All Chapters of 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?: Chapter 31 - Chapter 40

51 Chapters

31.死神の仕事

「凛花……っ」病院に到着するとすぐに康太が飛び出してきた。「絵里奈は……」「手術室……昨日帰って話をしてる最中、急にお腹を押さえて苦しみだして……」話を聞きながら、あちこちに視線を彷徨わせた。もし来ていたらどうしよう……。命の期限を伝える、死神が。「まずは帝王切開で赤ちゃんを産ませるみたいだ。……なぁ、絵里奈になんかあったら俺、どうしよう……赤ん坊が生まれても、俺1人だったら……」「しっかりしな!康太っ」うろたえる康太の肩を叩き、用意された控え室で待っていられるはずもなく、手術室の前に移動した。両手を組み、絵里奈と赤ちゃんの無事を必死に祈った。こんな時は、蓮に会いたくない。会ってはいけない……黒マントの蓮には特に。そう思うそばから……ふと、何かが動いた気がして視線を向けた。黒いものが映った気がする……ハッとして、あらゆる方向を確認すると、手術室の反対側の壁に、黒いマントの裾が波打ったのが見えた。「……どうした?凛花」よほど怖い顔をしていたのだろう。康太が不安そうに声をかけてくる。そうだ……康太には見えないんだ。やがて、はじめからそこにいたかのように現れた。風もないのに揺れるマント……フードを目深にかぶって、わずかに覗く、尖った高い鼻先と、その下の立体的な唇。蓮だ……まさか絵里奈を?……絵里奈の赤ちゃんを、冥界に送ろうというのか。「……やめて」あらぬ方向に向かってよろめきながら歩いていく凛花を、不思議そうに見つめる康太。「どちらも、私にとって大事な命なの。だからお願い……2人だけはやめて。見逃して……お願いだから……」凛花にしか見えない「死神の蓮」は、表情ひとつ変えず、その時を待っているように見える。「……待ってっ……っ!」叫んだのは、そろりと動いた手に、大きなカマが握られたから。康太には、壁に向かって祈りを捧げているようにしか見えない。まるで誰かの足元にひざまずくようにして、必死に頭を下げている凛花。康太に止められても、凛花は何度でも頭を下げた。こちらの声など聞こえないかのような死神の蓮に、絶望しながら。やがて……赤ん坊の泣き声が聞こえた。涙でぐちゃぐちゃの顔を突き合わせ、手術室の前に走る。「生まれた……」……確かに聞こえる、赤ちゃんの泣き声。喜びに浸りながら、まだ不安は消えない。蓮がいるということは、冥
last updateLast Updated : 2026-04-19
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32.めぐみの正体

「おいで」振り向けば、両手を開いて私を呼ぶ死神。「……どうした?今夜はキスをしたいんだろ?」「なんでわかったんですか……」「なんとなく、心の声が聞こえたような気がした」ベッドに腰掛ける蓮から、少し離れて立つ凛花。その手首を掴んで……蓮は呆気なく引き寄せる。膝をまたぐように座り、正面から抱きしめられて、凛花は思った。「俺が、まったく無傷だと思うか……」掠れた声……蓮は肩口におでこを当てる。「え?死神家業のあとは、どこか痛むんですか?」手か足か……凛花は心配になって傷を探した。「違う。心だ」「……心?」まさか死神から「心」なんてワードが飛び出すとは。「命の期限が来て、カマを振り下ろし、冥界に送るときはいつだって心は痛む。今夜のような幼い命ならなおさら……両親の泣き叫ぶ声に、カマを下ろす手も止まる」「……死神さんも、いろいろ思うんですね」人間の考えなどわからなくて、察することもできないと思っていた。だから蓮の言葉は意外だ。「そんなのは俺だけだがな」両腕の下から掬い上げるように抱きしめられ、凛花の腕は自然と蓮の、首に絡まることを願って。「……そういうの、人間界では優しいって言います」「そうか)「蓮さんのこと、よくわからなくなるけど、他の死神に比べて、優しいのは確かですね」まぁな……と言われ、おしゃべりは終わりだと理解する。肩口から顔を上げた拍子に、蓮の唇にちゅう…っとキスをする凛花。密着するだけのキスは、死神の顔色も少しだけ薔薇色に変える効果があるらしい。「凛花……」抱きしめる蓮のぬくもりは、今夜も少しひんやり。……冬が巡ってきたら、カイロでも持たせてみようと、凛花は呑気なことを思っていた。「昨日は、いろいろと大変だったね」翌日顔を合わせた鮫島も、神妙な表情で頭を下げてくれた。「うん。ショックだったけど、親である友達夫婦の方がつらいだろうから。私は、励ます側に回るつもり」「うん、それがいいね」蓮にもつらい気持ちがあるとわかった以上、これでこの話は終わるはずだった。「ちょっとメグの部屋に行ってくる」そこへ、スーツに着替えた蓮が部屋から出てきた。携帯を見つめ、何やら慌てている様子だが……「……メグ?」深海さんのことだとわかるのに数秒。なんで朝から会社の人、しかも別の部署の人を訪ねるのか……「……課長!や
last updateLast Updated : 2026-04-25
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33.めぐみの話は大切なこと

