Todos los capítulos de 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Capítulo 711 - Capítulo 720

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第711話

拓海は海斗を見る。これについては海斗の方が詳しい。「神谷家の先代当主は茂さんの祖父で、今の当主は茂さんの叔父だ。もう80を過ぎた元官僚だが、今も一族のことには関わってる。実質的に取りまとめているのは茂さんの従兄だけど、もし茂さんが政界を離れていなければ、今その立場にいるのは茂さんだったはずだ。神谷家は5世代にわたる一族で、茂さんは3代目にあたる。その世代は男兄弟が5人いて、茂さんと秀明さんが同じ家系。4代目は利明や美雪たちで、全部で8人いる。そのうち女は美雪と真佑(まゆ)という子だけ。5代目はまだ子供で、一番上でも12歳だ」凛の目がわずかに動いた。「そんなにいるんだ」「ああ。実業界に進んだのは茂さんだけだ。茂さんの会社の神谷観光は、今ではB市の観光や文化事業の大半を担っている」神谷家の本家はJ県だが、本邸はB市にある。ただ、常時B市に住んでいるのは、茂さんと彼の一番上の従兄、そして秀明さんの3家族だけだ。一見ばらばらに見えても、一族を取りまとめる人間が声をかければ、全員が集まる」ずいぶん複雑な一族だ。それでも、凛の表情は変わらなかった。拓海が話を戻す。「私が調べた限り、茂さんと坂本先生の間に確執はありません。それどころか、坂本先生は神谷家とかなり親しい。ですから……申し訳ありません、社長。ここで手掛かりが途切れました」海斗は低い声で言った。「いや、そうとは限らない」凛と拓海が意外そうに海斗を見る。「坂本先生と神谷家が今も親しいなら、俺たちが疑ってる件の問題は、外じゃなくて……」そこで海斗の声が止まった。思わず、海斗は凛の顔を見る。凛は淡々と続きを口にした。「神谷家の中にあるってことね」「もう、ここまでにしよう」凛は海斗を見つめ、穏やかな眼差しを向けた。「茂さんにも彰菜さんにも会ったから……これ以上は調べなくていい」茂の曖昧な態度も、彰菜が逃げるように立ち去ったことも、二人なりの答えなのだろう。だからといって凛から神谷家へ出向き、「血がつながっているかもしれないので、親子鑑定をしてもらえませんか」と頼むわけにもいかない。頼んだところで、神谷家が応じるとも思えなかった。部屋の空気がひどく静まり返った。拓海は何も言わずに退室し、そっと扉を閉めた。凛は海斗の深い眼差しを受け止める。「もしかし
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第712話

杏から凛に名前のことで思い悩む必要はないと告げられたこと、そして凛の「もうここまでにしよう」という言葉。これらから海斗は、凛が自身の出生の秘密に、もう決着をつけようとしていることを悟った。だが、海斗は違う。彼は真相を最後まで調べておく必要があると思っていた。特に、美雪がいつも人知れず凛の周囲に関わってくることが、どうしても気にかかる。ただ、その考えを凛に話すことはなかった。凛は仕事に没頭した。海斗がいる以上、利明が凛につきまとうこともできない。まして嘆願書など、凛が書くはずもなかったため、柚葉には大人しく罪を償ってもらうしかない。やがて茂と彰菜も、ぱったり動かなくなる。彰菜が誰かを通じて凛を説得しようとすることもなくなり、茂も偶然を装って凛に会おうとはしなくなった。すべてが静かに収まったかのように見えた。だが、その静けさに切り込んだのは瑶子だった。瑶子と隆は、二人で茂に会いに行った。瑶子は開口一番に尋ねる。「ずいぶん長くA市にいるけど、もうすぐ年末でしょ?まだ帰らないの?」茂には、瑶子が何のために来たのか分かっていた。二人は幼い頃から一緒に育ち、それぞれ家庭を持ち、子供ができた今も昔からの友情は変わっていない。彼らのような家に生まれたなら、損得抜きの友情はそれだけで貴重なものだった。「帰るよ。神谷家は毎年、年末に一族で先祖を祀るからな」茂は淡々と答えた。瑶子は言った。「もう何日もないじゃない。会社だってあなたがいないままだし、利明くんのことも放っておくつもりなんでしょ?それなのに、ここに残ってるなんて、まだ何か心残りでもあるの?」茂は茶を一口飲んだ。「そんなものなんてないさ」竹内家での瑶子の立場を、茂はよく知っている。竹内家の家族が彼女に何かを隠すはずもないため、先日、凛と会ったときのやり取りも、きっと全て瑶子の耳に入っているだろう。少し考えれば、茂と凛の間に何かあることくらい誰にでも察しがつく。瑶子は茂を見据えた。「凛があなたと彰菜さんの間に生まれた子だろうと、そうじゃなかろうと、私には関係ない。海斗が馬鹿な真似さえしなければ、いずれ凛さんは私と隆の娘になるんだから」隆も付け加える。「海斗はそんな真似しない。したら俺が殴る」瑶子は構わず続けた。「茂。あの子に何の説明もしないままでい
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第713話

