Semua Bab 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Bab 641 - Bab 650

831 Bab

第641話

凛は日和たちを見送ってから、携帯を手にとった。そこには十数分前に美穂子から届いたメッセージがあり、最後の一通には、こう書かれている。【海斗様から電報でも打ってるのかと言われてしまいましたので、もう報告できません。今後は海斗様自身が直接報告するそうです】凛は海斗からのメッセージを開いた。【美穂子さんから聞いたけど、夕飯、君が届けるように言ってくれたんだって?】蓋を開けた弁当の写真。【食べてる】続いて、きれいに食べ終えた写真。【完食】【ご確認ください、上司殿】凛は口元を引き締めたものの、結局こらえきれず、ふっと笑ってしまった。【上司じゃないけど】すぐに返事が来る。【父さんたち、もう帰った?】【うん】【今一人か?】【ええ】と凛は返し、続けてこう送った。【タクシーを呼ぶところ】【もう呼んだ】そのメッセージを送ると、海斗は携帯を持ったまま立ち上がり、引き出しから車のキーを取り出した。美穂子がわざとらしく尋ねる。「海斗様、もう残業は終わりですか?」「終わりだ。凛を迎えに行く」美穂子はにこにこしながら弁当箱を片づけ、ついでにゴミ箱の中身も持って部屋を出た。1階へ下りると、ちょうど見覚えのあるナンバーの車が目の前を勢いよく走り去っていく。海斗の車だった。車を走らせながら、海斗は指先で軽くハンドルを叩いていた。前方を見つめては、時折ナビへ視線を落とす。川端庵がこんなに遠いと思ったのは初めてだ。一方の凛は道端に立ち、髪を耳にかけながら行き交う車を眺めていた。海斗が「呼んだ」と言った車が、タクシーではないことくらい分かっている。……智也が病院を出ると、正人から電話がかかってきた。「どうした?」智也は電話に出ながら、路肩に停めてある車へ向かう。その車は正人のだった。いくら一社員とはいえ、部長職の智也が毎日電車やタクシーで通勤するわけにもいかないだろうと、正人が自分の車の中から比較的目立たない1台を貸してくれたのだ。だが、貸すとは言っても、実質くれたようなものだった。遊び歩いてばかりの御曹司で会社では大した権限を持っていなくても、車や不動産ならいくらでも持っている。「知り合いが柚葉さんを見かけたらしい。南水茶寮の近くだって。あそこ、川端庵があるだろ?そこから竹内社長
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第642話

冷たい風が頬を刺す中、凛は眩しさに顔をしかめ、手で目元を覆いながら、ライトからずれようと数歩横へ移動する。だが、手を下ろすより先に猛烈なエンジン音が迫ってきて、顔を上げた瞬間、黒い車が自分をめがけて猛スピードで突っ込んできていることに気がついた。一気に距離が縮まる。眩しいヘッドライトに視界を奪われながらも、凛は目を見開いた。逃げなければ……そう思うのに、体が動かない。恐怖で全身が固まり、足が地面に縫いつけられたように動かないのだ。柚葉は死ぬ覚悟だった。凛を睨みつけ、両手でハンドルを強く握りしめる。この女のせいで、自分はマイクロチップ開発プロジェクトから外された。自分の評判は地に落ち、莫大な借金まで背負わされ、そのうえ祖父まで告発され、家族全員からも見放された。本当なら、自分には輝かしい未来が待っていたはずなのに、今は何も残っていない。誰よりも自分をかわいがってくれ、いつだって味方をしてくれた祖父も、もう先の長くない年齢なのに、人生の最期になって、汚名を着せられた。今日こそ地獄に引きずり込んでやる!柚葉はアクセルを限界まで踏み込み、凛を轢き殺すつもりで、そのまま一直線に突っ込んでいく。ちょうど川端庵に到着した海斗は、黒い車が道路脇に立つ凛へ突進していくのを目にした。一瞬で頭に血が上り、考えるより先にアクセルを踏み込む。海斗の車が中央分離帯を越えた。街中に響き渡る鋭いクラクション。海斗のマイバッハが猛然と加速し、黒い車の側面へ、凄まじい勢いで突っ込んだ。凛を助けるために、あの一瞬で海斗が選べる最速の方法だった。ドンッ!轟音が街を揺らした。横からまともに衝突された柚葉の車は大きく進路を外れ、そのまま数メートル滑って、道路脇の植え込みの木へ激突した。周辺の車が一斉に急ブレーキをかけ、衝撃音と歩行者の悲鳴が入り混じる。マイバッハのフロント部分は大きく潰れ、砕けたガラスが辺りに散乱していた。凛は全身から血の気が引いたまま、その場に立ち尽くす。心臓だけが激しく脈打つ中、死の淵から引き戻されたような感覚に包まれ、少しずつ意識が現実へ戻ってきた。凛は弾かれたように、ひどく変形したマイバッハへと視線を向ける。次の瞬間、運転席のドアが乱暴にけり開けられ、海斗がよろめきながら車を降りてきた。額から鮮血が
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第643話