「あの……大丈夫なんでしょうか?」「大丈夫って、何が?」「いえ、私だけならいざ知らず……鮫島くんもいる前であんな……」ハッキリと、死神と認めてしまうなんて。「まぁ……確かにやっちゃったわね。でも、今さら後悔しても遅いし」正体を明かしたところで、仕事帰りにめぐみに食事に誘われ、やって来たのは自然派健康おばんざいの店「アトム」だ。「はぁ……鮫島くんの恋はこれで、また遠のきましたね」ため息をついてから気がついた。「そういえば……深海さんのは見えませんけど」「カマのこと?」ちょっと凛花に近づいて、小さな声で言うめぐみ。「そんなもの、人間の目にさらすようなミス、私はしないから」「はぁ、そうなんですか」カマを見られてしまう事が死神のミスであるのなら、どうして蓮はそんなミスを犯したのだろう。そしてもうひとつ……目の前のめぐみを見て、凛花は心の中で密かに思う。それは、仕事帰りだというのに、彼女にはまったく疲れの様子がないということ。普通の女子ならあるあるのメイク崩れも仕事終わりの目の下のクマも、めぐみにはまったく見当たらない。いつ見ても、全方向美人、というわけか。「なぁに?美しさの秘訣を聞かれても、教えられることはないわよ?……だってこれ、全部生まれつきだから」「いえ、そういうことじゃなくて……」これまでどれほど美の秘訣を尋ねられたのだろう。めぐみは不思議そうな顔で凛花を見る。「蓮さんとは、死神仲間だったと、わかったので」「そうよ?彼は私が管理する、いわゆる後輩の死神。私は言うなれば上司ってとこかしら」「……サイコーです!」2人の間に男女のピンク色はないとわかって、凛花の心にはびこっていた嫉妬の雲は、晴れ渡るようになくなっていた。「ところで……あなたはどこまで知ってるのかしら?」「……何をですか?」話の本題に入ろうとしためぐみを、凛花は丸い目で見上げる。「何って、これからのことよ」「これから……?」「はぁ……さすがに蓮の恋人になっただけのことはあるわ」めぐみはため息と共に感想を漏らし、凛花はその間に少しだけ反省する。「あのね?この先の蓮との未来のこと、どうなるのか、気にならない?」「あ、もちろん……気になりますけど、それを考えるとつらくなるので、なるべく考えないようにしてます」「いいえ、それじゃだめよ?」バカなの
last updateLast Updated : 2026-04-27
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34.闇は迫っている

