携帯に正人から、智也の母親の容体が落ち着き次第、そのまま望月グループへ入社できるよう手配を済ませたというメッセージが届いた。年収は3000万円。IT業界では、優秀なエンジニアなら年収1000万円を超えることも珍しくない。業界による待遇の差は、もともと大きい。年収3000万円の安定した職場か、条件は好きに決めていいという破格の誘いか。智也はすぐには結論を出さず、病室へ戻った。命を取り留めた梨花は喜んでいたものの、不器用な夫と世話慣れしていない子どもたちに囲まれ、心はあまり穏やかではなかった。そんな時、決まって思い出すのは凛のこと。気配りができ、誰よりも世話上手だった息子の元嫁。しかし残念なことに、もういなくなってしまった。自分たち家族が身勝手な振る舞いをしたせいで……今後の治療費を残すため、すべてを節約しなければならない今、谷口家に使用人を雇う金などない。胡桃も必死に母の世話をしようとしていた。彼女にやる気がないわけではない。ただ、人の看病などしたことがないのだ。そんな時、胡桃も凛を思い出す。兄から毎月6万円の生活費しかもらっていなかったのに、そのうち4万円で自分のためにと美味しいものを買ってくれた凛。今となっては、家族の誰もが凛を惜しみ、散々傷つけたことを悔やんでいた。人は失って初めて、その大切さに気づく。梨花や胡桃が凛の優しさと面倒見の良さを惜しんでいる一方、健吾は凛の才能を思い出し、特に柚葉の醜い本性を知った今、自分で凛を追い出してしまったことを心底後悔していた。智也に関しては、言うまでもない。彼にも凛への情はあった。たとえ周囲にはそう見えなかったとしても、何年もの時を共に過ごしたのだから、情が芽生えないはずがなかったのだ。誰よりも苦しんでいるのは、智也だった。初恋の人からの裏切り、そして去っていった妻。自分よりも顔色の悪い智也を見て、梨花はなんとか言葉を絞り出す。「帰ってしっかり休みなさい。ここはお父さんと胡桃に任せればいいから」梨花は智也を案じていた。健吾も智也の肩を叩く。「お母さんの言う通りだ。今日は家へ帰ってゆっくり寝てこい。明日また来ればいいから」智也はもう何日もまともに眠れていなかった。顔をこすり、病院を出たのが夜の10時。南山ヒルズへ戻った頃には11時を過ぎてい
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