そう言われて、凛はようやく少しだけ安堵した。それでも海斗を抱きしめたまま、目を赤くして言う。「海斗、私は大丈夫だから……もう喋らないで。救急車を待とう」「そうだな。待とう」「うん、このまま待とうね」凛は海斗に抱かれたまま動かなかった。海斗の頭が凛の肩にもたれかかり、額から流れた血が髪について、首筋まで伝ってくる。これで、二度目だ。一度目は、智也のベントレーを海斗が自分の車で塞ぎ、後部座席から出られなくなっていた自分を助けてくれたときだった。そして二度目は今日。暴走する車に自らの車をぶつけ、轢かれる寸前だった自分を救ってくれた。街灯の下、二人の影が長く伸びていた。周囲では車が行き交い、事故に気づいた人たちが警察や救急へ通報している。智也が到着したとき、目に飛び込んできたのは凄惨な事故現場と、道路脇で固く抱き合う二人の姿。智也は真っ青な顔で車を降りると、すぐさま駆け寄った。近づいてようやく分かったのだが、凛は無事で、怪我をしているのは海斗だった。海斗はもう自力で立っているのもつらそうで、ほとんど凛に体重を預けている。複雑な思いを押し殺し、智也が手を貸そうとしたところへ、救急車が到着した。救急隊員と凛が海斗を支え、救急車へ乗せる。凛の目には、怪我をした海斗しか映っていなくて、最後まで智也が来ていたことに気づかなかった。海斗はまだ意識を失わず、眉間にしわを寄せたまま凛の手を握りしめていた。そんな彼が見つめる中、凛は震える手で携帯を取り出し、恵に電話をかける。「恵さん、海斗が交通事故に遭ったの。場所は川端庵の入り口。後の対応をお願いしてもいいかな?」「えっ!?すぐに向かうよ!社長は大丈夫?凛さんは怪我をしていない?相手は?」「私たちはもう救急車に乗ったから、相手のことは見てなくて……まだ車に閉じ込められているかもしれない」「わかった。もう向かってるから、安心して。社長のご家族には知らせた方がいい?」「うん、お願い」電話を切った恵は、急いで川端庵へ向かいながら、まずは隆に連絡を入れた。こういう非常事態なら、会長に伝えたほうがいいだろう。会長なら動揺して取り乱すことなく、冷静に対応できる。隆への報告を終えると、今度は理央へ電話をかけた。「市街地だから、事故を撮影した人がいるはず。広報に連絡して
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第644話

