All Chapters of 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Chapter 251 - Chapter 260

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第251話

松田家。英樹が病院から戻ると、そこには柚葉と彼女の両親がいた。柚葉の両親は娘を見て、あきれ果てたような表情を浮かべている。柚葉の母親である百合が口を開いた。「柚葉、あなた何考えてるの?自分の将来どころか、お爺様のことまで巻き込むなんて」「結果、大丈夫だったでしょ?」柚葉が言い返す。「そもそも、私は情報なんて漏らしてないし、本当に漏らしていたとしたら、今ごろここにいられると思う?それに、お爺様……」柚葉は見るからに高級そうな椅子に座る祖父を見やり、俯いた。「ごめんなさい、お爺様」続けて隆平も柚葉に聞いた。「それにしても、なんで谷口社長からあんな大金をもらってたんだ?俺たちが渡しているだけじゃ足りなかったのか?」「足りるわけないでしょ」柚葉が反論する。「今は昔と違うんだから、お父さんたちがくれるだけじゃ生活するだけで精一杯」百合は呆れた顔をして言った。「まるで、私たちが悪いみたいじゃない。私たちの稼ぎが、あなたに月6000万もあげられないほど少なくて、ごめんなさいね」柚葉の眉間に皺がよる。「そんなこと言ってないでしょ?」「言ってなくても、そう思ってるんじゃない」柚葉は両親と過ごした時間が少なく、もともと深い情があったわけではなかった。そんな中で突然、両親から問い詰められ責め立てられた彼女は、とっさに祖父の後ろへ身を隠すようにして逃げ込んだ。「私を育ててくれたのは、お爺様なの。だから、私を怒る資格があるのはお爺様だけ」隆平は怒りを露わにする。自分たちだって、柚葉を育てたくなかったわけじゃない。柚葉が自分たちを選ばなかったのだ。幼い頃から才気があった柚葉を英樹が引き取りたがった際、両親は迷いつつも娘の選択に任せることにした。そして、幼い柚葉はこう言った。「お父さんとお母さんよりお爺様の方が凄いし、私のことを助けてくれる。だから、私はお爺様と一緒に住むね」当時、二人は娘の考え方が少し歪んでいるのではないかと感じた。自分たちの育て方に何か問題があったのかもしれない――そう考え、いっそ英樹のもとで育った方が、柚葉のためになるのではないかと考えたのだ。ところが実際は逆で、年を重ねるほどに増長していった。案の定、今ではこんなことになっている……隆平は言った。「もうマイクロチップ開発プロジェクトから
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第252話

「今度はなんだ?」「お父さんとお母さんの言う通り、私は研究所にもう戻れないんだよね……」「研究所なんて、A市にはいくらでもある」「でも、他の研究所はここに及ばないから。それに、お爺様はいつも言ってたでしょ?やるなら一番を目指せって」英樹が言い返す。「お前にそんな能力があるのか?」柚葉は言葉を失った。「お爺様!」「もう分かったから、お前はしばらくおとなしくしておけ」英樹自身も研究所側からの追及や調査にどう対応すべきか、頭を抱えていたのだ。「それと、もう一つ聞きたいことがあるんだが」英樹の重々しい視線を感じて、柚葉の心臓がどきりと跳ねる。「何?」「お前と谷口社長の関係は何なんだ?」英樹は、探偵を雇い、智也と凛が夫婦であるということは知っていた。「あいつが既婚者で、その相手が谷口だということは知っていたのか?」「それは……」自分を育ててくれた祖父の問い詰めるような口調に、柚葉は嘘をつけなかった。しかし、その言葉を聞いた瞬間、隆平が目を見開いて怒鳴った。「お前、既婚者の男と一緒になったのか?」「隆平、声が大きい。周りに聞こえたらどうするんだ」隆平は込み上げてくる怒りをなんとか抑え込む。百合も複雑な眼差しで娘を見つめながら、夫の背中をさすってなだめた。「柚葉、本当なの?」「お母さん、お父さん。二人は何も知らないのに、どうしてそんな目で私を見るの?」一呼吸置くと、柚葉は話し始めた。「智也と凛さんが結婚してたこと、知ってたよ。でも智也は凛さんなんて愛していないの。あの結婚は、私を嫉妬させるためだけに籍を入れたものだし、それに、私が戻ってきた今、智也は近いうちに離婚する予定なんだから」隆平は怒りで震えた。「だとしても、離婚が成立するまでは待つべきだろ!相手に婚姻関係があるうちに関わりを持って、さらには相手の金まで使って。それが夫婦の共有財産だって分かっているのか?」もちろん柚葉は分かっていた。彼女は以前、正人の口から、智也の妻はごく普通の人間で、しかも孤児だと聞いていた。そのため、凛にどれほど力があっても、こんなことまでは知りようがないと思っていたのだ。だが実際は違った。凛には別の立場があり、海斗があの資料をわざわざ印刷して配布したことで、すべてが公になってしまった今、凛が知らないはずがない。だ
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第253話

