All Chapters of 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?: Chapter 51 - Chapter 60

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51.新課長とBBQと不穏

「鈴原さん、体調はどうかな?あまり無理をせずに、いつでもリモートに切り替えていいからね」伊藤課長が蓮と大きく違うのは、常にソツなく優しいところ。「はい、ありがとうございます」常識的で部下の様子をまんべんなく見ていて、クールで非常識だった蓮とは大違いだ。栗田のときにやらかしたので、左手薬指はソッコーで確認済み。キラッと輝くリングはまだ新しいようだ。凛花はため息をつきながらも、声をかけられて染まる頬を隠せずにいた。「……バーベキュー歓迎会?」「うん。伊藤課長、あんまりお酒を飲まないらしいんだけど、アウトドアとかキャンプが好きみたいでさ、そういう歓迎会なら喜んでくれると思って」話を持ってきたのは鮫島くん。彼の記憶にはもうないけれど、似たようなシチュエーションを思い出した。「参加……しようかな」「そう?良かった!」日にちの希望を聞かれ、あとで集計して決定すると伝えられた。つい、手伝おうか……なんて言いたくなるけれど、あの時のことを思い出してつらくなりそうなのでやめておいた。それに私は彼をフッたようだし、ここはあまり手を出せないでおこう……やがてアンケート結果が発表され、2週間後の週末、バーベキュー歓迎会が開催された。数人が出してくれた車に分乗し、凛花は乗せてくれた女性の先輩にお礼を言いながら車を降りた。全員が到着するまで女子社員たちと周辺を散策する。……こういう形で部署の人たちに会うのは初めてだ。ここしばらく体調も良く、会場になった河原近くのバーベキュー場は、空気も景色も素晴らしい。「……あれ?」先輩女性社員の牟田さんが、あらぬ方を見て声を上げた。「ん?どうかしましたか?」「いや……この辺って、野良犬とかいるのかしらね?」「野良犬……」実はずっと気になっていた。栗田に迫られて、絶体絶命のピンチの時現れた、白く浮かび上がる狼のこと。野良犬、と聞いてちょっと思い出してしまった。「なんかね、モフモフっとしたのがいたのよ。犬にしてはちょっと大きかったかなぁ……」「え、ちょっとやめてくださいよ!まさか熊?東京でもここまで奥だと、熊の出没ありますよ確か……」後輩社員の恵美ちゃんが、携帯を取り出して何やら調べ始めた。「熊ほど大きくはない。……イノシシかなぁ」「うん、熊はこの辺には出てないみたいです。イノシシの可能性高いです
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52.2人にそっくりの別人……?

アミル、という名前を聞いた瞬間、心臓が早鐘を打ちはじめた。あの出張の日、蒸気になって消えた、と言った蓮の言葉を思い出す。……どうしてここにいるの?名前は違うけれど、姿形は蓮にしか見えない伊藤課長の隣で。アミルはアミルという名前で復活を遂げたのか、それはどういう経緯なのか聞いてみたくなった。「……ちょっと鈴原さん!行くよ?」牟田さんに声をかけられ、ハッと意識を取り戻す。「はい、」あの2人は、私の知る蓮とアミルじゃない……無理やり自分に言い聞かせ、凛花はBBQの準備に戻った。「記念撮影しますよ〜皆さん!集まってください〜」仕切り屋鮫島の声が、続々と準備を終えた社員を集める。肉の担当である凛花たちも、すぐに焼けるよう味付けを終え、手を洗っているところだった。牟田と恵美に続いて皆が集まる場所に行ってみると、中央にアミル、そしてその隣に張り付くように伊藤課長。「3人とも、奥さまの近くに行って!皆伊藤課長の方に並んじゃったから!」小声で言う鮫島の言葉に「えぇ〜……」と不満げにが声を上げるが、仕方なく言われた通りにする。彼女の後ろに回り込みながら、そっとその姿を観察した。やはり、そっくりだ。短い付き合いで、細かいところまで知らなかったとはいえ、今のところ彼女と違うところを見つけられない。性格がまったく違う、というオチだろうか。あんな女豹みたいなタイプではなく、優しくて穏やかで、虫も殺さないような静かな女性。だったら諦めもつくのに。「……ちょっとあなた!うちの人に近づきすぎよ?!離れなさいっ!」ピリっとした声は、聞き覚えのあるアミルの声。刺々しい言い方も並外れた独占欲も彼女を思い出させる。「……僕がもっと君に近づけばいいかな?アミル、愛してるよ」チュッと2人がキスをするところを、間近で見てしまった。……部下がいるのにデレ甘の伊藤課長にやや引くものの、蓮も周辺の人に気遣うことなくキスをすることはあったと思い出した。「撮りますよ〜!はい、スマイル!」大多数の社員は伊藤課長の方に寄り、奥さまの後ろには凛花たち3人という歪な集合写真は、1人立ち尽くした凛花の異様さが際立つものとなった。その後凛花は、伊藤課長に退職願を提出した。「鈴原さん、これ……」「そのままの意向です。短い間でしたが、お世話になりました」退職願を差し出した凛花
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53.終わりまでの日々

