All Chapters of 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Chapter 571 - Chapter 580

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第571話

宏明は興味深げに言った。「ほう?自分の息子まで柚葉さんに騙されるのを警戒しているのか?」だが、よく考えると何かがおかしい。柚葉程度の女性について、茂が自ら動いて調べるだろうか?どうにも腑に落ちない。「彼らの動向を見張らせろ。わざわざB市から来た理由が、それだけとは思えないんだ」真依はうなずいた。……凛は午前中を研究室で過ごし、昼休みには海斗と運転の練習をした。午後は再び研究室へ入り、出てきたのは6時半だった。携帯を取り出したタイミングでアラームが鳴る。凛はすぐには止めず、音が自然に切れるまで待ってから、竹内グループのビルを出た。日和はすでに車の中で待っていた。「そこのお姉さん、乗っていかない?ドライブに連れていってあげるよ?」凛は助手席のドアを開け、シートベルトを締めた。「真冬にドライブ?」日和は楽しそうに笑う。「もちろん、ネイルに行くんですよ」明るく広々としたネイルサロンへ着き、凛が席へ座ると、日和がスタッフへ伝えた。「凛さんはあの透け感のあるくすみピンクがいいって言うので、ワンカラーでやってあげてください。二人とも自爪なので、形は本人に聞いてくださいね」スタッフが爪の形の見本を差し出す。凛はその中の一つを指さした。「これでお願いします」日和がのぞき込む。「やっぱりアーモンド型を選んだんですね。くすみピンクと合わせるとすごく優しい雰囲気になっていいですよね」「日和さんは何にするの?」日和は自分の指を眺めて言った。「私もシンプルなのにしようかなって思ってます。それなら、1時間くらいで終わるはずですし、その後エデンの園で一緒に夜ご飯を食べましょう!」凛はうなずいた。施術中、ネイリストは凛の指が細く綺麗だ、手も柔らかいと何度も褒めていた。そこで凛は初めて気づいた。いつの間にか、自分の手はもう荒れていない、柔らかく、滑らかな手になっている。ネイリストは、凛の爪のピンク色の部分も長く、形がとても綺麗だと言い、完成後には手のモデルになれるほどだとまで褒めた。あまりの熱量に、凛は丁寧に礼を述べた。施術が終わると、日和は凛の手を何枚も撮影し、すぐさまインスタに投稿した。それを見た海斗は、何を思ったのか、【きれいだ】とコメントした。日和はすぐに返信する。【でしょ?私のセンスだから!】
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第572話

日和は茂たちの姿を見つけると、立ち上がって歩み寄り、エリーも、普段空いている自分の専用席を使っても構わないと伝えた。茂と剛も彼女たちのほうへ近づいていく。日和が茂に声をかけた。「茂おじさん」茂は穏やかな笑みを浮かべた。「日和ちゃん、友人と食事をしていたのかい?」「はい」「もしよければ、相席させてもらえないかな?」茂の視線は、時折すでに立ち上がっている凛へ向かっていた。まるで不思議な力に引かれるように、この若い女性へ近づきたくなる。日和はすぐには承諾せず、答えた。「友人に聞いてみますね」「すまんな」しかし、日和の目には少し疑問が浮かんでいた。エリーがいつもの席を使ってもいいと言っているのに、茂はなぜあえて相席を希望するのだろう?しかし、目上の人からの頼みのため、日和はとりあえず凛に聞いてみることにした。凛にも二人の会話は聞こえていたため、先ほど日和と話していた中年男性へ目を向ける。物腰の柔らかな、品のある人物。こちらを見る目にも、値踏みするような気配はなく、礼儀正しい善意だけが感じられた。日和が彼を茂おじさんと呼ぶことから、おそらく利明と美雪の父親なのだろう。あの兄妹とは似ても似つかない穏やかさだ。目には見えない何かに導かれるように、凛はなぜか自然と頷いていた。エリーも邪魔をしないようにと席を離れ、ちょうど自分の予定もあったので、日和たちに軽く挨拶をする。日和は釘を刺した。「エリーさん、若い男の子に簡単に夢中になっちゃ駄目ですからね。お母さんも心配してましたから」エリーが投げキッスを送る。「大丈夫よ」そして凛の方を向いてウインクした。「二人とも、食事を楽しんでね」凛も挨拶を返す。「エリーさん、また」エリーは茂の横を通り過ぎる際、丁寧に会釈し、フロントで荷物を受け取って立ち去っていった。凛の向かいの席に座った茂と剛。日和が双方を紹介する。「凛さん、こちらが茂おじさんと剛さんです。それで、この人は私の親友の凛さんです」剛が先に口を開いた。「凛さん、またお会いしましたね」凛も小さく頷く。「ええ」続いて、ずっと穏やかな目で自分を見ている茂へ向き直った。「日和さんと同じように、私も失礼ながら茂さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」茂はにこやかに凛を見つめた。そして、彼が最初に口
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第573話

