情書を確認したり、他国の方と交流したりするというくらいは妃教育で習いましたけど……。他にも沢山ありますよね?」「ああ、勿論。まぁ、色々あるが、一番大切なのはこの国を守ることだ」「外交?」「いいや、違う。軍事、諜報だ」 アルフレッドの口から、軍事や諜報という言葉が飛び出してきて、カレンは目を見開く。 だが、その一方で脳裏にチラリと最近の出来事が過った。(そういえば! 殿下はこの前、海軍の司令塔へ用事があるといって出かけて行ったわ。あれは軍事的な仕事よね? だけど、諜報は……、いわゆる、スパイ行為のことを指すと思うのだけど。まさか、殿下が自ら他国へ乗り込んで、情報収集するなんてことは……、流石にないわよね)「カレン、顔が百面相になっているぞ。いろいろ想像しているようだが、俺たちニルス帝国の直系皇族は魔狐の血を継ぐ。だから、姿を変えることくらいお手の物だ。諜報活動にわざわざ自国の大切な民を向かわせなくても、大抵のことは俺たちが片付ける」「帝国民の知らないところで危険な種を取り除いているということ?」「まあ、そういうことだ。カレンも良く知っているだろう。この国は豊かだ。それに地形的にも恵まれている」「確かに海、山、農業地帯、全て揃っていますね」 カレンはニルス帝
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私、出来ました!

(なるほど~、皇族の方々は銀狐なのね。殿下はどうなのかしら? 私の前ではずっと人間の姿だけど、普段は狐さんなのかな~。けも耳、可愛かったわ~) カレンはジ~ッとアルフレッドを見つめる。「何を考えているのかは知らないが……、俺は魔力がかなり強い方だから、急に姿が変わるなんてことはない。それに簡単には死なないというか、寿命も歴代の皇族と同じく永遠に近……」「へ? 寿命が長い!?」 カレンはアルフレッドが話している途中で変な声が出た。「ああ、建国以来、皇族は誰も死んでいない。妃は人間だから寿命がある」「皇女は?」「人間と同じくらいだ。ちなみに女皇帝は寿命が長い」「不思議ですね、そのシステム」「ああ、その辺は『春の女神さま』次第だ」「―――そうなのですね」(建国神話の『春の女神さま』は実在しているのね。私はそんなことも知らずに、皇家へ嫁ごうとしていたなんて、今更だけど、自分の無知さが恥ずかしいわ)「殿下、私が先に死んじゃったら、寂しくないですか?」「また、唐突な質問を……。まぁ~、寂しいだろうけど、でも……」 アルフレッドは口が滑りそうになり、慌てて言葉を止める。 カレンの母親は『春の女神さま』のくせに大魔女を名乗って民と暮らす変わり者、レダである。恐らく、カレンも簡単に死ぬことはないだろう。―――今は言えないけど……。「『でも……』って、何? 私が居なくなったら、他の人と恋に落ちるつもりなの?」 カレンは不服そうに頬を膨らませる。アルフレッドはその姿を見て、胸がキュンとした。 ここでアルフレッドはいい案を思い付く。 すぐにカレンの耳たぶに唇を寄せて、熱を帯びた声で囁き掛けた。「カレン、心配なら、早く婚姻の誓紋を刻めばいい。そうすれば、一生、俺はお前のものだ」
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怪しいきのこ 1