唇は、ゆっくり離れていく。それは決して欲望にまかせて、衝動的にキスをしたわけではないと、説明しているようだ。「ごめんね」「いえ、私のほうこそ」どんなに蓮に似ていても、伊藤課長には奥さまがいる。会社のこんな場所で……いや、奥さまがいる人とこんなキス、許されることじゃない。そう思うのに、離れる事ができない。ただ、教えてほしかった。どうして、あなたからもキスが返ってきたのか……「わからない。急に、愛しい気持ちがこみ上げてきて。……下心とかそんなものではないんだ。決して、」不思議なほど、体が勝手に動いた……という伊藤課長の瞳に、見覚えのあるきらめきが見えた気がした。「最後にひとつだけ、教えてください」聞くだけ聞いてみようと決心した。「神西蓮、という人を……ご存じないですか?」「神西、蓮……」視線を彷徨わせ、過去の記憶を辿っているのが見ていてわかる。しばらくして、その視線が止まったことに気づいた。「……記憶はないが、その人がどうかしたのかな?」探るような瞳が近づいてきて、凛花はそれを合図に伊藤課長から距離をとる。「いえ……何でもないんです。すみません、変なことを聞いて」「その人なの?君とここでキスをしたのは……」つま先が、少し動いた気がした。「君の過去の恋人?……もう、退職したのかな?」「いえ……すみません」多くを語れなくて、の謝罪だった。悲しみと悔しさと、自分の浅はかさに嫌気がさす。「もし思い出したら、連絡する……ね?」ありがとうございます、と答えながら、さっき目の奥に見えたきらめきが、蓮のまなざしとはまったく違うものだったと気がついた。この人は……栗田医師と同じだ。自分に気があって、誘われたと思ったのだろう。キスをしたのは自分なので、それは仕方がない。……けれど奥さまがいて、結婚したばかりなのに、そんな誘いにあっさり乗ってしまう人なんだとわかってがっかりした。そして最後に自分で会社に汚点を残したことを、心から後悔した。「……それでは、失礼します。あの、いろいろとすみませんでした。心が不安定になっていたと取っていただけたら、幸いです」凛花はため息を隠して頭を下げ、何か言いたそうな課長を残して会議室を出た。「会社を、辞めるのか」「うん。相談もせず、ごめんなさい」その夜、帰宅した父に伊藤課長に辞表を提出し
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54.めぐみと再会……わずかな希望

