Todos los capítulos de 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Capítulo 721 - Capítulo 730

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第721話

物音に気づいた海斗が尋ねた。「何をしてるんだ?」「ちょっと荷物の整理を」凛自身、何のために引っ張り出しているのか分かっていなかったが、箱の中身をすべて目の前に並べたところで、ふと気づく。自分はやはり、自分の出生のことをどうでもいいとは思えていない。凛は古びたおくるみに目を落とし、ふいに海斗の名を呼んだ。「海斗」「ん?」海斗は一度聞き返したが、すぐに、ただ名前を呼びたかっただけなのだと察し、今度は穏やかに返す。「うん」凛はそっとおくるみを撫でた。自分の誕生を祝うために用意された青いおくるみではないが、凍えるような寒さの中に捨てられた自分を、唯一暖めてくれたもの。「私の出生について、海斗のほうが私よりいろいろ知ってるんだよね」「ああ」瑶子に言われたことを思い出し、海斗は凛に問い返した。「聞きたい?」凛はしばらく黙った。「帰ってから聞く。今は普通に、楽しくお正月を過ごしたいから」「分かった」竹内家の皆の予想に反して、凛はその夜、海斗と本当に長電話をした。というより、音声通話をつないだまま眠ってしまい、結局一晩中つながっていた。最初に目が覚めたのは海斗だった。身支度の音で凛を起こさないよう携帯を消音モードにし、どこへ行くにも携帯を持ち歩いた。やがて通話が切れ、画面には相手側の通信が不安定になったと表示された。目を覚ました凛は、昨夜からずっと海斗と通話したままだったことを思い出し、真っ先に携帯へ手を伸ばす。だが電源が落ちていた。充電して電源を入れると、通話時間は11時間。長い……こんなことをしたのは初めてだった。でも、またやりたい。凛はメッセージを送った。【起きた】すぐに音声通話がかかってきた。そんな調子で、年末から正月にかけて、二人は電話をしているか、写真や動画を送り合っているかのどちらかだった。内容は何でもよく、時には空に浮かぶ雲の写真まで送り合った。凛が送るのは子供たちや景色ばかりで、海斗が送ってくるのはダイトやコマキ、それから何かと騒がしい日和の写真ばかりだった。日和も、しょっちゅう海斗の写真を凛へ送りつけてくる。それで凛は知ったのだが、休みといっても海斗には関係がないらしい。場所が変わるだけで、会社のこと、それに一族のことまで相変わらず激務だった。それでも海斗は忙しい合間を縫
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第722話

大晦日の夜。凛の携帯には、たくさんの人たちから今年一年の感謝を伝えるメッセージが届いていた。恵、理央、拓海、策、千晴、悠真、謙介、梓、涼介、それからチームの仲間たち。さらには、ソーレンからもメッセージが届き、画面がすぐに埋まっていった。凛は一つずつ丁寧に返事を返していく。ようやく下まで見終えて、海斗からのメッセージに気づく。送られてきたのは、もう30分も前だった。海斗、怒ってはいない……よね?凛は、さっきまで新年の挨拶に返事をしていたと説明したが、すぐには返事が来ない。それだけで急に落ち着かなくなり、今度は日和へメッセージを送った。日和からの返信はボイスメッセージだった。「一族の人たちと話し合いしてますよ。私は聞くなって追い出されたんですけど、毎年こうなんです。毎年同じ話して、終わる頃にはみんな顔が険しくなって、それでも笑って一緒に年越しのご飯食べるんです」凛は、自分が竹内家の事情をほとんど知らないことに気づいた。会ったことがあるのは海斗の家族と、杏とも仲がいい海斗の伯母の千佳くらいだ。凛が尋ねる前に、日和がそのまま説明し始めた。「お父さん側のおじいちゃんにはお兄さんがいて、そっちは竹内家とは別の家系で、かなり前にお家分けをしたんですけど、完全に切れたわけじゃなくて、まだ竹内グループの株を少し持ってるんです。自分たちで好きに経営したいけど、竹内グループの名前は使いたいっていう面倒な感じで。そんな都合のいい話なんてないのに、毎年お正月になると戻ってきて、お兄ちゃんが相手をしなきゃいけないんです。それから、おじいちゃんには子供が4人いて、長女が千静さん、次に千佳さん、3番目がうちのお父さん、一番下が禎さん。それで、禎さんの息子の駆くんっていうのがいるんですけど、最近海外から戻ってきたばっかりなのに、いきなりクラウドルートの経営に口を出せる立場が欲しいって言ってきたんです。まあ、お兄ちゃんに却下されたから、今はクラウドルートで社長の秘書をしてるんですけど、あっちもいろいろあるみたいで。でも凛さん、安心してください。竹内家の誰にも、お兄ちゃんの結婚をどうこうする権限なんてありませんから。お兄ちゃんはずっと前から竹内家を仕切ってるし、最終的に決めるのはお兄ちゃん。凛さんに失礼なことを言える人なんていません!」真剣に聞いていた
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第723話

