Alle Kapitel von 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Kapitel 401 – Kapitel 410

435 Kapitel

第401話

ドアが開く音に、智也は両親か妹が入ってきたのかと思い振り返った。しかし、そこにいたのは柚葉だった。彼は眉をひそめ、電話を切る。「どうしてここに?」男の冷たい態度に柚葉は胸が締め付けられ、唇をきゅっと引き結んだ。「智也のことが心配で……」顔色は真っ白で、見るからに痩せ細っている智也。これまで数多くの男性と知り合ってきた柚葉だが、18歳で智也と知り合ってから28歳の今日まで、智也に対する気持ちは本物だった。変わり果てた姿の智也を前に、柚葉の胸に苦しさが込み上げてきた。もちろん、智也がここまで追い詰められていることも苦しかったが、それ以上に耐えがたかったのは、以前とは別人のような、自分に対する態度。こんなにもあっさりと、凛に智也を奪われてしまった。「智也、何か食べた方がいいよ」テーブルに置かれている冷めきった朝食に視線を向け、柚葉は眉を寄せる。「私のことはもういいけど、せめてお腹の子のことは考えてあげて」智也が柚葉の腹部へと、視線を向けた。「その子供は諦めろって言ったよな?」「でも……この子を堕したら、もう二度と子どもを産めない身体になるって、病院の先生に言われたの」もちろん嘘だ。柚葉は柊病院でエコー検査を受けただけ。宏明が現れたことで、正人や智也に見られていたのではないかという不安が頭をよぎった。実際には、その可能性は限りなく低いが、それでも不安はどうしても拭えない。医師からは血液検査も勧められていた。さらに、尿検査、感染症のスクリーニング、甲状腺機能検査など、妊娠初期に受ける基本的な検査も指示されていたが、まだ何一つ受けていない。病院を変えて検査を受けようと思っていたものの、今は何かと神経を使う時期でもあり、そのまま先延ばしになっていたのだった。凛が本当に夫妻の共有財産を請求してくるのか……それがずっと柚葉の頭から離れなかった。智也は以前から、凛が必ず返還を求めてくる、と口にしていたが、ここ最近は凛に動きがないせいで彼女の考えが全く読めず、その得体の知れない沈黙が、柚葉の心をゆっくりと追い詰めた。自分の腹にそっと手を当てた柚葉。この子は、授かるべき時に授かったとも言えるし、最悪のタイミングだったとも……だが、この子がいれば確実に智也を繋ぎ止められる。智也もまさか、自分がかつて子どもを利用して凛を引き留
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第402話

「智也、あなたと凛さんはもう離婚したんだよ」柚葉は目を真っ赤にしながら、智也を説得する。「いつになったら、目の前にいる人を見てくれるわけ?今あなたの隣にいるのは私だし、このお腹にだって私たちの子どもがいるの。私たち3人こそが本当の家族なんだよ」しかし智也の心にいるのは、やはり凛だった。この4年、もっと凛に目を向けていれば、こんなことにはならなかった。「柚葉。この4年間、俺の目に映っていたのはずっと凛だけなんだ」その言葉を聞いて、柚葉は言葉を失った。もう呆れて、何も言えない。「あなたと凛さんのことは、もう全て過去のことなの」苛立ちを抑え、柚葉は優しく言った。しかし、智也の態度は依然として変わらない。「過去であるのは、俺とお前の方だよ。4年前、凛と結婚した時、お前とのことを過去にするべきだったのに、そうしなかったのは俺の責任だ」柚葉はもう我慢の限界だった。「智也」柚葉の声から優しさが消える。「本当に凛さんを愛してるの?それとも、彼女の肩書きや栄誉が欲しいだけ?凛さんの正体が公になっていない頃、私があなたにプロジェクトの『谷口博士』と凛さんが同姓同名だって言った時、あなたはそんなわけがない、同姓同名であることは彼女にとって光栄なことだって言った。確かにマイクロチップ開発プロジェクトについて、私はあなたを騙してた。でもそれは、あなたにこれまでの投資を失敗だったって思わせたくなかったから……あなたが大好きだったから、こうするしかなかったの。智也、私はあなたを愛してる」そう訴える柚葉の表情はとても真剣だった。「ディープデータ・テクノロジーって会社を知ってる?その会社は医療関係システムのクラウド・パルスって商品を扱ってるんだけど、最近プロジェクト・ステラアイっていう新プロジェクトが始まったの。で、私をこのプロジェクトの責任者にしてくれないかって、その会社の社長が私のお爺様のところを訪ねてきたんだよ。私だって、凛さんに負けてないんだから」「そういうことじゃない」智也は首を横に振った。「凛がいなきゃ、俺は本当に駄目なんだ」柚葉は固まった。これ以上話せば、ただ凛を引き立てるだけになってしまうだろう。自分と凛に対する智也の態度の違いは、とっくに明らかなものとなっている。帰国した時から、柚葉は智也の心に凛がいると気
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第403話