驚いて視線を外せない凛花に、めぐみの目が自然に向く。少し唇が開いて、明らかに驚いた様子……まさか、私のことを覚えているの?伊藤課長はベテランの女性社員をめぐみの担当にしたので、席は遠く離れてしまった。このままお昼休みまで待つしかない。凛花は時々離れた席のめぐみに視線をやり、時間が過ぎるのを待った。「鈴原凛花さんよね?」ちょっと集中している間に、お昼休みの時間がやって来たようだ。声に振り向くと、そこにはめぐみが立っている。「めぐみさん……今までどこに?」つい、追求するようなキツい言い方をしてしまった……何も覚えていないかもしれないのに。反省する凛花に、めぐみは笑いかける。「私は覚えてるわよ。とりあえず、個室のそば屋さん知ってるから、そこで」これで、蓮の行方もわかる……久しぶりに、からだ中に血液が巡るのを感じた。「あの日、すべてが終わったのよ」そば屋に落ち着き、注文を終えためぐみが口を開く。「目が覚めたら、隣に寝ていたはずの連さんがいなくなってて、もぬけの殻になってました。慌ててめぐみさんの部屋に行ったけど、めぐみさんも鮫島くんもいなくなってて」課長が変わり、鮫島も何も覚えていなかったことをまとめて話す凛花。「あの日目を覚ましたら、私は冥界にいた。それで……すべてが終わったんだって確信したの」「……蓮さんは、」「それが、わからないのよ。彼の指導係だったわけだから、私が戻っているということは、彼も冥界に戻っているはずなのに」めぐみはそっと眉間にシワを寄せた。「蓮がもどらないことに、最高幹部が躍起になってたわ」ところで……と、めぐみは唐突に話を変える。「あなたは全部覚えているのね?」「はい。でも、蓮さんがどこに行ったのかわからなくて、その話をできる人もいなくなってしまったので、少し心を病みました」凛花の言葉に、めぐみは目を見開いた。そして次の言葉に、凛花は思わず立ち上がりそうになった。「もしかしたら、蓮によく似た人が周りに現れて……いない?」「……伊藤課長!……蓮さんに似てると思いませんでしたか?それから、課長の奥さんの名前が、アミルっていうんですけど」「アミルは冥界にいたわよ?……伊藤課長は、蓮には似ても似つかないと思うけど?」それを聞いて愕然とした。私は、短い間に蓮の顔も忘れてしまったのか……「でもまぁよく聞
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55.凛花を救ったのは……

「お父さん、朝食準備できたよ。あと、お弁当も」「あぁ!こりゃ美味そうだな!いつもありがとうな、凛花」仕事を辞めて家にいるようになって、初めはそっとしておいてくれた父だったが、1週間が過ぎてこう言われた。「再就職を急げとは言わない。家事も無理にとは言わない。けどな、朝になったらリビングへ出てきなさい。顔を洗って髪をとかして、服を着替える。それだけでいいから……な?」つらそうな表情を見て、どれほど父に心配をかけていたのかと思う。それからは進んで朝食の準備と父に持たせるお弁当を用意するようになった。「たいしたものじゃないよ。朝食なんて目玉焼きとトーストだし、お弁当もウインナーと野菜を炒めたのと冷凍コロッケだし……」父はそれでも嬉しいと言ってくれた。父に心配をかけないために始めたことではあるものの、料理をするようになれば自然と買い物に出るようになり、そうなればうまい具合に外の空気を吸える。それがやがて自分を少しずつ癒していき、やっと、ぼんやりした時間をもてあますようになった頃、父が意外なことを言った。「……犬?」「あぁ。もう成犬なんだが、海外に引っ越しをする先生が預け先を探していたんだ。凛花は大の犬好きだし、相談もなく名乗りを上げてしまったよ」「それは別にいいけど……」聞けば大型犬の部類に入る精悍な顔立ちのあの犬だと知らされる。ジャーマンシェパード。警察犬として活躍することも多い賢い犬だ。「シェパードくん……はじめまして」我が家にやって来た、まだ名前も知らない犬。ひざまずいて迎える凛花に落ち着いた様子で近づき、そっと前足を膝に乗せてきた。「君は、なんていう名前?」後からついてきた父が答える。「レオ、って名前だそうだ。成犬だし、名前を変えたら戸惑わせるだろうから、そのままレオでいこうか」「レオ……」簡単に頭をよぎる似た名前。……蓮。呼び間違えたりしたら、恥ずかしいな。リビングの端にケージが設置されるのを見て、少し意外に思った。我が家にはそれなりに広い庭がある。レオのようないかにも運動が必要そうな犬なら、いつでも走りまわれる庭で飼うのかと思った。「室内で買われていたそうなんだ。マンション育ちらしい」「なるほど!お坊ちゃん育ちってわけね?」それからは、レオの世話が凛花の生活のほとんどになった。朝と夕方の散歩、食事、水浴びな
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56.連れて行ってほしい