隆たちが川端庵を出てから30分も経っていないのに、恵から海斗が交通事故に遭い、救急車で搬送されたとの報告が入った。隆は胸が締め付けられたが、「わかった」とだけ答え、運転手にすぐさま救急車が向かった柊病院へと行くように指示を出す。不安そうに自分を見る妻と娘に、隆はできるだけ冷静に告げる。「海斗と凛さんが事故に遭った。大したことはないようだが、怪我をして病院に向かっているらしい」「事故?」瑶子の表情が明らかに強張った。日和も不安を隠せない。「さっきまで何ともなかったのに……どうして急に……」隆は落ち着いて答えた。「詳しいことは病院に着いてからだ。植田さんが現場に向かってくれているし、岩崎さんも広報部と法務部を招集して動いている」瑶子は前を向き、運転手に声をかける。「できるだけ急いでちょうだい」車はそのまま柊病院へ急行し、病院に着くと、偶然にも知らせを聞いて駆けつけた策と鉢合わせた。海斗の車はナンバーがあまりにも目立つうえ、竹内グループのトップが事故に遭ったとなれば、情報はすでに一部で広まり始めていたが、幸い、理央がすぐに動いたことで、それ以上の拡散は抑えられている。海斗の事故ともなれば、影響する範囲が大きすぎるのだ。四人は挨拶もそこそこに、揃って救急処置室へ向かった。海斗はちょうど傷の処置を受けていた。止血と消毒、包帯による処置。深い傷はなかったため縫合までは必要なかったが、念のため破傷風の処置も受けている。凛はすぐそばに立ったまま、その様子をじっと見ていた。額の傷が消毒され、大きな絆創膏が貼られる。左手にも白い包帯が巻かれていった。海斗の目眩はだいぶ治まり、耳鳴りも少しずつ消えていた。そして、顔を上げると、目を真っ赤にして心配そうに立っている凛が視界に入る。「凛、おいで」隣の空いていた椅子を軽く叩き、凛に座るよう促す。しかし、凛はそばまで来たものの、座ろうとはしない。「何をそんなに心配してるんだ?俺はこの通り大丈夫だから」凛は海斗の目をじっと見つめた。そう言われても、目の赤みはますます濃くなるばかり。顔をふいっとそらし、裕二に尋ねる。「処置が終わったら頭のCTも撮りますよね?」裕二は頷く。「もちろん。CTだけでなく、手や首の精密検査も含めて、徹底的に調べよう」「お願いします」包帯を巻き終え
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第645話

凛は一歩近づき、海斗の手をしっかり握り返した。「私が支える」海斗は「大丈夫だ」と言いかけたが、伏せた目に凛の横顔が映った瞬間、その言葉を飲み込んだ。二人の服についた血を見て、瑶子が言う。「着替えを二人分、持ってきてもらうわ。血のついた服はここで着替えて、そのまま捨ててしまいなさい。縁起の悪いものを家まで持ち帰ることはないもの」海斗は素直に頷いた。日和と策も心配で、検査についていくことにした。子供たちの姿が見えなくなってから、瑶子の目からようやく涙がこぼれた。「本当に怖かった」隆は瑶子の肩を抱き寄せる。「大丈夫だ。あれだけ元気なら心配ない。それに、凛さんに甘える余裕まであるんだから」「でも、どうしていきなり凛さんに車が突っ込んできたのかしら?これは私がきちんと調べるわ。うちの家族に手を出そうとしたのが誰なのか、絶対に突き止めるんだから」隆も同じ考えだった。言われたとおり、おとなしく検査を受けていた海斗だが、頭部CTの検査室へ入る直前、ふと足を止めると、凛をじっと見つめ、彼女の乱れた髪を指先でそっと整えた。「心配するな」凛は唇を引き結んだ。検査で何もないと分かるまでは、この胸のざわつきは収まらない。海斗にも、それはよく分かっていたため、検査が終わると、担当医に至って真剣な顔で言った。「何もなければ、そのまま結果を出してください。もし何かあったら、問題なしってことにした報告書を一枚作ってもらえませんか?」当然ながら担当医は、「私の一存ではできません」と困った顔をする。海斗は直接裕二に頼もうとしたが、携帯は凛の服のポケットに入ったまま。参ったな。すべての検査が終わると、先に検査結果を確認しておいてくれという意味で、海斗は策に目配せした。策も意図はすぐに察したが、従う気はない。検査結果なら誤魔化せても、本人の体調までは誤魔化せないから。策が持ち帰ってきたのは、正真正銘の検査結果だった。裕二は言った。「軽い脳震盪だね。3日から5日はしっかり安静にすること。なるべく歩かない、夜更かししない、興奮しない。頭を使う仕事も控えた方がいいかも。脂っこいものや辛いものは避けて、薬も忘れずに飲んで。額と手の傷は、今までどおり消毒して包帯を替えれば大丈夫」それから策を見る。「傷の処置、忘れないように」それは
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第646話

