ドアが開く音に、智也は両親か妹が入ってきたのかと思い振り返った。しかし、そこにいたのは柚葉だった。彼は眉をひそめ、電話を切る。「どうしてここに?」男の冷たい態度に柚葉は胸が締め付けられ、唇をきゅっと引き結んだ。「智也のことが心配で……」顔色は真っ白で、見るからに痩せ細っている智也。これまで数多くの男性と知り合ってきた柚葉だが、18歳で智也と知り合ってから28歳の今日まで、智也に対する気持ちは本物だった。変わり果てた姿の智也を前に、柚葉の胸に苦しさが込み上げてきた。もちろん、智也がここまで追い詰められていることも苦しかったが、それ以上に耐えがたかったのは、以前とは別人のような、自分に対する態度。こんなにもあっさりと、凛に智也を奪われてしまった。「智也、何か食べた方がいいよ」テーブルに置かれている冷めきった朝食に視線を向け、柚葉は眉を寄せる。「私のことはもういいけど、せめてお腹の子のことは考えてあげて」智也が柚葉の腹部へと、視線を向けた。「その子供は諦めろって言ったよな?」「でも……この子を堕したら、もう二度と子どもを産めない身体になるって、病院の先生に言われたの」もちろん嘘だ。柚葉は柊病院でエコー検査を受けただけ。宏明が現れたことで、正人や智也に見られていたのではないかという不安が頭をよぎった。実際には、その可能性は限りなく低いが、それでも不安はどうしても拭えない。医師からは血液検査も勧められていた。さらに、尿検査、感染症のスクリーニング、甲状腺機能検査など、妊娠初期に受ける基本的な検査も指示されていたが、まだ何一つ受けていない。病院を変えて検査を受けようと思っていたものの、今は何かと神経を使う時期でもあり、そのまま先延ばしになっていたのだった。凛が本当に夫妻の共有財産を請求してくるのか……それがずっと柚葉の頭から離れなかった。智也は以前から、凛が必ず返還を求めてくる、と口にしていたが、ここ最近は凛に動きがないせいで彼女の考えが全く読めず、その得体の知れない沈黙が、柚葉の心をゆっくりと追い詰めた。自分の腹にそっと手を当てた柚葉。この子は、授かるべき時に授かったとも言えるし、最悪のタイミングだったとも……だが、この子がいれば確実に智也を繋ぎ止められる。智也もまさか、自分がかつて子どもを利用して凛を引き留
Mehr lesen