智也は柚葉に、今日はもう帰るように言った。最後まで子どもをどうするか明言しなかった智也だったが、柚葉は自分の作戦がうまくいったことを確信していた。目的を達成した柚葉は、そのまま部屋を出る。リビングを通る際には、谷口家の人々に見せつけるように腹部をなで、智也が子どもの認知に前向きであることを暗示してみせた。それを挑発だと受け取った胡桃が、すぐに毒づく。「お母さん、今さっきあの女の表情を見た?完全にこっちのこと挑発してたよね?」しかし、梨花が冷静に言った。「どうやら智也があの子どもを受け入れたみたいね」「それじゃ、凛さんはどうなるの?」あのお金はどうなるのだ?!健吾も深いため息をつき、後悔を滲ませる。「智也と凛がよりを戻すことはないだろうな」「どうして?」と、胡桃が聞き返した。「凛さんはお兄ちゃんのことが好きだったじゃん」健吾は凛に言い返された言葉を思い出した。もし智也にそれを伝えてしまったら、また救急車を呼ぶことになるだろう。凛のあの言葉のひとつひとつが、心臓を抉るような鋭さだった。道徳性の欠如から人格的な破綻までの指摘……自身の尊厳を重んじる男にとって、あの言葉たちは核爆弾よりも威力があった。長い人生で、酸いも甘いも経験してきた健吾でさえ、何も言い返せないほどの言葉だったのだから。すると、智也が部屋から出てきた。家族全員が驚きの表情を浮かべる。柚葉が家に来たと思ったら、それからすぐに智也が部屋から出てきた。しかもキッチンに向かっている……柚葉に何か言われたのか?智也が置いた携帯の画面に表示されているのは、浩とのやり取り。G県は雪が降り始め、夜の飛行機が欠航になる可能性があるため、もしかしたらフライトを変更するかもしれないという内容だった。G県だけでなく、天気予報によればA市も明日には雪が降るという。メッセージには、さらに続きがあった。【社長、確か奥様の誕生日は12月7日でしたよね】戸籍上、凛の誕生日は12月7日になっているが、それは柑奈が決めた日付だった。だから、凛の本当の誕生日は誰にも分からない。しかし、凛が柑奈に拾われたのがG県で初雪が降った日であったため、凛は毎年、初雪の日を自分の誕生日としていた。初雪の日が誕生日といっても、それは毎年違うし、場所によっても変わる。だから、凛が
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第404話