まるで本当に偶然出会い、たまたま相席して夕食を取り、少し言葉を交わしただけのようだった。店を出て通りまで来ると、茂が尋ねた。「車はある?良ければ送っていこうか?」日和は笑顔で断った。「ありがとうございます。でも、私たちも車で来ましたから、お二人は早めに帰って先に休んでください」茂が頷く。「ああ」歩き出したところで何かを思い出したのか、茂は立ち止まって振り返ると、凛に名刺を一枚差し出した。「今度、息子が凛さんに失礼なことをしたら、遠慮なく連絡してくださいね。しっかり言い聞かせておきますから」政界からビジネスの世界へ転身した茂は、かつて南水茶寮で、利明が凛を「孤児」呼ばわりしていたことを聞いていたし、利明が海斗といがみ合っている姿も目にしている。さらに、凛の元夫と、息子が想いを寄せる柚葉との関係。それらを踏まえれば、数人がすでに面識を持っていることは容易に想像できたし、おそらく、あの不出来な息子は凛にも失礼な態度を取ったのだろう。凛は、なぜか目の前の茂から差し出されたものを断れなかった。「ありがとうございます。帰り道、お気をつけて」茂は優しく微笑む。「君たち二人も気をつけて」車に乗り込むと、茂はすぐ運転手にホテルへ戻るよう告げた。車内は静寂に包まれる。二、三度茂の顔色を窺っていた剛が、しばらくして口を開いた。「もう一度G県に行く?」茂はなかなか答えなかった。遠い記憶の中へ沈み込んでいるようで、長い時間が経ってから、ようやく我に返る。「いや、いい」と茂は言った。「暇なら凛さんの好きなものでも調べてきて。いや、いいや。自分でやる。君が調べても、分からないだろうから」瑶子や竹内兄妹からなら、少しは話を聞けるかもしれない。ホテルに戻ると、美雪がホテルのロビーで待っていて、茂の姿を見るなり駆け寄ってきた。「お父さん、どこへ行っていたの?お兄ちゃんと部屋を訪ねても返事が無かったし、連絡しても繋がらないから、受付の人に聞いたら、午後から出かけていたって言われたよ。誰か知り合いとでも会ってたの?」茂は笑った。「ちょっと用事でな」茂が具体的に答えなかったことで、美雪の胸に不安が広がった。それでも表情には出さず、自然な動作で父の腕へ自分の腕を絡める。「今日、いつ家へ帰ってくるのかって、お母さんも言ってたよ。家に一人で残
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第574話