「マーガレットさん、おはようございます!」「おはよう、レダ(カレン)! 今日もよろしく頼むよ~」 朝食後に突然、レダが用事で出かけると言い出したため、本日はカレンがレダの身代わり占い師をする。(昨日、レダさんはマーガレットさんを呼び捨てで呼んでいたけど……) マーガレットはカレンから『さん付け』で呼ばれても何も気にしていないようだ。(レダさんが『それくらいの差で偽者と見破られることはない』と断言した通りだわ) レダは不安そうにしていたカレンに『今まで通りのあんたのやり方でいいんだよ』と、太鼓判も押してくれた。(レダさんが大丈夫と断言するのは、やはりこの家が何かしらの補正を掛けてくれているということなのかしら?) カレンは都合のいい解釈をする。 家ではなく、カレン自身が補正を掛けているかもしれないという疑いは全く持っていない。「今朝は市場にサマーポルチーニが出ていてね。香りもなかなか良かったから、仕入れて来たんだよ」「ポルチーニ茸ですか! 美味しそうですね~」 カレンはいつもの調子でマーガレットの話に合いの手を打つ。―――ところが、ここで何かが引っかかる。(ん~、え~っと、ポルチーニ茸って……、イシュタル共和国から輸入していたような気がするのだけど……)「そういえば、街道の封鎖は解消されたのですか?」「いやいや、街道はね~、皇帝陛下が仲裁を買って出たらしいけど、まだ解決していないよ。ポルチーニ茸を持ち込んだ商人はイシュタル共和国から来たといっていた。何でも街道以外の道を通ったらしい。あの険しい山道を超えて来るなんて、商人は凄いね!」(街道以外の道を通ったっていうのは、ちょっと考えられない気がする……) カレンはその商人の話は嘘だと思った。 何故なら、オルセント王国とイシュタル共和国の間には標高四千メートル級の険しい岩山が連なっているからである。
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怪しいきのこ 2

 カレンは腕を組んで考える。(今、私に出来るのは記憶を読むことと物を移動させることの二つだけ。この能力を使って、レダさんか殿下に至急、帰って来てもらう方法は……、何かないの?) 不可能だと思っていた課題をふたつ乗り越え、カレンは少し自信がついた。 だから、この窮地もどうにかして突破したい。「う~ん」 部屋の中を見回してみる。(アイデアが浮かべば何とかなるはず……) ふと、カレンの脳裏にエドリックの顔が浮かんだ。(あっ!) カレンはエドリックが懐からレダの手紙を取り出したシーンを急に思い出す。(あの方法なら!) カレンは引き出しからメモ用紙とペンを取り出して、同じ内容の手紙を二つ書いた。 『市場・怪。家へ戻れ。K』 簡潔に書かれた内容を一読して、それぞれを小さく折りたたむ。 そして、それを一つ、てのひらに乗せて、今朝、アルフレッドが来ていた白シャツの胸のポケットを思い浮かべる。彼のポケットには銀糸で皇家の紋様が刺繍されていた。「よし、あのポケットの中にこれを送れば、殿下に届くはず!」 アルフレッドのアドバイスを意識して、カレンは手のひらの紙切れをスッと吸い込む。「あ、消えた。ここまではいい感じ!」 続けて、仮想空間に一時置きした紙切れをアルフレッドのポケットの中へ、パッと押し込んだ。「うん、上手く行ったわ! 次はレダさんに送ろう」 二つ目の小さな紙切れも同じ手順で、レダのローブのポケットへ向けて送った。(この手紙に気付いて、二人の内の一人でも戻って来てくれるといいのだけど……)「フゥ~~~」 カレンは今のうちに緊張をほぐしておこうと深呼吸を一つする。 次の瞬間。 バン! ノックもなしに店のドアが勢い良く開かれる。(あ、カギ……)
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怪しいきのこ 3

