All Chapters of 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Chapter 671 - Chapter 680

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第671話

隆は、海斗に隠し通せるとは思っていなかった。「クラウドルートだ」その名を聞いた瞬間、日和まで息を詰めた。クラウドルート国際貿易は、竹内グループ最大の海外貿易子会社だ。つまり駆の一家は、帰国早々、竹内グループの海外事業を丸ごと押さえようとしている。隆が具体的な役職を口にしなかったということは、狙いはクラウドルート国際貿易の社長の座だろう。海斗はさらりと言い放った。「無理だな。駆がクラウドルートの経営に口を出したいなら、実力で俺を納得させろ。話はそれからだ」日和は何度もうなずいた。隆と瑶子は何も言わなかった。竹内グループには数多くの子会社がある。かつての遺言では、長女と次女は株式を相続するものの、経営には直接関与しないことになっていた。四男一家、つまり禎一家も株式を相続しているが、経営参加については曖昧なまま。その後、息子が成人すると、一家そろって海外へ渡っていた。表向きは息子の留学に付き添うためだったが、それが本当の理由だったのかは以前から疑われていた。そして今回、帰国するなり竹内グループの海外事業の要を押さえようとしている。こうなれば、留学への付き添いが建前だったことはほぼ間違いない。海斗は立ち上がり、両親と日和を見た。「明日の朝8時、みんなで朝飯を食べよう」普段竹内家の朝食は7時なのだが、わざわざ8時にした理由は、朝が極端に弱い日和に合わせたためだ。本人もそれは分かっているが、それでも日和は口を尖らせた。「8時でも早すぎるよ」海斗が冷たい目を向ける。「起きられないのか?」「起きる!起きるって!」海斗はそのまま自室へ戻っていった。海斗の姿が見えなくなるやいなや、日和は勢いよく両親を振り返った。「絶対なんかある!お兄ちゃんがわざわざ家族全員そろって朝ご飯食べようなんて、絶対なんかあるって!」隆と瑶子は笑いながら、明日の朝を少し楽しみにしていた。翌朝7時55分。身支度を整えた隆と瑶子がダイニングへ向かう。日和も眠そうに目をこすり、大きなあくびをしながらやってきた。ところが、言い出した本人の姿がないため、日和は腰に手を当てた。「お兄ちゃんは?私たち全員来てるのに、お兄ちゃんだけきてないの?」「朝からうるさい」背後から響く海斗の声。振り返った日和は自分の目を疑った。海斗はいつもどおり隙の
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第672話

最初に目を潤ませたのは、意外にも隆だった。これには誰もが驚いた。日和は唇をきゅっと結ぶ。かつて竹内グループを率い、家では厳格な父親だった人が、実はこんなに涙もろかったなんて。瑶子は夫をフォローするように言った。「年をとると涙もろくなるのよ」自分もちょっと泣いて、夫だけに恥ずかしい思いをさせないようにしようか……そう思った矢先、隆がふいに顔を上げた。「このパン、みんなは食べないのか?」すでに一つ手に取っていた日和は、そのまま大きくかじり、もぐもぐと二、三度噛んだところで、「ぶっ!」と、口に入れたパンを勢いよく吐き出した。「水!水ちょうだい!舌が!」大騒ぎする妹を横目に、海斗は目の前にあるのに何度も見落とされていた牛乳を取り、無言で差し出す。父は無言で、自分がかじったパンの断面を皆の方に向けた。中には真っ赤な唐辛子が混ざっていた。それも粉末ではなく、刻んだ唐辛子がゴロゴロと入っている。瑶子は言葉を失った。感動して目を潤ませたんじゃなかったのね。辛かっただけみたい。海斗は落ち着き払って尋ねた。「辛さ以外に、味はどうだ?」瑶子はようやく事態を理解し、海斗に確認した。「凛さんのために作ったの?」「ああ」牛乳を一杯飲み干して、ようやく少し落ち着いた日和が叫ぶ。「これ、私たちで試してたんでしょ!」海斗がちらりと妹を見る。その目は明らかに「そうだけど」と言っていた。日和は言葉を失った。彼女は改めて座り直すと、余計な味がしない素朴なコーンクリームスープをすすり、少し落ち着いてから言った。「てか、何入れたらこんなに辛くなるわけ?」「適当に選んだ」そばで調理を手伝っていた使用人が、おそるおそる尋ねる。「海斗様、どこの引き出しから……」「左から3番目」使用人は絶句した。よりによってそことは……そこに入っていたのは、本場のブート・ジョロキア。それも届いたばかりのものだった。竹内家では一年に一度使うか使わないかの調味料だが、キッチンには常に備えてあり、期限が来れば新鮮なものに入れ替えている。それがこの家のやり方だった。しかも今回の唐辛子は届いたばかりで、辛さも強烈だと聞き、日和は無言で兄に親指を立てた。瑶子は苦笑いしながら、再びパンに手を伸ばすと、中身を取り除いて外の生地の部分だけを食べ
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第673話