茂と剛の車を見送ると、日和はすぐに凛の腕へ自分の腕を絡め、笑顔で尋ねた。「どうでしたか?緊張しませんでした?」凛は首を振る。「緊張しなかったよ」二人が向きを変えようとした時、凛は茂の乗る車が走り去る方向をふと見て、思わずこう呟いた。「神谷弁護士と美雪さん、あんまり茂さんと似てないんだね」特に第一印象。利明は何度も、自分が孤児院育ちであることを持ち出してきて、柚葉や松田家と争うなど、弱者が強者へ無謀に挑むようなものだから、身の程を知れと言わんばかり。美雪は一見すると人当たりがよいが、何をするにもどこか妙な雰囲気で、凛は彼女に言い知れない寒気を覚えていた。それに対し、茂は物腰が上品で、話し方も穏やか。親しみやすい一方で、他人との境界もきちんと守っている。日和は凛と腕を組みながら歩き出し、こう言った。「当然ですよ。神谷家は竹内家よりずっと一族の数が多くて、分家も複雑なんです。それに、草壁家と神谷家は昔から付き合いがあるけど、お母さんが心から関係を築いているのは茂おじさんだけ。それも、お父さんが全然嫉妬しないくらいの関係なんですよ。それだけでも、茂おじさんの人柄が分かると思いません?利明さんや美雪とは比べられないんです。利明さんがB市で有名なトップクラスの弁護士だなんて言われても、どこまで本人の実力なのかは分からないし、法律事務所のパートナーだって、必ずしも飛び抜けた能力がある人だけがなれるわけじゃありませんからね。とにかく色々と裏があるんですよ。神谷家が利明さんを法曹界に入れたのだって、業界一の弁護士にしたかったわけじゃなくて、極論、人脈を広げるための手段でしかなかったんです。でも、そう考えると美雪は本当に幸せですよね」そこで日和は思い出したように続けた。「自分のやりたいことは何でもできるし、彼女の両親も応援してくれますから。もちろん、うちのお父さんとお母さんも同じですけどね。でもお父さんが言ってました。神谷家の環境には利明さんよりも美雪の方が向いてるって」日和は肩をすくめる。「おそらく、美雪の方が色々考えてるからだと思います」二人は話し込みながら車のもとへたどり着き、車に乗ると、そのまま一番町特別宿舎10号棟へと向かった。宿舎の前に着くと、警備員が外に出てきた。「凛さん。そういえば、今夜は小林という名のご夫婦が面会
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第575話

「お願いします」と、百合がもう一度声をかけた。自分たちにできる範囲で、娘のために何かしてやりたいだけなのだ。それに、大学の教授である二人。凛は昔から、教師や研究者という立場の人を敬っていたため、そのまま数歩進んだものの、結局足を止め、二人を振り返った。二人はほっとしたように駆け寄り、10分だけでいいと凛に縋る。だから、凛は言った。「お二人とも、車の中でもいいですか?最近忙しいので」海斗には、これまで数え切れないほど助けてもらった。凛には、彼へ金銭や物で直接恩返しをすることはできない。だがトライドメイン・プロジェクトに力を尽くし、一日でも早く製品化にこぎつけることならできる。製品が市場へ出れば、竹内グループの企業価値は大きく上がり、継続的な利益を生み出す事業へと成長するはずだ。南山ヒルズと特別宿舎は方向が違うため、海斗も以前のように送迎車を寄こすことは控えていた。あまり世話を焼きすぎれば、凛に負担を感じさせると、海斗は考えたのだ。その時、凛が配車アプリで呼んだ車が、ちょうど道端に到着した。3人が車に乗り込む。最初に口を開いたのは、隆平だった。「娘があなたの結婚生活を壊してしまったこと……本当に申し訳ありませんでした。私たちの育て方が間違っていました。許していただこうとは思っていませんし、今の結果も、あの子が自ら招いたものですので、私たちに異論はありません」百合も言葉を続けた。「凛さん、本当にごめんなさい」凛には両親がいないため、両親のいる人を羨ましく思うことがあった。柚葉には、決して悪くない両親がいるのに、その両親にこうして頭を下げさせるとは、あまりにも親不孝だ。凛は二人を見つめ、責めることなく、静かに答える。「お二人を恨んではいません」二人は同時に言った。「わかっています」凛の態度を見れば、それは伝わっていた。そこで、百合がキャッシュカードを一枚凛に差し出す。「ここに10億円入っています。今の私たちが用意できる、精いっぱいの金額です。不動産や車については……お手数ですが名義変更の手続きにお時間をいただけないでしょうか。高級品もすべて返還しますので」凛の手のひらにあるカードは温かかった。きっとずっと握りしめていたのだろう。10億円となれば、おそらく二人の財産をほとんど処分し、借りられる相手
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第576話