「ありがとうございます。それでは早速来週から、よろしくお願いします」面接は呆気なく採用となり、足取りも軽く事務所を出る凛花。エレベーターで1階に降りる。事務所が入るビルは決して綺麗とはいい難いけれど、素朴で落ち着きがあり、病み上がりの凛花にはちょうどいい安心感を与えてくれた。歩道に出てふと立ち止まったのは、右に行けば最寄り駅で、左にいけばちょっと素敵なカフェが見えたから。「……あれ」左右を見渡す凛花の目に、意外なものが映った。……大型犬、いや、狼?そこだけ浮かび上がる静止画ような光景に目が離せなくなる。「……待って」歩き出した途端、こちらを見ていた狼が、さっと走り出した。街の雑踏のなか、人にぶつかることなく走り抜ける狼を追って、凛花の足も、自然と早まっていく……危ないっ……!という誰かの声と、キャーっ……という叫び声、急ブレーキの音は、ほとんど同時だったと思う。次の瞬間、ドンッと何かにぶつかり、硬いアスファルトに自分が叩きつけられた時には、まだ意識があった。痛みはないのに、自分が濡れていく感覚……「事故だっ!救急車っ……!」体が、血の海に沈められていくような感覚の中……私は意識を手放した。「……まだ、ダメだ。凛花、生きろ」懐かしい声に涙が出た。「……もういい。連れて行ってください」真っ白な空間のなかに、横たわった私は体を起こす。少し先に……会いたいと願い続けた蓮が見える。後ろ姿……お願い、こちらを向いて。「急にあなたがいなくなったから、私は病気になったんです」顔だけがこちらを向いて、横顔を見せてくれる。「……会社も辞めて、でも命が続くから生きていた。いろんな人の助けがあったから」こちらを向いてくれないなら、自分から行く。せっかく会えたのに、顔も見れないなんて絶対にいや。両手を床につけ、腰をあげようとした。足を踏ん張ろうとするのに、力が入らない……「蓮さん、私……立てない。立てないです」床につけた両手に体重をかけ、動かない下半身を引きずって移動する。「お願い、行かないで……待ってて、私が、行きますから」こちらに向けていた横顔が、一瞬下を向いた。まさか……消えてしまうの?また?……どこに行くかもどこにいるかも教えないままで?「蓮……さん、」ポキっと、何かが折れた音がした。見下ろすと、体重をかけていた右手に
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57.不思議な男性

「いいですよ」死神に恋をして突然別れ、さまざまなつらい気持ちを味わって事故に遭い、体の自由が効かない今の私に怖いものなんてない。「……私が誰か、気にならないんですか?」「この世の人間ではないですよね」「正解です。……さすが、何度も立ち上がった方だ」立ち上がった……?蓮が消えた後のことを言っているのだろうか。「立ち上がったのは、父や友達がいてくれたからです。皆、私が生きることを望んでくれました。それに……蓮さんのことも諦めてませんから」「いまだに、ということですか」「……はい」自分の決意に自分で驚いた。あんなに泣いたのに、私はまだ彼を諦められない。けれど、意外な自分の本音を自覚したことで、凛花にはある種の強さが備わっていた。ここまで来て、もう何も失うものはない。凛花は突然現れた目の前の男を見て思う。この人は……冥界からの使い、それとも、死神最高幹部が仕向けた者……?「私が誰か、教えましょうか?」「私になんの用ですか?」薄ら笑う男に見下されても、凛花は怯まなかった。「あなたは……戦いに敗れました」もはや自分の正体を明かすだけ無駄だと悟ったのか、男は話を続ける。「戦いって、死神最高幹部との……」いったいいつ始まっていたというのか、見上げる凛花の視線をかわし、窓の方へ歩きながら男が言う。「誘惑に負け、蓮と似た人物に心を惹かれましたね。口づけて触れ合って……本当なら相手に蓮の正体が知られるところだったのに、それを免れたのは、運が良かったとしか言えません」「あの2人は蓮さんに似ていたから、もしかしたら本人なんじゃないかって思いました。心が弱っていて、似た人に惹かれたのは認めますけど」脳裏をよぎるのは、栗田医師、そして伊藤課長……まさか、あの2人をスルーできたら、私は死神最高幹部に勝てたの?「問題はそこじゃないんです」窓際に立ち、こちらを向く男性。逆光なのか、表情がわかりにくい。とっさに枕元のライトをつけようとして、男性が言った意外な言葉に手が止まる。「狼になって助けるとは……」「狼って……まさかあの時の、」栗田医師に迫られて困っていた時、突然現れた闇に浮かび上がる狼。あれが蓮だったというのか。ふと、交通事故に遭う直前にも見えたことを思い出した。本当に、動物に姿を変えていたんだ……「あなたはそんな狼を追ってこんな
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58.母からのヒント