「死神が、増えてる?」めぐみと一緒にマンションに帰り、部屋に入ったところで、迎えに出てきた蓮に早速伝えた。「それって、どういうことなんですか?これ以上増えたら、出会う人全部疑わなきゃいけなくなる……」話し声が聞こえたのか、鮫島も部屋から出てきた。にらみ合うような凛花と蓮を交互に見つめ、リビングへと誘う。「……え?!そうなの?」凛花がめぐみに聞いた話を伝えると、鮫島は驚いて固まってしまった。「わかる……そういう反応になるよね?あぁ、ヤバいよ……鮫島くんの恋がどんどん遠のいていく…!」「そんなぁ……!俺、彼女いない歴もうすぐ3年なんだよねぇ……そろそろ恋をしたいよぉ、彼女ほしいよぉ!」地団駄を踏む鮫島を冷ややかに見下ろし、蓮は大きくため息をついた。「そろそろ直接対決の時だな」「直接対決って、人数が増えてきた死神たちと?なんだか鬼ごっこみたいなことになりそうですけど」「……ならないだろ。どういう思考だ」冷ややかな目に、わずかに笑みが浮かんで嬉しくなった。普段冷たい表情が緩む笑顔は、私の大好物だ!「深海さんは、こっちの味方ですよね?」「敵や味方って感覚とは違うが、めぐみ……いや、深海は理解しているだろう」「……深海?」めぐみと言ってから、名字に言い換えるなんてどうしたのか。はてな顔の凛花に、鮫島が自慢げな顔をぬっと出し、耳もとに口を寄せてきた。「……人間の女子は、男が下の名前で呼ぶ女性と何かあるんじゃないかと疑うものだって、言っといたから!」「あ、そういうことか!」聞こえたのか、あらぬ方向に顔を向けながら、腕組みをする蓮。……耳が少し赤くて可愛らしい。「直接対決する相手は、我ら死神の……最高幹部、とでも言っておくか」思わず鮫島と顔を見合わせる凛花。「最高幹部って……社長みたいなものですか?それなら私、いろいろ言いたいことあるんですけど!」「あ…!僕もですっ」慌てて手を挙げる鮫島。「死神の正体を知ったせいで恋ができないなんて、死神の掟ひどすぎます!」「……あ?」「そもそも、バレて困るのは死神なのに、怖がらせて脅されて……納得できませんっ!」確かに、文句を言いたい気持ちは理解できる。鮫島に加勢しようと、蓮を見上げた。「アホか。最高幹部というのは、人間が話せるような相手じゃない」「それって、すごく大きいとか怖いとか?
last updateLast Updated : 2026-04-28
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35 謎の男

「挨拶に行こうと思っている。お前の父親に」「え、なんで……」「こういう場合、人間はよく挨拶し合うだろ?」蓮はなぜか、得意げに言う。まるで称賛の言葉を待っているかのようで、なんだか可愛いと思ってしまった。「確かに、結婚を意識した場合には紹介し合うけど……」ジト目で見上げる凛花に、蓮は「……なんだよ」と、やや後ろへ下がる。「結婚してくれるんですか?……そしたら一生離れませんよ?こ、子供だって産んじゃうんだから!」「……そういうことは、勢いだけで言うんじゃない」少し顔を赤らめて、蓮は珍しく凛花から顔を背けた。「なにその愛らしい反応〜…!それで、人間離れした彼氏、挨拶に行くことになったんだ。……良かったじゃん!」実家に挨拶に行く、行かないの話から早くも数日がすぎ、絵里奈から「心配をかけたお詫びをしたい」と連絡があったのは、そんな頃だ。「うん、まぁ……ね」私の実家に挨拶に来る人が、お腹の赤ちゃんにカマを振り下ろした死神だと、絵里奈はもちろん知らない。死神なんて普通の人間には見えないし、赤ちゃんのそばにそんなものがいたとは思っていないだろう。私も、一生言うつもりはない。「それにしてもおじさん、きっと喜ぶね。凛花ったら浮いた噂がないから、ずいぶん心配してたんだよ?」「……それはそうと、あれから絵里奈も康太に優しくしてもらってるって?」耳の痛い話は早々にそらし、絵里奈の話に話題を移そうとした。「うん。赤ちゃんのことは本当に悲しかったけど、それを共有できる唯一の人が康太なんだって、お互いにわかったの」「雨降って地固まるってやつだね」悲しい思いをした親友たちはお互いを支え合ってこれからも歩んで行くのだろう。私も、蓮さんが父親と挨拶を交わして、何か絆ができるんだろうか。きっと父は、結婚すると思うだろう。「康太とね、結婚式を挙げようってことになったの。1回話に出たんだけど、その時はナシになったから、今度こそ!」「そうなんだ!私、何でも手伝うから言って!……楽しみだね!」悲しみを乗り越えた2人の結婚式は、きっととても感動的なものになるだろう。親友の花嫁姿を見れることは、本当に嬉しいと思った。けれど……絵里奈と別れて、つくづく思った。私と蓮さんは、絵里奈と康太のような普通の幸せにたどり着けるのかと……もしたどり着けないとしたら、自分た
last updateLast Updated : 2026-04-30
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36.会いに行きたいんだ