「今度はあいつと何を約束したんだ?」「松田さんももう結構いい年でしょ?そんな人を刑務所に入れるわけにはいかないもの」茂は一瞬、言葉を失った。やがて何も言わず彰菜の横を通り過ぎる。彰菜は慌てて追いかけた。「もう約束したのよ、茂。利明だって30歳なの。早く早紀さんと結婚してもらって、もともと考えていた道に戻さないと。茂、ねえ、茂……」茂はほとんど取り合わなかった。彰菜は歩みを止め、腹立たしげに言った。「どうして私に怒るの?利明は私たちの息子なのよ!親ならあの子の将来を考えて当然でしょ!」茂は車に乗り込むと、彰菜が乗るまでドアを開けたまま黙って待った。彰菜はしばらく迷ってから、結局は車に乗り込んだのだった。……隆には、瑶子が相当腹を立てているのが分かった。瑶子は穏やかで優しいが、芯は強く、自分の考えをしっかり持っている。だから、彼女をここまで怒らせる人間はそういない。隆も宥めてみたが、効果はなかった。となれば、二人の子供の出番だと思った隆は、海斗と日和を呼び出すため、すぐに電話をかけた。娘は昔から甘え上手で人を笑顔にするのも得意。だからこそ、夫婦にとって最高の癒しだった。息子は娘ほど愛想がいいわけではないが、それなりに親思いではある。たまには親を喜ばせることも言うのだから、いないよりは役に立つだろう。帰ってきた海斗は隆と目を合わせただけで、おおよその事情を察した。隆の隣に腰を下ろすと、使用人が茶を運んでくる。一口飲んだ海斗は気づいた――玉露だ。「どうして茶葉を変えたんだ?」「お前、これが好きなんじゃないのか?」隆がちらりと海斗を見る。「日和から聞いた。母さんが、使用人に用意させたんだ。家でも凛さんにもらったのと同じ茶が飲めて嬉しいだろ?」海斗が見ると、日和は瑶子の首に抱きつき、ものの数言で母親を笑わせていた。瑶子は娘の頬をつまむ。「もういいわよ。お父さんに頼まれて来たんでしょ?お母さんは大丈夫だから」「私はお父さんに言われたから来たんじゃないもん!いつだってお母さんの味方だから!」「はいはい、口が上手いんだから」瑶子はソファに腰を下ろした。海斗が瑶子を見る。「ひとつ相談があるんだけど……凛が俺の金を使ってくれないんだ」日和が横から口を挟んだ。「凛さん、自分でお金持ってるもん。言わないし自慢もし
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第714話