英樹はすでに意識を取り戻していた。今回は孫娘が泣き叫ぶ声ではなく、今にも消え入りそうな呼び声が聞こえてくる。そして、柚葉が病室の前で2日間も跪いていると知ると、眉をひそめた。隣でリンゴを剥いていた瞳が口を開いた。「あの子が今、どこまで本心で跪いているのか、私には分からないわ。お義父様がせっかく海外に送り出して、将来への道まで準備してあげたのに、海外では遊び呆けて、ありがたいとすら思ってなかったんだろうから。お義父様がいれば、何の苦労もせずに出世できると高を括ってたのよ」英樹は何も言わなかった。「本当に親を思ってるんだったら、柚葉が自分で凛さんと向き合うべきなのに、両親に頭を下げさせるなんてさ。それに、柚葉の両親は教授っていう立場で、誇りを持って生きてきた人たちだし、それに立場だけを考えれば、凛さんにとっては同じ業種の先輩になる。そんな二人が、娘のために自分よりも若い人に頭を下げてるなんて、やるせないでしょ」隣に座っていた俊介が瞳を肘で突き、瞳はようやく口を閉ざした。俊介が英樹に尋ねる。「柚葉をいつまでも外で跪かせておくわけにもいかないし、そろそろ中に入れてやるか?」英樹は答えなかった。俊介がもう一度言った。「じゃあ、呼んでくるぞ」英樹はそれでも何も言わない。ほどなくして、顔色を失い、すっかり痩せ細った柚葉が病室へ入ってきた。ベッドに寝ていた英樹は彼女を一目見て胸を痛めたが、法廷で目にした光景と、そこで聞いた言葉を思い出すと、その痛みはすぐに怒りへ変わる。「お爺様……」柚葉は泣き腫らした目でベッドに近づき、英樹の手を握ってそのまま跪いた。「本当にごめんなさい、私が悪かったの。でも、もう怒らないで。怒ったら身体に障るから。何もかも私が悪いから、許してもらおうとは思ってない。でも、私のせいで身体まで悪くしないで……」声はかすれ、一見すれば、心から祖父を案じる孝行な孫娘に見えた。すると隣にいた瞳が鼻で笑った。「本当に反省してるなら、なるべく顔を見せないで、問題をさっさと片付けてきたら?名義を戻すものは戻して、返すべきものは返す。そのうえで、どうやって心を入れ替え、これから何をすれば、お義父様が長年かけて育ててくれた恩に報いられるのかを考えるべきなんじゃない?」「瞳さん、私はただお爺様が心配なだけで……」柚葉はま
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第577話

英樹が自分を無視したことなど、今まで一度もなかった。どれほど怒っていても、必ず何かしら叱ってくれたのに、ここ最近は一言も口を利いてくれなかったため、柚葉は悲しくてたまらない一方で、このまま本当に見放されるのではないかと怯えていた。「お爺様……やっと口を利いてくれた。ごめんなさい。お爺様の信頼を裏切って、迷惑をかけて……すべて私のせい。だから、いくら殴られたって、叱られたっていい。だからお願い、私を無視しないで。私にはお爺様しかいないの。小さい頃からずっと側で見守ってくれたお爺様は、私にとって誰よりも大切な人なの……」一言一言に、切実な思いが込められていた。英樹の目にも、わずかな揺らぎが浮かぶ。それでも態度を緩めることはなく、裁判の結果についても一切触れなかった。柚葉も視線を落としたまま、何も言わない。洗面所で手を洗っている最中、柚葉の携帯に利明からラインが届いた。【うちの父さんが柚葉に会いたがっているんだ】神谷グループの社長が自分に?まさか、あの人まで自分を侮辱するつもりなのだろうか?いや、裁判での詳しいやり取りは、外部から簡単には調べられない。それに、美雪とは協力関係にあるのだから、まだ全てを知られてはいないはずだ。だが、智也の不倫相手だったことや、夫婦の共有財産を全額返還するよう命じられたことだけでも、年長者の嫌悪の対象になることは明らかだろう。それに、権力と財力を持つ家の年長者が、どれほど人を見る目が厳しいかを、柚葉はよく知っている。だからこそ以前は、利明に手を出さずに、将来有望で、周囲からも高く評価されていた智也を手放さずにいた。今のこの状況で、利明の父に会うのはあまり気が進まない。というより、いくのが怖いのだ。悪評が広まる前なら、上品で清楚に見えるよう完璧に着飾り、迷わず会いに行っただろう。断ろうかと思った時、再びメッセージが入った。【心配しなくて大丈夫だから。僕には厳しいけど、他の人には穏やかだから。それに、父と一度会ってもらわないと、俺も君を助けられない。資金の使い道を父に説明できないからね】利明が金を出してくれる!柚葉の目に、かすかな光が宿った。そこへ美雪からも、自分も同席すると連絡が来た。絶望していた胸の中に、小さな希望が再び灯る。柚葉は英樹のもとへ歩み寄って言った。「
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第578話

