日和はもちろん、その理屈を分かっている。「でもお兄ちゃんと同じところまで行ける人なんて、ほとんどいないでしょ?それに私、女だし」言葉を言い終わった途端、海斗に後頭部をぺしっと叩かれた。日和は恨めしそうに海斗を睨む。「私のこと、妹より弟だと思ってない?もっと優しくしてよね」海斗に冷たい目を向けられ、日和はすぐさま片手を上げた。「冗談だよ」「そこじゃない」海斗は珍しく、きちんと日和に説明した。「『女は優遇されるべきだ』って価値観自体、意図的に刷り込まれてきた面がある。そうやって権利を手放させることこそ、女性にとって一番の不利益になる」日和は、はっとした。海斗は付け加えた。「ただ、どんな生き方を選ぶかはお前の自由だ。上を目指してもいいし、今みたいな暮らしを選んでもいい。それを批判する権利は誰にもないからな」「お兄ちゃん、今日やけに哲学的だね。なんか調子狂う」海斗が鼻で笑う。いつもの人を見下したような態度に戻ったのはいいが、今度は日和がむっとした。「もういい、凛さんに言いつけてやるから!また私のこと馬鹿にしたって!」海斗は顎をわずかに上げた。「今すぐ言ってこい」日和は海斗の前で拳を握ってみせ、ふんと鼻を鳴らす。「やっぱやめた。どうせ私を使って、凛さんに自分の話を伝えたいだけでしょ。ほんと計算高いんだから」そう言い捨て、日和は自分の部屋へ駆けていった。妹もそこまで馬鹿ではないらしい。海斗は携帯を取り出し、凛にメッセージを送った。【凛、今日は何してた?】【今日は県庁の福祉保健課の人と会った】【あの寄付の件?】【だいたいそんなところ】【海斗、今日は早く寝るね】【海斗も1日移動して疲れたでしょ?ゆっくり休んで】【ああ、一緒にな】最後の一言は、絶対わざとだ。凛はそう思いながら、ベッドに腰掛けて【おやすみ】と返し、部屋の隅に置かれたキャリーケースへ目をやる。明日はB市へ向かうのだ。海斗には、まだ知らせていない。胸元の鍵のペンダントに触れながら、その夜も凛は眠りについた。翌朝起きると、康平にB市出張へ行くこと、戻ってきたら一緒にA市に帰ることを言い聞かせた。康平は素直に頷き、自分も飛行機に乗れると目を輝かせる。凛は康平の頭を撫で、柑奈を少しだけ抱きしめてから、B市行きの飛行機に乗った。到着後は
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