ただならぬ凛花の様子に、鮫島も一層表情を引き締めた時……「……待てよ」鮫島の腕にかけた凛花の手を、蓮の手が取る。「お父さんに、挨拶に行くから」いつの間に戻ってきたのか……振り向くと蓮がいた。いつもなら大げさに驚くが、今は、それどころではない。「なに……言ってるんですか、私、知ってるんですよ?!」取り乱し、蓮の胸を叩く。「背の高い男の人が、私に……あなたの末路を、」「わかってる」「だったらどうして…?!どうして私を遠ざけないんですかっ」2人のやり取りを、どうしたものかと見つめる鮫島。「いいんだ」「な……何がいいんですか」「逆に……お前に何も害がないのなら、ホッとした」「なんですかっ…それっ」凛花は叩く腕にいっそう力を込める。「そんなタイプじゃないでしょう?人を心配するんですか?まずは自分が有利になるように動くタイプでしょっ!」「ずいぶんな言い方だな」余裕で笑う蓮に、歯向かう凛花。叩く手をそっと止めて、蓮は自分の胴体に巻き付ける。「俺の末路が、見せられた通りなら、俺はよけいにお前の父親に挨拶に行きたい」凛花は泣きながら、まだ言い返したい様子だが、やりとりを聞いていた鮫島には理解できる気がしていた。「俺がいなくなったら、お前はきっと泣くことになるから。……そんな時、頼るのは父親のところだろ?だからそうなる前に挨拶をしたいんだ」「……行ってきなよ。課長がどんな末路を行くのか、怖いから僕は聞きたくないけど、願いは聞いてやったほうがよくない?」口添えをする鮫島に、赤くなった目を向けた凛花。「僕は、とにかくキスをするようなシチュエーションを避けつつ、口を固く閉じるんでご心配なく……」鮫島は身の回りのものを簡単にまとめ、あっさり出て行った。「……かわいそうなことしちゃった。鮫島くんには」「大丈夫だ。……今頃、連れ込まれている」「……連れ込まれるって、どこに?」それがわかったのは、翌日出社してからだった。「……鮫島くん!昨日はごめんね、大丈夫だった?」「……うん、大丈夫だよ」「どこに泊まったの?友達のところ?確か……実家は地方だって言ってたよね?」うん……と言いながら、心ここにあらずの様子。これはどうしたことかと目の前で手のひらを上下してみても、ぼんやりした表情に変化はない。「あのさ、キスってやっぱり、すごくい
last updateLast Updated : 2026-05-04
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37.実家訪問

「はじめまして。神西蓮と申します」ライトグレーのスーツにシルバーのストライプネクタイを締めて、にこやかに挨拶をする蓮は、どこからどう見ても死神になんて見えない。それなのに、玄関先でまず第一声、頭を下げた蓮に、父は固まって何も言わない。「……ちょっと、お父さんっ?!」「あ?……あぁ、ごめんね、あんまりカッコいい人だから、どうしたのかと思っちゃって!」頭を掻きながら謝罪し、改めて蓮に笑顔を向けた。「ようこそいらっしゃいました。……さぁ、遠慮せず上がってね」リビングに案内すると、蓮はわずかに眉間にシワを寄せた。……まぶしいのだろうか。凛花は陽射しが当たらないダイニングテーブルに蓮を案内した。「亡くなった母が、お花を育てるのが上手だったんです。だからいまだにいろんな花が咲いて……たまに初めて見る花もあって、驚いちゃう」「そう、なんだね」「あ……リビングに母の写真を飾ってあるんですけど、」父がお茶の準備をしている間に、凛花は父が設えた母の写真と遺品の服やアクセサリーを飾るボードに蓮を案内した。「私が実家を出てから、父はいつも母の写真に話しかけながら、ここで食事をしてるみたいなんです。両親はとても仲が良かったみたいで」今日もテーブルにはいくつも母の写真が飾ってある。凛花はそのなかでも一番大きい、笑顔の母の写真を手に取った。「10歳の時に亡くなったんですけど……明るくて優しくておおらかで、本当に素敵な女性でした」「よく、似ているな」声が震えているような気がして見上げてみると、少し顔色が悪いようだ。「あれ、どうかしましたか?」「いや、何でもない」「え……まさか、私の父に会うのに、緊張しちゃいました?」家を出るまではいつも通り、いじわるを言われたりからかわれたりしながら支度をしていたのに。「……そうみたいだな。こんな人間みたいなこと、初めてするから」「慣れないことをさせてしまって、」ごめんなさい、と言う前に、蓮は笑顔を作って続ける。「いい経験をした。感謝してるぞ」温度のない手で頭を撫でられ、そのまま背中を押され、席に戻った。「男の人はやっぱりコーヒーかな、と思ったんだけど、蓮さんはやっぱりブラック派?」白地に青い花の模様がひとつ入っているカップとソーサーを置きながら、父が蓮の顔を見る。「コーヒーは好きなんですが、実はこう見
last updateLast Updated : 2026-05-05
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38.凛花の真実……

