階下へ降りた凛は、料理を運んでいた美穂子と鉢合わせた。美穂子は凛を見て挨拶しようと口を開きかけたが、凛の顔が真っ赤なのに気づき、すぐに口を閉じた。これは、そっとしておいたほうがいい。先にダイニングへ行ってもらって、少し落ち着いてから料理を持っていこう。たったそれだけのことで、美穂子の想像はすでに二人の子供にまで飛んでいた。名前は何になるのかしら?もうすぐ竹内家の三代目のお世話をすることになったりして?竹内家は給料も待遇もよく、何より雇う側が使用人をきちんと尊重してくれる。福利厚生も手厚く、美穂子本人だけでなく、家族の仕事や子供の教育まで何かと気にかけてもらっていた。この先、竹内家の次の世代まで見守ることができたなら、それも悪くない人生だ。一方、凛の姿が見えなくなった海斗も、ようやく少しずつ落ち着きを取り戻していた。階下へ降りると、料理を手にしたままぼんやりしている美穂子が目に入る。「美穂子さん」「あ、海斗様でしたか。策先生から激しい運動は禁止って言われてますからね。ちゃんと先生の言うことは守ってくださいよ」海斗は軽く咳払いした。「ああ」ダイニングへ行くと、凛はテーブルの端に座っていた。海斗もいつもの上座には行かず、その隣の椅子を引いて腰を下ろす。隣に座られた途端、凛の身体がわずかに強張った。まださっきのことを意識しているらしく、ひたすら水を飲み始める。海斗はそのグラスを凛の手から取り上げると、テーブルに置かれた料理を半分ほど器によそい、凛の前へ置いた。「こっちを食べろ」凛はまともに海斗の顔を見られず、ちらりと横目で窺うだけだった。鋭く整った横顔。けれど口元にはうっすら笑みが浮かんでいて、いつもの近寄りがたい雰囲気はずいぶん和らいでいる。食事の途中で、策がやってきた。もう8時だというのに、二人が今頃夕食を食べていることに驚いたものの、自分も一緒に食べようとは思わない。自分は海斗の傷の処置に来ただけだ。二人が食べ終わるのを待って、策は何か思いついたように凛を見た。「凛さん、竹内社長の包帯替えてみる?」その瞬間、美穂子もぴんときた。こういうのって、二人の距離がぐっと縮まる定番の展開じゃない!二人がそれぞれ別の思惑を巡らせているのを、海斗は一目で見抜いた。「策」低い声が飛ぶ。「金だけもらって
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