【1歳の凛、明けましておめでとう】【2歳の凛、明けましておめでとう】【3歳の凛、明けましておめでとう】【……】【27歳の凛、明けましておめでとう】【28歳の凛、明けましておめでとう】1歳につき10万円、2歳で20万円。合計で4060万円もの大金が送られてきて、その額に凛は呆気にとられた。まだ頭が追いつかないまま尋ねる。【海斗、送金額に上限ないの?】【そっちはあるの?】【うん】直後、凛の口座に再び4060万円が振り込まれた。そして、一言メッセージも添えられていた。【凛、明けましておめでとう。来年もよろしく。ずっと俺のそばにいて】凛はなんだか眩暈がしてきた。普段の口の悪さと、こういうときの甘さが同じ人間とは思えない。本当に不思議な人だ。そこで凛は、策にメッセージを送る。【海斗って天体観測が好きなんですか?】【よく知ってるな。本人から聞いた?】【日和さんから聞きました】幼い頃、築山から落ちた日和を助けたとき、海斗は祖母からもらったばかりの望遠鏡をなくしたという。それも、海斗が何より気に入っていた望遠鏡だったらしい。【子供の頃の趣味だよ。天文は時間も手間もかかるから、竹内グループを継ぐ立場じゃ続ける余裕がなかったんだろ。ただ、実権を握ってから自分用の天文台は造ってるし、乗馬やキャンプ、星を見るための施設も全部同じ場所にある。でも忙しくてほとんど行けてないっぽいけどな】その場所なら、以前海斗から聞いた覚えがある。【教えてくれてありがとうございます】【どういたしまして。もし天文関係の機材を買うつもりなら、千晴に聞くといいよ】【千晴さんも天文学に興味が?】【本人は興味ないけど、身近に詳しい人がいるんだ】【わかりました。策先生、今年もよろしくお願いしますね】【うん、今年もよろしく】海斗が天体観測に興味があることを確認した凛は、海斗へ天文機材を一式贈ろうと決めた。そして、自分でも少し勉強してみよう。恋人同士なら、共通の話題があるのも悪くない。恋人がそばにいなくても、不思議なくらい安心できて、愛されていると感じられる新年だった。胸いっぱいに広がった幸せは、隠そうとしても口元に滲んでしまう。周りの誰が見ても、凛が上機嫌なのは明らかだった。その夜の凛はゆっくり眠り、翌日からは
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第724話