凛に会うのであれば、いいところを見せたい。前回のような無様な姿だけは、もう見せたくなかった。……柚葉が谷口家を出ると、ちょうど美雪から今夜会えないか、というメッセージが届いた。美雪が凛の話を持ち出してからというもの、その後は何日も音沙汰がなかったが、今日になって、ようやく彼女から連絡が入った。美雪は、柚葉、智也、凛、海斗の四人の関係性を探るのに必死だった。しかし、兄の言葉が曖昧だったため、安易には動けない。それに、陸も海外から帰国したばかりで、詳しくは知らない様子だ。景山姉弟は少し知っているようだが、千晴は警戒心が強く、智也の件は景山グループに関わるため、あまり多くを語ってはくれなかった。反対に、悠真は騙しやすそうなのだが、彼は凛に想いを寄せているので、凛の名前を出せば目を輝かせて熱く語るのに対し、智也の話になった瞬間急に不機嫌になるため、やはりこれといったことは聞き出せない。それでも、美雪は手に入れた数少ない情報を整理し、なんとか全体像を把握する。凛と智也の離婚を軸に考えるとこうだ。離婚前。凛は智也に一途だった。しかし、想いを寄せ合っていたのは智也と柚葉の二人。離婚後。智也の気持ちは柚葉から離れ、凛に向いた。しかし、柚葉の気持ちは依然として智也にある。ここに海斗が加わり、凛と海斗が両想い?いや、ここはまだ確定とは言えないだろう。そして、自分と兄である利明も加える。兄と柚葉の関係はずっと良好。自分は海斗に……あとは、自分たち兄妹と凛の間にも、まだはっきりとしない関係性がある気がする。その目に見えない関係性こそ、美雪を不安にさせていた。気配を感じた美雪が顔を上げると、柚葉が入ってきていたので、美雪は手にしていたタブレットを閉じ、ペンをケースに戻す。「柚葉さん、来てくれてありがとう」柚葉も席につき、美雪に声をかけた。「最近は何をしてるの?全然私のこと誘ってくれなかったじゃない」美雪は微笑み、スタッフを呼んで食事を運んでもらうように指示を出すと、柚葉にお茶を注ぎながら話し始めた。「景山グループから依頼された撮影で、少し忙しかったの。それに、柚葉さんも知っていると思うけど、私、心臓があまりよくないから、夜9時になると家族からすぐ寝るように言われて。それどころか、携帯を
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第405話

「美雪ちゃん。私も凛さんのことは知ってるんだけど、あの人は決していい人ってわけじゃないの。ここ最近だって、このお腹の子のお父さんを惑わして、彼は凛さんに付きまとうどころか、この子のことまでいらないって言い出したんだから」と、柚葉は不満そうにこぼす。美雪が静かに言った。「え、そうなの?じゃあ、確かにいい人ってわけじゃなさそうね。海斗さんがあの人と一緒にいたら、竹内グループの評判にも響きかねないし」「本当にそうよ」と、柚葉も同意する。美雪は笑みを浮かべていたが、その視線には、どこか柚葉を値踏みするような色が浮かび、わずかな軽蔑も混じっていた。もっとも、それに気づける人はほとんどいない。神谷家で育った美雪にとって、腹の内を探り合う駆け引きは日常だった。好き嫌いでさえ、顔には出さないのが当たり前。そんな環境にいれば、たとえ完璧とまではいかなくても、半分くらいはその処世術が身についている。だから、柚葉など太刀打ちできる相手ではなかった。「柚葉さん、凛さんにについてはどれくらい知ってる?」凛の実績については、もう調べがついていた美雪。「私が知りたいのは彼女の生い立ち。報道では孤児だったことしか分からなかったから、彼女がG省のどこの地域出身なのかとか、どこの施設で育ったのかとか……そういうことを知りたいの」これに関しては、いくら調べても手がかりが見つからなかったのだ。それは美雪だけでなく、おそらく海斗でも、簡単にはたどり着けない情報だろう。柚葉が鼻で笑った。「凛さんみたいな人に、何か特別な生い立ちがあるわけないじゃない。地方から猛勉強して名門大学に入って、たまたま史哉先生に見出されて、手厚く育ててもらっただけ。それに、史哉先生がプロジェクトまで譲ったからこそ、あの若さであれだけの実績を手にできたってだけの話よ」美雪は何も言わない。マイクロチップ開発プロジェクトは、そんな簡単に譲られるようなものじゃない。史哉が全権を託したということは、それなりの覚悟のうえだろう。そして何より、国を代表する研究者であった史哉が、自らの研究を託せる相手が、平凡な人間であるはずがないのだ。美雪は柚葉の意見に賛同できなかったが、わざわざ否定もしない。「凛さんはきっと運が良かったんだね。でも、私が知りたいのはあの人が育った施設のことなの」「私は詳し
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第406話