二人で中に入ると、美雪は柚葉を褒めた。「年長者は、上品で落ち着いた女性を好むものだから、今日の服装はちょうどいいね。父にも好印象だと思うよ」柚葉はその言葉をほとんど信じていなかった。少し迷った末、美雪の腕を引いて人目のない場所へ連れていく。「美雪ちゃん、一体どういうつもりなの?裁判のこと、本当に利明に言ってないわよね?」美雪は、柚葉が決して頭の悪い女ではないと知っていた。なにせ昔の情が、いつまでも通用するわけでもないのだから、もし柚葉が馬鹿であれば、智也をあれほど長い間、思うままに操ることなどできない。柚葉が腹を割って聞くつもりなら、自分も少しだけ本音を見せてやればいい。「私は曖昧に言っただけ。それに、私たちには共通の敵がいるって言ったでしょ?お兄ちゃんはずっと海斗さんが気に入らないから、仮に私が凛さんをどうにかしたとしても、最後にはお兄ちゃんという壁が残る。私が協力するのはそのため。何より、お兄ちゃんがどれだけ柚葉さんに夢中か知っているでしょ?ここ3年は一途に思い続けて、お見合いすら断っているんだから」智也と浮気していても、利明は毛嫌いするどころか、「智也に騙されただけ」という言葉を真に受けているくらいだった。男というものは、恋に落ちなければ問題ないが、ひとたび夢中になると女より性質が悪い。まるで胎内まで退行したように、何も見えなくなる。利明が長年、自分へ想いを寄せていたことは知っているため、柚葉は美雪の最後の言葉だけは信じた。「利明も弁護士でしょ?どうして宮本先生には聞かなかったの?」「宮本先生は忙しいから」光に依頼したのは美雪であり、利明ではない。利明に少し尋ねられた程度で、勝手に話すはずがないのだ。何より、美雪自身が口止めしている。柚葉は確認した。「本当に、私と利明を結びつけるつもりなの?」そう尋ねられた美雪の脳裏に、兄の姿が浮かんだ。幼い頃からずっとそばにいてくれ、何から何まで助けてくれ、自分を大切にしてくれた兄……だから、美雪は迷った。答えることなく、腕時計に目を落とす。「この話は後にしよう。年長者を待たせるのはよくないから」柚葉も美雪の後について上階へ向かった。テーブルには、すでに二人の中年男性が座っていた。一人は穏やかな顔立ちで、もう一人はやや厳格そうだ。利明は柚葉の姿を見ると立
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第579話