英樹は無理やり連れていかれたわけではなかったが、連れて行かれる様子を見るに、今回の件で責任を問われることは避けられないと柚葉は悟った。柚葉を不安が襲う。両親は娘をちらりと見たが、いまさら責めても仕方がないと思い、言葉を飲み込んだ。騒ぎを聞きつけた柚葉の伯父たちも駆けつけてきて、百合に冷たい視線を向けた。「一体、どんな教育をしてきたんだ?」それからひと通り百合を罵った後、伯父たちはすぐに伝手を頼り始めた。たとえ何があろうと、年を重ねてもなお面子を何よりも大事にする父親が、これ以上周囲から冷ややかな視線や詮索を受け続けないようにしなければならない。柚葉の両親もあちこちへ頭を下げ、助けを求める。柚葉も何もしていないわけではなかった。智也にも伝手はあるだろうし、正人だって財閥の御曹司だ。しかし、彼らよりも利明の影響力の方が強いだろう。そう思った柚葉は、利明に連絡をとる。それと同時に、智也と正人の前では弱気な姿を見せ、自分の行動はすべて智也のためであると言うことも忘れなかった。柚葉は智也に罪悪感を抱いて欲しかった。智也が自分に対して罪悪感を抱けば抱くほど、彼の心は自分へと引き寄せられるはずだから。……柚葉は利明を、回転展望レストランへと食事に誘った。あえて背中の大きく開いたシルバーのスパンコールドレスを選び、上から白い毛皮のコートを重ねる。利明と出会った当時、ちょうど同じような装いをしていたから。ウェーブのかかった髪に、潤んだ赤い唇。柚葉が現れた瞬間、利明は思った。なんて華のある女性なんだ……同じような服や光景に、かつて柚葉が自分の元に駆け寄ってきて、「飲んじゃだめ!変なものが入ってる」と助けてくれたあの夜を思い出す。利明は立ち上がり、「柚葉」と呼んだ。そして、椅子を引く。「ありがとう、利明」柚葉は座ると、コートを脱ぎ、白い素肌を見せた。温度調整がされた店内だったので、利明も上着を脱ぎ、シャツとベスト姿になる。「利明、本当はもっと早く誘うべきだったのに、お爺様が倒れてしまって……ごめんね」利明が心配そうに問いかけた。「松田さんは大丈夫?」「今朝家に戻ってきたわ。もう特に心配もないみたい。気にかけてくれてありがとう」料理が運ばれてくると、柚葉はウェイターに軽く会釈して、利明に視線
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第254話