もちろん、両方を同時に展開するという意味ではなく、ブランド広告と公益活動は別々に実施する。ただ、同じアンバサダーを起用すれば、人々は自然と二つを結び付けて受け取るはずだ。ブランド戦略部長に就任したばかりの千晴は、その企画自体は実現可能だと判断した。しかし一方で、企業の社会貢献を宣伝に利用していると受け取られかねず、一歩間違えれば批判を招く恐れもあるため、ここはひとまず慎重に答えを出す。「検討させてもらいますね」美雪も無理に押し通そうとはしなかった。「あくまで一つの提案です。企画はそちらで決めていただいて、私は撮影に専念しますから」会議の後、千晴がふと見ると、まだ席に座っている美雪が微笑んで自分を見ていることに気がつく。どうやら、何か話したいことがあるようだ。「美雪さん、何かまだありましたか?」千晴は美雪に近づいた。美雪が微笑みながら答える。「少しご相談させていただきたいことがありまして。実は、個人のSNSにも力を入れているんですけど、そこで、社会貢献活動のPR動画について、私自身もやってみたいことがあるんです。「景山グループの公式サイトを拝見した時に、寄付活動の記事を見つけました。なので、その支援先の児童養護施設や老人ホームの一覧を見せていただきたいんです。そうすれば、一から探す必要もなくなりますので」もう年末ですし、今年のうちに準備を進めておけば、安心してお正月を過ごせますし、行ったり来たりせずに済みますから」そう言って美雪は鞄から一枚の名刺を取り出し、千晴にそっと差し出した。「千晴さんはアートがお好きだと伺いました。今月末、A市の展覧会にこのアーティストさんの作品も出展されるんです。よかったら、協力していただけませんか?」千晴にとって展覧会のチケットを手に入れることは簡単だったが、芸術家は気難しいため、繋がれる機会はそう多くない。千晴は手の中の名刺を見つめる。美雪が続けた。「海外で撮影していた時にたまたま知り合って。少しお話ししたら、名刺をくださったんです。私は写真展にしか興味がないので、それ以外は特に……」千晴は美雪に視線を戻す。「あなたのアカウント、見せてもらえますか?」「もちろん」一通り目を通した千晴は、頷いた。「私のオフィスに行きましょう。年末の寄付活動を父から任されていたから、私もちょ
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第407話

美雪と智也の間に何か関係があるのか?いや、関係はある。美雪の兄である利明は柚葉に好意を寄せ、そしてその柚葉は智也の子供を身籠もっているのだ。だが、それが施設とどう関係あるというのだ?千晴はその施設の名前と住所をメモすると、CSR部――景山グループの社会貢献活動を担当している部署へと電話をかけ、経緯を聞いてみることにした。CSR部の担当者が答える。「G県のその施設は、もともとホシゾラ・テクノロジーの谷口社長が個人的に寄付をしていた場所でした。その後、谷口社長から本社へ提案があったため、CSR部を始めとした関連部署で審査を行いました。そこで問題がないことが確認できたので、正式な支援先リストに登録されることになったんです。支援先は毎年そのリストからランダムに選んでいるので、たまたま同じ場所が選ばれることはありますが……」一瞬言葉を切ってから、担当者は続けた。「詳しい経緯については……谷口社長に直接聞いていただいた方がいいかと」智也に?千晴はブランド戦略部の部長に過ぎず、仕事の上では智也のやり方に口を挟める立場ではない。「何か問題があるってことですか?」「いえ、すべて社内規定に沿っており、記録もすべて確認可能です」「なら大丈夫です」電話を切った千晴は、しばらく考え込んだあと、悠真に電話をかけた。「悠真、あなたホシゾラにいるけど、智也が毎年G県の施設に寄付に行ってること知ってる?」「施設?」「うん、知ってる?」「よく分からない。でも凛さんは施設出身だってインタビューで言ってたよ」悠真は凛のことだと察して、思わず聞き返す。「何かあったの?」その瞬間、千晴は全てが繋がった。美雪は利明のためでも柚葉のためでもなく、自分自身のために動いているのだ。神谷家は瑶子とも関わりがあるし、美雪は海斗の結婚相手候補の一人。それに凛と海斗は、千石鍼灸院ですでに交際を公言している。「悠真、美雪さんが施設のことを調べているって、あなたの大好きな凛さんに教えてあげて」正直、千晴は凛が少し不憫だった。智也に騙されたばかりか、離婚した事実を隠し続けるよう、景山家が智也に圧力をかけているのだから。さらに、凛が夫婦の共有財産の返還を求めて訴訟を起こすという話も、やっかいな問題のはずだった。それなのに、ここ最近はまったく動きがない。彼
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第408話