海斗の大晦日は、例年と何ひとつ変わらなかった。親族を迎え、一族の取りまとめをし、あれこれ探りを入れてくる親戚たちを適当にあしらう。毎年のことだった。結局は誰も海斗をどうすることもできず、最後には彼の決定に従うしかないのに、それでも懲りずに、手を替え品を替え探りを入れてくる。向こうが飽きないのなら、海斗も別に構わなかった。大晦日の夜は一族揃って年越しの食卓を囲み、元日はしきたりに従って先祖を祀る。こうした祭祀の準備は、昔から竹内家の執事である理人が一手に引き受けていた。竹内家の内部は、大きく3つに分かれている。早くに本家から枝分かれして独立した一族、隆の属する本家筋、そして理人が直接取り仕切るホワイトタワー。だが海斗に言わせれば、もっと単純だった。自分が一族を率いることを支持する者、自分の権限を奪おうとする者、そして、誰が当主になろうと、その者に従う中立のホワイトタワー。海斗は先頭に立って線香を供えた。絶対的な権限を握る彼の前では、両親も年長者も一歩後ろに下がる。ただ、今年の先祖供養はいつもと少しだけ違った。竹内家の繁栄を願うだけでなく……凛と結婚できますように、と先祖にまで頼んでおいたのだ。2日と3日は家を空けられない海斗。そして、海斗の叔母である千静の家族5人もB市から戻ってきた。竹内家4家族の子どもは全部で6人。その中で海斗が一番年上のため、新年の挨拶と共にお年玉を渡していく。日和はこっそり自分のぽち袋を開けた。なぜこっそりなのか?それは、日和だけ毎年、中身がほかの人たちと違うから。現金以外にも、ブレスレットやネックレスといったアクセサリーなら、ぽち袋に忍ばせても外からはわからないため、一緒に入っていることがある。だが時には、車や家まで出てくることがあった。さすがに権利書や鍵を入れるわけにはいかないので、そんな年は海斗が手書きのメモを入れていた。家なら住所、車なら車種。今年も中には一枚の紙が入っていた。住所と「研究室」の三文字。「えっ!?」日和は目を見開いて海斗を見ると、ぽち袋を握りしめたまま駆け寄り、声を潜めた。「お兄ちゃん、これ本当に研究室を作ってくれたの?」大騒ぎするほどのことか、とでも言いたげに海斗は答える。「ああ」嬉しさのあまり兄に抱きつこうとした日和だったが、両腕を広げたところではっ
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第725話

草壁家の老夫婦も納得した。「それなら仕事を優先しないとな」順番にその場の面々へ新年の挨拶をした海斗と日和。ところが日和は、祖父母と叔父夫婦、それから楷夫妻にはきちんと挨拶したのに、茂一家だけを見事に飛ばした。草壁家も神谷家も、一瞬ぽかんとする。これまでの日和なら、こんな露骨な真似はしなかった。そして竹内家も、本来なら娘のそんな態度を放ってはおかないが、今日は誰も叱らずに、瑶子が申し訳なさそうに微笑んだだけ。「ごめんなさい。この子、最近ちょっと嫌なことがあって、まだ気持ちの整理がついていないの」草壁家にも竹内家にも女の子は日和ひとりだけであるため、当然、昔から皆に可愛がられている。それに、孫娘に何かあったと聞けば、祖父母も礼儀を咎めるどころではなくなった。「何があったんだ?」日和は茂一家の方をちらりと見て、何事もなかったかのように言った。「大したことじゃないよ。ちょっと自分のことを、まだ引きずってるだけ。車の移動で疲れちゃったし、先に休んできてもいいかな?」少し甘えるような口調だった。叔父の靖が頷く。「ああ、行っておいで」日和は素直に返事をすると、もう一度皆に声をかけ、そして今度も、茂一家だけはきれいに無視した。誰が見ても明らかな拒絶。茂は何も言わず穏やかな笑みを浮かべていたが、彰菜の表情は引きつっていた。利明が眉をひそめて何かを言いかけたが、海斗が冷たい視線を向けた。「お前が日和にとやかく言うな」和やかだった空気が、一気に張り詰める。二人の仲が悪いことは皆知っていたが、ここまで険悪になっているとは思わなかったらしい。「海斗」隆が息子を制する。ほぼ同時に茂も、「利明」と息子をたしなめた。それぞれ父親から目で釘を刺され、二人とも黙る。彰菜は、同じ年齢なのに海斗に一歩及ばない利明のことが不憫でならなかった。対して瑶子はいたって平然としていた。日和に目配せし、部屋で休んでくるよう促す。険悪な空気を察した靖の妻である草壁茉莉(くさかべ まり)が、ちょうど使用人の運んできた果物と菓子を見て、すかさず間に入った。「皆さん、お茶をどうぞ。瑶子さんたちも、長いこと車に乗ってきて疲れたでしょう?」瑶子もその話に乗り、場の空気はようやく和らいでいった。三家が揃って話すことといえば、だいたい二つ。子供たちの将来と、
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第726話