海斗はすぐに謙介へ電話をかけた。「児童遺棄に関する法改正があったのは、何月だ?」「9月に成立して、10月施行だよ」「わかった」電話を切ると、海斗は怪訝そうな両親に、これまで分かっていることを時系列で説明した。「葛城から聞いた話だと、その年の9月に遺棄罪に関する法改正があったらしい。条文の内容自体は変わっていないけど、位置づけが変わって、家庭内の問題という側面が強かったものから、改正後は人の生命や安全を侵害する重大な犯罪として明確化され、10月から施行された。それから、11月に秀明さんが公務員試験の筆記を受け、12月に凛が生まれ、同じ月に茂さんが政界を離れた。翌年1月から3月に秀明さんの採用に関する身辺調査が行われて、4月に採用されている」こうして並べてみると、これまで見えなかったものが一気につながってくる。隆と瑶子の表情が変わった。海斗の顔も険しい。日和は俯き、ぽつりと呟いた。「そんな、どうして……」瑶子も言葉を詰まらせる。「もし本当にそうだとしたら、凛さんが不憫で仕方ないわ」「ああ」家族に捨てられ、かつて愛した相手には裏切られた。海斗は胸の奥が重くなるのを感じた。重苦しい沈黙が家族の間に落ちる。海斗は改めて言った。「ただ、まだ全部推測だ。確かめるには、DNA鑑定を行って親子関係をはっきりさせる必要がある」隆が言った。「もし俺たちの推測どおりなら、神谷家が応じるとは思えない。おそらく一族の中では暗黙の了解になっているし、そもそも神谷家のことは茂さん一人で決められる話じゃない。まして、お前が口を挟めることでもないだろ?」瑶子も言った。「凛さんのほうから聞いてこない限りは、こっちからは言わないほうがいいわ」瑶子に言われ、海斗は低く「ああ」と答えた。誰が聞いても分かるほど、声が沈んでいる。「もう、やだ!」日和は腹立ち紛れにクッションを床へ投げた。「最低だよ!なんでそんな……私、今年は神谷家に新年の挨拶なんか行かない!病気になったって言って!もう、声が出ないの!足も折れたことにするから!」瑶子は困り果てたように言った。「自分でそんなこと言うものじゃないわよ」「だって、お兄ちゃんも昔やってたじゃん」千晴にダンスへ誘われれば「足を怪我した」、美雪に夜景を見に行こうと誘われれば「目が見えない」と断
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第715話

「もう秘書に手配させてある」瑶子はため息をついて言った。「そう……まあ、とにかく今は、穏やかに年を越せるといいわね」「ああ」……年の瀬も押し迫った頃、英樹への処分が決まった。柚葉が望んでいた執行猶予を得られたのは、結局、英樹のほうだった。ただし、長年築いてきた名声は地に落ち、学術界では完全に信用を失っていた。凛に渡った金は取り戻せず、松田家は資産の多くを手放すことになった。会社と小さな一軒家だけは手元に残った。小林家よりはまだ恵まれていたと言えるだろう。久しぶりに外へ出た英樹は、明るさに目が慣れず、足元がふらついた。俊介夫婦と孫が迎えに来ていたが、誰も柚葉のことには触れなかった。家族の間では、もう終わったこととして扱うつもりなのだ。しかし、どうであっても、俊介たちは父親である英樹を見捨てることはできなかった。英樹の体は生きていたが、心はすっかり折れていた。何年もかけて築き上げた名声も地位も、一夜にして失った。そして自分が手塩にかけて育てた後継者こそが、そのすべてを壊した張本人。心が死んでしまったのだ。それも、徹底的に……もう以前のような威厳を見せることもなく、口数もめっきり減った。その後しばらく、松田家の中には重苦しい空気が漂い続けた。英樹は柚葉について何も尋ねなかったが、瞳は考えた末に伝えることにした。「百合さんと隆平さんは北西部へ戻りましたよ。こちらの財産もほとんど処分して、柚葉が住む予定だった賃貸も解約したそうです。柚葉は殺人未遂で実刑ですから、住む人もいませんし……たぶん、もうこちらには戻らないと思います。あんな娘を育てた挙げ句、お義父様までこんな目に遭わせて……利明さんが柚葉との面会も手配しているそうですが、お義父様は……」「行かん」と英樹は即座に拒絶した。瞳も、それ以上は何も言わなかった。祖父が執行猶予になったことをすでに知っていた服役中の柚葉は、胸につかえていたものがようやく取れ、どうしても祖父に会いたくなった。利明が手配した代理人の弁護士を通じて祖父への電話を頼み、ようやく許可が出たものの、何度かけても誰も出ない。諦めずにかけ続けると、ようやくつながった。出たのは瞳だった。「瞳さん?お爺様は元気?今、どうしてる?」「ええ、おかげさまで、死なずには済
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第716話