利明もグラスを持ち上げ、軽く柚葉のグラスにぶつけた。「君は僕のことを助けてくれた。だから、僕が君を助けるのも当然のことだよ」「私が助けたのは一回だけなのに、あなたは何度も私のことを助けてくれてる」そう言って、微笑みを浮かべる柚葉。「本当にありがとう」利明も静かに微笑み、酒を一口含んだ。そこで柚葉は切り出した。「そうだ、利明。祖父があなたを食事に招待したいって。私を助けてもらったお礼をしたいらしいの」利明は少し驚いた。柚葉が幼い頃から祖父のもとで育ったのは知っているが、まさか自分に会いたいと言っているとは。驚きと同時に一種の光栄さを覚える。「いつ?」すぐには答えず、柚葉はこう訊き返した。「A市にはどのくらいいるの?ここ数日は祖父の都合が悪くて、具体的な日にちは正確に分からないのよね」そう言って目を伏せ、悲しげな顔をする。そんな柚葉を見て、利明は即座に察した。「松田さんに何かあった?」「何かあったってほどじゃないんだけど、今日、祖父からあなたを食事に招待したいって言われた直後、研究所の人が来て連れて行かれて……」柚葉は力なく笑った。「利明、祖父は大丈夫だよね?」弁護士である利明は詳細を聞かなくとも、連れて行かれた英樹が多かれ少なかれ面倒なことに巻き込まれると分かっていた。もし一歩でも間違えれば、かなりまずいことになるだろう。柚葉は目に涙を浮かべて続ける。「私のせいで祖父にまで迷惑をかけちゃった……もし私に凛さんのような才能があれば、こんな陰口を叩かれることもなかったのに」「確かに谷口博士は優秀だけど、君も決して劣ってなんかいないよ」利明は慰めた。「そんなに自分を卑下しないで。君だって実績はあるんだから」ただ、凛に及ばないというだけ。しかし比べたところで意味はあるまい。上には上がいる。そもそも今の時点では、凛だって史哉には及ばないのだから。「利明、私は祖父を助けられなくて悔しいだけなの」利明は少し考え、柚葉にデザートを注文する。デザートが彼女の前に置かれるのと同時に、男は落ち着いて口を開いた。「心配しないで。僕がついてる」その瞬間、安心した柚葉だったが、まだ不安そうな表情は崩さない。「本当?」「ああ、本当だよ」利明は言った。「だって、松田さんは僕のことを食事に誘ってくれたんだろう?だったら
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第255話

世の中、顔が似ている人は大勢いる。だから利明は、凛と父親が少し似ているからといって、自分の父を疑うつもりはなかった。父が母のために政界を離れ、ビジネスの世界に転身したという美しい話は、幼い頃から耳にタコができるほど聞かされてきたし、この30年間、父が母に尽くす姿もずっと見てきた。利明は探るような視線を収め、凛に向かって言った。「ご友人の振る舞いに関して、何も思わないんですか?」凛は日和を見て言った。「日和さん、あなた何か間違ったこと言ったの?」日和は答える。「私、何か間違ったこと言いました?」すると、利明が口を挟んだ。「谷口社長とは、もうすでに……」柚葉がその場にいたので、利明は少し言葉を濁す。しかし、凛は利明が自分と智也の離婚を知っているのだと悟った。「小林さんは、私と智也に婚姻関係がある時、すでに彼と関係を持っていました。なのに、今は違うとおっしゃるのですか?」凛は柚葉に視線を移して言った。「二人の結婚を楽しみにしているわ」柚葉の耳には、その言葉があからさまな挑発に聞こえた。この女が離婚しなければ、自分は智也と結婚できないというのに。まして、自分と智也の関係は今までも、そしてこれからも、公にできるものではないと言われたのだ。柚葉の顔は、怒りで真っ赤になった。利明も眉をひそめ、凛を見つめる。「それほどにしておいた方がいいかと思いますよ」「神谷弁護士は法廷に立った際も、相手の弁護士をほどほどのところで許してあげるんですか?」凛は利明を見つめ返した。「相手に情けをかけてあげるなんて、とても素晴らしい方ですね。神谷弁護士」弁護士の世界に情けなど存在するわけがない。凛の返しは、彼の職業そのものを真っ向から揶揄するものだった。利明の顔が一瞬で凍りつく。そこに、日和が畳みかけた。「ねえ、利明さん。あなたのお父様は、今あなたがA市でどんな人の弁護をしているか知ってるの?不倫をして、コネ入社したあげく、機密漏洩までした人だよ」初めの二つはともかく、最後のには黙っていられなかった利明は言い返した。「証拠がないときは、適当なことを言わないのが身のためだよ、日和。それに、君が身寄りのない方を友人にしてること、瑶子さんは知ってるのかい?」上流階級の親の大半は、我が子が凛のような孤児などと関係を持っていたら、い
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第256話