……真逆って、いったいどういうこと?凛花はフッとため息をついて、口元を緩めた。父はたまに、変な言い回しをする。それは場を盛り上げるためだったり、笑わそうとすることがほとんどだ。「……またお父さん、変なこと言って蓮さんを笑わそうとして!」貼り付いていた壁から離れ、2人が話している場所へ歩き出す。するとまさかそこに凛花がいるとは思わなかった父が、くるりと振り返った。「……え、お父さん、なんで…?」慌てて拭ったが、父の頬が涙で濡れているのを見てしまった。見上げた蓮の顔も苦しそうな真顔だ。……これはいったい、どういうことなんだろう。「凛花にも、そろそろ本当のことを伝える時が来たみたいだな」父は2人をソファに座るよう言って、今度はハーブティーを淹れてくれた。「唐突な話で驚くかもしれないが……凛花、お前の母親は、聖なる人だったんだ」「聖、なる人……?」突拍子もない話に、からかわれている気がしてならない。だって聖なる人なんて、聖書に出てくるような言葉だと思ったから。「凛花、こちらの蓮さんという方は、人間ではないだろう?」「……え?」どうしてわかったのだろう。トイレから戻る前に打ち明けてしまったのだろうか。「実はな、お母さんが、亡くなる前に今日のことを予言していたんだよ」「お母さん、そんなことできる人だったの?」「だから言ったろ。聖なる人だったって」父の話を、今ひとつ飲み込めない凛花。そばでやりとりを聞いていた蓮が口添えする。「聖なる人という存在は、聞いたことがあります。それは死神とは真逆の、いわゆる天使だということですよね」「そうです。妻は、天使です。それはそれは美しくて、心も清らかな人で……本当は僕なんかと結婚しちゃいけない位の高い人でした。でも、出会って恋に落ちて……妻は私の愛を受け入れてくれた。そしてこんなに可愛い娘を産んでくれて……」凛花を愛おしく見つめる父は、自分の向こうにいる母を見ている気がした。……そして唐突に思った。そういえば私は、母のお墓参りに行ったことがないと。「凛花を産んで10年後のある日、別れは、突然だった。夜中に起こされて、凛花のことや家のことを話しだしたんだ。夢でも見て、寝ぼけてるのかと思ったよ。でも……僕も心のどこかで覚悟はしていたからね、彼女の話を、メモを取りながら聞いた」「亡くなって、そ
last updateLast Updated : 2026-05-07
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39.別れた夜 Side.蓮