その瞬間、海斗は凛にキスしたくなった。唇に触れて、今聞いた言葉が本物なのか確かめたい。けれど、なんとか堪えた。「罪悪感から?それとも、助けてもらったお礼?」表情も声もできるだけ抑えて、問いかける。怪我をした自分への罪悪感や、何かを返さなければという気持ちから出た答えなら、受け取りたくはない。「違う」凛がソファの肘掛けに腰を下ろした。「そう思えたから」二人の距離がぐっと縮まり、海斗の喉が小さく動いた。「何がそう思えたんだ?」凛は海斗の深く熱を帯びた瞳を見つめる。「私があなたのことを大切に思ってるって気づいたから。血だらけで車から降りてきたあなたを見たとき……助かったっていう安心とか、格好いいなんて思うより先に、あなたが大丈夫なのか……それしか考えられなかった。一瞬、最悪のことまで考えた。そしたら……そんなの絶対に嫌だって思った。考えただけで、苦しかった」あまりにもまっすぐな言葉に、海斗は心臓を鷲掴みにされたような気がした。一瞬、鼓動が止まったかと思えば、次には全身の血が沸き立ち、呼吸まで熱くなる。「凛、医者に興奮するなって言われたばかりなんだけど」海斗は自分でも、息が荒くなっているのが分かった。凛の睫毛がかすかに揺れ、薄紅色の唇が開く。「海斗、私と付き合って」そして顔を寄せ、海斗の唇の端にそっと口付けを落とす。ほんの一瞬、触れるだけだと思っていた凛だったのだが、海斗の包帯の巻かれた手を後頭部に添えられ、その唇を奪われた。口付けは次第に深くなっていく。慣れていない凛はどうしていいか分からず、ただ体中が熱くなっていくのを感じていた。唇も、頬も、耳も、首筋まで熱い。まるで熱い湯に浸かっているようだった。呼吸することさえ忘れてしまう。やがて海斗が唇を離すと、息を止めていたせいで、凛の澄んだ瞳はしっとりと潤んでいた。海斗はもう限界だった。凛に気づかれないよう、海斗は咄嗟にそばのクッションを取り、何食わぬ顔で膝の上に置く。そのとき、テーブルに置いていた凛の携帯が鳴った。理央からの着信だ。「もしもし、理央さん」「凛さん、社長は大丈夫?今後の対応を決めたいから、詳しい状態を教えてほしいの。事故の件はすでに一部で話題になっているから、明日の朝にはさらに広がる可能性があると思う」不意に手を引かれた。ソファ
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第647話

部屋に入った瞬間、海斗と凛が手を繋いでいるのが目に飛び込んできた。日和は目を見開いた。え?美女と野獣?凛さんとお兄ちゃん?策も驚きの表情を浮かべる。事故に遭ったと思ったら……まさかの、棚ぼた?ようやくなのか?凛の親友である日和と、海斗の友人である策。それぞれの立場から、同じように衝撃を受けていた。策が感心したように呟く。「まさに災い転じて福となすだな」「えっ、ちょ、二人とも付き合うことになったの!?」驚きはしたものの、親友が自分の兄と付き合うことになり、日和は心から嬉しかった。これなら凛さんと離れちゃう心配もなくなるし、何よりこれからは凛さんという強力な味方ができる。お兄ちゃんが偉そうにしたって、もう怖くないんだから。凛さん、お兄ちゃんがひどいことするんです!凛さん、お兄ちゃんに言ってやってください!この二言さえあれば、お兄ちゃんに勝てる。考えているうちに笑いがこみ上げてきた日和は、腕を組んで二人の前に立ち、得意げに顎を上げた。「それで?私を呼んで何の用?言っとくけど、今の私はただの妹じゃないからね。お兄ちゃんの彼女の親友でもあるんだから。親友の影響力、分かってる?私がちょっと何か言うだけで、凛さんのお兄ちゃんを見る目が変わるかもしれないんだよ?」これでもかというほど、得意げな顔をしている日和。策は隣で笑いをこらえるのに必死だった。海斗は機嫌がいいのか、そんな日和にも何も言わなかった。「俺と凛の写真を撮ってくれ」「何に使うの?」凛も不思議そうな顔をする。「ん?」海斗は凛を見つめた。「今さら無かったことなんかにさせないからな。凛がくれた権利を使わせてもらう。彼氏の特権」「SNSに載せるの?」「そう」凛は少し驚いた。4年の結婚生活の中で、智也が自分とのことを投稿したことは一度もなかった。「凛さん、お兄ちゃんの隣に座ってください」日和が自分の携帯を出そうとすると、海斗が彼自身の携帯を差し出してきた。仕方ない、せっかく好きな人と付き合えたのだから、最初の写真くらい本人の携帯で撮ってやろう。凛が海斗の隣に腰を下ろし、二人の肩と肩が触れる。しかし、凛がカメラを見る一方で、海斗が見ているのは凛だった。一枚撮った日和が呆れたように言う。「「お兄ちゃん、カメラ見てくれる?」
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第648話