凛と康平の航空券はすでに取ってあり、年末の早朝6時の便だった。理央たちが気づいたときには購入済みで、凛もわざわざ取り直してもらうつもりはなかった。理央は言った。「早すぎ!二人とも深夜4時には家を出ないと間に合わないよ?」凛が答えた。「大丈夫。取ったときはこれしかなかったから」理央はため息をついた。「分かった。じゃあ、今夜のうちに忘れ物がないか荷物をまとめといた方がいいね。G県の冬は冷え込むから、厚手の服にマフラーや手袋も忘れずに。手荷物が重量超過したら追加料金を払えばいいよ。社長、お金だけはいっぱいあるから」凛は笑った。「わかった。てか、どうしてそんなに心配してくれるの?」理央も笑う。「だって、これが私の仕事だもん」海斗には拓海と恵と理央の3人の秘書がいるが、それぞれ担当が違い、理央は主に海斗の予定を管理しているため、何かと先回りして世話を焼く癖がついていた。凛は理央に視線を向ける。「じゃあ、会議室に行ってくるね」理央が頷くと、恵も椅子ごと体を向け、凛に手を振った。休暇前最後の日には、プロジェクト全体の会議が予定されていた。3つの部門の責任者、凛、研究開発センターの蓮太郎、そして海斗も出席する。会議は2時間に及んだ。議題が全て終わると、凛は中央に立ち、参加者を見回した。「それでは皆さん、少し早いですが良いお年を。来年もよろしくお願いします」「良いお年を」「また来年」凛も一人一人に挨拶を返していく。海斗は隣に座ったまま、その姿を眺めていた。背筋を伸ばして堂々と立ち、落ち着いた様子で皆と言葉を交わす凛には、すでに人を率いる者としての風格がある。海斗は、そんな凛が好きだった。静かなのに、不思議と人を惹きつける。凛も、とっくに海斗の視線には気づいていた。全員が会議室を出てから、ようやく彼を見る。海斗は座ったまま凛を見上げていた。その眼差しには好意だけでなく、いつもどこか彼女を誇らしく思うような色がある。凛にはそれが少し照れくさい。「もう見ないでよ」と凛はノートパソコンを閉じた。それでも海斗は視線をそらさない。深い眼差しのまま、口元には笑みまで浮かんでいる。凛はたまらず身を屈め、海斗の唇に軽く口づけた。そのまま片手にノートパソコンを持って横を通り過ぎると、背後で海斗が立ち上がる
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第717話

凛と梓は頷いた。3人が話している間、海斗は少し離れた場所で待っており、話の輪には加わらなかった。海斗の姿に気づいた梓は、ちょうど年末の会社からの支給品を受け取りに行くところだったので、気を利かせて先にその場を離れた。竹内グループでは午前中に年末年始の休暇について通知が出され、午後には社員向けの贈り物を受け取るよう案内が出ていた。梓が去ると、海斗がこちらへ歩いてきたが、何の話だったのかは聞かなかった。凛のほうから尋ねる。「そういえば日和さんが言っていたけど、年明けにB市へ行くんだよね?どれくらい向こうにいる予定?」海斗は答えた。「仕事始めが1月9日だから、俺は8日には戻ってくるけど、母さんたちは正月が明けてからもしばらく滞在すると思う」凛は小さく頷いた。それなら、その前にB市へ行けばまだ海斗に会えるはずだ。「凛は?」と海斗が尋ねる「まだ決めてない」凛は竹内グループの社員ではないため、研究室の仕事に支障さえなければ、いつ戻ってきても問題はない。「少し早く戻って来られないのか?」凛は微笑んで言った。「そのときになったら連絡する。年明けに戻ったら運転免許の試験も受けるし、教官の指導の結果が試される時だから」海斗も笑った。退勤時間になると、海斗は凛を車で千石鍼灸院まで送った。康平は昔ながらの薬棚の前に立ち、処方箋を手に薬を揃えていた。ひどく真剣な様子で、自分の世界に入り込んでいる。凛は邪魔をせず、海斗と先に奥へ入った。紗枝は眼鏡をかけ、座っている策に講義用のパワーポイント資料を作らせていた。内容の多くは紗枝が口頭で伝え、策が素早く入力している。二人の姿に気づいた紗枝は微笑んだ。「あら、いらっしゃい」策も顔を上げる。「康平くんを迎えに?」凛は頷いた。紗枝は聞いた。「もう会った?」「ええ、向こうで薬草を選んでいました」紗枝は満足そうに頷いた。「飲み込みが早くてね。覚えもいいし、見込みがある。策なんかよりずっと才能があるよ」「ばあちゃん、チェックをお願い。出来た」策が立ち上がり、首を鳴らしながら海斗と凛の方を見て言った。「そういえば、康平くんの養子縁組の話、あれどうなった?」凛は一度海斗を見てから答える。「私はちょっと特殊な条件だったから、審査に引っかかってしまいまして……」する
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第718話