草壁家と神谷家では、以前から海斗と美雪はいずれ結婚するものと暗黙のうちに考えられていた。大きく見れば、竹内、草壁、神谷の三家の縁を次代へつなぐためで、もっと身近なところでは、茂と瑶子が昔から親しいことが理由のひとつだった。二人が20代前半の頃から、両家はそれとなく仲を取り持とうとしていた。ところが美雪にその気があっても、海斗にはまるでその気がない。しかも断るとなれば容赦がなく、相手が誰であろうと平気でとんでもないことを言うのだ。それでも何年経っても海斗に女性の影はなく、美雪の気持ちも周囲には筒抜け。ならば二人が30になる前には、と話を進めようとしていたものの、先延ばしになり続け、とうとう今年になって海斗に突然、恋人ができた。あまりに唐突だったため、草壁家の老夫婦は半信半疑だった。美雪との結婚を避けるため、適当な女性を恋人に仕立てただけではないか……そう思っていたのだが、どうやら違うらしい。海斗が自ら恋人だとはっきり口にした以上、この場でそれ以上結婚の話をするわけにもいかなかった。どちらの子供にも面子がある。結婚の話ができないとなれば、残るのは仕事や将来の話だ。だが海斗はすでに竹内家を率いる立場にあるため、仕事の話を掘り下げれば竹内グループの今後の戦略にまで踏み込むことになってしまうので、気軽に話せる内容ではない。となれば、話題にできるのは日和と、今日来ている神谷家の三人の子どもくらい。楷の息子はすでに将来の道筋が決まっており、二、三言で話は終わった。日和もこのまま博士課程へ進む予定で、一族全員がそれを応援しているため、誰も特に口を挟むことはない。そうなると、まだ将来が定まっていないのは茂の子どもたち――利明と美雪だけ。彰菜が口を開いた。「利明も、そろそろ法曹関係の公的機関への選考を受ける準備をしていい頃だと思っているんです」草壁家の老夫婦もうなずく。確かに、もうそんな時期だ。早めに選考に通れば、茂の家系も再び本来の道へ戻れるだろう。利明自身も、すでに準備を始めていると答えた。すると彰菜が続ける。「それと明日、利明は折原家のご令嬢である早紀さんと会うことになっているんです」それはつまり、縁談が具体的に動き始めているということだった。折原家は代々舞踊に携わる家柄で、親族には文化観光局や文化施設に勤める者もいる。早紀
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第727話

彰菜はさらに顔を強張らせた。ここまで息子を見下されては、自分まで侮辱されたも同然。「海斗くん」「彰菜さん」と、今度は瑶子が静かに名を呼んだ。子供同士の言い合いに、親が出ていくのは違うのではないか?そう釘を刺しているのは明らかだった。彰菜は仕方なく口を閉ざし、茂に視線を向ける。すると茂は草壁家の老夫婦へ目を向け、穏やかに笑った。「海斗くんの恋人の凛さんは、とても向上心のある子です。二人はよくお似合いだと思いますよ」彰菜の顔から血の気が引いた。楷一家も利明も、信じられないように茂を見る。ただ美雪だけがうつむき、両手をきつく握り締めていた。しばらくして、小さく口を開く。「凛さんは本当に優秀な人だと思う。だって、海斗さんの心を掴んだのだから」海斗が即座に遮った。「凛が優秀なのは、俺に好かれたことじゃないし、ましてや、男に好かれることでもない。あいつの優秀さは、あの頭脳にある。余計なことを言うくらいなら黙ってろ」利明がすぐさま美雪を庇う。「いい加減にしろ!」いよいよ収拾がつかなくなってきたため、瑶子は海斗をその場から追い出すことにした。「海斗、車にバッグを忘れてきちゃったから、取ってきてくれるかしら?」海斗は何も言わず立ち上がり、その場を離れた。楷が美雪に目配せすると、美雪も察して、「お手洗いに」と席を立つ。靖はこの機に若い者たちを全員席から外し、改めて口を開いた。「もうみんないい歳だ。いつまでも先延ばしにはできないだろう」そろそろ結論を出すべきだ、という意味だった。瑶子が先に自分たちの考えを明確にする。「私も隆も、本人の意思を尊重するつもりよ。海斗は凛さんと結婚したいと言っているし、私たちにも反対する理由はないわ」それでも神谷家としては、竹内家と草壁家との縁談を諦めたくないらしい。楷が笑顔で言った。「とはいえ、結婚を何もかも本人任せにするわけにもいかないだろう?美雪ちゃんだって悪くない。名の知れた写真家だし、いずれ神谷の観光文化事業を任せてもいい。二人が組めば、お互いにとって大きな力になる。どちらも経営に関わる立場なら話も合うだろうしね。それに、海斗くんの恋人は研究者だって聞いたぞ。仕事も違うし、話が合わないってこともあるんじゃないか?」隆が淡々と答えた。「十分仲良くやってる」何も言えなくなった楷。
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第728話