海斗の一つの投稿で、事故をめぐる憶測を払拭しつつ、彼がもう独身ではないことまで公表できた。まさに一石二鳥というものだろう。今や世間の関心は、海斗が重傷だったのかどうかよりも、海斗の恋人が誰なのかに移っていた。写真に写る女性の正体を知りたがる者は多かったが、海斗のやり方を知る者たちは、勝手に写真を外へ流すような真似まではしない。それでも、海斗に恋人ができたという噂はまたたく間に業界を駆け巡った。その頃、女性たちに囲まれて遊んでいた正人は、話を耳にした途端に飛び起きた。何人にも連絡して、本当に海斗に彼女ができたのかと確認する。返ってくる答えは、どれも同じで、海斗本人がSNSで公表したというものだった。「写真はあるのか?」正人は、相手が凛なのではないかと直感していた。「そんなの怖くてスクショできるかよ!写真なんてない。ただ、黒髪ロングらしいぞ」黒髪ロング……やはり凛の特徴と合致する。正人は慌てて智也に電話しようとしたが、智也が傷つくのではないかと思い、呼び出し音が2回鳴るやいなや切った。もっとも、智也にも電話に出る余裕はなかった。凛が無事だったこと、そして自身の中にまだわずかに残っていた柚葉への罪悪感から、智也は柚葉を病院へ送り届けていた。ただ、病院へ送り届けると、そのまま帰った。柚葉も重傷を負っていたのだが、一人きりの病室で天井を見つめるその目に、痛みに耐える色はない。あるのは、凛が生き延びたことへの憎しみだけ。決まった時間、決まった場所で待ち伏せすれば怪しまれるため、柚葉は毎日違う車を使い、竹内グループ本社と特別宿舎を結ぶ道を何度も走り回った。そうしてようやく、凛の行動を掴んだのだった。凛がいくつものレストランに足を運び、最後に川端庵を選んだことも知った。だから、柚葉は早くから店の前で待っていた。空腹のまま、凛が食事を終えて出てくるのを待った。海斗の家族が離れるのも待ったし、海斗が現れるかどうかも確かめた。十数分待っても、姿が見えなかったから、アクセルを踏んだのに……凛を轢けると思ったその瞬間、海斗は現れた。どうして?どうしてあの女には、何か起きるたびに助けてくれる人が現れるの?あと少し、本当にあと少しだったのに……あと少しであの女を殺せたのに、そこへ命も惜しまず飛び込んできたのが、海斗だ
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第649話