駆は体を斜めにして言った。「海斗さん、僕、もう海外には戻らないつもりだから会社に入れてよ。そろそろ実務経験も積みたいんだ」海斗は言った。「いいだろう」禎と佳乃が顔を見合わせる。海斗がこんなに簡単に認めるとは思っていなかった。だが、次の海斗の言葉でその表情が固まった。「まずは俺のところで、しばらく秘書として働け」手元に置いておくのが一番確実だ。駆一家がそろって固まる。佳乃が笑みを崩さず口を挟んだ。「海斗くん、それはちょっと……駆はあなたの従弟なのよ?」海斗は言った。「経験を積みたいんでしょう?俺の秘書ほど勉強になる仕事はありませんよ」日和もすかさず援護する。「そうそう、特にお兄ちゃんの下なら。本社の社長室に入れる人なんて、本当に一握りなんですから。そこを経験した人なら、どこに行っても引く手あまたになりますよ」拓海、恵、理央には、陰でどれほどのヘッドハンターが目をつけているか分からず、喉から手が出るほど欲しがっている経営者も多いはずだ。それでも誰も手を出さないのは、彼らの上司が海斗だからにすぎない。「本社は忙しすぎるだろう」と禎が笑いながら言う。「子会社でいいんじゃないか?クラウドルートなら駆の専攻とも合っているし」海斗は淡々と返した。「確かに碓氷さんの秘書なら、俺のところよりは楽でしょうね」碓氷晶子(うすい しょうこ)というのはクラウドルートの社長で、今年39歳になるとても鋭くて有能な女性だ。駆の笑みが一瞬だけ引きつった。「海斗さん、僕だって一応名門大卒だよ?さすがに秘書っていうのは……」「俺の秘書は有名大学卒ばかりだし、碓氷さんの秘書だってトップレベルだ」海斗は立ち上がった。「本社に来るか、クラウドルートに行くか、好きなほうを選べばいい」そして一同に軽く会釈する。そして、さっさと出ていった。日和も続いて立ち上がり、その場の人たちへ挨拶を済ませると、すぐさま海斗の背を追って家を出た。こんなところに残ってはいられない。禎たちは筋金入りの古い価値観の持ち主だ。どうせまた「彼氏はできたのか」と聞いてくる。いないと答えれば、女の子が毎日ロボットばかりいじっていてどうする、そんなことをしている暇があるならいい家の男と結婚したほうがいい、そうすれば竹内家の事業も人脈も広げられるし、家族信託の恩恵だって受け
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第674話