利明がやってきた時、目に入ったのは立ち去っていく海斗の背中と、真っ青な顔で立ち尽くす妹の姿だった。「美雪、あいつに何て言われたんだ?」利明は眉をひそめた。海斗への苛立ちがますます募る。利明が追いかけて問い詰めようとしたところで、美雪が慌てて彼の腕をつかんだ。「お兄ちゃん、行かなくていいから。何でもない、私は大丈夫」美雪の無理に作った笑顔が、利明にはひどく痛々しく見えた。「どうしてそんなにあいつがいいんだ?どうしても結婚したいのか?」「お兄ちゃんだって、柚葉さんのことがそれくらい好きなんでしょ?」その一言に、利明は黙り込んだ。脳裏に浮かんだのは、今も刑務所にいる柚葉。早紀と会うまでは面会に行くなと家族から止められている。自分と柚葉に未来がないことくらい、利明にもわかっていた。これから自分の隣にいるのは、早紀なのだ。美雪の顔を見ていると、利明は諦めたように息をついた。「わかった。俺も何か方法を考えてみるよ」自分が味わった後悔を、妹にまで味わわせたくはなかった。利明は美雪の頭を撫で、幼い頃と同じ言葉を口にする。「お兄ちゃんがずっと守ってやるから」美雪の顔にようやく笑みが戻った。「ありがとう、お兄ちゃん」「兄妹だろ。礼なんていらない」「お兄ちゃん、私は本当に海斗さんが好きなの」そう告げる美雪は、驚くほど冷静だった。海斗との結婚にこだわる理由を、美雪自身がよくわかっている。自分が神谷家の本当の娘ではないことが明るみに出たとしても、神谷家に残り、これまでと同じように大切にしてもらうには――海斗と結婚する。それが唯一の道。神谷家には美雪の他にもう一人、荒木真佑(あらき まゆ)という女の子がいる。女では、息子のように政界で一族の力を広げることができないため、真佑は幼い頃から一族の中であまり重く扱われてこなかった。そんな真佑でも、一族の決めた相手と結婚することによって、ようやく周囲から一人前として扱われるようになった。以前、真佑から羨ましいと言われたことがある。茂が政界を離れて実業の道へ進んだおかげで、美雪は一族のしがらみに縛られず、食べたいものを食べ、遊びたいように遊び、欲しいものを買ってもらえた。何より、両親と兄から愛されている、と。そう、家族の愛だ。もし自分が神谷家の娘でなかったら、すべてを失っ
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第729話