「……っ?!」凛花のきっぱりした言い方に言葉を失い、男性はそのまま部屋を出ていった。途端に体から力が抜け、崩れ落ちるようにベッドに横になる。「蓮が、その存在を失ったなんて……」どんな姿であれ、目に見えるものですらなくなったという言葉に、今さらショックを受ける。復活させるなんて言ったけど……私に本当にそんなことができるだろうか。聖なる人……私はその娘だって強気で言ったけど、おぼろげな記憶の中の母は光に溶け込んでいて、思い出そうとしても詳細がわからなくなっている。それでも、心に浮かぶ光の母に届くようにと願いながら思った。どうか、蓮を復活させる手段を教えてください。……弱音を吐かず、どんなことでもしてみせるからと心に誓い、いつの間にか凛花は眠ったようだ。『こんなに、大きくなって……』『あぁ、ママに似て美人になったろ?』『あら、鼻筋が通っているところはパパにそっくりよ?』『そうか……?』楽しげに会話する男女の声が聞こえる。それは……水の中で聞こえるような、明瞭に聞こえる声ではなかった。けれど、温かくてふんわりと包んでくれるような、今すぐに目を開けてすがりたくなるような声。『凛花……お母さんは、いつもあなたを見守っているのよ』頭に優しい手のぬくもりを感じた。『……お、母さん』必死で重たいまぶたを持ち上げ、すくそばにいる人を目に映す。それは、長い金色の髪をなびかせた美しい人。そうだ……私の母はこんな人だった。いつも笑顔で、叱られた記憶がない優しい母。『お母さん……』『凛花、成長して……やっとこうして会えたわね』喉元からこみ上げそうになる嗚咽。……ずっと会いたかった母が今ここにいて、私の頭を撫でてくれているのが嬉しかった。けれど、確かに泣いているのに、涙は頬を伝っていかない。それがどうしてなのか……自分が水の中にいるからだとわかった。『お母さん……蓮さんを助けて』その人がどういう人かなんて、説明は不要だと思った。母にはすべてが見えている。子供の頃別れたあの日から、母はこの日が来ることをずっと待っていた……『凛花、助けるのはあなたよ』切羽詰まった状況だというのに、母はどこか嬉しそうで……私はギュッと母の手を握り、繰り返す。『もう!ちゃんと答えてよぅ……』母は私のおでこにそっと口づけ、首を傾げながら笑顔になり…
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59.再び出会った2人