今日は週末だ。午後に凛との車の練習を約束していた海斗は、午前中はホワイトタワーへ行くことにした。柚葉が故意に凛を轢こうとした決定的な証拠は、いまだ見つかっていない。このまま捜査が終われば、柚葉が負うのは民事上の賠償と謝罪程度になる可能性が高い。それでは、到底納得できない。知りたいのは真実だった。そして、柚葉の背後にいる人物。英樹が告発された一件も、最初から狙われていたのは凛だ。黒幕を突き止めない限り禍根は残るし、凛がこれから、いつどこで危険に晒されるか分からない。自分だって万能ではない。今回のように、毎回間に合う保証などどこにもないのだ。ホワイトタワーは表向きこそごく普通の警備会社だが、その地下には巨大な情報センターが存在している。海斗の車が地下駐車場へ入り、専用スペースに停まった。エンジンを切っても、海斗はすぐには降りない。5秒後、床に一本の亀裂が走り、次の瞬間車ごとゆっくりと地下へ運ばれていった。一瞬、周囲が暗闇に包まれる。そして再び、眩しいほどの光。海斗がゆっくりと目を開けて車を降りると、そこには理仁が立っていた。「海斗様」「ああ」海斗はそのまま歩き出し、鏡のようになめらかな壁の前で足を止めた。指先でボタンに触れると、壁から認証端末がせり出してくる。理仁は、海斗が人差し指で暗証番号を入力するのを見て、少し驚いた。「海斗様、鍵は?」「暗証番号を確認しました」「指紋認証、完了しました」機械音声が二度響くと、目の前の壁が自動ドアのように中央から左右へ開いていく。海斗は前を向いたまま歩き出した。「あるべき場所にある」答えになっているようで、まるでなっていなかったが、理仁もそれ以上は聞かなかった。奥にあったのは、広々とした円形のフロアだった。回廊のようにぐるりとつながった空間の中央には大型のオペレーション卓。壁一面の巨大モニターには、絶え間なく膨大な情報が流れている。ここには、卓越した技術を持つエンジニアやハッカーたちが集められていた。加工された機械音声が響く。モニター上を流れていた映像の一部に、ぼやけた柚葉の姿が映し出され、処理が進むにつれて、その輪郭が鮮明になっていった。理仁は隣に立つ海斗の険しい横顔を見た。「海斗様、ホワイトタワーがこれからも表に出ず存続するには、よ
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第675話

「今朝、お兄ちゃんが朝食を作ってくれましたから」日和は自分専用の桜色のスリッパに履き替えながら、意味ありげに笑った。「なんでお兄ちゃんが朝早くからそんなことしたか、知ってます?」海斗の話となれば、凛も少し気になる。「どうして?」日和はわざと咳払いし、声を低くして海斗の真似をした。「凛はパンが好きなんだ」凛の目がわずかに動く。日和はさらに続けた。「ありがとう。凛と付き合えたのは、半分はみんなのおかげなんだ。この家族に生まれてよかったと思ってる」言い終えるなり、元の声に戻った日和。「もー、急にこんなこと言い出すからびっくりしましたよ!お兄ちゃん、凛さんと付き合い始めてから急に人間味が出ました。人間味です!分かりますか?」かなり大げさではあるが、言いたいことは凛にも分かった。それより気になったのは別のこと。「どうして海斗がそんなこと知ってるの?」「何をですか?」「私が海斗と付き合うことにした理由の半分くらいが、家族にあるってこと」凛は無意識に、自分の部屋にある小さなデスクへ視線を向けた。もしかして、あの紙を見られた?「そんなの、考えるまでもないじゃないですか!」日和は大きな目をぱちぱちさせた。「お母さんなんて、お兄ちゃんが凛お姉ちゃんを好きだって知った時から、これはかなり難しいわねって言ってました。谷口家の人たちに散々嫌な思いをさせられてきたから、凛さんは警戒心が強いから、お兄ちゃん一人だけ頑張っても無理だろうって。私を見てください!谷口さんの妹なんかより何千倍もいい妹でしょ?人をいじめたりしないし、凛さんのことも大好きですもん。それに私、お兄ちゃんが凛さんを好きになる前から友達でしたし!お父さんだって、谷口さんのお父さんみたいな威張った人じゃないでしょ?お母さんだって、谷口さんのお母さんみたいにめちゃくちゃな人じゃない。それに!お兄ちゃんの友達だって、凛さんを見下したり失礼なこと言ったりする人、一人もいないですよね?」凛は頷いて、素直に答えた。「そうね」日和は満足そうに笑うと、康平のところへ向かった。まず康平に挨拶し、続いて小さなロボットのぶたちゃんにも声をかける。「日和、姉ちゃん」康平が呼ぶと、日和は嬉しそうに返事をした。「じゃあ今日は私が教えてあげる!」凛の頭の中には、さっきの日和の言葉
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第676話