当時は幼い頃から決まっていた縁談ということになっていたが、実際には竹内家には少なくとも三人の候補がいた。その中から草壁家を選んだのは隆自身で、成長した瑶子と一度会ったあと、両親に彼女がいいと伝えたのだった。瑶子が家同士の結婚を嫌がっていたと知ったのは、結婚してからだった。自分との結婚のせいで、瑶子は家族との間で苦しんだ。それを知った時、隆も胸が痛んだが、それでも結婚したこと自体を後悔したことは一度もない。それでも、そこで初めて自分がどれほど身勝手だったかを思い知った。瑶子の心を自分に向けたくて、自分もこの縁談を望んでいなかったと嘘をついた。すべてを親たちのせいにして、必死に彼女との距離を縮め、そして瑶子の心を手に入れた。二人は愛し合い、子どもにも恵まれた。それでも隆は今に至るまで、あの結婚が自分の希望から始まったものだったとは打ち明けられずにいる。隆が我に返ると、向かいの席に座る豊蔵は厳しい顔をしていた。生涯、数えきれないほどの人間を従えてきた男なのに、娘だけは思い通りにならない。豊蔵が瑶子と隆を見た。「政略結婚のどこが悪い?お前たち二人も、これまで仲良くやってきたじゃないか?」「みんなが私と隆みたいになれるわけじゃない」瑶子は豊蔵の老いて濁った目を見つめた。「私たちはたまたまうまくいっただけ。政略結婚した人たちが、みんな幸せになった?お父さん、幸せなんて大事じゃない、なんて言わないで。幸せは大事よ。家の責任を果たすことよりも、ずっと大事。私はあの子たちに、まず自分の人生を生きてほしいの。だから、草壁家と神谷家がどうしても婚姻関係を結びたいなら、ほかの誰かにしてちょうだい。海斗も日和も巻き込まないで」豊蔵は眉をひそめた。「美雪ちゃんは悪い娘じゃない」それでもなお、豊蔵は縁談を成立させたいのだ。三家の結びつきをさらに強固なものにするには、婚姻ほど手っ取り早い方法はない。「問題は相手がいい子かどうかの話じゃないの。海斗が好きかどうかでしょ?」瑶子は席を立った。感情的になることなく、穏やかだが揺るぎない声で言い切る。「お父さん、いつになったら分かってくれるの?お父さんはお父さんで、私は私。一人の人間として、前の世代と同じ生き方をしない自由がある。お父さんとお母さんは周囲に決められて、会ってすぐに結婚した。私と
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第730話

「本物か偽物かなんて関係ない」黙って隣を歩いていた海斗が不意に口を開き、日和にちらりと目をやった。日和もすぐに意味を察する。「それもそうだね」あの日、海斗が瑶子に電話で「凛と結婚する」と言っていたのを、日和も聞いていた。海斗が結婚するのは凛であって、彼女が何者でどこの家の血を引いているかなんて関係ない。郁代は兄妹を見比べ、楽しそうに笑った。「あなたたち、何か隠してるわね」「兄妹に秘密の一つや二つ、あっても普通でしょ?」日和が茶目っ気たっぷりに笑う。甘えるような口調でさらりとかわされ、郁代もそれ以上は追及しなかった。今日一日で、娘夫婦や孫たちが例の凛という女性をどう思っているのかは、郁代にもおおよそわかっていた。これ以上しつこく聞いて、孫たちにうるさがられるのも嫌だ。しばらく散歩を続けた後、海斗と日和は揃って郁代を部屋まで送り届けた。年を取ると夜寝るのが早くなる。日和が「おやすみ」と挨拶する横で、海斗は少し考えた末、改めて祖母にきちんと伝えておくことにした。「俺、子どもの頃は天文学が好きだったんだ。でも、あの頃はまだ子どもだったから、竹内家を継ぐ人間として学ぶことが多すぎて、自分の好きなことにまで時間を使う余裕はなかった。でも今は28だし、あと1か月で29にもなる。もう一人前の後継者になったつもりだし、自分のために使える時間も余裕も力もある。だから、誰を好きになるかも、誰と結婚するかも自分で決めるから」郁代は真剣な眼差しで海斗を見つめた。この孫は、ずいぶん控えめな言い方をしたと思う。この孫が「一人前」にすぎないのなら、他の跡取りたちの何人が落第することか。「続けて。ちゃんと聞いてるから」日和も黙って耳を傾ける。海斗は言葉を重ねた。「今の俺に口を出せる人間はいない。たとえ今の立場を失ったとしてもそれは同じだ。それに、凛が結婚する相手は俺で、竹内家に嫁ぐわけでも、草壁家に嫁ぐわけでもない。俺と結婚するんだ」日和は内心、度肝を抜かれていた。お兄ちゃん、こんなこと言えるんだ。普段の憎まれ口さえなければ、こんな甘いことばっかり言うのか。そりゃ凛さんだって好きになる。やるじゃん、お兄ちゃん!「行くぞ」海斗に声をかけられ、日和はようやく我に返った。郁代にもう一度挨拶し、海斗のあとを追う。廊下に出
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