ここ数日でだいぶ良くなったと思っていた胃が、また痛み始める。少し考えた末、智也はこの話を凛に伝えないことにした。美雪が海斗と凛の仲を壊してくれることを期待してのことだった。もしそうなれば、凛はまだ自分のもの。智也が携帯をしまおうとしたその時、浩から電話が入った。「社長、スノウ・セミコンダクター側が明日の晩、社長を食事に招待したいと言っています。ただし一つ条件があるようで……」嫌な予感がする。「条件?」浩はおそるおそる答えた。「奥様も一緒に連れてきてほしいとのことです」自分が出張から戻ってきたら、まさか社長が離婚していたなんて……婚姻状況を確認するため、智也を役所まで車で送ったのは浩だった。役所の職員が智也に離婚していることを伝えた瞬間、浩は頭が真っ白になった。え?離婚している?たとえ奥様が離婚したかったとしても、離婚の手続きや財産分与の話などでそれなりの時間を要するはずなのに……自分はほんの数日、出張に行っていただけなのに、戻ってきたら、社長は奥様と離婚していて、それもすでにすべての手続きが終わっていた。だからこそ、浩は今でもその事実がどこか信じられないでいた。しかし、今思い返せば、離婚の兆候はあったのかもしれない。奥様が私物を全て運び出していた時、社長は全く気づいていなかったし、自分もそのことを指摘できなかった。本当に、奥様は大事なことほど何も言わずにやってのける人だ。考えれば考えるほど、背筋が寒くなった。大声で泣きわめく人は、まだ引き留める余地があるが、何も言わず静かに去っていく人の気持ちは決して変わらない。しかもこんな時に、スノウ・セミコンダクターが食事会に奥様を同伴するよう言ってくるなんて……すでに前妻となった相手を、どうやって連れて来いと言うのだ?もし連れていかなければ、相手に離婚の事実が知られてしまう。そうなれば彼らはどう思うだろう?奥様を利用し契約を取った……そう思われても仕方がないし、相手が契約を破棄する理由としても十分だ。スノウ側が契約を打ち切ったとしても、彼らが失うものは違約金くらいで、むしろ世間から非難されるのは、会社ではなく、私生活の問題を抱えた社長のほうだろう。スノウ側にとって、その程度の損失は十分に受け入れられる。だが、社長には耐えられない。この共同開発が
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第409話