「もしもし、お母さん?」日和がいつの間にか瑶子に電話をかけていた。そして、その場にいた全員に聞こえるように、話し始める。「今夜、私が誰と食事に来てるか知ってる?」日和がスピーカーに切り替え、携帯からは瑶子の穏やかな声が聞こえた。「凛さんでしょ?まだお店に着いてないの?」「レストランに着いたばっかだよ。ねえ、お母さん、もし私の友達が親のいない人だったら気にする?」「日和」瑶子の声が低くなった。「誰にそんな失礼なことを教わったの?」日和は利明に視線を向け、挑発的に眉をくいっと動かす。「ごめんなさい、お母さん」こんな最低な言葉を利明から聞いたなんて、もちろん日和は瑶子に言わない。瑶子と神谷家にはまだ付き合いがあるのだから。利明が居心地悪そうに黙り込む。そんな瑶子の一言もあり、分が悪くなった柚葉と利明は足早にその場から離れた。エレベーターが閉まると、日和が毒づいた。「食事の前に、あんな汚いもの見ちゃうなんて最悪でしたね。凛さんは大丈夫ですか?」ピロンッ。メッセージの着信音。それは瑶子からだった。【日和、食べ終わったらすぐに帰ってきなさい】凛が日和の携帯を指さして心配そうに聞く。「日和さんこそ大丈夫?」日和は唇をかんだ。母が敬語を使ってメッセージを送ってきたところをみると、これは確かに怒っている。「大丈夫です。なんとかなりますから」「そうなの?」日和は凛の目の前で、先ほどの出来事と事情を知らない母の怒りを、長文のメッセージで海斗に送った。そして、最後に一言付け加える。【お兄ちゃん、お願い!助けてほしいの!今夜は一緒に家まで帰って!】……レストランの外では、柚葉が利明をフォローしていた。「気にしないで。あの日和さんは甘やかされて育ってきたから、少しわがままなだけなの。それに、日和さんと知り合ってから、凛さんも気が大きくなっているみたいで」利明が吐き捨てる。「まるで虎の威を借る狐だな。柚葉、君はいつも黙って見てるだけなのかい?」柚葉は苦笑いを浮かべた。「特に何も言わないわ」「谷口社長は何もしてくれないのか?」柚葉はより切なそうな笑みを浮かべる。そして視線を上げた時、見慣れた車が目の前に停まった。「智也?」柚葉の心に動揺が走る。まさか、自分が男といる現場でも押さえに来たのか?
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第257話

柚葉はなんとか嫉妬を押し殺し、笑みを浮かべる。「このシンプルな指輪、素敵ね」そして、指輪を取り出した柚葉。「何するんだ?」智也が柚葉の手首を掴む。しかし、柚葉はわざとらしくとぼけて、笑顔で言葉を続けた。「はめるんだよ?だってこれ、智也が私のために用意してくれたんでしょ?」「違う」智也が指輪を取り返そうと手を伸ばしたが、柚葉は意地でも放さない。「私のじゃなかったら、一体誰のための指輪なの?」そう言って潤ませた瞳で自分を見つめる柚葉に対し、智也はこれ以上彼女を傷つけるようなことはできなかった。今回のプロジェクトの一件で、柚葉はもう十分傷ついているのだから。「もし気に入ったんだったら、他のを買ってきてあげるよ」智也は指輪を無理やり取り返し、再び財布のポケットにしまった。柚葉の顔から、さっと笑みが消える。「智也、その指輪は凛さんにあげるものだったの?」柚葉は聞かずにはいられなかった。智也が少し間を置いて答えた。「これは元々凛の指輪だ」「ねえ、智也。それってどういう意味?」柚葉の瞳に悲しみが浮かぶ。「この指輪はもともと凛さんのだった……じゃあ、あなたも彼女のものだったってこと?」智也は言葉に詰まった。どう返せばいいのか分からない。柚葉は涙を浮かべて問い詰めた。「ねえ、あなたは私のものだったんだよ?なのに、いつから凛さんのものになったの?私がプロジェクトを降ろされたから、見てくれだけの無能な女だって思ったとか?彼女の方が立場も能力も上だから、自分に相応しいと思ってるわけ?」「違う」智也の眉間に皺がよる。「柚葉、今回の件も、凛がお前より優れてるかどうかも全部関係ない。ただ、これは俺と凛の結婚指輪だから、最初から凛のものってだけの話だ。もしお前が指輪を欲しがるなら、他のを買ってやる」「それは同じものを?」柚葉は聞き返した。「私にも結婚指輪をくれるってこと?」危うく、「いつ結婚するの」という言葉が喉まで出かかった。その意味を智也が分からないはずがない。だが、智也は凛と離婚する気など毛頭なかった。これだけは揺るがない事実なのだ。「結婚指輪以外なら、なんでも買ってやる」つまり、結婚以外なら何でも応じるという意味だった。柚葉の頬を涙が伝う。信じられない、といった瞳で智也を見つめた。帰国したば
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第258話