海斗の頭の中では、さっき凛が口にした言葉が何度も繰り返されていた――海斗、ちょっと会いたくなっちゃった。彼はすぐに車を出し、一番町特別宿舎10号棟へ向かった。バックミラーに映る自分の口元は、さっきからずっと緩みっぱなしだ。ハンドルを握る手まで熱い。まして胸の内がどれほど浮き立っているかなど、言うまでもないだろう。凛をよく知らない人間には、たった一言の「会いたくなった」と、「午前中なら早く会えるから」が、海斗にとってどれほど破壊力のある言葉なのか分からないだろう。凛は、海に浮かぶ氷山のような人だ。表に見せる気持ちはほんのわずかでも、その下には想像以上に大きな思いを抱えている。だからこそ海斗は以前、智也と過ごした4年間に勝てるのか、いつか二人がよりを戻すのではないか、と不安に思っていた。凛はどれだけ相手を好きでも、それを言葉にするのはほんの一部だ。そんな彼女がかつて智也との結婚を選んだのだから、当時どれほど大切に思っていたかは想像に難くない。智也は、それを分かっていなかったし、凛という人を理解しようともせず、大切にもしなかった。だから自分が入り込む余地ができた。けれど自分は、自分と凛の間に誰かが入り込む隙など絶対に作らない。凛が望むものは、何でも与えてみせる。今、凛は自分のことを思ってくれている。そして、会いたがっているのだ。海斗は最短で一番町特別宿舎10号棟へと向かった。今回は警備員に呼び止められることも、身分確認を求められることもない。車が近づけばゲートが自動で開き、少し速度を落とすだけでそのまま中へ入れる。凛が自分との関係を「パートナー」として登録してくれた。海斗はそれを思い出すだけで、全身が浮き立つようだった。凛専用の駐車スペースに停まっているのも、今では自分のカリナンだ。車を降り、階段を上がる。最初は一段ずつ上っていたのに、それすらじれったくなり、途中から二段飛ばしになった。凛の家の前まで来ると、海斗は一度ネクタイを整え、それからインターホンを押した。康平の隣にいた凛が顔を上げる。玄関のほうを見つめた瞬間、なぜか分かった。海斗?もう来たの?電話で「午前中に会いたい」と伝えたとき、海斗は少しかすれた声で「分かった」と答えた。今日の午前中には会える。そう思うと、日和と一緒に康平
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第677話

凛は海斗がいつも体調を気遣ってくれていることを分かっていたため、「ちゃんと食べてるから」と真面目に答える。いつもの落ち着いた声なのに、どこか素直で可愛らしい。海斗の胸に、たまらなく愛おしい気持ちが込み上げた。凛は幼い頃、捨てられた。こんな子を、どうして凍えるような寒さの中に置き去りにできたのだろう。どうしてこの人を傷つけ、その輝きを踏みにじることができたのだ?海斗のためにスリッパを出そうとしていた凛は、相手がじっと自分を見つめていることに気づいた。海斗の瞳の奥は、底が見えないほど深い。「ん?どうしたの?」海斗が身をかがめ、次の瞬間には唇が重なった。抱きしめられるだけだと思っていた凛は、完全に不意を突かれた。しかも真っ昼間で、家には康平も日和もいる。驚いて目を見開き、反射的に海斗の胸を押そうとした。けれど手首をつかまれ、そのままもう一度胸元へ引き寄せられたかと思うと、彼の力強い手が腰に回った。キスはすぐに深くなる。何か言おうとすれば、さらに唇を塞がれる。「凛さん、誰……」書斎から出てきた日和だったが、リビングまで来たところで玄関にいる二人が目に入り、即座に両手で顔を覆った。見ちゃ駄目、見ちゃ駄目。……いや、もう成人してるか。違う違う、そうじゃなくて邪魔しちゃ駄目だ!日和は顔を覆ったまま回れ右をし、康平のところへ戻った。康平が不思議そうに玄関のほうを見ようとしたので、慌てて両手で顔の向きを戻す。「はいはい、勉強続けようね!ねえ、康平くん。いつか凛さんとお兄ちゃんが結婚して子供ができたら、その子には私のこと何て呼ばせたらいいと思う?」康平はぽかんとしている。「まあ、なんでもいっか。ほら、続きやろう」康平はよく分からないままうなずいた。「う、うん」海斗が凛を放したのは、5分後のことだった。その間に、凛も少しずつ息の仕方を覚えたらしい。それでも、まだ慣れないのか、凛の瞳はとろんと潤んでいる。体にもまだ力が入りきらない。海斗はわざと耳元へ顔を寄せた。「運転する力、残ってる?」凛は耳まで一気に赤くなる。彼女は急かした。「早く履き替えて」海斗は足元を見た。そこには、いつ来ても自分が使っている男性用のスリッパがある。特別宿舎には自由に入れるし、凛の家には自分専用のスリッ
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第678話