「2本足は久しぶりだ……」テーブルを降り、言葉の通りその場に立つ蓮。感動しながらも、ハッとして後ろを向く。「あの……今何か、着るものを、」レオから蓮になった姿は全裸だ。「あぁ、頼むよ」さり気なく凛花に背を向けるも、全裸だ。窓の向こうにこの瞬間誰かがやってきたら大変だ。「そうだ!まずはシャワーを浴びたら?」目をそらしながら蓮の手を取り、バスルームに案内する凛花の足取りは軽い。触れた手はあったかい……そして何より、背中にあの、大きなカマが見当たらないのだ。「シャワーはこの栓をひねると出てくるから。シャンプーはこっちで、ボディソープは……」「わかる。レオ時代、凛花に洗ってもらうとき、何回もシャワーとソープ間違えたって叫んでたからな」「あ……聞かれてたんだ?!」笑い合う声は、これまでの人生で一番明るいと思う。「それじゃ、ゆっくり入ってね」「凛花も……」「え?」出ていこうとする凛花の腕を取り、熱い視線を向ける蓮……そりゃ、今すぐ抱きしめ合いたいけど……目にはいるソレも、準備万端のようだけど……「ちょっと、落ち着く時間が必要だから。今はまだ……」背伸びをして蓮の頬に口づけ、バスルームを出た。父の部屋で新品の下着とリラックスウェアを見つけ、脱衣室へと運ぼうと歩き出す。……すると、さっきまで聞こえていたシャワーの音がやんで、妙に静かになっていることに気づく。「……もしかしたら、まだ安全じゃないんじゃ、」病室に訪ねてきた見知らぬ男のことを思い出した。死神最高幹部との戦いに負け、蓮は死神という役割をなくし、その存在を完全に失って二度と戻らないと。なのに戻った。多分死神ではなく、人間として。……生まれ変わった?どうしてそんな奇跡が起きたのかはわからないけど。「蓮さんっ!」静かになったバスルームの扉を勢いよく開けた凛花。「……ん、どうした?」ソープにまみれた蓮は確かにそこにいた。なんだ。シャワーを止めて洗っていただけか……シャワーが終わるまで、結局心配でその場を離れられなかった凛花。ウロウロと廊下を行ったり来たりしながら、ようやく父の服を着た蓮が脱衣室の扉を開ける。「……どうした?待たせたか?」濡れた髪の蓮がひどくカッコよくて色っぽくて……触れられる喜びと今までの寂しさと不安で、抱きついて泣き出した。「これで安
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60.蓮との暮らし

「あの男たち2人に、触れさせたな」「え?」じっと見下ろす目が、怒りと悲しみに揺れている。そこで思い出した。……栗田医師、そして伊藤課長のことを。「……あれは、その……ごめんなさい。どうしてか蓮さんに似ていると感じて」「……どす黒いものが心に広がっていくのを感じたよ」全部見られていたことを知り、何とも言えない気持ちになる。「蓮さんが今どんな状態か深く考えられなかった……ただ、早く会いたくて、それだけで。軽率だったと反省してます」「単純にヤキモチを妬いて面白くない気持ちになった。だが、それも必要な経験だったと今なら思う」それはどういう意味なのかと、次の言葉を待つ。「死神なら持たないはずの感情に揺さぶられて苦しみ、狼になって君の前に現れたものの事故に遭わせる結果になった。……おまけにカマも触れなかった」少しずつ表情が明るくなる蓮の表情を、凛花もつられて笑顔になりながら見つめる。「だからこそ、俺は死神を追放され、狼の中にその存在を移すことができた。……そしてキスだ。凛花のキスで、俺は元の体を手に入れた」「……不思議です。こんなにうまくいくなんて」「凛花が起こした奇跡だ」そう言われて思い出す、母の柔らかい笑顔。「お母さん……聖なる人だったお母さんが、全部教えてくれた」「そうか。お母さんは、聖なる人だったな。凛花にも奇跡を起こせる力があったんだ」「きっと、私だけじゃないです」蓮が私を見ていてくれたから。あきらめないでいてくれたからこその奇跡。言葉にすれば泣きそうで、凛花は蓮の胸に頬を寄せた。その夜、父が帰宅して人間の姿を取り戻した蓮に再会した。「なんとまぁ……前よりずっと男前なんじゃない?」凛花と手を繋ぐ蓮に、少しだけジェラシーの視線を向け、父はそれでも安心した様子で笑ってくれた。「ささやかだけど、お祝いにね!」蓮と2人で用意した夕食のあと、父が生クリームがたっぷり入ったロールケーキを出してくれた。カットされたそれを見て、笑う凛花に父が言う。「いちごクリームのさ、ハート型のロールケーキなんて珍しいでしょ?」「初めて見る……!可愛いね!」それはきっと、私たちが結ばれるのを認めたサインだと思った。感謝の気持を伝えながら、2人で話し合ったことを聞いてもらうことにする。「当たり前なんだけど、これからは2人で働いてやっていく
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