 かなり大きな食料庫のようだ。 酒樽や木箱に入れられたジャガイモ、ニンジンなどの根菜類と穀物の入った麻袋などなど……。種類別にきれいに積み上げられ、ごみ一つ落ちていない。とても管理が行き届いているように感じる。 観察しているともう数人、男たちが駈け込んで来た。 黒魔女レベッカは彼らと何かを話している。 カレンは気付かれないよう、慎重に視点を近づけていく。「本当に鈍くさいわね~。あなた達は今まで何をしていらしたのかしらん? 皇帝陛下や主人(シュライダー侯爵)の見張りをしていたのは誰? 無能な部下に任せちゃった? それとも、自ら逃しちゃったの~」 レベッカの服装はいつもの派手な原色系のドレスではなく、金糸で刺繍が施された深紅のローブ姿だった。 カレンはこのねっとりとした厭らしい口調を聞いているだけで不快感が湧いてくる。(顔も見たくない相手とこんなところで再会してしまうなんて、最悪だわ) レベッカから受けた罵倒の数々がカレンの脳裏に浮かぶ。 勿論、とても嫌な気分だ。しかし、以前のように逃げようとは思わなかった。少し自信がついたからかも知れない。 カレンは凛として、レベッカを見据える。(今の私はこの人を怖いなんて、もう思わないわ。多くの味方と一緒にレベッカの犯した罪を暴いて、償わせるのよ!!) ある一人の男がレベッカの前に引き出された。 恐らく彼が、ニコラスやシュライダー侯爵の見張りを担当していたのだろう。「も、申し訳ございません。次こそ、必ず……」 男の身なりは立派だった。面識はないが、おそらく貴族。彼は顔面蒼白で震えながら、レベッカに詫びの言葉を並べたてる。 ドスッ。 重い音がした。 カレンは叫び声が出そうになったが、ギリギリのところで堪える。(あ、あ、あああああ~。そんな簡単に人の命を……) 目の前に首を落とされた死体が転がった。 そ
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怪しいきのこ 4

 レベッカは籠に手を翳して、呪文のようなものを詠唱し始める。間もなく、彼女の指先から怪しげな黒い霧が発生してきて、籠は黒い霧に包まれた。(黒い霧……。禍々しいわね。毒? うううん~、違うわ、操り人形にしてあげるって言っていたもの。だとしたら、呪い? それとも、陛下たちにかけた昏睡させる系???―――なんにしろ、あのポルチーニ茸は絶対に食べてはダメ!!)「これをナブラ商会の倉庫へ送って頂戴。バルド、あとはよろしく~」「はい、仰せのままに」 レベッカは男たちに軽く手を振ると姿を消した。―――同時にカレンの視界も暗転する。(え~、この後、ポルチーニ茸はどうなったの??? バルドって、バルド男爵のこと??? あ~、もう、もう少し見させて~~~!!) カレンが悶々としていると次は見知らぬ酒場が映し出された。視界のど真ん中で恰幅のいい男が食事をしている。(あの男……、ポルチーニ茸と何か関係があるのかしら?)「くっそ~、街道の封鎖は一体、いつ解けるんだ~!? 商売上がったりじゃねぇか~!」 男は大声で悪態をつき、ジョッキを持ち上げてエールを一気に流し込む。周りの客たちは迷惑そうな顔をして、彼をチラチラ見ていた。 そこに、一人の若い男が駆け込んで来る。「大将~、すげ~ことが起こりましたぜ!!」「なんだ、ヨギ? くだらね~ことを言ったら、ぶっ飛ばすぞ!!」「ひぃぃ~、ぶっ飛ばすのだけは、ご勘弁下せぇ!!」 ヨギは血の気の引いた顔で両手を合わせて大将を拝む。「てめえ、本当に弱え~なぁ。で、用件はなんだ?」「うちの倉庫に大量のポルチーニ茸が入荷しました! 一攫千金ッス!!」「てめえ、ボケてんのか? 街道は封鎖中だぞ? 入ってくるわけね~だろ!」「あ~、いえ、例のお方からの荷物で……」 ヨギはヒソヒソと大将に耳打ちをする。「ほう? それは天からの恵みってことだな! ヨギ、明日の朝、市場へ行くぞ!!」「へい、大将!!」(なる
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怪しいきのこ 5