内容証明の本文は、大きく二つに分かれていた。1つ目は、智也に対する法的な主張だった。婚姻期間中に取得した財産は、原則として夫婦共有財産に当たるにもかかわらず、凛の同意を得ることなく、23億6000万円相当の夫婦共有財産を第三者である柚葉へ贈与したこと。その対象には、高級車や高級マンション、高額な宝飾品の数々をはじめとする財産が含まれ、それらの贈与はいずれも民法上無効であると主張していた。そのため、智也と受贈者である柚葉には、いずれも当該財産を全額返還する義務があるという。2つ目は、法律事務所からの正式な通知だった。通知書の到達日から10日以内に財産を全額返還すること。期限までに履行されない場合は、依頼人の代理人として裁判所へ訴訟を提起する。その際には、財産の返還だけでなく、訴訟費用や弁護士費用など、一切の法的負担についても請求する――という内容だった。智也の手は、通知書を握り締めたまま小刻みに震えていた。彼は目を見開いたまま文字を追い続け、瞬きすら忘れている。夫婦だったことなど一切顧みずに、凛は徹底的にやるつもりなのだ。隣で目を通していた浩も、思わず息をのんだ。だが、請求額を見て、別の意味で再び驚く。あれ?23億6000万円?意外と少ないな。彼の見立てでは、少なくともあと10億から12億円ほど多くてもおかしくなかったのだ。おそらく、奥様が現時点で立証できたのが、この金額だったのだろう。それにしても、23億6000万円……今の社長じゃ車や不動産、それに株を売ったって半分にも満たないんだろうな。それに、小林さん?彼女が全財産をなげうったところで、とても払いきれる額ではない。浩は内心、息をのんだ。普段おとなしい人ほど、本気で怒らせると怖いとはよく言ったものだが……ここまで徹底的にやられたら、誰だってひとたまりもない。智也が目を血走らせ、今にも怒りが爆発しそうな顔をしている。浩はそっと一歩距離を取り、慎重に口を開いた。「社長、スノウ・セミコンダクターとの共同プロジェクトの始動は目前です。奥様が本当に訴訟を起こせば、その影響は……計り知れません」わざわざ自分が言わなくても、社長自身、この一件がどれほど大きな連鎖を引き起こすかは分かっているはずだ。だが、浩にも他人事ではないのだ。自分は社長秘書。社長が失脚すれば、ホシゾ
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第410話

「いや、凛じゃないと思う」智也の表情が突然冷たいものに変わり、歯を食いしばりながら吐き捨てた。「竹内だ。あいつが凛に吹き込んだに違いない!」智也が仕事の面で最もコンプレックスを抱える相手は、海斗のような人間だった。生まれながらにして何不自由ない環境に恵まれているだけではなく、卓越した経営の才まで備えている。まさに、天に選ばれたような存在。さらに、多くの名家の御曹司や大企業の後継者たちが羨むものを、海斗は持っていた。それは――父親から全面的に権限を委ねられていること。とにかく、海斗という男は、生まれてきた時からこの世の頂点に君臨しているかのようだった。他の人間がどんなに努力して追いかけても、彼の背中を見ることすら叶わない。仕事で負けるのはまだしも、妻まで奪われ、さらに自分に立ち向かう術まで教えている!智也は怒りのあまり、机の上のグラスを床に叩きつけた。浩は智也の怒りが少し冷めるのを待ってから、話しかける。「社長、今は奥様の提訴をどうやって止めるかが先決です。奥様が小林さんを訴えるだけならともかく、今回は社長ご自身も関係していますし、お二人の離婚の件まで公になる可能性があります。さらに、明日のスノウ・セミコンダクターとの食事会には、奥様を連れていかなければならないのですから」智也は大きく息を吸った。まさに自分は追い詰められている。凛からも、景山グループからも……しかし、景山グループに対してはどうすることもできない。ならば……凛のところへ行くしかない。浩が絶妙なタイミングで言った。「社長、G県の件ですが、手配はすべて整っておりますよ」智也ははっとした。康平という名の子どものことを思い出し、わざわざ浩をG県へ行かせたのは、康平の消息を利用して凛に会ってもらい、自分の話を聞いてもらうためだった。しかし、凛との離婚はもう決定的なものとなっている。それでは、康平のことは……智也はしばらく俯いていたが、ゆっくり顔を上げて浩に尋ねる。「G県の電話番号は持っているか?」浩は頷いた。「はい。やりとりしやすいように用意してあります。それと、G県の電話番号と新たなSIMカードを連動させておきましたので、いつでもG県の電話番号を使うことができますよ」地方では、見知らぬ地域の番号から電話がかかってくると、詐欺かもしれない
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