海斗と凛は康平を連れて帰宅した。美穂子は夕食を作っただけでなく、凛と康平の二人の荷造りまでほとんど済ませていて、まだ開いたままのスーツケースには、凛が追加したいものを入れられるようになっている。凛はざっと目を通して言った。「もう大丈夫です」「凛さん、もう一度ちゃんと確認しなくていいんですか?」「美穂子さんが用意すると、私が自分で詰めるより絶対に荷物が増えますから。あれも必要、これも必要って思って、たぶん中にはハンドクリームもシャンプーもたくさん入ってるんじゃないんですか?」本当にその通りだと思った美穂子は、笑いながら言った。「さあさあ、ご飯にしましょう。冷めちゃいますよ」4人で夕食を済ませると、美穂子も休暇に入った。ただ、2、3日に1度は掃除と植物の世話をしに来てくれるという。凛は、中でも特に大切にしている胡蝶蘭の鉢植えについて、美穂子に何度も念を押した。美穂子は笑って言った。「海斗様に見に来てもらえばいいんじゃないですか?」海斗も頷く。「うん」これでは凛も反論のしようがなかった。翌日は朝早くに起きなければならないため、凛と康平は早めに休む必要がある。美穂子と海斗も長居せずに帰っていった。深夜3時半。凛は洗面所で歯を磨いていた。電動歯ブラシの音が響く中、磨き終えると冷たい水で顔を洗い、ようやく完全に目が覚めた。身支度を終えて部屋へ戻ると、枕元に置いた携帯が鳴った。海斗からだった。【準備できた?】凛は携帯に表示されている配車予約を見て、小さくため息をついた。予約をキャンセルし、少額のキャンセル料を支払う。【だいたい終わった】返信した直後、インターホンが鳴った。凛が寝間着にスリッパのまま扉を開けると、案の定、海斗が立っていた。手には温かい朝食まで提げている。しかし、海斗は朝食を届けに来たのではなく、荷物を運ぶつもりで来ていた。26インチのスーツケースは二つともぎっしり詰まっていてかなり重かったが、どちらも預け入れ荷物の重量制限には収まっていた。「私、着替えてくる」「康平くんは起きたか?」「起こしてくれる?」「ああ」海斗が康平の部屋をノックしようとすると、扉が開いた。康平はすでに着替えを済ませ、黒いリュックを背負っている。海斗を見ると、行儀よく頭を下げた。「姉ちゃんの彼氏、おはよう」
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第719話