「そうなんだね。魔法で安全に回収出来るなら、是非お任せするよ」 カレンは魔法を使って、呪い付き茸を一気に消し去るとマーガレットに説明した。「突然、今朝、買ったばかりのポルチーニ茸が目の前から消えたら、みんな驚くだろうね~、アハッハハ……。健康を害するよりはキレイサッパリ消えた方がいいだろう」「ええ、呪いが発動してしまったら取り返しがつきませんから」 ここで、カレンはアルフレッドに耳打ちをする。「殿下、今日の皇宮のランチメニューは何ですか?」「ん? ランチメニュー? たしか、燻製ベーコンとレタスを使ったサンドイッチだったと思う」「ありがとうございます」 カレンはマーガレットに向き直った。「マーガレットさん、お店に燻製ベーコンはありますか?」「おおっ、タイムリーな質問だね! 燻製ベーコンは今朝仕入れたよ」「では、本日のメニューは燻製ベーコンとレタスのサンドイッチでいかがでしょう?」「いいね~。新鮮なレタスもあるし、それにしようかね。今日は、面倒事を解決してくれたから、お代はいつもより多めにしておくよ。遠慮なく、受け取っておくれ」 マーガレットは五十ピールコインをテーブルの上に置く。(すごい!! 五日分だ~!!)「ありがとうございます。後はお任せください」「いや、こちらこそ、よろしく頼むね! 皇子殿下、会えて嬉しかったよ。じゃあ、また明日、ごきげんよう~♪」 鼻歌を歌いながら、マーガレットは店を後にした。 カレンは慌ててカギを掛ける。(ここのところ、カギの掛け忘れ、多過ぎ……。今回はしっかりと閉めたわよ!) ようやく、緊張から解放されて、アルフレッドと同時にため息を吐く。「殿下、色々とお話ししたいことはありますが、一刻も早く、呪われたポルチーニ茸を回収しないといけません! 誰か一人でも食べてしまったら大変なことになりますっ!!」「ああ、大変だな。ところで、カレンは回収する魔法が使えるのか?」「それは……」
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怪しいきのこ 6

「キレイ……」 カレンは煌めきの中心にいるアルフレッドをボ~ッと眺めてしまう。 銀色の毛の先から、謎のキラキラが放たれている。 (あの膨大なキラキラは殿下の魔力? 魔法陣の輝きも強まっているわ。う~ん、眩しい……) 魔法陣は少しずつ輝きを増していく。カレンは目をつぶった。 部屋の中は強い光で真っ白になっている。 ドサッ、ドドドドッ、ドサッ……。 (これは何の音?) 怪しげな音が聞こえてきた。 (何が落ちてきているの? ものすごく眩しいけど確かめたい……) カレンは両手で顔を覆う。 少しずつ指の間を広げて、外の明るさに慣れていこうという計画である。 (これはかなり……。目を傷めないよう慎重に) カレンは手のひらの中で瞼を上げてみた。 今の状態でも強烈な光を感じる。 刺激を強く感じない程度のスピードで指と指の間隔を広げていくと徐々に視界が広がって行く。 目の前で起きていることを把握した瞬間、カレンは息を呑んだ。 「天井から、ポルチーニ茸が……、降って……来ている……」 (あわわわっ、きのこの雨~! こんな風景は想像してなかったわ!!) アルフレッドを取り囲むように夥おびただしい数のポルチーニ茸が降り積もっていっている。 しばらくすると勢いが弱まり、ポトン、ポトンと一つずつに落下してくるようになった。そして、最後のポルチーニ茸が落ちると魔法陣から立ち昇っていた白い光はスッと消滅し、部屋の明るさも元に戻る。 「よし、これで全部回収した。念のため、呪いの分析をして、解呪も施しておく。カレン、その場でもう少し待ってくれ」 アルフレッドは再び、集中した。 白銀色の煌めきがアルフレッドの身体から放たれる。 (黒魔女レベッカの作り出したどす黒い霧とは違って、殿下の発生させる霧は輝きに満ちていて神々しいわ~) カレンは両手を組んで、うっとりと銀狐アルフレッドを眺めてしまう。 ―――数分後。 アルフレッドが分析した結果、このポルチーニ茸には思考力を失う効果と身体を強化する効果が付与されていたと判明した。これを食べてしまうと呪者の思い通りに操られ、且つ、本来の腕力を超える力を発揮して暴れてしまう。 このポルチーニ茸はレベッカの悪事を裏付けるのに十分な証拠となった。 しかしながら、アルフレッドは
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怪しいきのこ 7