凛は自分の手にある新品のカップと、海斗が手にしたカップを見比べた。海斗が持っているのは、凛がいつも使っているもの。しかも、海斗はそのまま何のためらいもなく口をつける。「気にするか?」「気にしない」その答えに満足した海斗が尋ねた。「コーヒーとジュース、どっちがいい?」「コーヒー」「コーヒーとジュース、どっち?」もう一度聞かれて、凛はようやく気づいた。海斗は、遠慮した答えではなく、本当に飲みたいほうを聞いているのだ。「ジュースがいい」「うん」海斗は冷蔵庫を開け、中に入っている果物をひと通り読み上げてから振り返る。「何にする?」「ブドウ」海斗は凛のためにぶどうジュースを作り、彼女が半分ほど飲むのを見届けた。「まだ飲む?」凛は首を横に振った。すると、海斗は残ったジュースを、さっきからちらちらと見ていた日和の前に置く。「残すなよ」日和は言葉を失った。呆れたような視線を日和に向けられた海斗だったが、完全に無視して凛を連れ出す。凛は日和と康平に向かって言った。「二人とも、ちゃんと留守番しててね。もうすぐ美穂子さんがお昼を作りに来てくれると思う。康平は午後になったら、美穂子さんに紗枝さんのところまで送ってもらうんだよ」康平はうなずき、手を振った。「ばいばい」日和は笑いながら二人を見送る。「デート楽しんできてくださいね」階段を下りている間も、凛の頭にはずっと「デート」という言葉が残っていた。助手席に乗り、シートベルトを締めながら、ふと手を止める。「海斗、私たち今からデートなの?」「そうだけど」「デートなのに運転の練習って何か違う気がする」海斗は凛を横目で見た。「デートと運転の練習は両立できる。早く免許を取れるように頑張れ」凛は頷いた。二人が向かったのは、竹内グループが凛の練習用に用意した専用コース。ただし、今日の車はマイバッハではなくカリナンだ。助手席から降りた凛は、運転席から降りてきた海斗に尋ねる。「海斗、あの車ってもう完全に廃車なの?」「半分くらいは」「直すの、高い?」「凛ほどじゃない」海斗は何でもないことのように答えた。「凛を守れたんだから、あの車は十分役目を果たした」凛は、さっきのぶどうジュースにお酒でも入っていたのではないかと思った。それとも、あのぶど
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第679話