「そう。凛花さんと、そういう結論に行き着いたのね」「あぁ、守るためだ。……仕方ないだろ」「そうね。きっと彼女もつらかったんじゃない?」そう言われて、別れ際に見た凛花の涙を思い出した。……拭ってやれなかったな。凛花を置いて1人で帰ってきて……めぐみに一応報告してやる気になった。「それで、大丈夫なの?」「……なにが?」話すうち……目の前がやけにぼんやりしてきた。気を緩めれば、次第に何も映らなくなりそうだ。「気持ちはわかるけど……酔ってここで寝ないでもらえるかしら?」「酔ってなんか、ないさ」「そう?じゃあ足元に転がってるこの缶はなに?あなたが買ってきたものよね?」確かに、足元にビールの缶が転がっている。……俺はわざとそのひとつを蹴り上げ、壁に当ててやった。めぐみの隣には鮫島がちんまり座って、ここからは見えないが、手を腰に回しているのがわかったからだ。人が愛しい女と別れてきたっていうのに。「いいじゃないか。……今は飲ませてあげようよ。課長がこんな姿になれるのは、僕たちの前でだけなんだから」「鮫島ぁ……」上から物を言われた気がして腹が立った。……人間はこれを、八つ当たりという。「次はお前らの番だからな?めぐみと離ればなれになったらどうするか、今から考えておけよ」「えっ?離れる気ないですけど」めぐみに抱きつき、こちらに顔を向ける鮫島の表情が、やけに余裕があるように見える。……そして幸せそうだ。「人間界での修行が終われば、俺は冥界へ戻される。当然……指導、監視役のめぐみも同じ運命だ」ザマーミロ、と片方の目の下を人さし指で下げて見せる。するとめぐみが眉をハの字にさせ、驚きの発表をした。「蓮、ごめんなさい。私……死神を卒業するのよ」「……はぁぁ?」驚いて、酔いが一気に冷める。……なんちゃって、なんて言ったら背中のカマを振り下ろすが?「実は私、もうかなり長い間死神をやっていて、あなたのような落ちこぼれの指導、監督もずいぶん務めてきたの。……ということは、人間界に長い間いるということで、少しずつ死神としての力が衰えてくるのよね。それで知ったの。私はそろそろ死神というより人間に近くなって、卒業するってこと」「……それっ、どれくらいかかるんだ?人間になるまで、どのくらいかかった?」そんな道があるとは知らなかった。めぐみが人間になれ
last updateLast Updated : 2026-05-08
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40.Side.めぐみ 死神アミル

「あの2人、きっと離れられないと思うんだよね」蓮が突然やって来て、酔いつぶれた夜から数日後、今日は鮫島とデートで水族館に来た。長いこと人間界で暮らしながら、こんな観光地に来たのは初めてで、実は楽しみすぎて昨夜あまり眠れていない。「そう?……どうして、そう思うの?」「だって、たった一夜でめっきり老け込んじゃったんだもん。鈴原さん、出社してもぼんやり座ってるだけだし、あのままじゃ給料泥棒って言われてクビになるって!」「それは……まぁ、心配ね?」鮫島も心配そうにため息をつき、続けた。「……目の下のクマもバッチリ真っ黒で、あのままじゃまた、倒れてしまうと思う」「そう……ねぇ」めぐみは大きなガラスの向こうを悠然と泳ぐ魚の群れを見ながら思った。……本当はね、手がないわけではないのよ。2人が離れなくてもいい方法が、ないわけではない。それは蓮が、実は凛花が天使の娘であると口走ったのを聞いて閃いたこと。確か昔……聞いたことがあるのだ。蓮と凛花の問題を突破する方法を。けれどそれはまだ、鮫島にも言うつもりはなかった。1度、私からコンタクトを取ってあげようかしらね。めぐみは隣にいる鮫島の手に触れた。「ん?どうした?」それは……一点の曇りもない爽やかな笑顔を惜しげもなく自分に向けてくれる彼と、一緒にいられると教えてくれたあの子。長年のライバルであり、仲間でもある死神だ。力は衰えつつあるけど、今ならまだきっと、呼び出せるはずよ。「……食事も、のどを通りませんで、」ケホ……っと咳き込む姿を見て、めぐみは顔をしかめた。「あなた、すっかりお婆さんね?……そんな姿でいたら、とんでもない目にあうわよ?」「はぁ……死ぬ?ってことですか?蓮さんと触れ合えないのなら、私の人生はもうおしまい、ってやつです」凛花がコーヒーをズズっとすすると、まるでカップにヒビでも入ってるように見える。……鮫島に聞いてはいたが、これは予想以上だ。「呼び出したのは他でもないわ。神西蓮のことだけど」名前を出した途端、怖いくらいにカッと目を見開いて、めぐみを見る。「……もしかしたら、」死んだ魚のような目に悲しみを浮かべ、コーヒーカップをその場で離してしまう。ガシャン……っという音と共に、砕け散るカップ。「……ちょっと、何してるのよ?!しっかりしなさい!」「大丈夫。俺、片
last updateLast Updated : 2026-05-09
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