穏やかに受け答えしていたものの、柚葉の内心では冷や汗が流れていた。話していることはすべて事実だ。それでも、年長者から次々と質問を浴びせられれば平静ではいられない。そんな時、茂が不意にこう尋ねた。「柚葉さんは海外にいた頃、よく社交界のパーティーへは出席していたのかい?」柚葉は反射的に美雪へ視線を向けた。美雪は何事もないように食事を続けながら、その反応だけは横目で見逃さず、心の中で吐き捨てる。馬鹿ね。そんなに動揺したら、そこに後ろめたいことがありますと言っているようなものじゃない。美雪がまるで助け舟を出す気配を見せないため、柚葉もようやく自分の反応が大きすぎたと気づいた。覚悟を決め、平静を装って答える。「はい。何度か参加したことはあります」茂は微笑みながら言った。「松田さんに才能を見込まれ、世渡りにも長けている。うちの利明が夢中になるわけだ。裁判を抱えていると知ってなお、君を助けたいと言っているそうじゃないか。別に反対するつもりはないよ」その一言に、その場の全員が息を呑んだ。一斉に茂へ視線が集まる。中でも利明と柚葉の驚きは大きかった。利明が思わず尋ねる。「父さん、本当か?」茂は利明を見つめ、静かに答えた。「ああ、本当だ。お前が自分で稼いだ金なんだから、どう使おうが勝手だ。投資と同じだよ。利益が出ようと損をしようと、それはお前自身の責任であり、神谷家とは無関係だ」最後の一言に、利明の表情が固まる。美雪も箸を置き、静かに息を潜めた。それでも、変わらぬ口調で話を続ける茂。「お前がこの数年、神谷家の決めた道に抗い、自分の力だけで生きようとしてきたことは知っている。考えてみれば、それも悪いことではないし、30歳にもなったのだから、私たちも少し縛りすぎていたのかもしれない。そろそろ、本当の意味で自立させる時期なんだろう」この段階まで来て、それでも柚葉が意味を理解できないようでは、28年も生きてきた意味がない。これはつまり、利明が自分を助ければ、その時点で神谷家との縁が切れることを意味している。家の後ろ盾も、人脈も、資金も与えず、自力で生きていけ――そういうことだった。何それ?大物を捕まえたと思ったら、実際は家から切り離される男だったなんて。利明の表情もさすがに曇る。柚葉は慌てて口を開いた。「何か誤解され
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第580話

一方、美雪はホテルの窓辺に立ち、眼下の道路を見下ろしていた。利明が自ら助手席のドアを開け、柚葉の頭をぶつけないよう手を添えながら乗せている。そして、ドアを閉めると車の前を回り、運転席へ。神谷家でビジネスをしているのは父だけであり、グループ企業をいくつも持っているが、表向きは目立たないように振る舞っていた。だから兄が乗る車も、高級とはいえ数千万円程度のものに抑えられている。だが、これからはそれすら維持できなくなるかもしれない。今夜の父の言葉は明白だった。兄が柚葉さんを助け続けるなら、自分の力だけで生きろ……神谷家という後ろ盾も、人脈も、資源も失った兄に何が残るのだろう?口座にある金か?それも今夜には柚葉さんへ渡ってしまうのかもしれない。後は、憧れた自由?自分と似たような自由なのだろうか?自分なら、そんな自由などいらない。神谷家という大きな後ろ盾を持ち、人脈も資金も無限に享受したいと願うはずだ。人は、与えられているものほど大切にしない。自分も、この自由が欲しいとは思わないし、兄もまた、自分に託された立場を大切にしようとはしなかった。美雪は静かに目を伏せ、その感情を胸の奥へ押し込めた。車が走り出す。柚葉が英樹の見舞いに向かうと知ると、利明は途中で車を止め、見舞いの品を買った。柚葉は見舞いの品を見つめた。道端で買った安い品でも、気持ちが大切だ。何より大切なのは、利明が自分と一緒に病院へ来てくれること。自分と一緒に利明本人が行くことに、意味があった。ディープデータ・テクノロジーへ行くのは、ひとまずやめよう。それに、柚葉はもともと行く気もなかった。ただ祖父に、自分はまだ見捨てられるような人間ではないと示したかっただけ。今の危機さえ乗り越えれば、自分はまだ期待できる人材だ。祖父が再び育ててくれるなら、その人脈も資源も、いずれ自分のものになる。利明は柚葉が自分を見ているのに気づき、「どうかした?」と不思議そうに聞いた。柚葉は悲しげに答える。「利明……今夜、お父様にあんな返事をするべきじゃなかったわ。私は大丈夫だから、私のためにあそこまでしなくていい。今私がこうなってるのだって、自分が悪いんだから。間違った選択の責任は、自分で負うべきなの。それに、あなたまで巻き込みたくないから、私は自分で何とかする」利明
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