……彰菜は茂とは違った。自分の息子が柚葉のような女性と付き合うのを、黙って見過ごすことなどできないし、ましてや、これまでずっと聞き分けのよかった息子が、彼女のために自分へ反抗するなど到底受け入れられなかった。だから利明が母親を前にどれほど真剣に柚葉への思いを訴えようと、彰菜には何の意味もなかった。二人が別れようが別れまいが関係ない。彰菜は最初から、二人の交際そのものを認めていなかったため、対外的には、利明は今も独身だった。現在、柚葉は事実上の監視下に置かれている。彰菜は、利明がこのまま病院に残って柚葉の世話をすることにも反対した。まだ決定的な証拠が見つかっていないだけで、もし証拠が出れば、国の研究に携わる研究者を車ではねようとしたうえ、その結果、竹内グループのトップである海斗まで負傷させたことになる。どちらか一つでもただでは済まないし、まして両方となればなおさらだろう。利明も、柚葉の「わざとじゃない」という言い分を鵜呑みにするほど愚かではない。ただ、彼女は感情的になり、一時の衝動で後先を考えられなかっただけだと思っていた。しかし、だからといって柚葉と別れるつもりはない。柚葉は、利明が初めて本気で好きになった女性だった。そして彼女を選ぶことは、家に敷かれたレールに逆らう、利明にとって初めての反抗でもあったのだ。母と息子は真っ向から衝突し、関係は一気に悪化する。間に入ったのは美雪だった。何度も双方をなだめ、どうにか一時休戦に持ち込む。お見合いについては一旦白紙に戻すが、その代わり、利明はすぐにB市へ戻ることになった。利明も戻ること自体は承諾したが、少しだけ時間が欲しいと言った。結局、彰菜はホテルに滞在し、これ以上ごねるなら、ボディーガードに連れ戻させるとまで言い渡して、3日間だけ猶予を与えることにした。美雪は気が気ではなかった。彰菜は美雪を慰める。「心配しないで大丈夫よ。私の息子なんだから、お兄ちゃんを本当に見捨てたりしないわ」利明も言った。「大丈夫だよ。母さんが体調を崩すほど怒らせたりしないから」だが、美雪が不安なのはそこではない。彰菜が凛の話をし始めたのだ。どうやら一度、凛本人に会うつもりらしい。美雪は、凛は立場上いつでも簡単に会える人ではない、海斗に知られたらどうするのかと、あれこれ理由をつけ
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第680話

凛は彰菜に会ったことがなく、顔も知らなかった。そのため、本当にB市から来た上層部だと思い、落ち着いた様子で中へ入る。まず新しく就任した研究所の責任者に挨拶し、それから椅子に座る上品な女性へ目を向けた。「はじめまして」凛が部屋に入った瞬間から、彰菜の視線は彼女の顔に釘づけになっていた。膝の上に置いたバッグの持ち手を強く握りしめ、瞳もわずかに見開かれている。凛が挨拶をしても、彰菜はすぐには答えられなかった。ゆっくり立ち上がり、それでも凛の顔から目を離さない。しばらくして、なんとか声を絞り出す。「あなたは……」「はい、凛です」凛は丁寧に答えた。「凛さん……」彰菜はその名を小さく繰り返した。本来なら、海斗から離れるよう話をするために来たし、そのつもりで、名家の夫人らしい自信も気位もまとっていた。だが、凛の顔を見た瞬間、そんなものはすべて吹き飛んだ。「人違いだったみたい……」そう言い残すと、彰菜は足早に部屋を出ていった。その後ろ姿は、逃げているようにすら見えた。凛は訳が分からず、新しい責任者を見る。相手も困惑していた。上からは、彰菜がマイクロチップ開発プロジェクト総責任者であり、トライドメイン・プロジェクトの総責任者でもある凛に会いたいと言っていると聞かされていた。その肩書きを持つ人間は国内に凛一人しかいないのに、人違いとはどういうことなのだろうか?新責任者が尋ねる。「今の方が誰か知ってるかい?」凛は首を横に振った。「神谷彰菜さん、B市の神谷グループの会長夫人だよ」凛は眉をひそめた。利明と美雪の母親?そう思って振り返ってみると、確かに目元は利明とどこか似ていた。それなら、人違いではないはずだ。では、一体何のためにここへ来たのだろう?利明と柚葉のこと?それとも、美雪と海斗の婚約話について?だが、さっきの彰菜の反応は明らかにおかしかった。人違いだと言っただけでなく、まるで何かに怯えたように、バッグを手にして逃げるように去っていった。凛はすでに誰もいなくなった廊下を見たあと、再び責任者へ向き直った。「さっきの方は、仕事のことで私に会いたかったんですか?」「いや、それは……違うんだ」責任者の表情が気まずそうに曇る。「では一体……」「上から指示があって、具体的な用件は聞いていないんだ。と
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