 ダイニングに戻り、カレンはお茶を淹れようとして、ケトルに水を注ごうとしていたのだが……。 突然、背後に気配を感じた。「うわっ~、ビックリした~!! レダさん、お店の入口から帰ってきてくださいよ!!」「あ~、緊急事態だと……」 カレンに大声を出されて、レダは後退りしてしまう。「レダどの、緊急事態のことはもう心配しなくても大丈夫だ。俺がすぐに戻って来たから」「それは良かった。アルフレッドありがとう。いや、本当に遅くなってしまって、ごめん~」 レダはアルフレッドの両肩を両手でポンポンと叩いた。「レダさん、問題は一応、解決しました。ただ、急ぎで対処しないといけないことがあって、バタバタしていたので、殿下にもまだ詳細を伝えられていないんです。なので、今からお話ししますね。レダさんも是非一緒に聞いてください」「分かった」 レダは、指をパチンと鳴らす。 それとほぼ同時に三つのマグカップがダイニングテーブルの上に現れた。―――湯気が昇っている。ふんわりとコーヒーのいい香りが漂ってきた。「いいなぁ~、私もその指パッチン魔法が出来るようになりたい~!!」 カレンはケトルを片手にボヤく。 アルフレッドは横から手を伸ばしてカレンの手からケトルを奪うと、反対の手でカレンの頭を撫で回した。(はいはい、焦るなってことね。それは分かっているのよ。だけど、魔法をもっと上達して強くなりたいの!!) お茶も用意されたので、三人はテーブルにつく。 カレンはまず、何も知らないレダにマーガレットが今朝、市場にて国境封鎖で流通していないはずのポルチーニ茸を怪しい商人から購入したと伝えた。 そして、そのポルチーニ茸をここへ持って来てもらい、記憶を辿ったと説明する。続けて、ポルチーニ茸の記憶の中で見たことを話した。 レベッカが反シュライダー侯爵派と繋がっていたこと。 失敗した男を躊躇なく処刑したこと。 アルフレッドの行動を封じるために呪いをかけたポルチーニ茸を市
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カレンのお部屋 1

「どうですか~? このお部屋、可愛いでしょう!!」 カレンはアルフレッドを自室に誘った。以前の素朴で手狭な部屋とは様変わりしていて、彼女はとても嬉しそうにしている。 アルフレッドは部屋をぐるりと見渡した。「俺の部屋と同じくらいの広さになった……」「はい、クローゼットルーム、バスルームも付いて便利になりました!」 カレンは室内の右の壁面にあるドアの先にあるバスルームへアルフレッドを案内する。レモン色とブルーのモザイクタイル。白い洗面台の可愛らしい装飾と優美なガラス瓶たち。ふんわりとしたタオルが畳んで置いてある。優しいサボンの香りも漂っていた。(最初から、これくらいお部屋が広くて、ソファも置いてあったら、殿下を床に寝せるなんて事態にはならなかったのに) アルフレッドは、無邪気に新しい部屋を披露してくれるカレンへ少し戸惑う。―――自分に対して、警戒心が無さ過ぎなのではないのか?と。もし、今、アルフレッドが『このバスルームでカレンが入浴しているのか~』と不埒な想像を膨らませてしまったら、もういろいろとダメにしてしまいそうな気がする……。彼は煩悩と戦いながら、メインルームに戻った。「カレン、素敵な部屋を見せてくれてありがとう。俺は自分の部屋に戻る」「ええ~っ、折角ですから、お茶の一杯くらい飲んでいってくださいよ~! 急いで、淹れますから!!」 カレンは有無を言わせず、ソファ脇に設置されているキャビネットを開いて、ティーセットを取り出した。―――どうやら、アルフレッドに拒否権はないらしい。「お茶を淹れている間にお部屋を散策していてもいいですよ~」「―――分かった」 部屋に戻ることは諦めて、アルフレッドはメインルームの中をゆっくりと見て回ることにした。 白木のドア、靴を収納する白木の棚、丸みを帯びたソファセットとティーテーブル。フリル多めの天蓋カーテン。「カレンはこういう可愛いのが好きなんだな……」 アルフレッドはボソッと感想を
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