智也は優しく微笑んで言った。「凛、誕生日おめでとう」理央が驚く。「え?誕生日なの?」視線を智也から外し、理央を見つめた凛の表情がいくらか柔らかくなった。「うん」なんてことだ!早く竹内社長に報告しなくては!でも、谷口社長ときたら、こんな手段を使って凛さんをこの場に留まらせようなんて……本当にくずとしか言いようがない。それに谷口社長は気づいていないのだろう。自分が浮気をして、凛さんの何年もの想いや努力も踏みにじったその瞬間に、完全に終わっているということを。今さら小細工を重ねて引き留めようとしても、凛さんがもう一度あなたに振り向くことなんて、一生ないんですからね!本当、最低。腹が立つあまり、理央は今の気持ちをそのまま海斗へと送ってしまい、慌てて送信取り消しをした。彼女は一歩前に出て凛の前に立ち、智也のまとわりつくような視線を遮った。ピアノが運ばれてくると、智也はスタッフにグラスを預け、静かに椅子へ腰を下ろした。音を確かめながら鍵盤へ指を置く。そのまま、智也は多くの人に囲まれている凛へと視線を向けた。「この曲は、妻にプロポーズした日に、お店で流れていた曲なんです。そして昨日は、その店を二人で訪れました。今日は彼女の28歳の誕生日です。凛、改めて誕生日おめでとう」凛の表情は一切変わらない。理央は呆れて小さく呟いた。「こんなところで私たちの気分を害してるんじゃなくて、芸能界に入ればいいのにね……」凛がそれに反応する。「だから、小林さんと気が合うんだと思う」「え?」「似たもの同士。どっちも演技が下手くそってことでね」理央は何度も頷いた。凛は智也がピアノを弾けることを知らなかった。だが、今さら聞きたいとも思わなかったため、ピアノの音は一切耳に入ってこなかった。これは、彼が取引相手のために演じているパフォーマンスにすぎない。凛は携帯を取り出し、営業中のケーキ屋を探し出し、理央と拓海の分、そして自分と美穂子の分も注文した。辛いものが好きな凛にとって、甘いケーキは少し重く、数口食べただけですぐ胃もたれがしてしまう。自分を見ずに携帯ばかりいじっている凛に気づいた智也は、眉をひそめた。もしかして、またあの男とやり取りでもしているのか?そう考えるだけで腹が立つ。智也の笑みは一瞬強張ったが、
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