今回、海斗の事故を知らせる位置情報が竹内家の警備会社ホワイトタワーに送信された時点で、責任者である理仁はすぐに動いていた。現場周辺の防犯カメラを技術班に押さえさせ、事故を起こした車両についても徹底的に洗わせた。普段はボディーガードをつけていない海斗だが、竹内家の後継者の安全を守ることは、ホワイトタワーにとって最優先事項だった。隆から電話が入った時には、必要な資料はすでに揃っていた。柚葉はかなり重傷で、少し動くだけでも全身に痛みが走った。それでも転院だけは頑として拒む。「そんなの軟禁ですよ!」「ご冗談を。柊病院であなたに危害を加えるようなことは一切いたしませんし、出入りも自由ですので」「ブレーキが壊れてたんです!」「承知しております」理仁は淡々と答え、柚葉の転院手続きを進めた。病院に到着すると、調査資料を隆と瑶子に手渡す。「黒い車のブレーキ不良が単なる事故なのか、それとも人為的なものなのか……また、小林さん本人がそれを把握していたのかについては、もう少し調査に時間が必要です」隆は頷き、理仁を下がらせた。瑶子が言う。「警察にはきちんと届けましょう。こういうことを身内だけで処理すると、あとで何を言われるか分からないもの。刑事事件として正式に調べてもらったほうがいいわ」「捜査員がもうすぐ来る」瑶子は柚葉の病室へ目を向け、肩に掛けたショールを整えると、そのまま病室へ入り、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。「こうして顔を合わせるのは、初めてじゃないわね」柚葉は目の前の女性を見つめた。瑶子は穏やかで知的な雰囲気をまとい、視線の高さまで合わせて座ってくれているのに、息が詰まりそうなほどの威圧感がある。その理由には、彼女の後ろに立つ隆の存在も大きいのかもしれない。「あなたが昨夜運転していた車のせいで、息子の未来のお嫁さんは危うく命を落としかけたし、息子もかなりの怪我をしたわ。しっかり責任は取ってもらいますから」「わざとじゃありません。ブレーキが利かなかっただけなんです」柚葉は何度も頭の中で繰り返してきた言い訳を口にした。ここ数日、準備は完璧だった。だから、相手がどれほど力のある家の人間でも、絶対に折れてはいけない。「事故だった」それだけを貫き通す。瑶子はそんな柚葉を見て、静かに笑った。「以前、あなたが凛さんの元夫と一緒に
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第650話

その頃、海斗は自宅の寝室で半ば強制的に寝かされていた。医師から3日から5日は安静にするよう厳命されているため、それを忠実に守らせようとする凛、専属医として目を光らせる策、そして両親に代わって兄を監視する日和。3人に囲まれては、さすがの海斗も逆らえなかったのだ。日和が水を持ってきて、策が薬を用意する。だが二人とも海斗には渡さず、すべて凛の前に置いた。「凛さん、お兄ちゃんのことよろしくお願いしますね。私はゲストルームに行きますから!おやすみなさい」「俺も別のゲストルームに行くよ。携帯は24時間繋がるようにしておくから、何かあったら連絡してくれ」二人が出ていき、寝室には凛と海斗だけが残った。先に海斗が口を開く。「美穂子さんがこっちに向かってるから、隣の部屋を使えるようにしてくれるはずだ」「うん」凛は頷き、海斗の額に貼られたガーゼと、包帯の巻かれた手を見つめた。まだ胸が痛む。「薬を飲んだら、今日はもう寝てね。先生も夜更かしは禁止って言ってたから」「ああ」海斗は凛から目を離さなかったが、凛が薬を唇の前まで運ぶと、素直に口を開ける。続いてコップも差し出された。しかし、凛が手を離さないところを見ると、どうやら飲ませてくれるらしい。ゴクリ。海斗はそのまま一口飲み、薬を流し込んだ。海斗が飲み終わるのを見届けてから、凛は真剣な顔で言った。「海斗、もう二度と、あんな危ないことしないで」「怖がらせたか?」伏せられた凛の目元を見ながら、海斗が尋ねる。「うん、とても」わずかにだが、鼻にかかった声だった。いつもの凛よりどこか弱々しく聞こえて、海斗の胸がたまらなく締め付けられた。「抱きしめてもいいか?」凛が顔を上げる。「怪我してるでしょ」「抱きしめるくらいじゃ死なない」凛は言葉に詰まった。「海斗、そういう言い方やめて。縁起でもない」「分かった。もう言わない」海斗は即座に改めると、ベッド脇に座っていた凛をそっと抱き寄せた。彼の鼻先に、凛の清涼な香りがふわりと漂う。「凛。もう大丈夫だから」低く穏やかな声が、すぐ耳元で響く。その声が、凛を惹きつけて離さない。凛の耳には、海斗の心臓の音が聞こえていた。力強く脈打ちながら、ときどき速くなり、またゆっくりになる。興奮しないよう、意識して呼吸を整えているのかもしれない。凛はその胸
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