凛は思わず足を止めた。携帯を取り出し、海斗に帰って少し寝てと送る。海斗からは【分かった】と返ってきたが、顔を上げると、まだ同じ場所に立っていた。凛には自分でもよく分からなかった。結婚も一度経験しているし、もうお互い30手前。なのに、どうして今は二人揃って子供みたいになっているのだろう。何度も振り返る凛と、その場から動こうとしない海斗。それでも、いつまでもこうしてはいられない。飛行機が離陸する前、凛は海斗にメッセージを送った。【私の胡蝶蘭の世話、ちゃんとしてね】【分かってる】【ならいいけど】車の中でそれを読んだ海斗は、ふっと笑った。どうやら、凛は根に持っているらしい。離陸後、凛はそのまま眠った。到着したのはまだ午前中だったが、康平と施設に着いた頃にはもう昼食の時間になっていた。久しぶりに康平を見た柑奈は、その変わりように驚いた。頬には肉がつき、背筋も伸びている。黒いダウンジャケットに黒いズボンという格好もよく似合い、すっきりと清潔感のある印象になっていた。そして、何より目が違う。以前よりずっと明るくなっていた。凛の姿を見るなり、子どもたちがまた賑やかに駆け寄ってきて、彼女を取り囲んだ。荷物を部屋へ運ぶと、ちょうど配送業者から凛宛の荷物があるとの電話が入った。身に覚えのない荷物だったが、門の外まで受け取りに行くと、差出人は海斗となっていた。トラック一杯のお正月プレゼント。一つ一つに名前の書かれた札がついていて、柑奈の分はもちろん、子供たち全員の分まで用意されている。凛は呆れたように笑いながら写真を撮った。【海斗、いくらなんでもやりすぎ】すぐに海斗から電話がかかってきた。「一人に一つずつ配るだけだ」騒ぎを聞きつけた柑奈もやってきて、職員たちと一緒に荷物を運び始めた。凛は邪魔にならないよう端へ寄り、そのまま電話を続ける。「ちゃんと寝た?」「寝ないでいられると思うか?」凛は小さく笑った。「もうお昼だよ」「実家に戻って食べる。正月の間はずっと向こうにいるから」「ダイトとコマキは?」「連れて行く」「そっか」それからも二人は取り留めのない話をしばらく続けたが、凛は柑奈が自分を探していることに気づき、電話を切った。柑奈は自分宛ての贈り物を手にしていた。「これ、海斗さんから?
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第720話

夜が更けていた。凛は、柑奈たちに挨拶を済ませて部屋のドアを閉めた。白いスーツケースはまだ部屋の隅に置いたままだ。床に広げてファスナーを開けると、中にはたくさんの物がきれいに詰められていた。洗面用品や入浴用品はすべて小分けにされ、それぞれに分かりやすく印までつけてある。反対側には服が入り、下着やズボン、靴下まで種類ごとに分けて収納されていた。洗面用品を取り出してみると、タオルも歯磨き粉も歯ブラシもすべて新品だった。しかも普段家で使っているものとは違う。靴下も白だけではなく、色も形もさまざまで、丈の長いものから短いもの、薄手や厚手、柄物から無地まで、それぞれ2足ずつ全て新品で袋いっぱいに詰められていた。美穂子の細やかな気遣いに感心し、凛は写真を撮ってお礼を送った。文字を打つより音声で送るほうが好きな美穂子から、すぐに返事が届く。「凛さん、荷造りしたのは私ですけど、いつも着ているお洋服以外、歯ブラシも歯磨き粉も靴下も、海斗様が用意したんですよ」凛は目を瞬いた。【それ、海斗が買ってきてくれたってことですか?】「植田さんから、海斗様が時間を見つけて自分で買いに行ったって聞きましたよ。それを私が竹内グループまで取りに行って、荷物に詰めたんです。それにしても海斗様も、贈り物に歯磨き粉や歯ブラシや靴下なんて、変わってますよね」凛は思わず笑みがこぼれ、返信した。【素敵な靴下ですよ】「凛さんが気に入ったなら何よりです。今日は移動で疲れたでしょうから、早くお風呂に入ってゆっくり休んでくださいね」凛は洗面用品を持って浴室へ向かった。風呂に入り、髪を洗い終えてから歯を磨こうとしたところで、歯ブラシに豆粒ほどの歯磨き粉を出した凛はふと思い立った。携帯を手に取り、歯を磨きながら海斗にメッセージを送る。【海斗はどの歯磨き粉と歯ブラシ使ってる?】そのメッセージを受け取った海斗は、家族に言った。「俺、もう風呂入って寝る」まだ夜の9時前だ。家族は皆、信じられないものを見る目で海斗を見つめた。日和が真っ先に言った。「絶対、凛さんと電話する気だ」瑶子も尋ねる。「凛さんがそんな長電話に付き合うかしら?」隆は一言だけ返した。「難しいな」海斗は構わず洗面所へ向かい、自分が使っている歯磨き粉と歯ブラシの写真を撮って凛に送った。凛が拡大してみ
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