「お爺様ならきっと大丈夫」柚葉は苦笑いを浮かべた。「でも、私たちのせいでこうなっちゃったことは事実だから」智也が溜息をつく。「だから言っただろ?そんな危ないことはするなって」「あなたに勝ってほしかっただけなの」柚葉は智也から目を逸らさずに続けた。「それに智也のご両親も同じように思ってた。なのに、ご両親まで責める気?」この件には智也の両親も加担していた。特に父の方は、事あるごとに柚葉へプロジェクトの進捗を聞いていたのだった。智也の心に罪悪感がよぎった。「もう終わったことだろ。それに、プロジェクトは潰れたけど、俺たち二人が無事だっただけまだましだよ。松田さんには……俺からも謝罪に行く」そう言い終わると、智也は再び窓の外へと視線を向ける。もうすぐ凛と日和が店を出てくるはずだ。「運転手に家まで送らせるよ」柚葉を引き離し、事務的に告げた智也。それでも、柚葉はまだ智也の手を握って言った。「あなたは一緒に来てくれないの?」「用事があるんだ」智也は柚葉の手を振り払い、車から降りると、有無を言わせず運転手に車を出発させた。柚葉は怒って車のドアを叩く。智也が言う「用事」というのが何なのか、柚葉には分かっていた。智也は凛を待っているのだ。「降ろして!」「柚葉さん、社長にあなたを自宅まで送り届けるように言われておりますので」「私は降ろせって言ってるの!」しかし、運転手は無視を決め込み、車の窓を全て閉め切った。腹を立てた柚葉は運転席の背もたれを蹴ったが、結局は自分の足が痛くなっただけだった。車が走り去ったことを確認した智也は、ビルの中へと入り、ロビーの椅子に腰掛けると、エレベーターの扉をじっと見つめた。ポーンと音がして扉が開く。日和が凛に笑みを浮かべながら言った。「いいお店でしたね。お母さんもきっと気に入ると思うので、また連れてきてあげようと思います」そんな日和を見て微笑んでいた凛だったが、顔を上げた瞬間、目の前の智也に気づいた。いつの間に……凛の足が止まる。「凛」智也は凛を見つめた。髪は滑らかに揺れ、瞳は輝き、全身からは清らかな雰囲気を放っている凛。智也は報道されていた凛のことも思い出した。フォーマルな洋服をスマートに着こなし、大物たちと並んでも堂々としていた。数日会わないだけで、こんな
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第259話

三人はすでに店を出ていた。すると、黒いロールス・ロイスが凛の前に止まり、海斗が車から降りてきた。一言も発さずに日和を車に押し込むと、今度は凛に視線を向ける。「乗れ」無理やり押し込まれて頭をぶつけた日和は、呆気に取られていた。え?あの人に人の心ってものはあるの?本当に私のお兄ちゃん?でも、今は内輪揉めをしている場合じゃない。一致団結して敵を倒さなくては!「凛さん、乗ってください」凛は智也を振り返ることなく、腰を屈めて車に乗り込んだ。凛自身も、智也とここで長々と言い合ったり、彼の上っ面だけの言い訳を聞き続けたりするのはごめんだったのだ。「凛!」智也が凛に近づこうとしたが、すぐさま海斗がくるりと振り返り、行く手を阻む。「谷口社長、それ以上は見苦しいぞ」また海斗だ。このすべてを見下したような眼差しで、自分を見つめてくる。「見苦しい?」智也は思わず笑ってしまった。「見苦しいのは、竹内社長の方だと思いますけど?こっちが凛と何かあるたびに、犬みたいに嗅ぎつけてくるなんて、横取りでもする気な……」「心配するな」海斗は冷たい目を智也に向けながら、話を遮った。「凛さんは月6000万の小遣いも、高級マンションも、千万単位の宝石も、4000万の車も俺にはくれない。だから、俺は愛人なんかじゃないからな。谷口社長、誰もが自分と同じだと思わない方がいい」智也は何も言い返せなかった。海斗の言葉の一つ一つで、自分の過ちを認めざるを得ない。もう凛の目の前で、顔を上げることはできなかった。圧勝した海斗は車に乗り込み、ドアを閉めて運転手に指示を出す。結局、智也は凛に対して用意していた言い訳をいうことはできなかった。月6000万は個人的な投資。宝石は友人としての付き合い。車や家は、立て替えていただけ。海斗の調査なんてどれもいい加減で、単に自分とホシゾラ・テクノロジーを潰したいだけの汚いやり方に過ぎなかったのだ、と……凛を乗せた車が遠ざかっていくのを見送り、智也は八つ当たりで花壇を思い切り蹴飛ばした。「温厚で紳士的と言われてる谷口社長が、あそこまで感情を露わにするなんてね」日和は智也から視線を外し、兄へと親指を向けた。「お母さんは勘違いしてるみたい。だって、お兄ちゃんは喋れないわけじゃなかったみたいだから」
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第260話

幼い頃から大切にしていた自分の妹がそんな目に遭わされたとなると、利明は黙っていられなかった。だからこそ、海斗と利明の間には、いつしか確かな確執が生まれていたのだ。それに、利明は常に皮肉混じりの物言いをするし、海斗も決して黙って引き下がるタイプではない。そのため、共通の知人による集まりでさえ、二人を同席させることは誰もが避けるほどだった。「小林の弁護を利明が引き受けたっていうのは、ただ弁護士としての仕事なのか、それとも……人には言えない他の目的が?」あの高慢な利明が、そんな親切心で動くとは到底思えなかった海斗は、鼻で笑いながら言った。彼らの間に少しでも曖昧な関係がないなんて、誰が信じるだろうか?日和も鼻で笑った。「あの女もなかなかやるみたいだね。二人の男を手玉に取るなんてさ」「腐ったものには、自然と蝿が集まるから」兄妹は思わず顔を見合わせた。普段は寡黙な凛が、まさかこんな辛辣なことを言うとは……凛は静かに彼らを見て続ける。「地元での言い回しです」すると、海斗が笑って言った。「だったらもっと使うべきだな」日和も同意するようにうなずく。凛は小さく「うん」とだけ返した。かつて自分は谷口家への愛があったため、平穏に暮らそうと、物事を丸く収めてきた。しかし、そんな愛など消え去った今、配慮をする意味など全くない。車は南山ヒルズ9号棟に到着した。凛が車を降りて敷地を抜けると、玄関のほうで美穂子が愛想よく待ち構えていた。「凛さん、お帰りなさいませ」美穂子さん?どうしてここに?」凛は怪訝に思いながらも、玄関の指紋ロックを解除し、彼女を中へ招き入れる。美穂子は丁寧に腰を折り、両手を前で揃えた。「凛さんのお世話係として、日常生活のお手伝いをするよう指示を受けて参りました」凛は少し呆気に取られた。しかし、すぐ単刀直入に尋ねる。「誰の指示ですか?もしかして竹内社長?」美穂子はうなずいた。「凛さん。海斗様はこれまで、これほど人に関心を示されたことはないんですよ?」何度も聞いたこの言葉……凛は少し間を置いてから、美穂子へ言った。「美穂子さん。私、自分のことは自分でできますから、竹内邸に戻っていただいて大丈夫ですよ」「いえ、それは困ります。もし返されてしまったら、竹内社長……いえ、海斗様にクビを切られ
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